里の暁

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梓弓あづさゆみ、入る方ゆかし夕月ゆふづきの。にほへる春も橘花はなたちばなの。夏にけらし一声は。山郭公やまほととぎす鳴き捨てて。あやめもしらぬ烏羽玉うばたまの。闇夜を照す螢火ほたるびの。その影さへも陽炎かげろふの。立ちまさりたる思い寝の。亡きたま返す。もろこしのその故事ふることしのばれて。空炷そらだきならぬ煙りの末も。たえにかをりし雲のの、いづち行くらん短夜みじかよの空。


  • 底本: 今井通郎『生田山田両流 箏唄全解』中、武蔵野書院、1975年。

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。