甲陽軍鑑/品第四十二
第一に味方備能くして敵のたつるを見て是をいたす口伝あり【全集ニ左ノ一項ヲ加フ
国持大将四十なり内の合戦は勝様にして四十歳をこえばまけぬ様にと相心得べき事】
第二に敵勝て味方をうつ二三より是に勝ちいさき共数を以て、敵一ツに九ツ迄と思へども、五ツ六ツまでによし、口伝おほし
第三に敵よく備を立てかたくは、是味方九ツ迄にしてむかつて、又横をもちゆる、せめては六ツまでにする、口伝おほし
大将三ツのさいはいは
第一につね〳〵自国他国共に、武土の手がら忠節忠功、上中下共によき批判の事
第二に人を能みしり、それ〳〵に役を申付る事
第三に忠節忠功の武士に、手柄の上中下をよくせんさくして、三段に恩をくるゝ事、是右ともに三のさいはいなりかくの通りあしければ、諸侍の行義むさぼりて、下の手柄も、己が仕様にて上になると心得【 NDLJP:189】戦場のはたらきをば、ひかへ軽薄計りにかゝりて大将のほこさきよわしさるに付此三ケ条は国持大将のさいはいならん、又手にてさ、いはいふるは其下の侍大将、或は足軽大将の仕所なり如㆑件
御旗奉行には、さいはいをゆるし給ふ事(一本に御鎗奉行ノ四字アリ)
武者奉行は、御大将とひとしく、さいはいを不㆑持してかなわざる事 但し功すくなきは名計り口伝
御大将其下侍大将、足軽大将、近寄の頭迄不㆑存して不㆑叶事
あひづの物見の事口伝あり 一あひづの小旗口伝 一物見四方に心付口伝あり
敵味方ともにはたらく時持小旗備へ後之事口伝あり
計策文の認めやう、一字の事七仏の事口伝あり
敵数人隠す儀御大将に諸役者内通の事口伝
退敵、陣取敵みるやうの事、口伝あり 戦場においてかゝる敵、しさる敵みしるやうの事口伝あり
敵を見きるに、一人より上の事、口伝あり あひじるし、うたがひなく数を多き事
敵地はたらき山手の事
備之事
くり引の仕様、口伝有 備たゝむ事、口伝有 城まきほぐしやうの事、一頭へ五頭なり、口伝有
組事 口伝有
山本勘介前原筑前日取破る事、口伝有
結ぶ事、口伝有 法度入不㆑入事口伝有 敵夜軍自国他国にての替分別の事、口伝有
押太皷の事九字を表す他国は如何もあれ信玄流は如㆑此
押とまるによする又作法に二ツ、一ツに序二ツに破三ツに急、口伝有、是となへ失ひたる時のためしるす
侍大将足軽大将詞のさいはい二ツの事
一ツに馬上にて敵味方の批判よければ是にて味方いさむ也
二ツに見切なり、右二ツのさいはいかくの分なり
陣取の事
方向、是は敵国深く働時、夜合戦にあはざる陣取也、素より軍法に大によし、但し信玄公宣ふは、十ケ国迄は、此陣取然るべし、又二十ケ国より上には、族本定りて多勢たるべきとて、
戦場にて備立同
御旗本 前備 小荷駄奉行備 脇備 後備 先衆 二の先衆
敵を引懸る合戦には一先衆の内よりあひしらひ、是非三手計 遊軍いかほども 口伝あり
小荷駄奉行備へ本大将ほどの人に尤也、たゞし味方地は先敵地にてはあと、のく時は又先へも、合戦なきには大かたの奉行もくるしからず、口伝有 小荷駄しるしの事 広き所にて
足軽は 矢一玉二合預くる事其口伝多し【仝遊軍ハ軍にもトアリ】
五よりはじむ、廿五ひとくみなり、大備へも是よりする、口伝有
弓ははやき勝負なり三ツ一ツを以てする、口伝あり
〈[#図は省略]〉
【一本ニ右一トアリ】
あひ言ば▲遊軍【 NDLJP:190】敵かう津 花か、みなる 水か、水 山か、山 森か、林 日か、にち みちか、しる
如㆑件雑人のいふ、よき事を吉凶に任せつくる也、信玄公のあひこと、関東越後、美濃、三河もろ〳〵の敵地にて後は存したるにより、御他界の一両年前よりは、敵か、ふくべなどゝ作りて申候は、能信玄公御ほこさきつよくして敵共謀りてたすかりたがるとばかり末代にもおほしめし候へ如㆑件
城をせむるに、敵出る不㆑出見様の事 口伝有
大将御迴見の事 竹たばねこしをいはねば人損ず
ぢやう林 西楼あぐるにくみ様あり 口伝有 処によりて、かねほり、是も穴ほる計りにてもなし 鍛練あり、子細は掘様の指図多し、それによつて、大工もかねほりも信玄公御領分のは案内者なり
ひきやく
味方うち、なきやうの事
しるしに、もちきたらざるまへ、申含様 口伝有 みつまき、たてものあひこと、是れ三ツをもつて味方うちをいとうなり
人数多勢無勢出立の事
大軍小旗少軍大旗 口伝有
味方夜軍をせんに
あつくうつて、うすく出る 口伝有 嶮難を能みる、是れに付て、すつはの入所也、是れに付て但しそれはまへの事 口伝 うはぎ胴肩衣白 口伝 ひかへぐん肝要なり、時を合すること肝要なり
伏かまりに、風の大事 口伝 かまりの物見はかきもの聞と云ふ
初めてあふ敵に武略の事
見物に 口伝 かつ田に 口伝 植出をこねるに 口伝 他国の大川渡り不㆑知時敵によりて、をしゆるなり
こぜりあひの事
敵の退きやうをみる事 口伝 足軽五十百を一備にたてゝ中道のたてよう有、此儀にて弓鉄砲打払やう、あやうからず
馬上にて俄かに足軽をはくるは、りうごのりの事 敵陣深くはたらきて、大河の有に、敵出る時川こす又こさゞるを見知る事、同大将の其中に是有を見知る事、但し是は敵によりてなり
城取の事 ちいさくまろく △すみ馬だしの事 付りよこぐるわの事
すみかけの城内せはし まる馬だしの事 まる馬たしに三間のかき 口伝大極意なり 辻入馬だしの事 着到矢倉の事 馬たまりの事 門扉ひじがねの事 門ぢふくの事
△すき門の事 塵とり同塵ふせぎの事 見ゆる見へざる事 △竹木見やすき事
廊下橋の事、同引橋の事 橋の左右広狭の事 武者走の三段はがんぎ、あふさか、かさなり坂
おもてに一ツ二ツは犬走りと云ふ 口伝
一二の門、広狭徳の有事 橋に両方板の事 いちだいしやくの木の事 敵に合力
矢倉にて小鼓笛若くは尺八も陣屋にても如㆑此、口伝 馬だしなしのこぐちとりやうの事
ゑづ、もくづ、とづを以て、城取ゑんろをする事は、とを一とす、口伝有 間数寸町一ぶん間をもつてゑんろにす 口伝 つけ城ちん城是は大将の事、見せやぐら有 口伝 侍大将のつけ城、是は少別なり、一ツにしても不㆑苦
右三河牢人に、山本勘介と申武士、信玄公御譜代のことくにめしつかはるゝ者也、当家の城取はこの勘介流なり、勘介に馬場美濃守能く相伝す、信玄公駿河清水において城を取給ふとき馬場美濃守に被㆓仰付㆒候は此城敵小勢には、せめおとされさるやうに仕れ又多勢にてせめられたる時我人数をもつてせむるに手間とらざるごとくに城取候へと被㆓仰出㆒諸人不㆑知㆑之馬場美濃守は相伝の上なれば尤と会得仕【 NDLJP:191】る信玄公能々さやうの縄ばり御存知にて如㆑此と各傍輩衆へ美濃守かたるもとより勘介委しく信玄公へ相伝申上たりさて各に、馬場美濃守語りていはく某の軍法少し存知たる義、城取は山本道鬼、人数あつかひ又は敵の甲乙を見しる事、小幡山城入道日意の雑談にて鍛錬仕りたりと申さるゝ、もろが入道の功者も其方万づ功の入たるもかいづ二ツのくるわに、山城を指をかれ明けくれ雑談を聞給ふ故なりと、馬場美濃、高坂弾正に語る也