後撰和歌集/巻第九
巻九
00507
[詞書]からうしてあひしりて侍りける人に、つつむことありてあひかたく侍りけれは
源宗于朝臣
あつまちのさやの中山中中にあひ見てのちそわひしかりける
あつまちの－さやのなかやま－なかなかに－あひみてのちそ－わひしかりける
00508
[詞書]しのひたりける人にものかたりし侍りけるを、人のさわかしく侍りけれは、まかりかへりてつかはしける
つらゆき
暁と何かいひけんわかるれは夜ひもいとこそわひしかりけれ
あかつきと－なにかいひけむ－わかるれは－よひもいとこそ－わひしかりけれ
00509
[詞書]源のおほきかかよひ侍りけるを、のちのちはまからすなり侍りにけれは、となりのかへのあなよりおほきをはつかに見てつかはしける
するか
まとろまぬかへにも人を見つるかなまさしからなん春の夜の夢
まとろまぬ－かへにもひとを－みつるかな－まさしからなむ－はるのよのゆめ
00510
[詞書]あひしりて侍りける人のもとに、返事みむとてつかはしける
元良のみこ
くやくやとまつゆふくれと今はとてかへる朝といつれまされり
くやくやと－まつゆふくれと－いまはとて－かへるあしたと－いつれまされり
00511
[詞書]返し
藤原かつみ
ゆふくれは松にもかかる白露のおくる朝やきえははつらむ
ゆふくれは－まつにもかかる－しらつゆの－おくるあしたや－きえははつらむ
00512
[詞書]やまとにあひしりて侍りける人のもとにつかはしける
よみ人しらす
うち返し君そこひしきやまとなるふるのわさ田の思ひいてつつ
うちかへし－きみそこひしき－やまとなる－ふるのわさたの－おもひいてつつ
00513
[詞書]返し
よみ人しらす
秋の田のいねてふ事をかけしかは思ひいつるかうれしけもなし
あきのたの－いねてふことを－かけしかは－おもひいつるか－うれしけもなし
00514
[詞書]女につかはしける
よみ人しらす
人こふる心はかりはそれなから我はわれにもあらぬなりけり
ひとこふる－こころはかりは－それなから－われはわれにも－あらぬなりけり
00515
[詞書]まかる所しらせす侍りけるころ、又あひしりて侍りけるをとこのもとより、日ころたつねわひてうせにたるとなん思ひつるといへりけれは
伊勢
おもひかはたえすなかるる水のあわのうたかた人にあはてきえめや
おもひかは－たえすなかるる－みつのあわの－うたかたひとに－あはてきえめや
00516
[詞書]題しらす
三統公忠
思ひやる心はつねにかよへとも相坂の関こえすもあるかな
おもひやる－こころはつねに－かよへとも－あふさかのせき－こえすもあるかな
00517
[詞書]女につかはしける
よみ人しらす
きえはててやみぬはかりか年をへて君を思ひのしるしなけれは
きえはてて－やみぬはかりか－としをへて－きみをおもひの－しるしなけれは
00518
[詞書]返し
よみ人しらす
おもひたにしるしなしてふわか身にそあはぬなけきのかすはもえける
おもひたに－しるしなしてふ－わかみにそ－あはぬなけきの－かすはもえける
00519
[詞書]題しらす
よみ人しらす
ほしかてにぬれぬへきかな唐衣かわくたもとの世世になけれは
ほしかてに－ぬれぬへきかな－からころも－かわくたもとの－よよになけれは
00520
[詞書]題しらす
よみ人しらす
世とともにあふくま河のとほけれはそこなる影をみぬそわひしき
よとともに－あふくまかはの－とほけれは－そこなるかけを－みぬそわひしき
00521
[詞書]題しらす
よみ人しらす
わかことくあひ思ふ人のなき時は深き心もかひなかりけり
わかことく－あひおもふひとの－なきときは－ふかきこころも－かひなかりけり
00522
[詞書]題しらす
よみ人しらす
いつしかとわか松山に今はとてこゆなる浪にぬるる袖かな
いつしかと－わかまつやまに－いまはとて－こゆなるなみに－ぬるるそてかな
00523
[詞書]女のもとにつかはしける
よみ人しらす
ひとことはまことなりけりしたひものとけぬにしるき心と思へは
ひとことは－まことなりけり－したひもの－とけぬにしるき－こころとおもへは
00524
[詞書]女のもとにつかはしける
よみ人しらす
結ひおきしわかしたひもの今まてにとけぬは人のこひぬなりけり
むすひおきし－わかしたひもの－いままてに－とけぬはひとの－こひぬなりけり
00525
[詞書]女の人のもとにつかはしける
よみ人しらす
ほかのせはふかくなるらしあすかかは昨日のふちそわか身なりける
ほかのせは－ふかくなるらし－あすかかは－きのふのふちそ－わかみなりける
00526
[詞書]返し
よみ人しらす
ふちせともいさやしら浪立ちさわくわか身ひとつはよる方もなし
ふちせとも－いさやしらなみ－たちさわく－わかみひとつは－よるかたもなし
00527
[詞書]題しらす
よみ人しらす
ひかりまつつゆに心をおける身はきえかへりつつ世をそうらむる
ひかりまつ－つゆにこころを－おけるみは－きえかへりつつ－よをそうらむる
00528
[詞書]ある所に近江といひける人のもとにつかはしける
よみ人しらす
しほみたぬうみときけはや世とともにみるめなくして年のへぬらん
しほみたぬ－うみときけはや－よとともに－みるめなくして－としのへぬらむ
00529
[詞書]あつよしのみこまうてきたりけれと、あはすしてかへして、又のあしたにつかはしける
桂のみこ
唐衣きて帰りにしさよすからあはれと思ふをうらむらんはた
からころも－きてかへりにし－さよすから－あはれとおもふを－うらむらむはた
00530
[詞書]あひまちける人の、ひさしうせうそこなかりけれはつかはしける
きのめのと
影たにも見えすなりゆく山の井はあさきより又水やたえにし
かけたにも－みえすなりゆく－やまのゐは－あさきよりまた－みつやたえにし
00531
[詞書]返し
平定文
浅してふ事をゆゆしみ山の井はほりし濁に影は見えぬそ
あさしてふ－ことをゆゆしみ－やまのゐは－ほりしにこりに－かけはみえぬそ
00532
[詞書]題しらす
よみ人も
いくたひかいくたの浦に立帰り浪にわか身を打ちぬらすらん
いくたひか－いくたのうらに－たちかへり－なみにわかみを－うちぬらすらむ
00533
[詞書]返し
よみ人も
立帰りぬれてはひぬるしほなれはいくたの浦のさかとこそ見れ
たちかへり－ぬれてはひぬる－しほなれは－いくたのうらの－さかとこそみれ
00534
[詞書]女のもとに
よみ人も
逢ふ事はいとと雲井のおほそらにたつ名のみしてやみぬはかりか
あふことは－いととくもゐの－おほそらに－たつなのみして－やみぬはかりか
00535
[詞書]返し
よみ人も
よそなからやまんともせす逢ふ事は今こそ雲のたえまなるらめ
よそなから－やまむともせす－あふことは－いまこそくもの－たえまなるらめ
00536
[詞書]又、をとこ
よみ人も
今のみとたのむなれとも白雲のたえまはいつかあらんとすらん
いまのみと－たのむなれとも－しらくもの－たえまはいつか－あらむとすらむ
00537
[詞書]題しらす
よみ人も
をやみせす雨さへふれは沢水のまさるらんともおもほゆるかな
をやみせす－あめさへふれは－さはみつの－まさるらむとも－おもほゆるかな
00538
[詞書]題しらす
よみ人も
夢にたに見る事そなき年をへて心のとかにぬるよなけれは
ゆめにたに－みることそなき－としをへて－こころのとかに－ぬるよなけれは
00539
[詞書]題しらす
よみ人も
見そめすてあらましものを唐衣たつ名のみしてきるよなきかな
みそめすて－あらましものを－からころも－たつなのみして－きるよなきかな
00540
[詞書]女のもとにつかはしける
よみ人も
枯れはつる花の心はつらからて時すきにける身をそうらむる
かれはつる－はなのこころは－つらからて－ときすきにける－みをそうらむる
00541
[詞書]返し
よみ人も
あたにこそちるとみるらめ君にみなうつろひにたる花の心を
あたにこそ－ちるとみるらめ－きみにみな－うつろひにたる－はなのこころを
00542
[詞書]そのほとに帰りこんとてものにまかりける人の、ほとをすくしてこさりけれはつかはしける
よみ人も
こむといひし月日をすくすをはすての山のはつらき物にそ有りける
こむといひし－つきひをすくす－をはすての－やまのはつらき－ものにそありける
00543
[詞書]返し
よみ人も
月日をもかそへけるかな君こふるかすをもしらぬわか身なになり
つきひをも－かそへけるかな－きみこふる－かすをもしらぬ－わかみなになり
00544
[詞書]女に年をへて心さしあるよしをのたうひわたりけり、女猶ことしをたにまちくらせとたのめけるを、その年もくれてあくる春まていとつれなく侍りけれは
よみ人も
このめはるはるの山田を打返し思ひやみにし人そこひしき
このめはる－はるのやまたを－うちかへし－おもひやみにし－ひとそこひしき
00545
[詞書]心さし有りなからえあはす侍りける女のもとにつかはしける
贈太政大臣
ころをへてあひ見ぬ時は白玉の涙も春は色まさりけり
ころをへて－あひみぬときは－しらたまの－なみたもはるは－いろまさりけり
00546
[詞書]返し
伊勢
人こふる涙は春そぬるみけるたえぬおもひのわかすなるへし
ひとこふる－なみたははるそ－ぬるみける－たえぬおもひの－わかすなるへし
00547
[詞書]をとこの、ここかしこにかよひすむ所おほくて、つねにしもとはさりけれは、女も又色このみなる名たちけるを、うらみ侍りける返事に
源たのむかむすめ
つらしともいかか怨みむ郭公わかやとちかくなく声はせて
つらしとも－いかかうらみむ－ほとときす－わかやとちかく－なくこゑはせて
00548
[詞書]返し
あつよしのみこ
里ことに鳴きこそ渡れ郭公すみか定めぬ君たつぬとて
さとことに－なきこそわたれ－ほとときす－すみかさためぬ－きみたつぬとて
00549
[詞書]えかたかるへき女を思ひかけてつかはしける
春道のつらき
かすならぬみ山かくれの郭公人しれぬねをなきつつそふる
かすならぬ－みやまかくれの－ほとときす－ひとしれぬねを－なきつつそふる
00550
[詞書]いとしのひたる女にあひかたらひてのち、人めにつつみて又あひかたく侍りけれは
これたたのみこ
逢ふ事のかた糸そとはしりなから玉のをはかり何によりけん
あふことの－かたいとそとは－しりなから－たまのをはかり－なにによりけむ
00551
[詞書]女のもとより、忘草にふみをつけておこせて侍りけれは
よみ人しらす
思ふとはいふものからにともすれはわするる草の花にやはあらぬ
おもふとは－いふものからに－ともすれは－わするるくさの－はなにやはあらぬ
00552
[詞書]返し
たいふのこといふ人
うゑてみる我はわすれてあたひとにまつわすらるる花にそ有りける
うゑてみる－われはわすれて－あたひとに－まつわすらるる－はなにそありける
00553
[詞書]平定文かもとより、なにはの方へなんまかるといひおくりて侍りけれは
土左
浦わかすみるめかるてふあまの身は何かなにはの方へしもゆく
うらわかす－みるめかるてふ－あまのみは－なにかなにはの－かたへしもゆく
00554
[詞書]返し
定文
君を思ふふかさくらへにつのくにのほり江見にゆく我にやはあらぬ
きみをおもふ－ふかさくらへに－つのくにの－ほりえみにゆく－われにやはあらぬ
00555
[詞書]つらくなりにける人につかはしける
伊勢
いかてかく心ひとつをふたしへにうくもつらくもなしてみすらん
いかてかく－こころひとつを－ふたしへに－うくもつらくも－なしてみすらむ
00556
[詞書]題しらす
よみ人も
ともすれは玉にくらへしますかかみひとのたからと見るそ悲しき
ともすれは－たまにくらへし－ますかかみ－ひとのたからと－みるそかなしき
00557
[詞書]しのひたる人につかはしける
よみ人も
いはせ山谷のした水うちしのひ人のみぬまは流れてそふる
いはせやま－たにのしたみつ－うちしのひ－ひとのみぬまは－なかれてそふる
00558
[詞書]人をあひしりてのち、ひさしうせうそこもつかはささりけれは
よみ人も
うれしけに君かたのめし事のははかたみにくめる水にそ有りける
うれしけに－きみかたのめし－ことのはは－かたみにくめる－みつにそありける
00559
[詞書]題しらす
よみ人も
ゆきやらぬ夢ちにまとふたもとにはあまつそらなき露そおきける
ゆきやらぬ－ゆめちにまとふ－たもとには－あまつそらなき－つゆそおきける
00560
[詞書]題しらす
よみ人も
身ははやくならの宮こと成りにしを恋しきことのまたもふりぬか
みははやく－ならのみやこと－なりにしを－こひしきことの－またもふりぬか
00561
[詞書]題しらす
よみ人も
住吉の岸の白浪よるよるはあまのよそめに見るそ悲しき
すみよしの－きしのしらなみ－よるよるは－あまのよそめに－みるそかなしき
00562
[詞書]題しらす
よみ人も
君こふとぬれにし袖のかわかぬは思ひの外にあれはなりけり
きみこふと－ぬれにしそての－かわかぬは－おもひのほかに－あれはなりけり
00563
[詞書]題しらす
よみ人も
あはさりし時いかなりし物とてかたたいまのまも見ねは恋しき
あはさりし－ときいかなりし－ものとてか－たたいまのまも－みねはこひしき
00564
[詞書]題しらす
よみ人も
世中にしのふるこひのわひしきはあひてののちのあはぬなりけり
よのなかに－しのふるこひの－わひしきは－あひてののちの－あはぬなりけり
00565
[詞書]題しらす
よみ人も
恋をのみ常にするかの山なれはふしのねにのみなかぬ日はなし
こひをのみ－つねにするかの－やまなれは－ふしのねにのみ－なかぬひはなし
00566
[詞書]題しらす
よみ人も
君によりわか身そつらき玉たれの見すは恋しとおもはましやは
きみにより－わかみそつらき－たまたれの－みすはこひしと－おもはましやは
00567
[詞書]をとこのはしめて女のもとにまかりてあしたに、雨のふるにかへりてつかはしける
よみ人も
今そしるあかぬ別の暁は君をこひちにぬるる物とは
いまそしる－あかぬわかれの－あかつきは－きみをこひちに－ぬるるものとは
00568
[詞書]返し
よみ人も
よそにふる雨とこそきけおほつかな何をか人のこひちといふらん
よそにふる－あめとこそきけ－おほつかな－なにをかひとの－こひちといふらむ
00569
[詞書]つらかりけるをとこに
よみ人も
たえはつる物とは見つつささかにのいとをたのめる心ほそさよ
たえはつる－ものとはみつつ－ささかにの－いとをたのめる－こころほそさよ
00570
[詞書]返し
よみ人も
うちわたし長き心はやつはしのくもてに思ふ事はたえせし
うちわたし－なかきこころは－やつはしの－くもてにおもふ－ことはたえせし
00571
[詞書]思ふ人侍りける女に物のたうひけれと、つれなかりけれはつかはしける
よみ人も
思ふ人おもはぬ人の思ふ人おもはさらなん思ひしるへく
おもふひと－おもはぬひとの－おもふひと－おもはさらなむ－おもひしるへく
00572
[詞書]返し
よみ人も
こからしのもりのした草風はやみ人のなけきはおひそひにけり
こからしの－もりのしたくさ－かせはやみ－ひとのなけきは－おひそひにけり
00573
[詞書]をとこのこと女むかふるを見て、おやの家にまかりかへるとて
よみ人も
別をは悲しき物とききしかとうしろやすくもおもほゆるかな
わかれをは－かなしきものと－ききしかと－うしろやすくも－おもほゆるかな
00574
[詞書]題しらす
よみ人も
なきたむるた本こほれるけさみれは心とけても君をおもはす
なきたむる－たもとこほれる－けさみれは－こころとけても－きみをおもはす
00575
[詞書]題しらす
よみ人も
身をわけてあらまほしくそおもほゆる人はくるしといひけるものを
みをわけて－あらまほしくそ－おもほゆる－ひとはくるしと－いひけるものを
00576
[詞書]題しらす
よみ人も
雲井にて人をこひしと思ふかな我は葦へのたつならなくに
くもゐにて－ひとをこひしと－おもふかな－われはあしへの－たつならなくに
00577
[詞書]ひとにつかはしける
源ひとしの朝臣
あさちふのをののしの原忍ふれとあまりてなとか人のこひしき
あさちふの－をののしのはら－しのふれと－あまりてなとか－ひとのこひしき
00578
[詞書]ひとにつかはしける
かねもり
雨やまぬのきの玉水かすしらす恋しき事のまさるころかな
あめやまぬ－のきのたまみつ－かすしらす－こひしきことの－まさるころかな
00579
[詞書]心みしかきやうにきこゆる人なりといひけれは
よみ人しらす
伊勢の海にはへてもあまるたくなはの長き心は我そまされる
いせのうみに－はへてもあまる－たくなはの－なかきこころは－われそまされる
00580
[詞書]人につかはしける
よみ人しらす
色にいてて恋すてふ名そたちぬへき涙にそむる袖のこけれは
いろにいてて－こひすてふなそ－たちぬへき－なみたにそむる－そてのこけれは
00581
[詞書]人につかはしける
よみ人しらす
かくこふる物としりせはよるはおきてあくれはきゆるつゆならましを
かくこふる－ものとしりせは－よるはおきて－あくれはきゆる－つゆならましを
00582
[詞書]人につかはしける
よみ人しらす
あひも見す歎きもそめす有りし時思ふ事こそ身になかりしか
あひもみす－なけきもそめす－ありしとき－おもふことこそ－みになかりしか
00583
[詞書]人につかはしける
よみ人しらす
こひのことわりなき物はなかりけりかつむつれつつかつそ恋しき
こひのこと－わりなきものは－なかりけり－かつむつれつつ－かつそこひしき
00584
[詞書]女のもとにつかはしける
よみ人しらす
わたつ海に深き心のなかりせは何かは君を怨みしもせん
わたつうみに－ふかきこころの－なかりせは－なにかはきみを－うらみしもせむ
00585
[詞書]女のもとにつかはしける
よみ人しらす
みな神にいのるかひなく涙河うきても人をよそに見るかな
みなかみに－いのるかひなく－なみたかは－うきてもひとを－よそにみるかな
00586
[詞書]返し
よみ人しらす
いのりけるみな神さへそうらめしきけふより外に影の見えねは
いのりける－みなかみさへそ－うらめしき－けふよりほかに－かけのみえねは
00587
[詞書]大輔につかはしける
右大臣
色深く染めした本のいととしくなみたにさへもこさまさるかな
いろふかく－そめしたもとの－いととしく－なみたにさへも－こさまさるかな
00588
[詞書]題しらす
よみ人も
見る時は事そともなく見ぬ時はこと有りかほに恋しきやなそ
みるときは－ことそともなく－みぬときは－ことありかほに－こひしきやなそ
00589
[詞書]をとこのこむとてこさりけれは
よみ人も
山さとのまきのいたともさささりきたのめし人をまちしよひより
やまさとの－まきのいたとも－さささりき－たのめしひとを－まちしよひより
00590
[詞書]はしめて女のもとにつかはしける
よみ人も
ゆく方もなくせかれたる山水のいはまほしくもおもほゆるかな
ゆくかたも－なくせかれたる－やまみつの－いはまほしくも－おもほゆるかな
00591
[詞書]女につかはしける
よみ人も
人のうへのこととしいへはしらぬかな君も恋する折もこそあれ
ひとのうへの－こととしいへは－しらぬかな－きみもこひする－をりもこそあれ
00592
[詞書]返し
よみ人も
つらからはおなし心につらからんつれなき人をこひんともせす
つらからは－おなしこころに－つらからむ－つれなきひとを－こひむともせす
00593
[詞書]女につかはしける
よみ人も
人しれす思ふ心はおほしまのなるとはなしになけくころかな
ひとしれす－おもふこころは－おほしまの－なるとはなしに－なけくころかな
00594
[詞書]をとこのもとにつかはしける
中務
はかなくておなし心になりにしを思ふかことは思ふらんやそ
はかなくて－おなしこころに－なりにしを－おもふかことは－おもふらむやそ
00595
[詞書]返し
源信明
わひしさをおなし心ときくからにわか身をすてて君そかなしき
わひしさを－おなしこころと－きくからに－わかみをすてて－きみそかなしき
00596
[詞書]まからすなりにける女の、人に名たちけれはつかはしける
源信明
定なくあたにちりぬる花よりはときはの松の色をやは見ぬ
さためなく－あたにちりぬる－はなよりは－ときはのまつの－いろをやはみぬ
00597
[詞書]返し
よみ人しらす
住吉のわか身なりせは年ふとも松より外の色を見ましや
すみよしの－わかみなりせは－としふとも－まつよりほかの－いろをみましや
00598
[詞書]をとこにつかはしける
よみ人しらす
うつつにもはかなきことのあやしきはねなくにゆめの見ゆるなりけり
うつつにも－はかなきことの－あやしきは－ねなくにゆめの－みゆるなりけり
00599
[詞書]女のあはす侍りけるに
よみ人しらす
白浪のよるよる岸に立ちよりてねも見しものをすみよしの松
しらなみの－よるよるきしに－たちよりて－ねもみしものを－すみよしのまつ
00600
[詞書]をとこにつかはしける
よみ人しらす
なからへてあらぬまてにも事のはのふかきはいかにあはれなりけり
なからへて－あらぬまてにも－ことのはの－ふかきはいかに－あはれなりけり