鉄道唱歌/北海道篇
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< 鉄道唱歌
- 南の卷
- 千里の林萬里の野 四面は海に圍まれて わが帝國の無盡庫と 世に名ざさるゝ北海道
- 四月に雪の消えしより 夏まで春の花さきて わが帝國の樂園と 人に呼ばるゝ北海道
- いざ一めぐり見て來んと 津輕海峽跡にして 巴の形に漕ぎ入れば こゝぞ渡島の函館港
- 出船入船ひまもなく 商業貿易北海の 關門占めたる土地ぞとは 知らるゝ市街の賑しさ
- 是より乘り込む汽車の窓 見かへる臥牛の山消えて 緑果てなき牧場も 秋は桔梗の花ざかり
- 人參植ゑて杉植ゑて 百年ぢかくの昔より 開墾せられし七飯村 農産よそには勝れたり
- 馬車の便ある本郷の 十四里西に江差あり 岩内壽都と諸共に 北海屈指の良き港
- トンネル出でゝながむれば 周回八里の大沼に 裳裾をかけて聳え立つ 渡島の富士も面白や
- 森に出づれば旅人の 眠氣もさむる噴火灣 晴れたる日には薄青く 有珠の高嶺も仄みえて
- 海邊づたひに早いつか 過ぐる膽振の國境 八雲に續く國縫は 滿俺鑛山所在の地
- 鰯鰈に法貴貝 海産おほき長萬部 南部陣屋の跡すぎて はや後志の黒松内
- 尻別川の水の聲 聞きつゝ上る岸づたひ 岩おもしろく山深く 若葉紅葉のながめあり
- 紅葉の如き赤心を 櫻の如く香らせし 阿部の比羅夫の忠勇を 紀念に殘す比羅夫驛
- 仰ぐ雲間に雪しろく つもるは蝦夷富士羊蹄山 登れ人々陸奧灣も 一目に見ゆる高嶺まで
- 裾野は俱知安の大原野 オンコ椴松楢桂 林は天を打ち掩ひ 面積ほとんど三十里
- こゝを開きて耕して 作りし村は年々に 榮えて朝夕立ちまさる 煙あまねく民ゆたか
- されど秋すぎ冬の來て 北風雪を吹く時は 汽車ゆく道さへ埋もれて 寒さに泣くは此附近
- 鑛山名たかき然別 林檎の實のる餘市村 夕風さむく秋ふけて 紅ならぬ枝もなし
- 蘭島鹽谷の海邊には 樂しき海士の里見えて 鰊あみ引く春の日の 賑言葉につくされず
- 土地の話を耳に聞き かはる景色を目に見つゝ 慰む程に呼ぶ聲を 聞けば小樽か早こゝは
- 北の卷
- 黒煙天に靡かせて 出で行く汽車の窓ちかく 見かへる小樽の港には 集まる船舶四時絶えず
- 市街は人口八萬餘 商業漁業繁昌し それに續ける手宮町 崖には奇形の文字あり
- 間もなくくゞる熊碓の トンネル出でゝ廣々と 北に見渡す日本海 末は雲路を浸すらん
- 海水浴と温泉の 錢函輕川過ぎ行けば 右には手稻の山高く 左に石狩原廣し
- 琴似の次の札幌は 道廳所在の大都會 農學校に博物館 ビール製麻の會社あり
- 春は圓山官幣社 秋は中島遊園地 豐平橋の月の夜 藻岩の山の雪の朝
- 稻田さかゆる厚別は 野幌山の裾の原 雪間に雁のおるゝ日は 獵する人の行く處
- 石狩川に打ち注ぐ 千歳の川の落口に おかれて賑ふ江別町 石狩行の汽船あり
- 幌向原野岩見澤 眞直に行けば幾春別 幌内太と幌内と 三炭山のありどころ
- 岩見澤にて交叉せし 室蘭線を左へと ゆけば峰延美唄には 兵村ありて地味ゆたか
- 奈井江の次の砂川に おかるゝ三井の木工場 ここは名高き歌志内 炭山ゆきの別れ道
- 雪に若葉に紅葉に 風景すぐれし神居古潭 こゝに地形は狹まりて 上川原野ぞ開けゆく
- 原野の西に位して 師團おかるゝ旭川 離宮は美瑛忠別の 二川の間の神樂岡
- 再びもどる室蘭線 栗山由仁の農場を 過ぐれば來る追分の 夕張行の乘替場
- 時節は秋よ入日さす 夕張川の夕げしき 名所は河端瀧の上 また紅葉山鹿の谷
- 見つゝ分け入る炭山は 北海富源のその一つ 積み出す石炭もろともに 我等も歸るもとの驛
- 早來おりて右行けば 雁鴨おほき千歳沼 惠庭樽前支笏湖も 皆その附近の名所なり
- 白鳥おるゝ沼の端 鰯の取るゝ苫小牧 降り積む雪の白老は アイヌ土人の部落の地
- 建築材に必要の 石切り出だす登別 山には全國たぐひなき 壯觀奇絶の出湯あり
- 幌別輪西打ち過ぎて はや室蘭に着きにけり 青森までは海一つ 海膽は此地の名産ぞ
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