今 譯文のみの書にては、この切方キリカタに拘カヽハるにも及ばざれども、數百年來この形カタチにて傳はれる者︀を直ナホすもいかゞと思ひて、姑シバラく本モトの切方に從へり。續ツヾくべき處にて斷キれたる處あるは、それが爲なり。
元朝 祕史ゲンテウ ヒシの音譯法オンヤクハフ
此書は、明人の蒙古語を硏究ケンキウせんが爲に譯したる者︀なれば、蒙古文を音譯するに、顧炎武コエンブの「紐ニウ㆓切セツシテ其字
此書を譯せる史臣シシン、一人は翰林 侍講カンリン ジカウ 火原潔クワゲンケツ、一人は編輯ヘンシフ 馬懿赤黑マイチクにして、馬懿赤黑マイチクMaichikh 又は馬沙亦黑マシヤイクMashaikhの蒙古人なることは、その名にて知らる。火原潔クワゲンケツも、火クワと云ふ姓ウヂは漢︀人カンジンに聞キき慣ナれざる姓なれば、蒙古の火嚕剌思コルラスKhorulas 氏ウヂなどの單姓タンセイとなれる者︀ならん。支那の字音ジオンは、南北朝ナンボクテウ 以來 常ツネに南北に分ワカれて、南音ナンオンには、北音ホクオンの如き淆訛カウクワなし。此書は、明の朝廷テウテイの南京ナンキンに在りし時の譯なれば、音譯には南音を用ひたり。蒙古語に精︀クハしき蒙古人にて淆訛カウクワ 少スクナき南音を以て音譯したれば、此書の如く正タヾしき音譯は、他ホカに比類︀少し。
今 此書に用ひたる音譯 漢︀字を蒙古字の下に書きて、我が五十音圖の如き橫縱ヨコタテの列レツに排ナラぶれば、左サの如し。二重音と撥ぬる音とは略けり。發音を明か