鉄道唱歌/大和名所鉄道唱歌

提供:Wikisource

大和名所

  1. 黒烟高こくえんたかすなをまき 三條停車さんでうていしやじやうをはやいであをにうつる有明ありあけの つきぬながめにうかれつゝ
  2. まどよりあとをながむれば かすもりかみびて かみの御威稜いづはいやたかかさやま草青くさあを
  3. とほかすめる金剛山こんがうせん ちかくいろどる駒山こまやま 青垣あをがきなせるたゞなかを いざ面白おもしろたづ
  4. いつしかしやはしりきて はやこほりやまつきにけり 大空凌おほぞらしの烟突えんとつ紡績ばうせきぐわいしやられたり
  5. かいいつやくぞう 唐招提とうせうだい西大さいだい きぬたうつてふ秋篠あきしの只片時たゞかたときみちぞかし
  6. まちうしろそびゆるは こほりやまじやう天主閣てんしゆかく 榮華えいくわのすがたいまなほ つきざくらにほひけり
  7. もなきむらのかずあまた おくむかふるひまもなく くだりゆくとみがは むかしのすがた今何いまいづ
  8. みぎゆるはたつやま みどりいろしたゝるゝ したにひときはいかめしく てるはだか法隆はふりう
  9. しやう徳太とくたい建立こんりうに かゝる金堂こんだうぢうたう 七堂ひちだうらん悠々ゆう/\千有せんいうねんゆめ
  10. くだりてみなみ十二ちやう けばばらひろてふ くわん幣大社ぺいたいしやみやはしら 太敷ふとしきてるたうとさよ
  11. しろけるはやまがは ぐれあら室山むろやま 姿すがたやさしくみやびをの こゝろなやますたねとなる
  12. ぐれそましもにあき いろえなん面影おもかげゆうてりふもみぢたつ田川たかはら程近ほどちか
  13. にやたつあきしき このもかの秋深あきふかりにしうたのおもむきも さながらみえあはれなり
  14. でうさくら乘替のりかへえきこゑきこゆるは これわうのステーシヨン さくらゆきぶんせん
  15. われせん乘替のりかへしやみなみむかひたり ながたえなる信貴しぎさんうらやましくもあとにして
  16. こゝはよしある片岡かたおかあしたはらあさげしき なかひとむらしげれるは だるだいぜんあと
  17. あきさりくればきりちて かりくなる片岡かたおかあしたはらはもみづると よみしもいまのみなり
  18. みどりいろ西山にしやまならびてはしたのしさは さながらあきこゝして たとへがたなきたびそら
  19. いつしかしも打過うちすぎ顯宗けんそうれつさゝきあとにながむるひまもなく はやつきにけりたかえき
  20. たか近年開きんねんひらけたる くわん鐵南てつなんわかみち いでやこれより南山なんざんくもやまらん
  21. 黒染すみぞめ住替すみかえし けなげにたかちうじやうあはれつゝたへ麻寺まじ松風高まつかぜたか影黒かげくろ
  22. 五畿ごき内一ないいつきこえたる くしたき御所ごせえき西にしおよそ二十ちやう かいやまのすそあら
  23. しげみどりをば ひつゝはし一條いちでうはくりやうひろきりなつもあかれぬかぜ
  24. だかきんかいなる えんぎやうじやうまれたる はらさとしやうさう 今尚隨いまなほづゐあらたなり
  25. こゝはところ掖上わきがみえきひがしつぼうさか 其巖石そのがんせききざみたる ひやくかん苔青こけあを
  26. 州一しういつ温泉おんせんぢやう 葛驛くづえきづれは阿田あたみねあさてりもゝのころ はるりやう紅十こうじう
  27. たぐひなきみよしのは さんへだてゝはなくも かすみをくらねども ゆるかぎりはさくらとや
  28. でうわれむかへたり くだりてゆる並松なみまつなつあきなる榮山えいざん かぜみどり露白つゆしろ
  29. いのちさゝげてくにのため つくせしあとの金剛こんがうくもはるかそびえたり ちうめい諸共もろとも
  30. これよりさらかへたかえきより乘替のりかへさくらえきへとすゝままし だか名所めいしよともとして
  31. 平原十へいげんじうよこぎりて いきまきたけすゝまへゆるはうねやま あま香久かぐ山影淡やまかげあは
  32. やまみなみ橿原かしはら開國神かいこくじんみやこ 千代ちようごかぬいさをしを あふげや同胞どうはう千萬せんまん
  33. こゝは名所めいしよのよりどころ ぶさたちばな岡寺おかでら かりつてふ米寺めいでら あす神社じんしや程近ほどちか
  34. こゝろをよそにかられつゝ 何時いつしかつきぬさくら尚高なほたかいまよりは あかぬ名所めいしよたづ
  35. やまひもぜんぷく おとやまくわんのんまちはなれていちはん だかやまひと
  36. そのもうれし延命おんみやう瀧音凉たきおとすゞなつなれば われたきこゝろみて しばあつさわすれなん
  37. まちみなみれば こゝもさくらみねつゞき はな中宿なかやどにし談山神社だんざんじんしや神寂かんさび
  38. はなみぢ談山だんざんなつまたよろしかぜおと あまをとことかくはあらじとしのばるゝ
  39. こゝろのこしてさくらを あとにはなれて諸山もろやま 大神神社おほがみじんしやもほのえつ 三輪みわ山本冬やまもとふゆならば
  40. むかしひとこまとめて 袖打そでうちはらふかげもなき 佐野さのわたりとみけんも こゝらあたりかげもなし
  41. やまきたのなきあとは 玄賓僧げんぴんそうかくれどこ うきてゝ月花つきはなまかせてしげんあん
  42. たか長谷はせでら三輪みわることいちはん ふるき堂塔どうたふかずおほづありがたき長廊ながろう
  43. こゝははるこそでたけれ うすばなさくらやまをおひ あらしかねもうづもれて きかうくもにほふなり
  44. 景行けいかうじんりやうある やなぎもとをばゆめやまと神社じんしやおがみ はやつきにけりたんいち
  45. ひがししろ家並いへなみは これぞしまてんけう だかをか玉垣たまがきみちひろはかどころ
  46. みどりたゞ一帶いつたいむかし布留ふるやま 瀧音高たきおとたかやまなつもさながらあきそら
  47. ふるのやまべのやしろくもおろちの麁正あらまさを いつきまつれるもしるき くわん幣大社ぺいたいしやみやなり
  48. かさをおちてあめした かくもなきばんじようけんていしのばれし こゝは内山久永うちやまきうえい
  49. しやすゝみてかきもと むかししのぶの歌塚うたづかに ことひま在原ありはらやしろはやがていちもと
  50. ひがし虚空こく藏圓照ざうゑんせう 西にしなみあをばら かさやま亦我またわれ只青々たゞあを/\ちにけり
  51. くもゆかしき帶解おびとけやすざうそのむかし 染殿后そめどのこうりつぐわんおこりしてらつた
  52. おもへばゆめつか名所めいしよのかずをつくふたゝびもとのあをによし 奈良ならみやこつきにけり
  53. ひとしきしんして ひろかいせまくなる ゆげのちからおそろしき つとめやはげめやよども

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。