後撰和歌集/巻第八
巻八
00443
[詞書]題しらす
よみ人も
はつ時雨ふれは山へそおもほゆるいつれの方かまつもみつらん
はつしくれ-ふれはやまへそ-おもほゆる-いつれのかたか-まつもみつらむ
00444
[詞書]題しらす
よみ人も
はつしくれふるほともなくさほ山の梢あまねくうつろひにけり
はつしくれ-ふるほともなく-さほやまの-こすゑあまねく-うつろひにけり
00445
[詞書]題しらす
よみ人も
神な月ふりみふらすみ定なき時雨そ冬の始なりける
かみなつき-ふりみふらすみ-さためなき-しくれそふゆの-はしめなりける
00446
[詞書]題しらす
よみ人も
冬くれはさほの河せにゐるたつもひとりねかたきねをそなくなる
ふゆくれは-さほのかはせに-ゐるたつも-ひとりねかたき-ねをそなくなる
00447
[詞書]題しらす
よみ人も
ひとりぬる人のきかくに神な月にはかにもふるはつ時雨かな
ひとりぬる-ひとのきかくに-かみなつき-にはかにもふる-はつしくれかな
00448
[詞書]題しらす
よみ人も
秋はてて時雨ふりぬる我なれはちることのはをなにかうらみむ
あきはてて-しくれふりぬる-われなれは-ちることのはを-なにかうらみむ
00449
[詞書]題しらす
よみ人も
吹く風は色も見えねと冬くれはひとりぬるよの身にそしみける
ふくかせは-いろもみえねと-ふゆくれは-ひとりぬるよの-みにそしみける
00450
[詞書]題しらす
よみ人も
秋はててわか身しくれにふりぬれは事の葉さへにうつろひにけり
あきはてて-わかみしくれに-ふりぬれは-ことのはさへに-うつろひにけり
00451
[詞書]題しらす
よみ人も
神な月時雨とともにかみなひのもりのこのははふりにこそふれ
かみなつき-しくれとともに-かみなひの-もりのこのはは-ふりにこそふれ
00452
[詞書]女につかはしける
よみ人も
たのむ木もかれはてぬれは神な月時雨にのみもぬるるころかな
たのむきも-かれはてぬれは-かみなつき-しくれにのみも-ぬるるころかな
00453
[詞書]山へいるとて
増基法師
神な月時雨はかりを身にそへてしらぬ山ちに入るそかなしき
かみなつき-しくれはかりを-みにそへて-しらぬやまちに-いるそかなしき
00454
[詞書]かみな月はかりに、大江千古かもとにあはむとてまかりたりけれとも侍らぬほとなれは、かへりまてきてたつねてつかはしける
藤原忠房朝臣
もみちははをしき錦と見しかとも時雨とともにふりててそこし
もみちはは-をしきにしきと-みしかとも-しくれとともに-ふりててそこし
00455
[詞書]返し
大江千古
もみちはも時雨もつらしまれにきてかへらん人をふりやととめぬ
もみちはも-しくれもつらし-まれにきて-かへらむひとを-ふりやととめぬ
00456
[詞書]題しらす
よみ人も
神な月限とや思ふもみちはのやむ時もなくよるさへにふる
かみなつき-かきりとやおもふ-もみちはの-やむときもなく-よるさへにふる
00457
[詞書]題しらす
よみ人も
ちはやふる神かき山のさか木はは時雨に色もかはらさりけり
ちはやふる-かみかきやまの-さかきはは-しくれにいろも-かはらさりけり
00458
[詞書]すまぬ家にまてきて、紅葉にかきていひつかはしける
枇杷左大臣
人すますあれたるやとをきて見れは今そこのはは錦おりける
ひとすます-あれたるやとを-きてみれは-いまそこのはは-にしきおりける
00459
[詞書]返し
伊勢
涙さへ時雨にそひてふるさとは紅葉の色もこさまさりけり
なみたさへ-しくれにそひて-ふるさとは-もみちのいろも-こさまさりけり
00460
[詞書]題しらす
よみ人も
冬の池の鴨のうはけにおくしものきえて物思ふころにもあるかな
ふゆのいけの-かものうはけに-おくしもの-きえてものおもふ-ころにもあるかな
00461
[詞書]おやのほかにまかりておそくかへりけれは、つかはしける
人のむすめのやつなりける
神な月時雨ふるにもくるる日を君まつほとはなかしとそ思ふ
かみなつき-しくれふるにも-くるるひを-きみまつほとは-なかしとそおもふ
00462
[詞書]題しらす
よみ人しらす
身をわけて霜やおくらむあた人の事のはさへにかれもゆくかな
みをわけて-しもやおくらむ-あたひとの-ことのはさへに-かれもゆくかな
00463
[詞書]冬の日、むさしにつかはしける
よみ人しらす
人しれす君につけてしわか袖のけさしもとけすこほるなるへし
ひとしれす-きみにつけてし-わかそての-けさしもとけす-こほるなるへし
00464
[詞書]題しらす
よみ人しらす
かきくらし霰ふりしけ白玉をしける庭とも人のみるへく
かきくらし-あられふりしけ-しらたまを-しけるにはとも-ひとのみるへく
00465
[詞書]題しらす
よみ人しらす
神な月しくるる時そみよしのの山のみゆきもふり始めける
かみなつき-しくるるときそ-みよしのの-やまのみゆきも-ふりはしめける
00466
[詞書]題しらす
よみ人しらす
けさの嵐寒くもあるかな葦引の山かきくもり雪そふるらし
けさのあらし-さむくもあるかな-あしひきの-やまかきくもり-ゆきそふるらし
00467
[詞書]題しらす
よみ人しらす
くろかみのしろくなりゆく身にしあれはまつはつ雪をあはれとそみる
くろかみの-しろくなりゆく-みにしあれは-まつはつゆきを-あはれとそみる
00468
[詞書]題しらす
よみ人しらす
霰ふるみ山のさとのわひしきはきてたはやすくとふ人そなき
あられふる-みやまのさとの-わひしきは-きてたはやすく-とふひとそなき
00469
[詞書]題しらす
よみ人しらす
ちはやふる神な月こそかなしけれわか身時雨にふりぬと思へは
ちはやふる-かみなつきこそ-かなしけれ-わかみしくれに-ふりぬとおもへは
00470
[詞書]式部卿あつみのみこ、しのひてかよふ所侍りけるを、のちのちたえたえになり侍りけれは、いもうとの前斎宮のみこのもとより、このころはいかにそとありけれは、その返事に、をんな
よみ人しらす
しら山に雪ふりぬれはあとたえて今はこしちに人もかよはす
しらやまに-ゆきふりぬれは-あとたえて-いまはこしちに-ひともかよはす
00471
[詞書]雪のあした、おいをなけきて
つらゆき
ふりそめて友まつゆきはむはたまのわかくろかみのかはるなりけり
ふりそめて-ともまつゆきは-うはたまの-わかくろかみの-かはるなりけり
00472
[詞書]返し
兼輔朝臣
くろかみの色ふりかふる白雪のまちいつる友はうとくそ有りける
くろかみの-いろふりかはる-しらゆきの-まちいつるともは-うとくそありける
00473
[詞書]又
つらゆき
くろかみと雪とのなかのうきみれはともかかみをもつらしとそ思ふ
くろかみと-ゆきとのなかの-うきみれは-ともかかみをも-つらしとそおもふ
00474
[詞書]返し
兼輔朝臣
年ことにしらかのかすをますかかみ見るにそ雪の友はしりける
としことに-しらかのかすを-ますかかみ-みるにそゆきの-ともはしりける
00475
[詞書]題しらす
よみ人も
年ふれと色もかはらぬ松かえにかかれる雪を花とこそ見れ
としふれと-いろもかはらぬ-まつかえに-かかれるゆきを-はなとこそみれ
00476
[詞書]題しらす
よみ人も
霜かれの枝となわひそ白雪のきえぬ限は花とこそみれ
しもかれの-えたとなわひそ-しらゆきの-きえぬかきりは-はなとこそみれ
00477
[詞書]題しらす
よみ人も
氷こそ今はすらしもみよしのの山のたきつせこゑもきこえす
こほりこそ-いまはすらしも-みよしのの-やまのたきつせ-こゑもきこえす
00478
[詞書]題しらす
よみ人も
夜をさむみねさめてきけはをしそなく払ひもあへす霜やおくらん
よをさむみ-ねさめてきけは-をしそなく-はらひもあへす-しもやおくらむ
00479
[詞書]雪のすこしふる日、女につかはしける
藤原かけもと
かつきえてそらにみたるるあはゆきは物思ふ人の心なりけり
かつきえて-そらもみたるる-あはゆきは-ものおもふひとの-こころなりけり
00480
[詞書]師氏朝臣のかりして家のまへよりまかりけるをききて
よみ人しらす
白雪のふりはへてこそとはさらめとくるたよりをすくささらなん
しらゆきの-ふりはへてこそ-とはさらめ-とくるたよりを-すくささらなむ
00481
[詞書]題しらす
よみ人しらす
思ひつつねなくにあくる冬の夜の袖の氷はとけすもあるかな
おもひつつ-ねなくにあくる-ふゆのよの-そてのこほりは-とけすもあるかな
00482
[詞書]題しらす
よみ人しらす
荒玉の年を渡りてあるかうへにふりつむ雪のたえぬしら山
あらたまの-としをわたりて-あるかうへに-ふりつむゆきの-たえぬしらやま
00483
[詞書]題しらす
よみ人しらす
まこもかるほり江にうきてぬるかもの今夜の霜にいかにわふらん
まこもかる-ほりえにうきて-ぬるかもの-こよひのしもに-いかにわふらむ
00484
[詞書]題しらす
よみ人しらす
白雲のおりゐる山とみえつるはふりつむ雪のきえぬなりけり
しらくもの-おりゐるやまと-みえつるは-ふりつるゆきの-きえぬなりけり
00485
[詞書]題しらす
よみ人しらす
ふるさとの雪は花とそふりつもるなかむる我も思ひきえつつ
ふるさとの-ゆきははなとそ-ふりつもる-なかむるわれも-おもひきえつつ
00486
[詞書]題しらす
よみ人しらす
なかれゆく水こほりぬる冬さへや猶うき草のあとはととめぬ
なかれゆく-みつこほりぬる-ふゆさへや-なほうきくさの-あとはととめぬ
00487
[詞書]題しらす
よみ人しらす
心あてに見はこそわかめ白雪のいつれか花のちるにたかへる
こころあてに-みはこそわかめ-しらゆきの-いつれかはなの-ちるにたかへる
00488
[詞書]題しらす
よみ人しらす
天河冬は氷にとちたれやいしまにたきつおとたにもせぬ
あまのかは-ふゆはこほりに-とちたれや-いしまにたきつ-おとたにもせぬ
00489
[詞書]題しらす
よみ人しらす
おしなへて雪のふれれはわかやとのすきを尋ねて問ふ人もなし
おしなへて-ゆきのふれれは-わかやとの-すきをたつねて-とふひともなし
00490
[詞書]題しらす
よみ人しらす
冬の池の水になかるるあしかものうきねなからにいくよへぬらん
ふゆのいけの-みつになかるる-あしかもの-うきねなからに-いくよへぬらむ
00491
[詞書]題しらす
よみ人しらす
山ちかみめつらしけなくふる雪のしろくやならん年つもりなは
やまちかみ-めつらしけなく-ふるゆきの-しろくやならむ-としつもりなは
00492
[詞書]題しらす
よみ人しらす
松の葉にかかれる雪のそれをこそ冬の花とはいふへかりけれ
まつのはに-かかれるゆきの-それをこそ-ふゆのはなとは-いふへかりけれ
00493
[詞書]題しらす
よみ人しらす
ふる雪はきえてもしはしとまらなん花ももみちも枝になきころ
ふるゆきは-きえてもしはし-とまらなむ-はなももみちも-えたになきころ
00494
[詞書]題しらす
よみ人しらす
涙河身なくはかりのふちはあれと氷とけねはゆく方もなし
なみたかは-みなくはかりの-ふちはあれと-こほりとけねは-ゆくかたもなし
00495
[詞書]題しらす
よみ人しらす
ふる雪に物思ふわか身おとらめやつもりつもりてきえぬはかりそ
ふるゆきに-ものおもふわかみ-おとらめや-つもりつもりて-きえぬはかりそ
00496
[詞書]題しらす
よみ人しらす
よるならは月とそみましわかやとの庭白妙にふりつもる雪
よるならは-つきとそみまし-わかやとの-にはしろたへに-ふりつもるゆき
00497
[詞書]題しらす
よみ人しらす
むめかえにふりおける雪を春ちかみめのうちつけに花かとそ見る
うめかえに-ふりおけるゆきを-はるちかみ-めのうちつけに-はなかとそみる
00498
[詞書]題しらす
よみ人しらす
いつしかと山の桜もわかことく年のこなたにはるをまつらん
いつしかと-やまのさくらも-わかことく-としのこなたに-はるをまつらむ
00499
[詞書]題しらす
よみ人しらす
年深くふりつむ雪を見る時そこしのしらねにすむ心ちする
としふかく-ふりつむゆきを-みるときそ-こしのしらねに-すむここちする
00500
[詞書]題しらす
よみ人しらす
としくれて春あけかたになりぬれは花のためしにまかふ白雪
としくれて-はるあけかたに-なりぬれは-はなのためしに-まかふしらゆき
00501
[詞書]題しらす
よみ人しらす
春ちかくふる白雪はをくら山峰にそ花のさかりなりける
はるちかく-ふるしらゆきは-をくらやま-みねにそはなの-さかりなりける
00502
[詞書]題しらす
よみ人しらす
冬の池にすむにほ鳥のつれもなくしたにかよはん人にしらすな
ふゆのいけに-すむにほとりの-つれもなく-したにかよはむ-ひとにしらすな
00503
[詞書]題しらす
よみ人しらす
むはたまのよるのみふれる白雪はてる月影のつもるなりけり
うはたまの-よるのみふれる-しらゆきは-てるつきかけの-つもるなりけり
00504
[詞書]題しらす
よみ人しらす
この月の年のあまりにたらさらはうくひすははやなきそしなまし
このつきの-としのあまりに-たらさらは-うくひすははや-なきそしなまし
00505
[詞書]題しらす
よみ人しらす
関こゆる道とはなしにちかなから年にさはりて春をまつかな
せきこゆる-みちとはなしに-ちかなから-としにさはりて-はるをまつかな
00506
[詞書]みくしけとのの別当にとしをへていひわたり侍りけるを、えあはすして、そのとしのしはすのつこもりの日つかはしける
藤原敦忠朝臣
物思ふとすくる月日もしらぬまにことしはけふにはてぬとかきく
ものおもふと-すくるつきひも-しらぬまに-ことしはけふに-はてぬとかきく