大塚徹・あき詩集/雪解

提供:Wikisource
ナビゲーションに移動 検索に移動


雪解[編集]

鮎のはら ほろほろと
    舌を刺して にがきは何ぞ、
濁り酒 ろんろんと
のどを灼きて 疼くは何ぞ、
こぞの女と――逢いて
  涙流せば わらわれむ。
現世うつしよの つれなき男 皆 平伏ひれふすという魔
 法のしもと 欲し)
げに 幸うすき 女なれば
  かなしくも 心おごれる言葉かな

むね病みて異国――杳く――逃れきたれり

夫ならぬ 男 訪いしは
  かりそめならぬ
生けるしるしなる 一瞬ひとときほどの 歓喜よろこびなるや……
  はたまた 永劫なが悲哀かなしみなるや……

  妻ならぬ 女 抱きて
  涙流せば 嗤われむ

ああ 醜聞は
太古より 獣めきたる にんげんの
  かなしきさがよ――栄ある習慣ならわしよ――
まして現身うつしみ
  契る絆の これやこの
相剋あらそいごとは
 ―――夢 仇ならず。

涙よ
涙よ
ただもう 春は 涙に解けて……
生けるしるしありし日の
今を限りの――恍惚の――涙流して

帰れ 女よ。国境へ――
穆稜ムーリンの雪もほのぼの消えゆくならむ。

〈昭和十六年、日本詩壇・生活風景〉