Page:小倉進平『南部朝鮮の方言』.djvu/210

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が內地の何れの地方の言語と密接なる關係を有して居るか等の事柄を確實にする爲 め、余は大正三年夏期休暇を利用して該島に旅行し、該島方言の一般を調査した。 今玆に述べんとするものは當時の調、査結果の一部である。

三 對馬方言槪觀

對馬方言と朝鮮語との交涉を記述するに當り、吾人は先づ國語上に於ける該島方言 の位置を明かにして置く必要があると思ふ。抑も對馬は島内到る處に山嶽起伏し、隣 村との交通にも一二の山を越えねばならぬ狀態にあるので、言語の如きも各村によ つて多少づゝの相違がある。南方などは交通が最も不便であるだけに、言葉の 訛りも最も甚だしいといはれて居る。

余が該島方言調査の方針は發音・語彙・語法の三方面から研究するにあつた。何れ も材料は相當豊富に採取せられ、興味ある事實の發見も少なくなかつたが、其の精 細を一々茲に紹介することが出來ぬ。故に本篇に於ては發音と語法との二項に就き 簡單なる說明を加へ、他地方の方言との比較に便しようと思ふ。(詳細に亘つては大正三年十一月及び大正四年三月「國學院雜誌」を參照せられたい)。