実業補習学校規程発布ニ附キ訓示

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文部省訓令第十二号

北海道庁 府県

実業補習学校規程ヲ発布シタルニ付訓令スルコト左ノ如シ

普通人民ノ情況ヲ察スルニ児童ノ尋常小学ヲ終ル者退学ノ後職業ニ従事スルニ当リ又ハ遊戯ニ日ヲ移スニ当リ其ノ嘗テ学ヒシ所ノ事緒ヲ抛棄シ遺忘シテ其ノ用ヲ為サヽル者多シ凡ソ年少子弟未タ恒心アラサルノ時ニ於テ其ノ父兄ハ彼等ヲシテ縦令中等教育ヲ受ケシムルコト能ハサルモ其ノ尋常教育ヲ補充温習シ彼等カ将来ニ従事スヘキ生業ヲシテ稍〻価直アラシムルコトヲ冀望スルノ情ニ切ナリ此ノ父兄ノ冀望ヲ助ケテ補習教育ヲ施スハ緊要ノ事タリ而シテ補習教育ハ中等又ハ高等教育ノ予備門タルニ非ス寧ロ中等教育ヲ模擬スルノ意義ヲ避ケテ専ラ普通人民ノ生活ノ情態ヲ発達セシメ其ノ固有ノ地位ヲ保チ以テ稍〻利益アル生業ヲ得シムルヲ目的トスヘシ此レ補習教育ニ於テ実業ノ知識技能ヲ授クルノ時機ヲ誤ラサルヲ要スル所以ナリ

且輓近宇内各国ノ富力ハ年一年ニ倍加シ進テ止マサルノ勢アリ此レ蓋科学盛ニ興リ其ノ発明ノ応用ヲ各般ノ実業ニ及ホシ細大ノ技術ヲ尽シ以テ百倍ノ生産ヲ収ムルニ外ナラス我カ国ハ方ニ文明ノ進歩ヲ見ルニ拘ラス此ノ科学的ノ知識能力ハ未タ普通人民ニ浸潤セス教育ト労動トハ劃然トシテ殊別ノ界域ニ立チ農工諸般ノ事業ハ其ノ大部分ニ於テ仍旧習ニ沈澱スルコトヲ免レス今ニ於テ国家将来ノ富力ヲ進メントセハ国民ノ子弟ニ向テ科学及技術ト実業ト一致配合スルノ教育ヲ施スコトヲ務メサルヘカラス殊ニ普通教育補習ノ時機ニ於テ実業ニ須要ナル知識技能ヲ授クルコトヲ務メサルヘカラス此ノ事ハ既ニ輿論ノ認ムル所ニシテ方ニ自然発達ノ時機ニ遭遇シタリ

以上ノ理由ニ因リ小学校令ノ掲クル所ニ基キ省令ヲ以テ実業補習学校ノ規定ヲ発布シタリ

実業補習学校トハ実業ノ知識技能ヲ授クルト同時ニ小学ノ教育ヲ補習スル学校ヲ謂フナリ故ニ実業補習学校ハ義務教育ヲ終ヘタル児童ノ為ニ其ノ既ニ受ケタル教科ヲ補習継続シ及実業ノ知能ヲ授クルノ二箇ノ目的ヲ以テ設クル者ナリ

実業教育ヲ実施スルニ於テ都鄙ノ別各地事情ノ各異ナルアリ決シテ画一ノ概則ニ循由セシムヘカラス又一時ニ勧誘ノ力ヲ以テ推行スヘキニアラス寧ロ人民自然ノ発達ヲ助ケテ之ヲ順導スルノ方法ヲ取ルヲ要シ又地方ノ情況ヲ斟酌シ施行ノ緩急ヲ量ルニ注意スルヲ要ス

教授時間及季節ハ或ハ毎週四時間ノ少キモアルヘク又二十時間ノ多キモアルヘク或ハ雪期ヲ利用シ或ハ農隙ヲ利用シテ以テ教授季節トナスカ如キ或ハ夜間ニ教授シ或ハ午後ニ教授シ或ハ日曜日ニ教授スルカ如キ要ハ生徒ノ作業ノ余暇ヲ以テ教ヲ受クルノ時ヲ予ヘ各地方ノ事情ニ従ヒ便宜ニ法ヲ設クルニ在リ故ニ省令ハ是等ノ事ヲ一律ニ規定スルノ道ヲ避ケタリ

教科目ハ其ノ普通科目ニ於テハ成ルヘク実業ニ近切ナル資料ヲ各科ノ中ニ包含セシムルコトヲ務メサルヘカラス農業補習学校ヲ以テ之ヲ例センニ読本ハ重ニ農業ノ事物及事例ヲ説キ算術ハ重ニ農家ノ経済ニ関ル課題ヲ教フルノ類ノ如シ其ノ実業科目ニ於テハ或ハ農業大意ヲ概説シ其ノ初歩ヲ授ケ或ハ耕耘肥料土壌等ノ科目ヲ分解講説スルカ如キ成ルヘク生徒ノ能力ニ応セシメ其ノ厭倦ヲ招クコトナキヲ務ムヘシ故ニ省令ハ又此等ノ点ニ向テモ一律ノ規定ヲ設クルコトヲ避ケ各地各校ノ便宜ニ任セタリ

学級編制ノ如キハ固ヨリ普通小学校ノ例ヲ推スヘキニ非ス蓋シ生徒ノ年齢長幼不同ニシテ其ノ既ニ受ケタル教育ノ程度モ亦甚種々ナルハ此ノ学校ノ特性タルコトヲ免レサルヘシ故ニ或ハ単級トシ或ハ級ヲ分チ或学科ニ就テハ上級ノ生徒ヲシテ下級ニ於テ教授ヲ受ケシメ下級ノ生徒ヲシテ上級ニ於テ教授ヲ受ケシムルカ如キ又此ノ学校ヲ管理スル者ノ便宜ニ活用スルヲ得ヘキ所ナリ

実業補習学校ハ学科ト作業労動トヲ併セ教フルヲ主トスルモノニ非ス実業ノ学科ヲ教授シテ平易ノ解釈ヲ下シ生徒カ学校ノ外ニ在リテ実際ニ操作スル所ノ事物ト学校ニ於テ習フ所ノ学科ト反映照応シテ彼レ自ラ了得セシムルヲ以テ目的トス庶幾クハ農ノ子ハ農ヲ楽ミ工ノ子ハ工ヲ楽ムノ益アラン但シ必要ニ依リ多少ノ作業ヲ授クルコトアルハ固ヨリ妨ケサル所ナリ

工業補習学校ニ於テハ図画ヲ以テ主要ノ教科ト為サヽルコトヲ得ス而シテ成ルヘク多クノ時間ヲ此ノ教授ニ充ツルヲ要ス但シ或ル工芸学校ヲ除ク外普通ノ工業ニ於テハ専ラ実用ニ適スルノ図画ヲ主トスヘク専門美術ヲ教フルハ其ノ目的ニ非サルナリ

実業補習学校ニ於テ尤モ困難ヲ感スル者ハ実業ニ関ル教師ノ不足ナリ文部省ハ種々ノ方法ヲ用ヰテ以テ此ノ困難ヲ将来ニ救済スルコトヲ怠ラサルヘシト雖各学校ハ或ハ実業専門ノ人ヲ嘱託シ或ハ巡廻教師ノ講演ヲ請ヒ或ハ小学教員ヲシテ講習ノ方法ニ依リ実業教授ヲ伝習セシムル等ノ方法ニ依リ以テ目下ノ困難ヲ補足スルノ道ヲ取ルヘキナリ

尋常小学校ヲ卒業シタル者又ハ高等小学校ヲ卒業シタル者又ハ其ノ程度ニ当ル者又ハ高等小学教育ノ半ヲ卒ヘタル者ヲ入学セシムルハ実業補習学校ノ自由タルヘシ但シ尋常小学校ヲ卒業セサル者ハ其ノ巳ニ学齢ヲ超エ他ニ就学ノ塗ナキ者ヲ除ク外入学ヲ許サヽルハ補習教育ヲ以テ義務教育ヲ浸蝕スルコトヲ恐レテナリ

実業補習学校ハ各種類ニ依リ工業補習学校商業補習学校農業補習学校水産補習学校等ノ名称ヲ取ルコトヲ得ヘシ

凡ソ新規ニ属スル事業ハ其ノ初ニ於テ施設ヲ誤リ一転シテ廃止ニ帰スルカ如キコトアラハ後日再ヒ之ヲ設置スルノ機会ハ容易ニ得ヘカラサルニ至ラン故ニ実業補習学校ヲ設置スルニ当リ最慎重ヲ加ヘ一地方ノ中最必要ヲ感スル地方ニ於テ先ツ之ヲ設置セシメ漸次他ノ地ニ及ホスノ方法ヲ取リ多額ノ費ヲ用ヰス簡易著実ヲ主トシ以テ十全ノ効果ヲ将来ニ収ムヘキハ特ニ地方長官ノ注意ヲ望ム所ナリ

明治二十六年十一月二十二日文部大臣 井上毅


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