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新式算術講義/第六章

提供:Wikisource

第六章 分數に關する整數論的の硏究

最小公倍數及最大公約數○冪の定義の擴張,負の指數○素數分解の應用○分數を部分的分數に分解すること○與へられたる分母を有する旣約眞分數の數,ガウスの函數 ,其性質及算式○分數の展開,命數法,小數○循環小數の起源○フエルマーの定理の間接證明○小數の四則演算

(一)

前章に於て定めたる分數除法の義に從ふときは, の倍數なるは なる商が整數に等しき場合に限れり.整除に關する基本の二定理は分數につきても亦整數の場合に於けると同一なり,日く,

一, が共に の倍數なるときは も亦 の倍數なり.

二, の倍數, の倍數ならば, は亦 の倍數なり.

げにも の倍數なるが故に なる如き整數 は存在す,さて にして 整數なるが故に の倍數なり.二の證亦類推すべし.

整除に關する性質につきては數の正負は度外に置きて可なり.後文の說明中關係せる數の符號より論理の不明を生ずべき場合には,其數皆正なりとなすべし.又單に分數の分母分子と稱するは,特に其然らざるを明言せざる限り,此分數に等しき旣約分數の分母,分子を指せるものとす.前章の例に倣ひて一般にギリシヤ文字を以て分數を表はし,イタリツクを以て整數を表はさんとす.

さて を旣約分數の形式に表はして

と置くとき の倍數なるが爲に必須にして且完全なる條件は如何. なるが如き整數 存在せば より

を得, によりて整除せられ,而も と素なるが故に第四章(五)によりて によりて整除せられざるを得ず,又 によりて整除せられ,而も と素なりといふが故に, によりて整除せられざるを得ず.又若し倒に の倍數 の倍數 なりとせば

卽ち 倍なり.是故に次の定理を得.

一, の倍數なる爲には の分子は の分子の倍數なること及び の分母は の分母の約數なるを必要とし又之を以て足れりとす. の約數なる爲には の分子は の分子の約數なること及び の分母は の分母の倍數なることを必要とし又之を以て足れりとす.

此定理を利用して直に次の結果に到達すべし.

二, の公倍數の分子は此等諸分數の分子の公倍數にして,其分母は諸分數の分母の公約數なり,故に, の最小公倍數 の分子は の分子の最小公倍數にして, の分母は の分母の最大公約數なり. の公約數の分子は此等諸分數の分子の公約數にして,其分母は諸分數の分母の公倍數なり,故に の最大公約數 の分子は の分子の最大公約數にして, の分母は の分母の最小公倍數なり.

分子の最小公倍數 分母の最大公約數
分子の最大公約數 分母の最小公倍數

整數の場合にありては,無限に多くの整數に最大公約數あり得べし,例へば凡ての偶數の最大公約數は なるが如し.然れども無限に多くの分數を與ふるときは,其公約數は必ずしも存在せず,例へば 一般に の如きあらゆる分數を考ふるに,其公約數なるもの有ることなし.上文の說明に於て 等與へられたる分數の數には限りあるべきものと解すること必要なり.

分數の最小公倍數,最大公約數の觀念は其眞髓に於ては整數のそれらと異なることなし,然れども第四章に用ゐたる證明を其儘分數の場合に適用することを得ず,讀者試に其の然る所以を考究せば,得る所少からざるべし. の最小公倍數を ,又其最大公約數を と名づけ

と置かば,整數 の最大公約數はいづれも なり.

二つの數 の最大公約數を ,最小公倍數を とせば

以上二定理の證明をば練習の資料として讀者に薦めんとす.

(二)

素數分解を分數に適用せんが爲に,先づ冪の定義を擴張して,指數が負の整數なる場合に及ぼさんとす.

指數 が自然數なるとき, なる因子 個の積を表はせりといふ冪の定義を基礎となすに,分數乘法の意義旣に定まりたる上は基數 が分數なりとも なる冪は此定義に從て完全なる意義を有し,羃につきて第二章(六)に說きたる諸定理は,基數が分數(正又は負の)なる場合にも,其まゝ適用せられ得べし.要するに羃の凡ての性質は次の二等式より推定し得べきものなり.

(1)
(2)

吾人は今指數は自然數なるべしとの制限を撤去し,此二等式を以て冪の定義として,以て冪の觀念を指數 又は負の整數なる場合に擴充せんとす.基數 なる場合は姑らく之を度外に措かんに,(2) に於て に代ふるに を以てするときは を得,更に (1) を用ゐて さて にあらずとせるにより

(3)

指數が なる場合に於ける冪の意義は之によりて定まる.次に (2) に於て に代ふるに を以てせば 卽ち (3) によりて よりて

次に (2) に於て に代ふるに顺次 を以てするときは,

を得.一般に

(4)

なるべきは數學的歸納法によりて容易に證明し得べし.

冪の新意義に從ふとき,第二章(六)の諸定理は仍ほ成立すべし.

(5)
(6)
(7)

此等の定理の證明は二樣の方法によりて成され得べし.其一はこゝに冪の定義となせる (1)(2) の等式は第三章(四)に於て乘法に與へたる定義に酷似せることに着眼して彼處の證明法を摸做するなり.又一は此等の諸定理は指數が正なるとき旣に成立せるが故に (3)(4) を用ゐて指數が 又は負數なる場合をば指數の正なる場合に歸着せしむるなり.今簡單に第一の方法によりて (5) を又第二の方法によりて (6) を證明し,其他は讀者の補充を待たんとす.

(5) の兩等式は負の指數の許せられたる上は,實は同一の事實を表はせるものなること明白なれば,こゝには唯其前なる一つを證明すれば足れり.さて此等式が, なる場合に成立すべきことは (3)(2)(4) の最直接なる結果なり. より に移らんに,

此處に用ゐたる論法の根據は加法の組み合はせの法則, に代ふるに に代ふるに を以てせる (5) の場合の (5),乘法の組み合はせの法則, に代ふるに に代ふるに を以てせる (5) にして最後に到着せるは卽ち の場合の (5) なり.數學的歸納法の兩段完成せり.

兩ながら正にはあらざる場合に (6) を證明せんに,先づ 又は の中少くとも一つが なる場合は兩邊共に となりて落着す.さて を自然數とし

によりて凡ての場合を落着せしむ.

基數 なるときは冪は指數に關係なく常に なり.基數正數ならば冪は恆に正にして基數負數ならば冪は指數の偶數たり奇數たるに從ひて或は正或は負なり.基數 なる冪は指數が自然數なる場合に限りて意義を有す.

指數の變動に伴ふ冪の變動につきては後條更に說く所あるべし.

(三)

素數分解を分數に適用するに當り,其分數の正負は問題に關係なきが故に之を度外に置くべし.今

なる分數與へられたるとき其分母及分子 を素數冪に分解し

を得

とし,此式の右邊に於て更に同一の素數因子(分母,及分子に共通せしもの)を一個の冪に集むるときは

を得,こゝに は相異なる素數にして,指數 は正又は負の整數なり.此等の素數冪の中,正の指數を有せるものゝみの積及負の指數を有せるものゝみの積は,それぞれ に等しき旣約分數の分子及分母に該當す.

例へば

或分數を斯の如く素數冪に分解するときは唯一の結果を得べきこと明白なり.こゝに後文に引用せん爲,次の事實を特筆す. が相異なる素數を表はすときは

の如き積は指數 が盡く正(或は )なるときに限り,整數に等しきことを得,特に此積が に等しきは指數が盡く なるときに限る.

二個以上の數の整除に關する關係を論ぜんが爲に因子として此等の數の中少くともいづれか一つに關係せる素數を盡く採りて之を と名づけ,此中或素數が或一つの數に關係せざることを表はす爲には數の分解式の中にて該素數に指數 を附することゝし

と置き,さて の倍數たるべき條件を求めんとす.此條件は甚だ簡單なり. が整數なるべき爲には,前に述べたる所により

卽ち

なるを要し,又之を以て足れりとす.

の最大公約數 及最小公倍數 を得んと欲せば

に於て の中最小の者, の中最小の者となすべく,又

に於て, をそれぞれ の中最大の者となすべし,

例へば

(一)の例を參照すべし.

素數分解を利用して,前節に述べたる分數の最大公約數及び最小公倍數に關係せる諸定理を證明せんこと,初學者に有益なる練習なり.

(四)

正又は負の旣約分數 の與へられ,其分母 が相素なる二つの整數 の積に等しきとき,此分數を分母 なる二つの分數の和として表はさんことを要求す.此問題は第四章(五)に說きたるヂオフアント方程式の解法に歸着すること次の如し.

(1)

と同一に歸するが故に,

なるヂオフアント方程式の一對の解答なることを要し,又之を以て足れりとす.()さて は相素なるが故に此方程式は必ず,而も限りなく多くの,整數の解答を有す.此等の解答の中 より小なる正の整數なる者唯一對あり.若し此特殊なる解答を採らば を正の眞分數( より小なる分數)となすことを得れども旣に を斯く定めたる上は も亦自ら定まるべきが故に は或は正或は負にして其絕對値は或は より大或は より小なるべし.

例へば の分母 を相素なる整數 ,及び の積となして, を分母 及び なる分數の和に分解せんが爲に

を解けば

を得, となして

を得,隨て

若し を分母とせる分數が正にして より小なるべきを要せば第二の分解を採るべし,又 を分母とせる分數が正にして より小なるべきを欲せば第一の分解を採るべし.此時同時に他の一分數にも或條件を充實せしめんとするは,卽ち例へば其正なること又は より小なることを望むは過當の要求なり.

若し分母 が二つづゝ相素なる整數 の積なるときは右の方法を連用して,先づ を分母 なる分數及び分母 なる分數の和となし,更に此第二の分數を分解して分母 なる分數及分母 なる分數の和となし,斯の如くにして竟に を分解して, 等を分母とせる分數の和となすことを得.

(2)

此場合に於ても亦 を分母とせる分數が正の眞分數なるべきを要求することを得べしと雖,唯最後の一分數は其他の分數の定まると共に自ら定まるべきが故に,此の一つの分數には何等の條件をも豫定することを得ざるべし.

例へば

よりて

若し强て凡ての分數が正の眞分數たるべきを欲せば,分解式の右邊に正又は負の整數一項を添加するを避くべからず.例へば なるとき旣に を正の眞分數となしたる上は は自ら定まれり,さて は大小の順序に於て或隣接せる二つの整數の中間に落ち,例へば

となる, は正又は負の整數なり.されば

と置くとき

にして卽ち は正の眞分數なり.よりて の分解式に次の形狀を與ふることを得.

例へば上に揭げたる の分解式に於て

よりて

以上の所論を總括して次の定理を得.

分數 の分母 が二つづゝ相素なる整數 の積に等しきときは

(3)

の如く 部分的分數の和に分解することを得,此處右邊の諸分數はいづれも正の眞分數にして は或整數なり.

斯の如き特殊の制限の下にありては の定まれるときは如上の分解は唯一の結果を與ふべきこと上文說明の裡に明示せられたり.此點は亦次の如くにして直接に之を確むることを得べし,上の等式の兩邊に を乘ずれば

を得,之を

と書くことを得, は次に記する如き整數なり

是故に

なるヂオフアント方程式は なる解答を有し,且 とは相素なるが故に此方程式の解答の中 なる條件に適合すべきもの唯一個()を外にして存在することを得ず.卽ち は一定の數なり. につきても亦同じく,隨て も亦一定の整數なり.

を素數冪に分解して

を得たりとせば,上の結果により

(4)

を得, はそれぞれ より小なる正の整數なり.これら 等を の冪に從て展開し

となす.こゝに係數 等はそれぞれ 等より小なる正の整數なるべきこと勿論なり.之を (4) に收用して

(4*)

を獲.

此處になほ次節に引用すべき一の事實を附記すべし. が旣約分數なるときは (1)(2)(3)(4) 等の右邊に現はれたる分數は,いづれも亦旣約分數なるべきこと明白なり.又逆に が二つづゝ相素なるときは

の如き和は, が盡く旣約分數なるときは, を分母とせる或旣約分數に等し.隨て斯の如き和が一の整數となり得べきは 等の盡く整數なるべき場合に限れり.

(五)

正の整數 を分母とし, を分子とせる 個の分數

(1)

の中旣約分數なるは幾個ぞ.此數は畢竟 なる 個の整數の中 と相素なるものゝ數に同じ,此數を表はすに,ガウスは

なる記號を用ゐたり.この記號の意義によれば

なること直に驗證せらるべし.さて の一般の算式は如何.此問題を解決するに先ち, の特異なる一性質につきて數言を費さんとす.

を以て の約數の一となさば (1) の諸分數を旣約分數に直すとき,其中必ず を分母とせるものを得.又 を分母とせる旣約分數の中 より大ならざるものは盡く (1) の中に包括せられたり.げにも今 と置かば (1) の中

なる 個はそれぞれ

に等しくして,上に言へる を分母とせる旣約眞分數は盡くこの 個の中に網羅せらる.是によりて を以て の凡ての約數( 及び を包む)となし,(1) 個の分數を旣約分數に直し,之を其分母に從て分類するときは を分母とせる旣約眞分數の全體,其數 を分母とせる旣約眞分數の全體其數 を得,卽ち

(2)

例へば とし,(1) なる十五個の分數を旣約分數となし

を得.之を分母に從ひて四類に分つに

の凡ての約數 につきて を作れば其和 に等し,といふ整數論にて有名なる定理は分數を利用して甚簡單に證明せられたり.

が相素なる二つの整數 の積に等しきとき(

(3)

なる等式を二樣に觀察することを得.第一,左邊の分數を逐次 を分母とせる 個の旣約眞分數となし,右邊は前節に述べたるが如くにして,之を部分的分數に分解せるものなりとなさば,右邊の分數 は共に旣約分數にして(前節の結尾を看よ)且 又は の外に出でず.よりて斯の如くにして得たる 個の等式 (3) の右邊の分數部分は盡く相異にして,こゝに現はるゝ二つの分數はそれぞれ を分母とせる 個の旣約眞分數一つ一つの相異なる組み合はせなり.是故に

次に又 (3) の右邊に立てる二つの分數を逐次 を分母とせる 個の旣約眞分數となし より小なるときは ,又此和が より大なるときは となし行かば,斯の如くにして作らるゝ 個の等式 (3) の左邊に現はれ來るものはいづれも を分母とせる盡く相異なる旣約眞分數なり.(前節の結尾を看よ)是故に

以上二樣の結論を綜合して次の定理を得,

が相素なる整數なるときは
(4)

此結果は之を因子二個以上場合に擴張することを得, が二つづゝ相素なる整數なるときは,先づ は相素なるが故に

同じ樣にして を得,竟に

(4*)

に達す.今を を素數羃に分解して

を得たりとせば

(5)

例へば

にして右邊には なる 個の分數と なる 個の分數との一つ一つのあらゆる組み合はせが唯一度づゝ立てるを見るべし.

一般に の算式を求むるは (5) によりて素數羃 につきて を求むるに歸着す.さて より に至る 個の整數の中 と相素ならざるは の倍數なる 個に止まれり,故に

隨て (5) によりて

又は

こゝに の約數なる相異なる凡ての素數を表せり.

例へば

げにも より に至る整數の中 と相素なるは次の十六個なり.

(六)

前節に說きたる の算式を直接に,最初等なる手段によりて再び算出せんが爲に,こゝに尙兩三頁を割愛すべし.

の算式を得るに次に述ぶる二つの事實を基礎となすことを得べし.

一, の素數因子の一なるときは

二,素數 の約數ならざるときは

今之を證明せんが爲に より に至る整數の中 と相素なる 個を

と名づけ,さて此等の數に順次 の倍數を加へて次の表を作る,

先づ第一の場合より始めん,こゝに列記せる 個の數は皆 より小にして,いづれも と相素なり.實にも此等の數の一つ例へば とを觀るに,若し兩者に公約數あらば,其素數因子の一つを と名づけんに, に等しきも又は然らざるも,必ず の約數ならざるを得ず,よりて の約數ならん爲には, の約數隨て 及び の公約數なるを要す,而も とは相素なりといふが故に,是不可有の事に屬す.又逆に を以て より に至る數の中 と相素なるものゝ一なりとせば は亦 と相素なり.さて にて除し を得たりとせば, は亦 と相素なるが故に の中の一つなり.又 より大ならざるにより より小なり.是によりて は上の表の中に載せられたる數ならざるを得ず.上の表に載せたる 個の數は より に至る整數の中 と相素なるものを盡くせり.卽ち

第二の場合に於ては,上の表の數は盡く と相素なれども, の倍數なるもの各縱列に唯一個づゝ含まれたり.例へば第一の縱列の數につきて言はんに此中の或數が の倍數ならんが爲には

なる關係が整の によりて成立せんことを要す,さて とは相素なるが故に此ヂオフアント方程式は必ず解答を有し而も より小なる正の整數なるべき解答は唯一對に限れり.是故に此場合に於ては

上述の結果を利用して の算式を獲んと欲せば次の如く考ふべし.

先づ が素數なるときは なること明白なり,よりて一によりて順次

一般に

次に と異なる素數なりとせば,二によりて 次に

又一によりて
一般に

斯の如くにして竟に

を得.若し形式的に論理の最嚴密ならんことを欲せば數學的歸納法を用ゐるべし.

(七)

吾人は先に倍數の觀念を分數の上に擴充せり, の倍數なりとは, なる商の整數なるをいふ. 若し の倍數ならずば, によりて定めらるゝ は整數に非ず, は大小の順序に於て或隣接せる二つの整數の中間に落つ,今

なりとせば は正の眞分數にして隨て

によりて定められたる より小なる正の分數なり.

是故に一般に 及び が與へられたるときは

(1)

なる條件に適すべき整數 及び剩餘 は必ず存在す.而も斯の如き二つの數が唯一對に限り存在し得べきことは明白なり.第二章(七)の定理は分數の場合に擴張せられたり.

を正の分數とし, 若し より大ならば直に より小なる正の整數を と名づけ,

と置けは は正の眞分數なり.さて より大なる自然數となし, として (1) に於けるが如く

によりて整數 及び を定むれば より小なるが故に, より小なり. 若し ならずば

によりて整數 及び剩餘 を定む, は亦 より小なり.次第に斯の如くにして竟に

に至り,此等の諸式を一括して

(2)

を得. の冪に從て展開し, の項に至て止むとき,剩項 より小なり.

斯の如き展開が唯一の結果を與ふべきことは第二章(七)に於けると同樣なり.若し

と置かば, は次の如くにして定め得べし. なるが故に 隨て にて除し,整數商 及び剩除 を得たりとせば,卽ち

と置かば, にして

の羃に從て展開すれば より小なるがゆへに

を得べし,こゝに現はれ來れる係數 は卽ち (2) の係數と同じく,剩項は

なり.

斯の如き展開は剩項 となると共に其局を結ぶべし.さて剩項の寬に となり得べき條件は如何.

の展開が の項に至て局を結べりとなさば

よりて

さて を旣約分數なりとせば屢用ゐたる論法によりて, の約數ならざるを得ず.卽ち の素數因子は盡く の中に含まるゝを要す.又逆に の素數因子は盡く の中に含まれたりとせば指數 を適當に選みて, をして の倍數たらしむることを得べく, を斯く選まば

なる如き整數 を得, の展開は實際 の項以上に及ぶことなし.

となすときは (2) は卽ち を小數の形に表はせり.十進の命數法に於て なる分數か有限の小數として表はされ得べきが爲には, を旣約分數となすとき,其分母が 以外の素數因子を含まざるべきを要し,又之を以て足れりとす.

實際 なるときは の中大なる方を となすとき,始めて 約數となり, は分子に關係なく,小數點以下 桁の小數として表はされ得べし.

例へば

若又 となすときは

の項の係數 なるを示せり.

(八)

分數 を旣約の形式に表はして となすとき, の展開が有限なるは,分母 の素數因子盡く命數法の基數 の約數なる場合に限れることは旣に說きたり.是故に に含まれざる素數因子を有せば の展開に於て剩項 の となることなし,此場合に於ては展開の係數は竟に一定の週期を以て循環するに至るべし.

分母 に含まれざる素數因子を有するときは, を素數冪に分解し,其中 に含まるゝ素數に屬するものと,然らざるものとを別々に集めて となさば, の素數因子は盡く に含まれ, と相素なり.しかするときは は相素にして,指數 を適當にとるとき の約數となる.さて を乘ずれば

を得, なる整數にして と相素なり. の素數因子を含まずば となすべく,隨て なり.

の展開は之を の展開に歸着せしめ得べきが故に,吾輩は始めより

なる旣約分數の分母 と相素なりとなすべし.

さて先 を超えざる最大の整數を より引き去りて

となし の展開の係數 を求めんが爲に にて除し,商 及剩餘 を得.次に にて除し商 及剩餘 を得.順次斯の如くなし行きて

(1)

を得, の展開式を定むること次の如し.

(1*)

さて と相素なるが故に,(1) の第一の等式によりて と相素なるを知るべし.何とならば との公約數は の約數卽ち との公約數ならざるを得ざるが故に との公約數は を外にしてあり得べからざればなり. と相素なるが故に同一の理由によりて とも亦相素ならざるを得ず.次第に斯の如くして 等逐次現れ來る剩餘は盡く と相素なるを知るべし.

は皆 より小なる正の整數にして, より小なる正の整數に限りあるが故に 等を何處までも求め行かば,其中に同一の數の反復して出て來ること已むを得ざる所なり.今

なりとせば

(2)

より引き算によりて

を得,之を約めて

と書く.

なる整數を表せり.上の等式の兩邊に を乘じ

を得.これより と相素なることに着眼して, の倍數なること卽ち

(3)

なることを知る. より (3) を得たり,而して (3) なる數に關係なきに注意すべし.若し倒に (3) の關係成立せりとなさば卽ち或指數 につきて の倍數なりとせば, を如何なる自然數となすとも (2) より

卽ち

を得,さて の倍數なりといふが故に も亦然り,而も は共に より小なる正數なるが故に は絕對値に於て より小なる整數なり,此整數が の倍數なりといふは,其 なるべきを意味するが故に

卽ち (2) にして成立せば, に關係なく と相等しからざるを得ず,卽ち

等逐次の剩餘の中には同一の數必ず現出すべしとの簡單なる事實より發足して,若し相距ること 位なる二個の剩餘相等しからば なるべきを知り,逆に なるときは相距ること 位なる剩餘はすべて相等しからざるべからざるを確めたり.是剩餘 なる週期を以て限りなく循環し來るべきを證するものなり.

を以て の倍數たらしむべき最小の正の數なりとなさば, なる週期を組成せる剩餘は盡く相異なり.げにも若し の中に相等しきものありて例へば なりとせば上文辨明せる所により, より小なる正の指數 につきて旣に の倍數なりといふ, に關する規定に撞着せる結論に陷るべきなり.

剩餘 にして旣に 項の週期を以て循環せば,係數 も亦同じく 項の週期を以て循環せざるを得ず.但し なる一週期の係數は必ずしも盡く相異なりといふことを得ず. より を定めたる (1) の算式を觀るに一般に相等しき は相等しき を與ふべけれども,飜て相等しき は必ず相等しき より出て來れりとなすことを得ざるにあらずや.

如上の觀察は吾人を導きて次の結果に到達せしむ.

旣約分數 の分母 が展開の基數 と相素なるときは,展開の途次現出する剩餘 隨て又展關の係數 は其第一項に始まる或一定の週期を以て限りなく循環す.此循環の週期を組成せる項數 の倍數たらしむべき最小の正の整數,隨て は分母 のみによりて定まるべき,而して分子 には關係なき數なり.

と相素なるときは の倍數たらしむる如き指數 の必ず存在すべきことは,上文の辨說の中間接に證明せられたる所なり.

となすときは,上述の定理により にても又 にても整除し得べからざる整數を分母とせる分數は必ず所謂純粹なる循環小數に等しきを知るべし.

二三の實例は必ずしも蛇足ならじ.

又は

こゝに橫線は循環の週期を示せり.

分母が と相素ならざる場合に於ては指數 を適當に定めて

の分母を と相素なるものとなし,而して後 を展開すべし. の展開は の展開に於ける諸項を更に にて除して之を得べし.此場合には循環は の項に始まる,週期を組成せる項の數は前の場合に同じ.

例.

の展開式中整數の部分 をも亦第二章(七)に說きたる如くにして の冪に從て展開し,其展開の係數を表はすに負數の附標を以てするときは

を得,或は之を省畧して

と書く,こゝにコンマ(註:上式ではピリオド)は の項の所在を表示せり.循環の週期を示すには或は橫線を用ゐ,或は其兩端の係數に・を冠せしむべし.

最後に注意すべきは展開の係數の中循環の週期に入らざる者ある場合,卽ち十進法に於ける所謂混循環小數の場合に於て,係數の循環の始まるは必ずし の指數負なる項卽ち十進法に於ける小數點以下の或桁にはあらざることなり.例へば

に於ては循環は旣に整數部分より始まれり.一般に の分母が と相素にして分子 の倍數なるとき必ず然り.斯の如き場合に於て整數部分に屬する循環の係數を度外に置きて强ひて循環は小數第一位に始まると規定するは,事實の眞相に背馳せりと謂ふべし.

(九)

分數の展開決して局を結ぶことなきときは,竟に其係數一定の週期を以て循環するに至るべきことをば旣に知り得たり.是に至て自然に起らざるを得ざる疑問あり.曰く,若し豫め任意に係數の一週期を定むるとき,果して斯の如き展開を與ふべき分數存在し得べきや否や.分數を十進の小數に展開して循環小數を得べきことは之を知る,未だ知らず,凡ての考へ得べき循環小數は必ず其起源を分數に有するや,否やを.