青木繁書簡 明治38年6月12日付 蒲原隼雄宛
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六月十二日 相模野比圓通󠄁寺
蒲原隼雄樣
暑氣漸く相催候。山本君に御面會の由、さては種々御聞取被成下候事と存候。少し訂正いたし
たき點有之、左樣申置候が、定めて校正相すみ候事と存候。右は地紙に淡褐色の地色を畫面全󠄁體
にー樣にかけて、其上に黑脂インキにて印刷致度ものと存候。是は伊上凡骨君の方へ御懸合相成
らば早速󠄁出來する事と存候。印刷紙は可成剛質の物を撰び度、厚く光澤尠きもの、且つ頑丈󠄁のも
のを尊󠄁び候。
……當地方の風光はルーソーの畫の如くとの感を起す事多く、海の國の平󠄁和、到處麥實りて一
面の夏景色に候。是より三崎地方より伊豆に入って見たく、茅ヶ崎の方へ出づる覺悟に候。郵便︀
は矢張房󠄁州宛にて下され度、當地は不便︀にて信書紛失屢々の由なれば、房󠄁州より一纏め小包󠄁にて
送り來るやう致居候。