雅各書(明治元訳) 第二章

Wikisource:宗教 > 聖書 > 明治元訳新約聖書 (明治37年) > 雅各書(明治元訳)

第二章

1 わが兄弟（きやうだい）よ爾曹（なんぢら）榮（さかえ）の主（しゆ）なる我儕（われら）の主（しゆ）イエス・キリストの信仰（しんかう）の道（みち）を守（まも）らんには人（ひと）を偏視（かたよりみ）ること勿（なか）れ
2 もし人（ひと）金環（きんのゆびわ）をはめ美（うるは）しき衣服（ころも）を着（き）て爾曹（なんぢら）の會堂（くわいだう）に來（きた）り又（また）貧（まづし）き人（ひと）汚（けがれ）たる衣服（ころも）を着（き）て來（きた）らんに
3 なんぢら美（うるは）しき衣服（ころも）を着（き）たる人（ひと）を顧（かへり）みて爾（なんぢ）この榮位（よきところ）に坐（すわ）れと曰（いひ）また貧者（まづしきもの）に爾（なんぢ）彼處（かしこ）に立（たて）といひ或（あるひ）は我（わ）が足下（あしのもと）に坐（すわ）れと曰（いは）ば
4 爾曹（なんぢら）は各人（おのおの）のうち區別（へだて）を立（たて）また惡念（あしきおもひ）を以（も）て人（ひと）を分（わかつ）ものに非（あら）ずや
5 我（わ）が愛（あい）する兄弟（きやうだい）よ聽（き）け神（かみ）は斯（この）世（よ）の貧者（まづしきもの）を選（えらび）て信仰（しんかう）に富（とま）せ己（おのれ）を愛（あい）する者（もの）に約束（やくそく）し給（たま）ひし所（ところ）の國（くに）を嗣（つぐ）べき者（もの）とならしめ給（たま）ふに非（あら）ずや
6 然（しか）るに爾曹（なんぢら）貧者（まづしきもの）を藐視（いやしめ）たり爾曹（なんぢら）を凌虐（しひたげ）また裁判所（さいばんしよ）に曳（ひく）ものは富者（とめるもの）に非（あら）ずや
7 彼等（かれら）は爾曹（なんぢら）が稱（となへ）らるる所（ところ）の美名（よきな）を讟（けが）す者（もの）に非（あら）ずや
8 爾曹（なんぢら）もし聖書（せいしよ）に載（のす）る所（ところ）の己（おのれ）の如（ごと）く爾（なんぢ）の隣（となり）を愛（あい）すべしと云（いへ）る貴（たふと）き法（おきて）を守（まも）らば其（その）行（おこな）ふところ善（よし）
9 然（され）ど若（も）し人（ひと）を偏視（かたよりみ）ることをせば是（これ）罪（つみ）を行（おこな）ふなり律法（おきて）爾曹（なんぢら）を定（さだ）めて罪人（つみびと）とせん
10 人（ひと）律法（おきて）を悉（ことごと）く守（まも）るとも若（もし）その一（ひとつ）に躓（つまづ）かば此（これ）全（すべて）を犯（をか）すなり
11 それ姦淫（かんいん）する勿（なか）れと言（いへ）る者（もの）また殺（ころ）すこと勿（なか）れと言（いへ）ば爾曹（なんぢら）姦淫（かんいん）せずとも若（も）し殺（ころ）すことをせば律法（おきて）を犯（をか）す者（もの）となる也（なり）
12 なんぢら言（かた）ること行（おこな）ふこと自由（じゆう）の律法（おきて）に循（より）て鞫（さばき）を受（うけ）んとする者（もの）の如（ごと）くすべし
13 憐（あはれ）むことをせざる者（もの）は鞫（さば）かるる時（とき）また憐（あはれ）まるること無（なか）らん矜恤（あはれみ）は鞫（さばき）に勝（かつ）なり

14 わが兄弟（きやうだい）よ人（ひと）自（みづか）ら信仰（しんかう）ありと言（いひ）て若（も）し行（おこなひ）なくば何（なに）の益（えき）あらん乎（や）その信仰（しんかう）いかで彼（かれ）を救（すく）ひ得（え）んや
15 もし兄弟（きやうだい）あるひは姉妹（しまい）裸躰（はだか）にて日用（にちよう）の糧（かて）に乏（ともし）からんに
16 爾曹（なんぢら）のうち或（ある）人（ひと）これに曰（いひ）て安然（あんぜん）にして往（ゆ）け願（ねがは）くは爾曹（なんぢら）温（あたた）かにして飽（あく）ことを得（え）よと而（しか）して其（その）身體（からだ）に無（なく）てならぬ物（もの）を之（これ）に予（あたへ）ずば何（なん）の益（えき）あらん乎（や）
17 此（かく）の如（ごと）く信仰（しんかう）もし行（おこなひ）を兼（かね）ざるときは乃（すなは）ち死（しぬ）るなり
18 或（ある）人（ひと）いはん爾（なんぢ）信仰（しんかう）あり我（われ）行（おこなひ）あり請（こふ）なんぢが行（おこなひ）を兼（かね）ざる信仰（しんかう）を我（われ）に示（しめ）せ我（われ）は我（わ）が行（おこなひ）に由（より）て我（わ）が信仰（しんかう）を爾（なんぢ）に示（しめ）さんと
19 なんぢ神（かみ）は惟（ただ）一（ひとり）なりと信（しん）ず如此（かく）信（しん）ずるは善（よ）し惡鬼（あくき）も亦（また）信（しん）じて戰慄（をののけ）り
20 ああ愚（おろか）なる人（ひと）よ行（おこなひ）を兼（かね）ざる信仰（しんかう）の死（しぬ）ることを爾（なんぢ）知（しら）んと欲（おも）ふや
21 我儕（われら）の先祖（せんぞ）アブラハムその子（こ）イサクを壇（だん）の上（うへ）に獻（ささげ）て義（ぎ）とせられたるは行（おこなひ）に由（よる）に非（あら）ずや
22 その信仰（しんかう）行（おこなひ）と共（とも）に働（はたら）き且（かつ）行（おこなひ）に由（より）て信仰（しんかう）全備（まつたき）を得（え）たるを爾（なんぢ）見（みる）べし
23 これ聖書（せいしよ）に録（しる）してアブラハム神（かみ）を信（しん）ず其（その）信仰（しんかう）を義（ぎ）とせられたりと有（ある）に應（かな）へり彼（かれ）また神（かみ）の友（とも）と稱（よば）れたり
24 なんぢら人（ひと）の義（ぎ）とせらるるは信仰（しんかう）にのみ由（よる）に非（あら）ず行（おこなひ）に由（よる）ことを知（しる）なるべし
25 また妓婦（ぎふ）ラハブ使者（つかひ）を受（うけ）これを他（ほか）の途（みち）より去（さら）しめて義（ぎ）とせられたるは行（おこなひ）に由（よる）に非（あら）ずや
26 身（み）もし靈魂（たましひ）はなるれば死（しぬ）るごとく信仰（しんかう）も行（おこな）ひ離（はなる）れば死（しぬ）るなり