青木繁書簡 明治35年12月15日付 坂本繁二郎宛
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十二月十五日 信濃、小諸︀町鶴屋
上野北甘樂郡小坂村中ノ岳社︀務所󠄁 坂本繁ニ郞兄
中ノ岳宿料高價には驚入申候。其他萬事の齟齬候事は甚殘念にて却て可笑味を感じ申候事に
候。
東京下宿所の營業引渡の件は餘り信用ならぬかと存候。乍併申越の程なれば何とも分ち難く候
へば、誰か一人歸京して、それぞれ荷物の始末をつくる事必要と存候。いよ〳〵歸京するとなら
ば、貴兄一足先きに御出發被成方宜しきかと存候。さすれば無論中の岳の根據を捨る事と相成候
へば、殘留の諸︀品、カンバス、天狗の假面(床の間の上の額面の裏にあり)、書物、笛等、東京へ
御持ちかへり願上候。なほ又着京なされ候上は小生の荷物等は貴兄へ保管一任申上匿候。・・・・・・來
年一月四五日には間違󠄂なく歸京處理致すべく候。
歸京の上、所󠄁得製作の展覽を行うて、自然に對する我輩の信仰と態度とに就きて、共に俱に火
鉢をかこみて談りあかす時を待ち申候。