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Page:成吉思汗実録.pdf/39

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押したるなり。日本語ならば、「​影​​カゲ​の外に​伴​​トモ​なく、​體​​カラダ​の外に​物​​モノ​なし」など云ひたし。すべて頭韻ある文は、​對句​​ツイク​より成り、​短​​ミジカ​きは二句、​長​​ナガ​きは​二節︀​​ニセツ​ ​或​​アル​は​二段​​ニダン​なれども、​稀​​マレ​には三句 又は三節︀にして、三韻を用ふることあり。又 ​極​​キハ​めて​稀​​マレ​には十句もありて韻も屢 換へて對句を成さざるもあり。前に引きたるは、いづれも短き二句の例なれども、​不兒罕​​ブルカン​​Burkhan​​嶽​​ダケ​の​神︀​​カミ​に太祖︀の​感謝​​カンシヤ​したる辭の​中段​​チウダン​などは、二節︀づゝの二段より成り、前段は​不​​ブ​​bu​の韻を九つ​疊​​タヽ​み、後段は​合​​カ​​kha​の韻を九つ疊みたり。韻文は、譯すれば、​全​​マツタ​く​興味​​キヨウミ​を失ひて、​散文​​サンブン​よりも​拙​​ツタナ​くなる故に、譯文の​左​​ヒダリ​に原字の​韻語​​ヰンゴ​を一一書き添へて、その​文​​ブン​の​拙​​ツタナ​く​語​​コトハ​に​穩​​オダヤ​かならざる處あるは韻文の爲なることを知らしめんとす。

 蒙古語に、​猶​​ナホ​ ​一​​ヒト​つ​面白​​オモシロ​き​事​​コト​あり。そは、​梵語​​ボンゴ​にて​散提​​サンヂヒ​​sandhi​と​稱​​トナ​ふる​協韻​​ケフヰン​の​法​​ハフ​にして、蒙古語のみならず、​滿洲語​​マンジウコトバ​ ​突︀兒克語​​トルクコトバ​など、​阿勒泰​​アルタイ​ ​語族​​ゴゾク​に​屬​​ゾク​する​諸︀國​​シヨコク​の​言語​​ゲンゴ​に行はるゝ​一種​​イツシユ​の​音便​​オンビン​なり。​名詞​​メイシ​の​接尾語​​セツビゴ​、てにをは、​助動詞​​ジヨドウシ​などまれには組立名詞を組立つる下のことばは、​上​​カミ​の​名詞​​メイシ​ ​動詞​​ドウシ​のおもなる​母音​​ボイン​の​力​​チカラ​に​依​​ヨ​りて、​己​​オノ​が母音を​變​​カ​へて、その母音に同じく​化​​ナ​るなり。例へば、​兄 弟​​アニ オトヽ​を​阿合 迭兀​​アカ デウ​​akha deu​と云ひ、​兄​​アニ​ども​弟​​オトヽ​どもを​阿合納兒 迭兀捏兒​​アカナル デウネル​​akha nar deu ner​と云ふ。​納兒​​ナル​も​捏兒​​ネル​も、「ども」の​意​​コヽロ​にして、上に​合​​カ​あれば、​納​​ナ​と云ひ、上に​迭​​デ​あれば、​捏​​ネ​と云ふ。てにをはの「に」を​額​​エ​​e​とも​阿​​ア​​a​とも云ふ。​斡難︀ 木嗹​​オナン ムレン​(斡難︀ 河)の​帖哩溫​​テリウン​​teriun​()にと云