ふ時は、帖哩兀捏テリウネteriuneと云ひ、不兒罕 合兒敦ブルカン カルドンBurkha Khardunにと云ふ時は、合兒都︀納カルドナKhardunaと云ふ。「より」又は「から」と云ふことを阿察アチヤachaとも額扯エチエecheとも云ふ。仙臺センダイよりを仙答牙察センダヤチヤSendayacha、津輕ツガルよりを津合喇祭ツガラチヤTsugharachaと云ひ、越前エチゼンよりを越者︀捏扯エチゼネチエEchijenecheと云ふ。此等コレラは、皆ミナ 阿アと額エとの變カハりの例レイなるが、斡オと兀ウとの變カハりも、これに同じ。この協韻ケフヰンあるが爲に、蒙古文の音讀オンドクには一種イツシユの興味キヨウミあれども、譯文には全マツタくその跡形アトカタをも失へり。
又 蒙古語には、勒ルl 又は兒ルrにて始ハジまる詞なし。外國グワイコクの人の名 人種の名などを表アラハせる詞には、まれに剌ラla 又は喇ラraに始まれる名あれども、蒙古の古き詞には、魯阿ルアlua 又は魯額ルエlueと云ふ名詞の接尾語の外には、詞の頭カシラに勒兒ルルの音あるもの更サラになし。魯阿ルア 魯額ルエは、漢︀字の與ヨの字、日本語の「とともに」の意にして、必ず名詞の尾ヲに接ツく詞なれば、これも、詞の頭に魯ルluの音ありとは言ひ難︀し。日本の古き詞にも、助動詞の らるゝ らむ らし の外には、漢︀字の等トウの意なる「ら」と云ふ接尾語一つあるのみにて、良行ラギヤウに始まれる詞の更になきは、蒙古語に善く似たり。蒙古語も、近チカき世となりては、外國の詞あまた入イり交マジりて、勒ル 兒ルに始まる詞のふえたるは、日本語に良行の音に始まる詞のふえたるに異ならず。すべて蒙古語も、他ホカの國國クニグニと同じく、古と今と變遷ヘンセン 多ければ、亞細亞の諸︀國の言語を比較硏究ヒカクケンキウせんと欲ホツする人は、その