Page:小倉進平『南部朝鮮の方言』.djvu/219

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考へられぬ。此の他近來朝鮮對馬間の交通が日に增し頻繁になつた結果、「ちょんが」 「ぱあさぎ」・「よぼ」等の朝鮮語が盛んに侵入して行く。

五 朝鮮語に及ぼした對馬方言の影響

以上は專ら對馬方言に及ぼした朝鮮語の影響を略述したのであるが、吾人はまた其 の反對の場合をも考へて見る必要がある。きざみ煙草たばこを기사미、帽子を삿보、車を구루 마、洋燈ランプを란포、靴を구두などいふ類は何れも日本から傳來した語であることは何 人にも想像し得るが、比較的傳來が古く且つ傳來の經路の興味あるのは고구마(甘 藷)なる語である。しかも此の語が對馬の方言に出でたるものなることを知るに於 て、特に茲に高調して紹介する必要を感ずるのである。

甘藷は初め支那から琉球に、琉球から薩摩に、薩摩から內地各地方に傳播した。甘 藷にからいも・琉球藷・薩摩藷等の別名があるのも之が爲である。此の藷の琉球に傳つ た年代に就いては種々の說あるが、薩摩に傳つたのは元祿十一年(西紀一六八九)頃とせられ て居る。而して此の藷の內地各地方に廣まるに至つたのは薩摩傳來後三十餘年後た