少チヒサく附ツけたるは、この三字は本モト 哈行ハギヤウの音(xa) (hu) (ho)なるを合行カギヤウの淸濁音セイダクオンに借用カリモチひたることを示せる符號フガウなり。中罕カン(khan) 中含カン(kham) 中晃コン(khong) 中渾クン(khun) 中孩カイ(khai) 中灰クイ(khui)なども、それに同じ。舌剌行ラギヤウの六字實は五字の左ヒダリに小チヒサキき舌シタの字あるは、この五字は、みな剌行ラギヤウの音 卽ち(l)を父音とせる音にして、漢︀字には、(r)を父音とせる音なきが故に、剌行ラギヤウの字を借りて、捲舌音ケンゼツオンなることを示せる符號を附けたるなり。舌闌ラン(ran) 舌藍ラン(ram) 舌連レン(ren) 舌廉レン(rem) 舌鄰リン(rin) 舌零リン(ring) 舌林リン(rim) 舌欒ロン(ron) 舌侖ルン(run)など、みな同じ。黑ク(kh) 克ク(k) 黑グ(gh) 克グ(g) 思ス(s) 惕ト(t) 惕ド(d) 卜ブ(b) 木ム(m) 勒ル(l)の十字實は七字は、父音フインのみにて母音ボインなき音を譯したる字にして、此書には、必ず右に倚ヨせて少チヒサく書けり。馬行マギヤウの兀ウの段に木ム(mu)の字、變韻ヘンヰンの段に木ム(mö)(mü)の字あれども、木ム(mu) 木ム(mö)(mü)は、大字タイジに書けるが故に、細字 旁書サイジ ハウシヨの木ム(m)と混マギるゝことなし。舌剌行ラギヤウの兒ル(r)も、父音のみなれども、この字の音は、本より母音なきが如く聞ゆる音なれば、右にも倚ヨせず、大字に書けり。
右の表を見ん人は、蒙古字のいかにも同じ形にて異なる音を表アラハせるもの多きことに心附コヽロツくなるべし。阿アの段と額エの段とは、阿行アギヤウ 合行カギヤウ 合行ガギヤウ 沙行シヤギヤウの外はみな同じ。斡オの段と兀ウの段とは、合行カギヤウ 合行ガギヤウの外はみな同じく、その二行ニギヤウも、語の頭にては同じ。元來グワンライ 蒙古字の本なる委兀兒字は、失哩亞シリアSyriaの文字より出でたるものにして、失哩亞シリアの文字は、母音の表アラハし方カタ 十分ジフブンならざりしかば、蒙古もその例に做ナラひ、母音の府號 備ソナはらず。殊に蒙古語には協韻ケフヰン