鉄道唱歌/地理教育 鉄道唱歌 第三 田端水戸岩沼間

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• 変体仮名は現在用いられる仮名に改めた。
• くの字点は／＼を代用した。
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上野水戸岩沼仙臺間

1. 田（た）端（ばた）の驛（えき）を後（あと）に見（み）て 南（みなみ）千住（せんじゆ）を越（こ）え行（ゆ）けば 上（うへ）野（の）の山（やま）に殘（のこ）る月（つき） 我（われ）を送（おく）りて影涼（かげすゞ）し
2. 北（きた）の千住（せんじゆ）は久喜（くき）驛（えき）に 續（つゞ）く線（せん）路（ろ）の分（ぶん）岐（き）點（てん） 西（にし）に折（を）るれば西新（にしあら）井（ゐ） 人（ひと）の群（むら）がる大（だい）師（し）堂（だう）
3. 阿伽井（あかゐ）に涌（わく）は加持（かぢ）水（すゐ）と 汲（く）みて歸（かへ）るもまた多（おほ）く 草（そう）加（か）の西南川口（せいなんかはぐち）の 其（その）名（な）は鐵（てつ）器（き）にいちじるし
4. 新田蒲（しんでんがも）生（う）はかしこくも 叡聖文（えいせいぶん）武（ぶ）の我（わ）が君（きみ）が 行幸（みゆき）の砌（みぎり）田（た）植（うゑ）をば 叡覧（えいらん）ありし土地（とち）とかや
5. ものをいはねど歳（とし）々（〲）に 磎（あしあと）しげき越（こし）ヶ谷（や）の 驛（えき）より僅（わず）か五（ご）六（ろく）町（ちやう） 武里（たけさと）の東北（とうほく）二（に）合半（がふはん）
6. 年（とし）にふたゝび米（こめ）みのる 粕壁（かすかべ）近（ちか）き大（おほ）戸（と）村（むら） 第六天（だいろくてん）の神（かみ）の杜（もり） 夏（なつ）もすゞしき影（かげ）ふかし
7. たれて地（ち）にしく藤（ふぢ）の花（はな） にしきにまがふ花（はな）菖（しやう）蒲（ぶ） さきいづる比（ころ）は牛島（うしじま）に 集（つど）ふ人（ひと）々數多（かずおほ）し
8. 太（おほ）田（た）道（だう）灌（くわん）持資（もちすけ）が 築（）きし城（しろ）の岩槻（いはつき）は 綾（あや）瀨河（せが）原（はら）の南岸（なんがん）に ありきと人（ひと）はつたえたり
9. 米（こめ）に名（な）高（だか）き杉（すぎ）戸（と）すぎ 和戸（わど）驛（えき）こえて久喜（くき）の里（さと） 奥州線（あうしうせん）にいでずして きし道後（みちあと）へ引（ひ）き返（かへ）し
10. 千住駅（せんじゆえき）よりひんがしへ 行（ゆ）けば亀有（かめあり）､堀切（ほりきり）の 菖（しやう）蒲（ぶ）は右（みぎ）に小（を）村（むら）井（ゐ）の 梅（うめ）さく里（さと）も遠（とほ）からず
11. 金町（かなまち）過（す）ぎて江戸（えど）川（がは）を 越（こ）ゆればひだり松（まつ）戸（ど）驛（えき） 小（こ）金（がね）ヶ原（はら）の名（な）にし負（お）ふ 花（はな）のなごりは今（いま）はたゞ
12. 東漸（とうぜん）寺（じ）にぞのこるなる、味（み）醂（りん）を醸（かも）す流（ながれ）山（やま） 醤（せう）油（ゆ）を造（つく）る野田（のだ）の里（さと） 何（）れ劣（おと）らぬ名產（めいさん）地（ち）
13. 川上（かはかみ）とむる關宿（）は 其（そ）の上久世氏（）の城（しろ）の址（あと） 川（かは）間（ま）、七福（）、春（はる）の末（すえ） 桃（もゝ）の花（はな）さきににぎはしゝ
14. 未（み）咲（さき）に笑（え）むや櫻（さくら）花（ばな） 霞（かすみ）と見（み）しは昔（むかし）にて 繋（つな）ぐ駒（こま）さへ今（いま）見（み）えず 旅（たび）路（ぢ）を急（いそ）ぐ馬（ま）橋（ばし）や
15. 憩（いこ）ふ柏（かしは）の下蔭（）に 掬（むす）ぶ手賀（てが）沼橫（ぬまよこ）に見（み）つ 行（ゆ）く末（すえ）たのむ我孫子（あびこ）をも ふりすてゆけば利根（とね）の橋（はし）
16. 倒（さか）さに映（うつ）る富士（ふじ）の根（ね）に 眺（ながめ）つきせぬ長禪寺（） 取手（とりで）の西北守（せいほくもり）谷（や）こそ 平親王（）の夢（ゆめ）のあと
17. 藤代（）、牛（うし）久（く）の左手（ゆんで）には 牛（うし）久（く）沼（ぬま）とてその周囲（めぐり） 六（ろく）里（り）に余（あま）る沼（ぬま）ありて 漁（）る小舟（）の白（しら）帆見（ほみ）ゆ
18. 龍（）ケ崎（）にと來（き）て見（み）れば 女化原（）の物凄（）く 荒川沖（あらかはおき）に吹（ふ）きすさむ 風身（）にしみてはださふし
19. 土浦（つちうら）かけてこぐ船（ふね）の 影（かげ）もしづかに高濱（たかはま）を 出（い）でゝ都（みやこ）に通（かよ）ふなる 滊（き）船（せん）のけふりのどかなり
20. 筑（つく）波（ば）の山（やま）はその北（きた）に そびえて天（てん）の二（ふた）柱（ばしら） 關（くわん）八州（はつしう）の御（）守（）りと なりてしづまり給（たま）ふなり
21. 東（ひがし）に廣（ひろ）き太平洋（たいへいよう） 鹿（か）島（しま）ヶ沖（おき）の浦（うら）々（）や 西（にし）の麓（ふもと）に小貝川（） 大宝沼（）もともに見（み）ゆ
22. はるかに仰（あふ）ぐ富士（ふじ）の根（ね）は かすみのおくにいや髙（たか）く 南（みなみ）に房總半島（）の 山（やま）々（）見（み）えていとゆかし
23. 北（きた）に續（つゞ）ける足尾加波（） 葉山（）の里（）や亀（）ヶ岡（） 女男川原（）の名（）とともに つきぬ筑（つく）波（ば）のかげふかし
24. 神立（かんだつ）、高濱（たかはま）、行（ゆ）きすぎて 石岡（いしをか）、羽（は）鳥（とり）たちはなれ さて岩（いは）間（ま）驛後（えきあと）にして 友（とも）部（べ）の宿（）に着（つ）きにけり
25. 西（にし）にむかへば下野（しもつけ）の 小（を）山（やま）に續（つゞ）く線（せん）路（ろ）なり 宍（しゝ）戸（ど）の西（にし）の難台山（） 南朝（なんてう）時（じ）代（だい）の古（こ）戰（せん）塲（じやう）
26. 稲（いな）荷（り）の宮（みや）にふる鈴（すゞ）の 音（おと）にしらるゝ笠（かさ）間（ま）町（まち） 稲（いな）田（だ）の鳥（とり）をおどろかし 福原（ふくはら）行（ゆ）けば岩（いは）瀨（せ）驛（えき）
27. 新治（にひはり）につぐ下館（しもだて）の 眞（も）岡（をか）木（も）綿（めん）は名（な）も髙（たか）し 大宝沼辺（）の河内村（） 文武兼備（）の忠臣（）と
28. 世（よ）にも名（な）髙（だか）き北畠（） 親房卿（）が退（しりぞ）きて 暫時（しばし）籠（こも）りし關（）城（じやう）の 殘（のこ）れる跡（あと）はこゝぞかし
29. 川島（かわしま）行（ゆ）けば絹川（）の 累（かさね）ヶ淵（ふち）の怪（くわい）談（だん）も 開（ひら）くる御代（みよ）はそらごとゝ 思（おも）ひておそるゝものもなし
30. 紬（つむぎ）木（も）綿（めん）の產（さん）地（ち）なる 結（ゆふ）城（き）の町（まち）は氏朝（）が 上杉（うへすぎ）氏（）との古（こ）戰（せん）塲（じやう） 思（おも）へば胸（むね）も裂（さ）けんかし
31. 友（とも）部（べ）に歸（かへ）り東（ひがし）へと 行（ゆ）けば内原（うちはら）、赤塚（あかつか）や 東國一（とうごくいち）の水戸（みと）の城（しろ） 茨（いばら）城（き）縣（けん）廳（ちやう）所在（しよざい）の地（ち）
32. のどけき旅（たび）の一日（いちにち）を 景山西山両公（）の 心（こゝろ）をこめしそのあとを とひてくらすもまた楽（たの）し
33. 弘道（こうだう）館（くわん）の朝（あさ）のかね 學（まなび）の窓（まど）にひゞきてし 昔（むかし）をしのび梅（うめ）かをる 常盤（）神社（じんじや）にまうづれば
34. 偕楽園（）の楽寿楼（） 好文亭（）に何陋庵（） 千（せん）波（ば）の沼（ぬま）を前（まへ）にして 向（むか）ふは春（はる）の櫻（さくら）山（やま）
35. 天（てん）地（ち）にこびぬ自然景（） 幾（いく）百（ひやく）年（ねん）の後（のち）までも うつりかはらぬ德（とく）見（み）えて いともゆかしく思（おも）ふなり
36. 那珂（なか）川通（がはかよ）ふ立船（）に 三（さん）里（り）下（くだ）れば祝町（） 早（は）や海辺（）に出（い）づるなり 岬（みさき）に生（お）ふる磯（そ）馴松（なれまつ）
37. みぎはにならぶ岩（いは）が根（ね）は よせくる波（なみ）にあらはるゝ 大（おほ）洗（あらひ）とて潮浴（しおあび）の ところと人（ひと）も知（し）るならん
38. 磯濱沖（いそはまおき）に海士（あま）が漕（こ）ぐ あさり舟（ふね）さへおもしろし 濱（はま）辺（べ）の南遥（みなみはるか）には 鹿（か）島神宮（しまじんぐう）おはすなり
39. ゆるぎなき世（よ）の要（かなめ）石（いし） 神（かみ）ましましゝ高天原（） 三（み）笠（かさ）の山（やま）の月影（つきかげ）は 今（いま）も御（み）國（くに）にかゞやけり
40. 川（かは）を渡（わた）れば那珂（なか）港（みなと） 集（あつ）まる船（ふね）の数（かず）知（し）れず 歸（かへ）る白（しら）帆（ほ）のその景（けい）は 矢（や）走（ばせ）に勝（まさ）る風（ふう）致（ち）あり
41. 太（おほ）田（た）鐵道（てつだう）たどりなば 靑柳菅（あおやぎすが）谷（や）額（ぬか）田（た）町（） 久慈（くじ）川（がは）対岸（むかひ）の河（かは）合（い）驛（えき） 通（つう）じて十二哩（マイル）なり
42. 町（まち）の北（きた）なる瑞龍山（） 水戸累代（）の墓地（）にして 幽静閑雅（）の西山（）は 光國卿（）の隠棲所（）
43. 月折峠（）のもとちかく 白（しろ）く懸（かゝ）るは袋（ふくろ）田（だ）の 瀑布（）ぞ直下四十丈（） 両崖楓樹（）の景（）もよし
44. 水戸（）より北（）にはせゆけば 長宥僧都（）の開基（）てふ 東聖寺（）あり榧（）の樹（）に 其名（）も髙（）き佐和（）の里（）
45. 泉（）ヶ森（）の石神（）に 吸（）えし大甕昼夜（）を 分（）たず出（）す名水（）を 掬（むす）びて飲（）むや下孫驛（）
46. 助川近（）き日高村（） こどしくたてる大巌（）は 波（）の濡衣常着（）るを 裸島（）とは誰（）が云（）ひし
47. 川尻越（）えて高萩（）や 豊浦松原手綱濱（） 立（）つ波白（）き眺（）には 萬葉集（）にも名（）を留（）む
48. 遠見（）よろしき磯原（）や 見（）ゆる限（）りは涼（）しやと 詠（）みし翁（）の平潟（）は 關本越（）えて小半里（こはんみち）
49. 勿（な）來（こそ）の關（せき）に來（き）てみれば 道（みち）もせに散（ち）る山（やま）櫻（ざくら） 散（ち）にしあとはきえうせて たづぬるよしもあらざれど
50. 十株（）に足（た）らぬ老松（おひまつ）の 風（かぜ）にうそふく有様（ありさま）は 英雄千（）古（こ）の名声（めいせい）を 今（いま）にとゞむる証（しるし）なり
51. 植田（）を送（おく）り泉（）をも すぐればこゝは湯本驛（） 掘（ほ）り出（だ）す炭鉱湧（たんこうわき）出（い）づる 温泉（いでゆ）に人（ひと）の往来（ゆきき）あり
52. 衣（）の綴繕（）ひて 平（）に入（）れば今（）も尚（） 噺（）に遺（）る左馬頭（） 転（うた）た袖（）をば濡（）すらん
53. 草野（）の如來伏（）し拝（）み 四（）ツ倉行（）けば久（ひさ）の濱（はま） つゞく木奴美（こぬみ）の浦風（うらかぜ）に 波立寺（）や尋（たづ）ねまし
54. ステーション六つ過（す）ぎ行（ゆ）けば 小鶴（）ヶ池（いけ）に小（こ）波（なみ）立（た）つ 磐（いは）城（き）太（おほ）田（た）も早（は）や越（こ）えて 原（はら）ノ町（まち）にぞ着（つ）きにける
55. 來（き）し線路（みち）西方一帯（せいほういつたい）は 馬（うま）の産（さん）地（ち）と聞（きこ）えたる　相馬（）の原（はら）に若草（わかくさ）の 茂（しげ）れど哀（あは）れ照（て）る月（つき）に
56. 影（かげ）さへ見（み）せぬ寂（さび）しさは すだく虫（むし）にも知（し）らるれど 山（やま）を越（こえ）え行（ゆ）く三（み）春駒（はるこま） 今（いま）も嘶（いなゝ）く聲（こゑ）すなり
57. 原（はら）宿（じゆく）すぎて鹿（か）島（しま）をも 後（あと）に殘（のこ）して中村（なかむら）の 驛（えき）に友（とも）をば松川（まつかは）や 浦（うら）わに敷（し）ける白砂（しらすな）に
58. 松（まつ）の緑（みどり）の色（いり）さへて 筆（ふで）も及（およ）ばぬ文字（もじ）ヶ島（しま） 水茎山（）の眺望（ながめ）こそ げにいづこにもたぐひなし
59. 早（はや）くも三つの停車場（ステーション） 越（こ）せば亘（わた）理（り）の磯（いそ）の濱（はま） 阿武（あぶ）隈川（くまがは）の勇壮（いうそう）を 愛（め）づる間（ま）もなく岩沼（いはぬま）の
60. 驛（えき）に車（くるま）はつきにけり 仙臺（せんだい）行（ゆき）の汽（き）車（しや）も今（いま） こゝに來（きた）れりいざさらば 我（われ）も乘（のり）替（か）へ馳（は）せ行（ゆ）かん、