梓弓、入る方ゆかし夕月の。匂へる春も橘花の。夏来にけらし一声は。山郭公鳴き捨てて。あやめもしらぬ烏羽玉の。闇夜を照す螢火の。その影さへも陽炎の。立ちまさりたる思い寝の。亡き魂返す。唐のその故事の忍ばれて。空炷きならぬ煙りの末も。妙にかをりし雲の端の、いづち行くらん短夜の空。
- 底本: 今井通郎『生田山田両流 箏唄全解』中、武蔵野書院、1975年。
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