て行ユきけり」と云イへり。この言コトバを成吉思 合罕チンギス カガンに奏マウしたれば、勅ミコトあり「只タヾ 又マタ 敵テキせんと思オモひて劫賊ヌスビトとなりて行ユきけり。今イマ 何ナニを窺ウカヾひにか來キし。彼カレが如ゴトき者︀モノどもは、車轄シヤカツに比クラべたり。何ナニぞ疑ウタガはん。目メの背處カゲ(目に見えぬ處)に棄スてよ」と云イへり。尋ツイで斬キらしめたり。
§157(05:27:02)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
王罕ワンカンの篾兒乞惕メルキト 征伐
その狗イヌの年トシ、成吉思 合罕チンギス カガン(「の」は、原文に「を」なる宜と誤れり。)塔塔兒タタルの民タミの處トコロに出征シユツセイしたる時トキ、王罕ワンカンは、篾兒乞惕メルキトの民タミの處トコロに出征シユツセイして、脫黑脫阿 別乞トクトア ベキを巴兒忽眞 脫窟木バルクヂン トクム(親征錄 元史巴兒忽眞 之 隘バルフヂン ノ ハサマ、卷一の闊勒 巴兒忽眞 脫古木)に逐オひて、脫黑脫阿トクトアの大子オホイコ 脫古思 別乞トグス ベキ(親征錄土居思 別吉トクス ベギ)を殺︀コロして、脫黑脫阿トクトアの忽禿黑台クトクタイ 察阿㖮チヤアルン 二女フタリなる彼カレの女ムスメども、(親征錄忽都︀台フドタイ 察勒渾チヤルフン 二哈敦ニハトン。女の名を合屯の名と誤れり。)彼カレの妃キサキどもを取トりて、忽圖クト、赤剌溫チラウン(親征錄和都︀ホド、赤剌溫チラウン)二人フタリなる彼カレの子コどもを民タミごめに虜︀トラへて、成吉思 合罕チンギス カガンに何ナニも與アタへざりき。
§158(05:28:01)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
成吉思 汗チンギス カン 王罕ワンカンの乃蠻ナイマン 征伐
その後ノチ 成吉思 合罕チンギス カガン 王罕ワンカン 二人フタリ、乃蠻ナイマンの古出古惕グチユグト(乃蠻の分部の名、卷四の古出兀惕 乃蠻)の不亦嚕黑 罕ブイルク カンの處トコロに出征シユツセイして、兀魯黑塔黑ウルクタク(親征錄兀魯塔 山ウルタ ザン)の鎖豁黑 兀孫ソゴク ウスン(鎖豁黑の水。親征錄莎合 水シヨカ ガハ、今の科布多 河の上流なる索果克 河)に居ヲる處トコロに到イタりて、不亦嚕黑 罕ブイルク カンは對陣タイヂンする能アタはずして、阿勒台 山アルタイ ザン(今の科布多 城の西南なる阿爾泰の東南幹山)を越コえ動ウゴきたり。鎖豁黑 水ソゴク ガハより不亦嚕黑 罕ブイルク カンを襲オソひて、阿勒台 山アルタイ ザンを越コえさせ、忽木升吉兒クムセンギル