Page:小倉進平『南部朝鮮の方言』.djvu/216

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にすることが出來ぬと信ずる。故に余は本篇に於ては兩語の系統的關係を論述しよ うとはせぬ。唯對馬方言中朝鮮語と斷定し得るもの、又朝鮮語ならんと推定し得る ものの數種を擧げ、其の交渉史の一事例としようとするに過ぎぬ。但し中には交通 貿易上の用語として舊記にのみ散見するものもあるが、其等も參考のため茲に併記 することにした。

  • がん道・京畿けぐい道・けぐしやぐ道・ちぐせぐ道・ちゆる道・はぐはい道・はむげぐ道・あん道。以上八道 の讀方は對馬で書かれた「集書」なる書に散見して居る。此の八道の名稱は讀方に 多少の相違があつたにしても、壬辰役以來我が國人によつて膾炙せられ、德川時 代の國語辭書等にも屢現はれて居る。併し對馬では今日斯る呼法をせぬ。
  • かんぼく。公貿易のことである。何れの書にも皆「かんぼく」とあるが、今日は使用せら れぬ語である。
  • せぎ。對洲から朝鮮に向つて產物を請ひ受けることであるが、これまた廢語である。
  • しけ。物を負ふに用ひる器具。形は朝鮮のチゲ(지게)と略同一で、名稱も朝鮮語