の法ハフありて、阿アと額エと互に變カハり、斡オと兀ウと互に變カハる故に、阿斡アオの二段を以て額兀エウの二段を兼カぬることは、却て簡便カンベンなりしならん。又 合行カギヤウの濁音には、濁音の符號を附けたるもあり、附けざるもあり。塔行タギヤウの濁音は、全く淸音に同じく、何の符號をも附けず。我ワが國にては、古事記コジキ 日本紀ニホンギ 萬葉集マンエフシフなど淸濁音セイダクオンの區別クベツ 正タヾしかりしに、後の世の人人ヒトビトは不精︀ブシヤウになりて、濁點ニゴリテンを附くることを厭イトひ、歌人ウタヨミなどは濁ニゴリを打ウたぬを高雅カウガなりと思ふに至れるを見れば、蒙古字の淸濁音を區別せざるも怪アヤシむに足らず。蒙古学にはかくの如く同形 異音ドウケイ イオン 頗スコブる多けれども、蒙古語を語り居る人には、之を讀むに何の差支サシツカヘも無かるべし。されども外國人にて、蒙古文を讀み、その發音を誤らざらんことは、甚だ難︀き業ワザなるに、幸サイハヒにも此書の音譯は、阿額アエの二段、斡兀オウの二段、哈合合ハカガの三行、合の淸濁 二音を同字にて譯したるの外、塔荅タダの二行など、皆 正しく譯し分けたれば、蒙古の古音を學ぶには、蒙古字の原文に依らんよりも便タヨリ 善ヨし。只 變韻ヘンヰンの段ダンは、その音に適當テキタウする漢︀字なき故に、大抵タイテイ 兀ウの段の字を用ひて譯せり。又 明の世には、已に 百數十年 前マヘの蒙古音を正しく知りかねたるもありと見えて、音譯の前後ゼンゴ 違タガへるあり。前に速客該スケガイと譯したるを後に速格孩スゲカイと譯し、前の薛徹セチエを後に撒察サチヤ、前の塔孩タカイを後に荅孩ダカイと譯したる處あり。是等は、我ワが譯本には、誤りの明かなる所の外は、原譯字ゲンヤクジをそのまゝに書きて、その異同イドウを
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