注チウしたり。
又すべて我ワが譯本の地名 人名などは、此書の譯字をそのままに書きたれば、一一右傍イチ〳〵ミギガハに假名カナをふりたり。但タヾシ 我が假名には、哈行ハギヤウの許フ(hu) 渾フン(hun) 灰フイ(hui)などを表アラハすべきものなきが故に、假カリに フ(fu)を用ひ、(hk)と(k)とも、(gh)と(g)とも、假名にては區別なし。又 字の左ヒダリに中の字を添ふることも、植字シヨクジに不便フベンなるが故に略けり。撒行サギヤウの昔シ(si)と沙行シヤギヤウの失シ(shi)とは、蒙古字にても區別なし。荅行ダギヤウの的ヂ(di)は、適當の假名なき故に、札行ヂヤギヤウの只ヂ(ji)に同じき假名をふり、牙行ヤギヤウの也エ(ye)には、阿行アギヤウの額エ(e)に同じき假名をふり、丁ヂン(ding) 延エン(yen)なども然り。(l)なる剌行ラギヤウも(r)なる舌剌ラ行も、同じく我が舌剌行ラギヤウの假名をふりて、舌剌行ラギヤウの字の左なる舌シタの字の代りに口扁クチヘンを添へたり。塔行タギヤウの禿ト(tu) 荅行ダギヤウの都︀ド(du)は、ツ(tsu) ヅ(dzu)としても、原音に遠トホざかる故に、日本 從來ジウライの漢︀音カンオンの母音に從ひ、斡オの段の假名をふり、屯トン(tun) 統トン(tung) 敦ドン(dun)なども、みなしかせり。黑ク(kh) 克ク(k) 黑グ(gh) 克グ(g) 思ス(s) 惕ト(t) 惕ド(d) 卜ブ(b) 木ム(m) 勒ル(l) 兒ル(r)の八字 十一音は、父音のみにて、我が成音假名セイインガナにて表アラハし難︀ければ、兀ウの段の假名惕のみは、斡の段の假名を借りてふりたり。
又 此書の音譯は、右の如く譯字を定め置きながら、猶ナホ 語コトバの意味イミを知り易からしめんが爲に、種種シユ〴〵なる異字イジを用ひたり。河カハは木舌連ムレンなるを沐舌漣ムレンと書き、山ヤマの名ナの不兒中罕ブルカンを不峏ブル中罕カンと書き、貂鼠テウソは不魯中罕ブルカンなるを不𪖌ブル中罕カンと書き、馬ウマは抹舌里モリ 又は抹舌鄰モリンなるを