馬太傳福音書(明治元訳) 第二十一章

提供:Wikisource

第二十一章[編集]

1 かれら橄欖山かんらんざんのベテパゲにいたりエルサレムにちかづけるときイエス二人ふたり弟子でしつかはさんとして
2 彼等かれらいひけるは爾曹なんぢらむかふのむらゆけやがてつなぎたる驢馬ろばそのともにあるにあはそれときわれひききたれ
3 もしなんぢらになにとかいふものあらばしゆようなりといへさらばただちこれつかはすべし
4 預言者よげんしや(※1)のことばなんぢわう柔和にうわにして驢馬ろばすなはち驢馬ろばのりなんぢにきたるとシヲンのむすめつげよと
5 いへるにかなはせんため如此かくなせるなり
6 弟子でしゆきてイエスのめいぜしごとくなし
7 驢馬ろばそのひききたりおのれころもをそのうへおきければイエスこれにのれ
8 衆人ひとびとおほくはそのころもみちしきあるひは樹枝きのえだきりみちしき
9 かつまへにゆきあとしたが人々ひとびとよびいひけるはダビデのホザナよしゆよりきたものさいはひなり至上いとたかきところにホザナよ

10 イエス、エルサレムにいたれるとき都城みやここぞりて竦動さわだちいひけるはこれたれぞや
11 衆人ひとびといひけるははガリラヤのナザレよりいでたる預言者よげんしや(※1)イエスなり

12 イエスかみ殿みやいりそのうちなるすべて賣買うりかひするものおひいだ兌銀者りやうがへするものだい鴿はとをうるもの椅子こしかけたふ
13 彼等かれらいひけるはわがいへ祈禱いのりいへとなへらるべしとしるさるしかるに爾曹なんぢらこれを盜賊ぬすびととなせり
14 瞽者めしひ跛者あしなへ人々ひとびと殿みやいりてイエスにきたりければこれいやしぬ
15 祭司さいしをさ學者がくしやたちそのなしたまへる奇事ふしぎなるわざまた兒童輩こどもら殿みやにてよばはりダビデのホザナよといふききいかりふくみ
16 イエスにいひけるは彼等かれらいふことをきくやイエスこたへいひけるはしか嬰兒をさなご乳哺者ちのみごくち讚美さんびそなへたりとしるされしをいまよまざる
17 つひ彼等かれらはな都城みやこいでてベタニヤにゆきそこに宿やどれり

18 あくるあさ都城みやこかへるときうゑければ
19 みちほとりにあるひとつ無花果いちじくそのところきたりしにほかなにみえざりしかばいまよりのち永久いつまでむすぶことをざれとこれいひたまひければ無花果いちじく立刻たちどころかれ
20 弟子でしこれをあやしいひけるは無花果いちじくかるることいかはやき
21 イエスこたへ彼等かれらいひけるはわれまことに爾曹なんぢらつげんもし信仰しんかうありてうたがはずばこの無花果いちじくおけるがごときのみならずこのやまめいここよりうつされてうみいれよといふともまたなら
22 かつなんぢらしんじていのらばねがところことごとくべし
23 イエス殿みやいりをしへたるとき祭司さいしをさおよびたみ長老としよりたちきたいひけるはなに權威けんゐこのことをなすやたがこの權威けんゐなんぢあたへしや
24 イエスこたへ彼等かれらいひけるはわれ一言ひとことなんぢらにとはわれにそのことつげなばわれなに權威けんゐをもてこれなすといふことを爾曹なんぢらいふべし
25 ヨハネのバプテスマは何處いづこよりぞてんよりかひとよりか彼等かれらたがひにろんいひけるはてんよりといはさらなにゆゑしんぜざるかといは
26 もしひとよりといは我儕われらたみおそそはみなヨハネを預言者よげんしや(※1)とすればなり
27 つひこたへしらずといふイエス彼等かれらいひけるはわれなに權威けんゐこれなす爾曹なんぢらかたらじ
28 爾曹なんぢらいかにおもふやあるひと二人ふたりありしが長子あにきたりていひけるは今日けふわが葡萄園ぶだうばたけゆきはたら
29 こたへいないひしがのちくいゆきたり
30 また次子おとうとにもまへごといひけるにこたへきみわれゆくべしといひしがつひゆかざりき
31 この二人ふたりのものいづれちちむねしたがひし彼等かれらいひけるは長子あになりイエス彼等かれらいひけるはまこと爾曹なんぢらつげ税吏みつぎとりおよび娼妓あそびめ爾曹なんぢらよりさきかみくにいるべし
32 それヨハネただしきみちをもてきたりしに爾曹なんぢらこれをしんぜず税吏みつぎとり娼妓あそびめこれしんじたり爾曹なんぢらこれをてなほくいあらためずかれしんぜざりき

33 またひとつたとへきけあるいへ主人あるじ葡萄園ぶだうばたけつくまがきめぐらしそのなか酒榨さかぶねをほりものみをたて農夫のうふかしほかくにゆきしが
34 果期みのりどきちかづきければそのとらためしもべ農夫のうふのもとにつかはせり
35 農夫のうふどもそのしもべたちとら一人ひとりむちう一人ひとりころ一人ひとりいしにてうて
36 またほかしもべまへよりもおほつかはしけるにこれにもまへごとくなせり
37 わがうやまふならんといひつひそのつかはししに
38 農夫のうふどもそのたがひいひけるは嗣子あとつぎなりいでこれをころしてその産業さんげふをもとるべしと
39 すなはこれとら葡萄園ぶだうばたけよりおひいだしてころせり
40 され葡萄園ぶだうばたけ主人あるじきたらんときにこの農夫のうふなになすべき
41 彼等かれらイエスにいひけるは此等これら惡人あしきものいたうちほろぼときおよびてそのをさむほか農夫のうふ葡萄園ぶだうばたけかしあたふべし
42 イエス彼等かれらいひけるは聖書せいしよ工匠いへつくりすてたるいしいへすみ首石をやいしとなれりこれしゆなしたまへることにして我儕われらあやしとするところなりとしるされしをいまよまざる
43 このゆゑわれなんぢらにつげかみくに爾曹なんぢらよりうばひそのむすたみあたへらるべし
44 このいしうへおつるものはやぶれこのいしのうへおつればそのものくだかるべし
45 祭司さいしをさたちおよびパリサイの人かれのたとへききおのれらをさしいへるをしり
46 イエスをとらへんとおもはかりしかどただたみおそれたりそは人々ひとびとかれを預言者よげんしや(※1)とすればなり

※1 明治14(1881)年版では「預言者」のルビが「よげんじや」。