腓立比書(明治元訳) 第一章

Wikisource:宗教 > 聖書 > 明治元訳新約聖書 (明治37年) > 腓立比書(明治元訳)

第一章

1 キリスト・イエスの僕（しもべ）パウロとテモテ、ピリピに居（をる）ところのキリスト・イエスに在（ある）すべての聖徒（せいと）及（およ）び凡（すべ）ての(※1)監督（かんとく）執事（しつじ）に書（ふみ）を達（おく）る
2 願（ねがは）くは爾曹（なんぢら）我（われ）らの父（ちち）なる神（かみ）及（およ）び主（しゆ）イエス・キリストより恩寵（めぐみ）と平康（やすき）を受（うけ）よ

3 なんぢら始（はじめ）の日（ひ）より今（いま）に至（いた）るまで偕（とも）に福音（ふくいん）に與（あづか）るに縁（より）
4 われ爾曹（なんぢら）を思（おもふ）ごとに我（わが）神（かみ）に謝（しや）す
5 また恆（つね）に爾曹（なんぢら）衆（すべて）の爲（ため）に祈求（ねがふ）ごとに欣（よろこ）びて求（ねが）ふ
6 爾曹（なんぢら）の心（こころ）の中（うち）に善（よき）工（わざ）を始（はじめ）し者（もの）これを主（しゆ）イエス・キリストの日（ひ）までに全（まつた）うすべしと我（われ）ふかく信（しん）ず
7 此（かく）の如（ごと）く我（わ）が思（おも）ふは宜（うべ）なり爾曹（なんぢら）つねに我（わが）心（こころ）に在（ある）に縁（よる）そは我（わ）が縲絏（なはめ）に在（ある）とき及（およ）び福音（ふくいん）を辨明（べんめい）し之（これ）を堅固（かたう）する時（とき）も爾曹（なんぢら）は皆（みな）我（われ）(※2)と偕（とも）に我（わ）が受（うく）る恩（めぐみ）に與（あづか）れば也（なり）
8 我（われ）キリスト・イエスの心（こころ）を以（も）て爾曹（なんぢら）衆（すべて）を戀（こひ）慕（した）ふことに就（つい）ては其（その）證（あかし）をなす者（もの）は神（かみ）なり
9 また爾曹（なんぢら）の愛（あい）智識（ちしき）と諸（もろもろ）の智慧（さとり）の中（うち）に益（ますます）大（おほい）に爲（なり）て最（もつと）も勝（すぐれ）たる所（ところ）を辨（わきま）へ知（し）り
10-11 イエス・キリストに由（よれ）る義（ぎ）の果（み）を滿（みた）せて神（かみ）の榮光（えいくわう）と讚美（ほまれ）を顯（あら）はしキリストの日（ひ）の爲（ため）に潔（きよく）して過（あやまち）なからんことを祈（いの）る

12 兄弟（きやうだい）よ願（ねがは）くは爾曹（なんぢら）わが身（み）に在（あり）し所（ところ）のこと反（かへつ）て福音（ふくいん）の進（すすみ）行（ゆ）く助（たすけ）となりしを知（し）れ
13 斯（かく）て我（わ）が縲絏（なはめ）に罹（かかり）しはキリストの爲（ため）なること既（すで）に王（わう）を護（まも）る所（ところ）の陣營（ぢんえい）および他（ほか）の人々（ひとびと）にも凡（すべ）て明（あきらか）に知（しら）れたり
14 わが縲絏（なはめ）に因（より）て兄弟（きやうだい）等（たち）おほくは主（しゆ）を信（しん）ずるの心（こころ）を篤（あつ）くし益（ますます）勇（いさみ）て懼（おそ）るることなく道（みち）を傳（つた）ふ
15 また猜忌（そねみ）と分爭（あらそひ）に因（より）てキリストを宣（のぶ）る者（もの）あり又（また）善（よき）意（こころざ）しに因（より）てこれをなす者（もの）あり
16 彼（かれ）は我（わ）が縲絏（なはめ）の苦（くるしみ）を増（まし）加（くはへ）んことを欲（おも）ひ誠（まこと）の心（こころ）なく黨（たう）を結（むす）ぶ心（こころ）よりキリストを宣（のべ）
17 此（これ）は我（わ）が福音（ふくいん）を辨明（べんめい）する爲（ため）に立（たて）られしことを知（し）り愛心（あいしん）よりキリストを宣（のぶ）
18 然（しか）らば如何（いかん）孰（いづれ）にもあれ或（あるひ）は僞（いつはり）あるひは誠（まこと）ともに宣（のぶ）る所（ところ）はキリストなれば我（われ）これを喜（よろこ）ぶ且（かつ）つねに喜（よろこ）ばん
19 蓋（そは）この事（こと）の爾曹（なんぢら）の祈禱（いのり）とイエス・キリストの靈（みたま）の助（たすけ）とに因（より）て終（つひ）に我（わ）が救（すくひ）となる可（べき）を知（しれ）ば也（なり）
20 是（これ）わが切（せつ）に願（ねが）ふところ望（のぞむ）ところ即（すなは）ち我（わ）が凡（すべて）の事（こと）に愧（はづ）ることなく今（いま）も常（つね）の如（ごと）く臆（おく）せず生（いけ）るにも死（しぬ）るにもキリストをして我（わ）が身（み）に因（より）て尊（あが）められしめんと意（おも）ふに應（かな）へり
21 わが生（いけ）るはキリストの爲（ため）また死（しぬ）るも我（わ）が益（えき）なり
22 然（され）ど肉體（にくたい）に在（あり）て生（いけ）ること若（もし）わが工（はたらき）の果（み）を結（むす）ぶ根本（もと）となるべくば何（いづれ）を撰（えら）ぶべきか我（われ）これを知（しら）ず
23 我（われ）この二（ふた）つの間（あひだ）に介（はさま）れたり我（わ）が願（ねがひ）は世（よ）を逝（さり）てキリストと共（とも）に在（あら）んこと也（なり）これ最（もつと）も美事（よきこと）なり
24 然（され）ど我（わ）が肉躰（にくたい）に居（とどま）るは爾曹（なんぢら）の爲（た）め更（さら）に必要（ひつえう）なり
25 われ深（ふか）く此（この）事（こと）を信（しん）ずるが故（ゆゑ）に存（ながら）へて爾曹（なんぢら）衆（すべて）の人（ひと）と共（とも）に世（よ）に住（すみ）爾曹（なんぢら）をして信仰（しんかう）を益（まさ）しめ信仰（しんかう）より出（いづ）る喜（よろこ）びを得（え）しむるに至（いた）らんことを知（しる）
26 われ再（ふたた）び爾曹（なんぢら）と共（とも）に居（をら）ば爾曹（なんぢら）の喜（よろこ）びわれに因（より）てイエス・キリストの中（うち）に益（ますます）大（おほい）ならん
27 我（われ）ただ爾曹（なんぢら）にキリストの福音（ふくいん）に符（かな）ふ行（おこなひ）をせんことを勸（すす）む是（これ）わが往（ゆき）て爾曹（なんぢら）を見（みる）ときも離（はなれ）て爾曹（なんぢら）の事（こと）を聞（きく）ときも爾曹（なんぢら）が靈（れい）を一（ひとつ）にして堅（かた）く立（たち）福音（ふくいん）の道（みち）の爲（ため）に心（こころ）を同（おなじ）うして力（ちから）を協（あは）せ
28 凡（すべて）の事（こと）につき敵（てき）に驚（おどろ）かされざらんことを知（しら）ん爲（ため）なり凡（すべ）て敵（てき）に驚（おどろ）かざるは敵（てき）には亡（ほろび）の徴（しるし）なんぢらには救（すくひ）の徴（しるし）なり是（これ）神（かみ）より來（きた）るなり
29 そは爾曹（なんぢら）に賜（たま）ふ所（ところ）の恩（めぐみ）はキリストの爲（ため）に第（ただ）これを信（しん）ずること而已（のみ）ならず亦（また）これが爲（ため）に苦（くるしみ）を受（うく）ることをも賜（たまひ）たれば也（なり）
30 今（いま）なんぢらに患難（なやみ）あり即（すなは）ち曩（さき）に爾曹（なんぢら）が聞（きく）ところの我（われ）にある患難（なやみ）と同（おな）じ

※1 明治14(1881)年版では「凡（すべ）ての」ナシ。
※2 明治14(1881)年版では「我（われ）」→「われ」。