大塚徹・あき詩集/いたつきの春

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いたつきの春[編集]

いたつきの わが肌に
垢は苔のごとくつみたれば
春虱 あまたわきたり。

じんじんと熱たかく
セキズイの疼くあたり
ひねもす 皮膚は痙攣するを
ただにわれ 瞳とじて耐えんとするに――
これはまた
哀れにおかし
春くればとて
わが病む黝き背筋を

虱ら 眷属つれだちて 浮かれいづるよ
〈いたつきの春は虱と遊ぶなら
良寛さんか われもまた
ぞろりやぞろりやぞろりぞろぞろ
おんぞろぞろりやおもしろや……〉

今宵 わが病み呆けたる
虚ろ心の おどけ姿を
妻は ほのかに涙ぐみ
虱など いちはやく殺さむという。

しらたまの 妻のお指に
ぽつちりとちさき音たてし……
その儚さは 虱か われか
春の夜の おぼろおぼろに
おどけたる命はかなし。

〈昭和十六年、日本詩壇・生活風景〉