Page:小倉進平『南部朝鮮の方言』.djvu/212

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  1. 伴はざるL音の存することは、日鮮語比較上注意すべきことである。

    其の他二重母音ヂフソングのaiが開口の「エイ」となり(例、「ひました」を「けいました」、「かひ がら」を「けいがら」)auが「オウ」となり(例、「ふ人」を「こう人」)、uが「エイ」とな る(例、「ぬぐひ」を「てぬげひ」)傾がある。

  2. 代名詞 人代名詞第一人稱には「わたくし」(目上に對して)「おれ」(同輩及び目下に對して)、第二人稱には「お まへさま」・「あなた」・「あなたさま」(目上に對して)「お前」・「おし」(同輩及び目下に對して)、第三人稱に は「あれ」・不定稱には「だ」・「だれ」等を用ひるのが普通である。これは勿論極く大 體の話で、詳細に述べれば益々複雜になるから茲では略して置く。すべて對馬に は今日でも士族平民の階級的區別が暗々裡に行はれて居るので、それがやがて言 葉の上にも現はれ、人代名詞なども非常に複雜な用法をして居るのである。指示代 名詞は著しい相違が無い。

  3. 形容詞 副詞形が常に「う」であるから、「山が高見えます」。「遠ござります」 の如くいふ。假定形に「ば」が附くと「善けりや」・「高けりや」の如く「りや」の形を