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日米通商航海条約 (1911年)

提供:Wikisource

條約第一號

日本國皇帝陛下及亞米利加合衆國大統 領ハ幸ニ兩國民間ニ存在スル友好親善 ノ關係ヲ鞏固ナラシメムコトヲ欲シ而 シテ今後兩國間ノ通商關係ヲ律スヘキ 條規ヲ明確ニ訂立スルハ此ノ善美ナル 目的ヲ達スルニ資スヘキヲ信シ之カ為 ニ通商航海條約ヲ締結スルコトニ決定 シ因テ日本國皇帝陛下ハ亞米利加合衆 國駐剳特命全權大使従三位勳一等男爵 内田康哉ヲ亞米利加合衆國大統領ハ合 衆國國務卿「フィランダー、シー、ノックス」ヲ各 其ノ全權委員ニ任命セリ右各全權委員 ハ互ニ其ノ委任狀ヲ示シ之カ良好妥當 ナルヲ認メタル後左ノ諸條ヲ協定セリ

   第一條

両締約國ノ一方ノ臣民又ハ人民ハ他ノ 一方ノ版圖内ニ到リ、旅行シ又ハ居住シ 卸賣又ハ小賣商業ニ從事シ家屋、製造所、 倉庫及店舖ヲ所有又ハ賃借シテ之ヲ使 用シ自ラ選擇セル代理人ヲ雇使シ住居 及商業ノ目的ノ為土地ヲ賃借シ其ノ他 一般ニ商業ニ附帯シ又ハ必要ナル一切 ノ行為ヲ為スコトニ付其ノ國ノ法令ニ 遵由スルニ於テハ内國臣民又ハ人民ト 同一ノ條件ニ依リ之カ自曲ヲ享有スヘ シ

該臣民又ハ人民ハ何等ノ名義ヲ以テス ルモ内國臣民又ハ人民ノ納付シ若ハ納 付スルコトアルヘキ所ト異ナルカ或ハ 之ヨリ多額ナル課金又ハ租税ヲ徴收セ ラルルコトナカルヘシ

両締約國ノ一方ノ臣民又ハ人民ハ他ノ 一方ノ版圖内ニ於テ其ノ身體及財産ニ 對シテ常ニ保護及保障ヲ享受スヘク而 シテ内國臣民又ハ人民ト同一ノ條件ニ 服スルニ於テハ本件ニ関シ内國臣民又 ハ人民ニ許與シ若ハ許與スルコトアル ヘキ所ト同一ノ權利及特權ヲ享有スヘ シ

該臣民又ハ人民ハ他ノ一方ノ版圖内ニ 於テ常備軍夕ルト護國軍タルト民兵タ ルトヲ問ハス陸海孰レニ於テモ强制兵 役ヲ免レ且服役ノ代トシテ課セラルル 一切ノ貢納ヲ免レ又一切ノ强募公債又 ハ軍用賦歛若ハ取立金ヲ免ルヘシ

   第二條

両締約國ノ一方ノ臣民又ハ入民カ他ノ 一方ノ版圖内ニ於テ有スル家宅、倉庫、製 造所及店舗竝一切ノ附属構造物ニシテ 住居及商業ノ目的ニ使用セラルルモノ ハ侵スヘカラス右建物又ハ附属構造物 ニ付テハ法律、命令及規則ヲ以テ内國臣 民又ハ人民ニ對シテ定メタル條件及方 式ニ依ルノ外臨檢捜索ヲ為シ又ハ帳簿 書類若ハ計算書ヲ檢査點閱スルコトヲ 得ス

   第三條

両締約國ノ一方ハ他ノ一方ノ港、都市其 ノ他ノ場所ニ總領事、領事、副領事、辦理領 事及領事事務官ヲ置クコトヲ得但シ右 領事官ノ駐在ヲ認可スルニ便ナラサル 場所ニ付テハ此ノ限リ在ラス尤モ此ノ 制限ハ一切ノ他國ニ對シテモ亦均シク 之ヲ加フルニ非サレハ一方ノ締約國ニ 對シテ之ヲ加フルコトヲ得ス

右總領事、領事、副領事、辨理領事及領事事 務官ハ駐在國政府ヨリ認可状其ノ他相 當ノ證認状ヲ得タルトキハ最惠國ノ同 等領事官ニ認許セラレ又ハ今後認許セ ラルルコトアルヘキ範圍内ニ於テ相互 ノ條件ニ依リ職務ヲ執行シ竝特典及免 除ヲ享有スルノ權利ヲ有スヘシ認可状 其ノ他ノ證認状ヲ發給セル政府ハ其ノ 裁量ヲ以テ之ヲ取消スコトヲ得但シ其 ノ取消ヲ為スニ付テハ之ヲ正當ト認メ タル理由ヲ通知スヘシ

   第四條

両締約國版圖ノ間ニハ相互ニ通商及航 海ノ自由アルヘシ締約國ノ一方ノ臣民 又ハ人民ハ他ノ一方ノ版圖内ニ於テ外 國通商ノ為ニ開カレ又ハ開カルルコト アルヘキ一切ノ湯所、港及河川ニ最惠國 ノ臣民又ハ人民ト均シク船舶汲貨物ヲ 以テ自由ニ到ルコトヲ得但シ常ニ到達 國ノ國法ラ従フコトヲ要ス

   第五條

両締約國ノ一方ノ版圖内ノ生産又ハ製 造ニ係ル物品ニシテ他ノ一方ノ版圖内 ニ輸入セラルルモノニ對スル輸入税ハ 今後両國間ノ特別取極又ハ各自ノ國内 法ニ依リテ之ヲ定ムヘシ

締約國ノ孰レノ一方タリトモ他ノ一方 ノ版圖ニ輸出セラルル物品ニ對シ同様 ノ物品カ別國ニ輸出セラルルニ當リ納 付シ又ハ納付スルコトアルヘキ所ト異 ナルカ或ハ之ヨリ多額ナル何等ノ税金 又ハ課金ヲ課スルコトヲ得ス

又締約國ノ孰レノ一方タリトモ他ノ一 方ノ版圖ヨリノ物品ノ輸入又ハ該版圖 ヘノ物品ノ輸出ニ對シテハ同様ノ物品 ノ別國ヨリノ輸入又ハ別國ヘノ輸出ニ 對シテ均シク適用セラレサル何等ノ禁 止ヲ加フルコトヲ得ス但シ衞生上ノ措 置トシテ又ハ動物及有用ノ植物ヲ保護 スルノ目的ヲ以テ加フル禁止又ハ制限 ハ此ノ限ニ在ラス

   第六條

両締約國ノ一方ノ臣民又ハ人民ハ他ノ 一方ノ版圖内ニ於テ一切ノ通過税ヲ免 除セラルヘク又庫入、獎勵金、便益及戻税 ニ関スル一切ノ事項ニ付テハ全ク内國 臣民又ハ人民ト均等ナル待遇ヲ享受ス ヘシ

   第七條

両締約國ノ一方ノ國法ニ従ヒテ既ニ設 立セラレ又ハ今後設立セラルヘキ商工 業及金融業ニ関スル有限責任其ノ他ノ 會社及組合ニシテ該國版圖内ニ住所ヲ 有スルモノハ他ノ一方ノ版圖内ニ於テ 其ノ國法ニ違反セサル限リ權利ヲ行使 シ且原告又ハ被告トシテ裁判所ニ出頭 スルコトヲ得

前項ノ規定ハ両締約國ノ一方ニ於テ設 立セラレタル會社又ハ組合カ他ノ一方 ニ於テ其ノ營業ニ従事スルヲ認許セラ ルルヤ否ヤト何等ノ関係ヲ有セスシテ 右認許ハ常ニ各當該國又ハ其ノ地方ノ 法令ニ依ルモノトス

   第八條

両締約國ノ一方ノ港ニ其ノ國ノ船舶ヲ 以テ外國ヨリ適法ニ輸入セラレ又ハ輸 入セラルルコトアルヘキ一切ノ物品ハ 他ノ一方ノ船舶ヲ以テ亦均シク該港ニ 之ヲ輸入スルコトヲ得此ノ揚合ニ於テ 右物品ノ内國船舶ニ依リテ輸入セラル ルトキ課スル所ト異ナルカ或ハ之ヨリ 多額ナル税金又ハ課金ハ如柯ナル名稱 ヲ有スルモノタリトモ之ヲ課スルコト ナシ右相互均等ノ待遇ハ該物品カ直接 ニ製産原地ヨリ到ルト其ノ他ノ外國地 方ヨリ到ルトヲ問ハス之ヲ實行スヘシ

輸出ニ関シテモ右ト同様ニ全ク均等ノ 待遇ヲ為スヘク従テ両締約國ノ一方ノ 版圖内ニ於テ該版圖内ヨリ適法ニ輸出 セラレ又ハ輸出セラルルコトアルヘキ 物品ハ其ノ輸出カ日本船舶ニ依ルト合 衆國船舶ニ依ルトヲ問ハス且其ノ仕向 先カ締約國ノ他ノ一方ノ港タルト第三 國ノ港タルトニ拘ラス之カ輸出ニ當リ 同一ノ輸出税ヲ納付シ又同一ノ獎勵金 及戻税ヲ受クヘシ

   第九條

締約國版圖内ノ港ニ於ケル船舶ノ繋留 及貨物ノ積卸ニ関スル一切ノ事項ニ付 テハ締約國ニ於テ両國ノ船舶ヲ全ク均 等ニ待遇スルノ意思ナルニ因リ締約國 ノ孰レノ一方タリトモ他ノ一方ノ船舶 ニ對シ同様ノ場合ニ均シク許與セサル 何等ノ待權ヲ自國船舶ニ許與スルコト ナカルヘシ

   第十條

日本國又ハ合衆國ノ國旗ヲ掲ケ且各本 國法ニ規定スル國籍證明書類ヲ有スル 商船ハ合衆國又ハ日本國ニ於テ之ヲ日 本船舶又ハ合衆國船舶ト認ムヘシ

   第十一條

政府、官公吏、私人、團體又ハ各種營造物ノ 名義ヲ以テ又ハ其ノ利益ノ為ニ課セラ ルル噸税、港税、水先案内料、燈臺税、檢疫費 其ノ他名稱ノ如何ニ拘ラス之ニ類似又 ハ該當スル税金ハ同様ノ場合ニ均シク 内國船舶一般ニ又ハ最惠國船舶ニ課ス ルモノニ非サレハ締約國ノ一方ノ版圖 内ノ港ニ於テ之ヲ他ノ一方ノ船舶ニ課 スルコトナシ右均等ノ待遇ハ両國ノ船 舶カ何レノ地ヨリ來リ又何レノ地ニ徃 クヲ問ハス相互ニ之ヲ實行スヘシ

   第十二條

両締約國ノ一方ノ定期郵便運送ノ任務 ニ當ル船船ハ國有タルト國家ヨリ之カ 為補助ヲ受クルモノタルトノ別ナク他 ノ一方ノ版圖内ノ港ニ於テ同様ノ最惠 國船舶ニ許與セラルル便益、特權及免除 ヲ享有スヘシ

   第十三條

両締約國ノ沿岸貿易ハ本條約ノ規定ス ル限ニ在ラス日本國及合衆國各自ノ國 法ノ定ムル所ニ依ル但シ締約國ノ一方 ノ臣民又ハ人民ハ本件ニ関シ他ノ一方 ノ版圖内ニ於テ最惠國待遇ヲ享受スヘ キモノトス

両締約國ノ一方ノ船舶ニシテ他ノ一方 ノ版圖内ノ二箇以上ノ輸入港ヘ仕向ケ ラレタル貨物ヲ外國ニ於テ積載シタル モノハ右諸港ノ一ニ於テ其ノ貨物ノ一 部ヲ陸揚シ更ニ他ノ一港又ハ數港ニ續 航シテ其ノ地ニ貨物ノ残部ヲ陸揚スル コトヲ得但シ常ニ到達國ノ國法、税法及 税關規則ニ従フコトヲ要ス又同様ノ方 法及同一ノ制限ニ依リ締約國ノ一方ノ 船舶ハ他ノ一方ノ港ヨリ其ノ國外ニ向 ヒ發航ノ途次該國ノ數港ニ於テ貨物ヲ 船積スルコトヲ得

   第十四條

本條約ニ於テ別段ノ明文アル場合ヲ除 クノ外両締約國ハ通商及航梅ニ関スル 一切ノ事項ニ付其ノ一方カ別國ノ臣民 又ハ人民ニ現ニ許與シ又ハ今後許與ス ルコトアルヘキ一切ノ特權、恩典又ハ免 除ニシテ若シ右別國ヘ無償ニテ許與シ タルモノナルトキハ無償ニテ又若シ條 件ヲ附シテ許與シタルモノナルトキハ 同一又ハ均等ノ條件ヲ以テ之ヲ他ノ一 方ノ臣民又ハ人民ニ及ホスコトニ同意 ス

   第十五條

両締約國ノ一方ノ臣民又ハ人民ハ他ノ 一方ノ版圖内ニ於テ法定ノ手續ヲ履行 スルトキハ特許、商標及意匠ニ関シ内國 臣民又ハ人民ト同一ノ保護ヲ享受スヘ シ

   第十六條

本條約ハ其ノ實施ノ日ヨリ千八百九十 四年十一月二十二日ノ通商航海條約ニ 代ハルモノトス而シテ同日ヨリ千八百 九十四年十一月二十二日ノ通商航海條 約ハ其ノ效力ヲ失フヘシ

   第十七條

本條約ハ千九百十一年七月十七日ヨリ 實施シ十二年間又ハ両締約國ノ一方カ 他ノ一方ニ對シ本條約ヲ消滅セシムルノ 意思ヲ通告セル日ヨリ六月ノ期間ノ満 了ニ至ル迄效力ヲ有ス

右十二年ノ期間満了ノ六月前ニ両締約 國ノ孰レヨリモ本條約ヲ消滅セシムル ノ意思ヲ他ノ一方ニ通告セサルトキハ 本條約ハ締約國ノ一方カ右通告ヲ與ヘ タル日ヨリ六月ノ期間ノ満了ニ至ル迄 引續キ效力ヲ有ス

   第十八條

本條約ハ批准ヲ要ス其ノ批淮書ハ本日 ヨリ三月以内ニ成ルヘク速ニ東京ニ於 テ交換スヘシ

右證據トシテ各全權委員本條約二通ニ 署名調印ス

明治四十四年二月二十一日即西暦千九 百十一年二月二十一日華盛頓ニ於テ

      内田康哉 印

      フィランダー、シー、ノックス 印


議定書

日本帝國政府及亜米利加合衆國政府ハ 千九百十一年七月十七日ヨリ千八百九 十四年十一月二十二日ノ條約ニ代ハラ シメムカ為本日調印シタル日米通商航 海條約ノ第五條ニ関シ各其ノ全權委員 ニ由リ左ノ約定ニ同意セリ

関税ニ関スル特別取極ノ締結セラルル ニ至ル迄ハ千八百九十四年十一月二十 二日ノ條約中ニ存スル関税ニ関スル規 定ヲ維持スヘシ

右證據トシテ各全權委員ハ本議定書二 通ニ署名調印ス

明治四十四年二月二十一日即西暦千九 百十一年二月二十一日華盛頓ニ於テ

      内田康哉 印

      フィランダー、シー、ノックス 印


修正

批准前亞来利加合衆國政府ヨリ 提議シ日本帝國政府ノ同意シタ ル右條約及議定書ニ對スル修正

一、通商航海條約第五條第一項中「特別 取極」ノ文字ヲ削除シ之ニ代フルニ 「條約」ノ文字ヲ以テス因テ當該文句 ハ左ノ如クナルヘシ

   「今後両國間ノ條約又ハ各自ノ國内法ニ依リテ之ヲ定ムヘシ」

二、議定書第二項第一行中「特別取極」ノ 文字ヲ削除シ之ニ代フルニ「條約」ノ 文字ヲ以テス因テ當該文句ハ左ノ 如クナルヘシ

   「関税ニ関スル條約ノ締結セラルルニ至ル迄ハ」

この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。

  1. 法律命令及官公󠄁文󠄁書
  2. 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
  3. 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁

この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。