約翰傳福音書(明治元訳) 第四章

提供:Wikisource

第四章[編集]

1 しゆおのれの弟子でしとれ(※1)ることまたバプテスマをほどこせることヨハネよりもおほしとパリサイのひとききしをしる
2 されそのじつはイエスみづからバプテスマをほどこせるにあら弟子でしこれをなせるなり
3 そのときユダヤをさりまたガリラヤにゆく
4 サマリアをずしてゆくことあたは
5 つひにサマリアのスカルといへまちいたれりこのまちはヤコブそのヨセフにあたへちか
6 ここにヤコブのゐどありイエス行途たび疲倦つかれにてそのゐどかたはらせりときひるじふごろなりき
7 一人ひとりのサマリアのをんなみづくまんとてきたりければイエスそのをんなむかひわれのませよといふ
8 そは弟子でしたち食物しよくもつかはんためにむらゆきをらざりしゆゑなり
9 サマリアのをんないひけるはなんぢはユダヤびとにしてなにぞサマリアのをんななるわれのむことをもとむるやはユダヤびととサマリアのひととは交際まじはりざればなり
10 イエスこたへいひけるはなんぢもしかみたまものわれのませよといふものたれなるをしらなんぢわれにもとめんさらいけるみづなんぢあたふべし
11 をんなイエスにいひけるはしゆ汲器つるべなくゐどまたふかなんぢ何處いづくよりくみそのいけるみづもてるか
12 このゐど我儕われら先祖せんぞヤコブのあたへところなりかれそのまたけものまでもみなこれをのみたりなんぢかれよりもすぐれしものならん
13 イエスこたへいひけるはすべこのみづのむものはまたかわか
14 されわがあたふるみづのむもの永遠かぎりなくかわくことなしかつわがあたふるみづそのうちにていづみとなりわきいでかぎりなきいのちいたるべし
15 をんないひけるはしゆかわくことなくまたこのところみづくみきたらぬためそのみづわれあたへよ
16 イエスいひけるはなんぢゆきてをつとよびきた
17 をんなこたへていひけるはわれをつとなしイエスいひけるはをつとなしといへるはことわりなり
18 そはなんぢさきにんをつとありていまあるものなんぢをつとあらなんぢいひしはまことなり
19 をんないひけるはしゆわれなんぢを預言者よげんしやしれ
20 我儕われら列祖せんぞたちこのやまにてはいししに爾曹なんぢらはいすべきところはエルサレムなりといふ
21 イエスいひけるはをんなわれしんぜよただこのやまのみにあらまたエルサレム而已のみにもあらずして爾曹なんぢらちちはいすべきとききたらん
22 爾曹なんぢらはいするもの爾曹なんぢらしら我儕われらはいするもの我儕われらしるそはすくひはユダヤびとよりいづるがゆゑなり
23 まことはいするものれいまことちちはいするとききたらんいまそのときになれりそれちちかくごとはいするものもとたま
24 かみれいなればはいするものもまたれいまことをもてこれはいすべきなり
25 をんないひけるはキリストととなふるメツシヤのきたらんことしるかれきたらんときすべてこと我儕われらつげ
26 イエスいひけるはなんぢかたところわれそれなり
27 とき弟子でしきたりてかれをんなかたれるをあやしみけれどそのなにもとむるやまたなにゆゑこれとかたれるかとへものなかりき
28 をんなその水瓶みづがめのこしてまちにゆき人々ひとびといひけるは
29 わがすべてなしことわれつげひときたりてはキリストならず
30 ここおい人々ひとびとまちいでてイエスのもときた
31 そのあひだ弟子でしかれにこひてラビしよくたまへといひければ
32 イエス彼等かれらいひけるはわれ爾曹なんぢらしらざる食物しよくもつあり
33 弟子でしたがひにいひけるは食物しよくもつかれおくりものたれなる
34 イエス彼等かれらいひけるはわれつかはししものむねしたがそのわざなしをはこれわがかてなり
35 なんぢら穫時かりいれどきになるにはなほげつありといはずやわれなんぢらにつげあげよはやはたいろづき穫時かりいれどきになれり
36 かるものその工錢あたひうけかぎりなきいのちいたるべきあつかくまくものかるものともよろこばん
37 かれまきこれはかるいへるはこれつきまことなり
38 われなんぢらのらうせざりしところからせんとして爾曹なんぢらつかはせりほか人々ひとびとらうせしにより爾曹なんぢらそのらうしたるうけたり
39 かのをんなわがなしすべてことかれわれにつげしとあかしせしことばよりそのまちのサマリアびとおほくイエスをしんぜり
40 ここおいてサマリアのひとイエスのもときたりてともとどまたまはんことねがひしかばイエスここ二日ふつかとどまれり
41 かれことばよりしんぜしものさきよりもおほかりき
42 かれらをんないひけるはいまなんぢのいひことよりしんずるにあら我儕われらみづからききまこと救主すくひぬししりたればなり

43 二日ふつかすぎてイエスここさりガリラヤにゆけ
44 そはかれみづか預言者よげんしや本土ふるさとにてたふとばるることなしといひしによる
45 ガリラヤにいたりしときガリラヤの人々ひとびとかれむかへたりそはさきに節筵いはひときイエスのエルサレムにておこなひしすべてこと彼等かれらもその節筵いはひゆきこれたればなり
46 イエスまたガリラヤのカナにいたここさきみづさけところなりときわう大臣だいじん(※2)そのやまひかかりてカペナウンにありければ
47 イエスのユダヤよりガリラヤにきたれることをききすなはちイエスのもとゆきてカペナウンにくだそのいやたまはんことをこへりそは瀕死しぬばかりなりければなり
48 イエスかれいひけるは爾曹なんぢら休徴しるし異能ことなるわざずばしんぜじ
49 かれいひけるはしゆわがしなざるさきくだたま
50 イエスいひけるはゆけなんぢのいくるなりそのひとイエスのいひことしんじてさり
51 くだときそのしもべどもかれにあひつげけるはなんぢいくるなり
52 かれそのいえはじめしとき彼等かれらたづねければこたへ昨日きのふひるいちねつさめたりといふ
53 ちちはイエスのなんぢいくなりいひたまひしときそのときおなじきことをしりおのれその全家いへのものことごとくみなしんぜり
54 このだい奇跡ことなるわざはイエス、ユダヤよりガリラヤにいたりなせるなり

※1 明治14(1881)年版では「とれ」→「とれ」。
※2 明治14(1881)年版では「大臣」のルビが「たいしん」。