聖金口イオアン教訓下/第5講話

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第5講話[編集]

<<十字架じゅうじかちから>>


十字架じゅうじかかみ人類じんるいとの不和ふわやぶりて、ぼくさしめ、てんとなし、人々ひとびとてん使がつし、堡砦とりでやぶり、魔鬼まき勢力せいりょくくじき、つみちからはいし、まよひよりすくひ、しん復興ふくこうし、あくひ、異教いきょう殿堂でんどうこぼち、祭壇さいだんたふし、祭物そなへもの悪臭あくしゅうめつし、徳行とくこうゑ、教会きょうかいもといせり。十字架じゅうじかちちのぞみなり、さかえなり、聖神せいしんよろこびなり、パウェル称賛しょうさんなり、いはく『われただわれらのしゅイイスス ハリストス十字架じゅうじかほかほこところなからんことをねがふ』〔ガラティヤ六の四〕。十字架じゅうじか太陽たいようよりもあきらか光線こうせんよりもひかかがやけり、けだし太陽たいようくらくなりしとき十字架じゅうじかひかはじめたればなり、太陽たいようとうめつしたるにあらざりしといへども、十字架じゅうじかひかりたれてくらくなれり。十字架じゅうじか吾人われらつみ書券かきつけき、ごくようとなせり、十字架じゅうじかかみあい号標しるしなり『そもそもかみひとあいするや、独生子ひとりのこをさへあたへたまふほどにして、すべかれしんずるもの沈淪ほろびずして、かへつ永生えいせいせしめんとしたまふなり』〔イオアン三の十六〕。パウェルへり、いはく『われてきたりしときそのによりてかみやはらぐことをたらんには、してやはらぎたる今日こんにちいけるによりすくはるゝことをざらんや』〔ローマ五の十〕。十字架じゅうじかおかすべからざる城壘しろなり、あたはざる武器ぶきなり、富者ふうしゃ支柱ひかへばしらなり、貧者ひんしゃとみなり、凌辱りょうじょくせらるゝもの防禦ぼうぎょなり、攻撃こうげきもの武器ぶきなり、情慾じょうよく鎮圧ちんあつなり、徳行とくこう基礎きそなり、奇異きいにしておどろくべき休徴しるしなり。しゅへり、いはく『あしかしましきこの民族みんぞく休徴しるしもとむれども、言者げんしゃイオナ休徴しるしほかこれ休徴しるしあたへられじ』〔マトフェイ十二の三十九〕。パウェルまたへり、いはく『イウデヤじん休徴しるしひ、ギリシヤじん智慧ちえもとむ、われ十字架じゅうじかくぎせられしハリストス宣傳のべつたふ、すなはちこれイウデヤじんにはつまづものギリシヤじんにはおろかなるものなり、されどされたるものにはイウデヤじんにもギリシヤじんにもかみ大能たいのうなり、またかみ智慧ちえなり』〔コリンフ前一の廿二~廿四〕。十字架じゅうじか楽園らくえんひらきて、盗賊とうぞくをこれにらしめ、ほろびんとしてるにさへへざる人間にんげん天国てんごくにみちびけり。十字架じゅうじかよりしょうずるものはかくごとおほし。