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大塚徹・あき詩集/肩

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宿屋の二階から 海の方をみると
防風林のなかが なにか不思議なもののよう
 にとぼ
風が吹いてくるたびに 蚊柱のような騒めき
 が湧いてくる。

今日 停車場にリュックサックを放置すてて逃げ
 てきた
この肩の軽さが 妙にわびしく落ちつかず
いつか ふらふらと この町の祭礼に紛れこ
 んでいったが――
 ぴいひょろ
 ぴいひょろ
 ばるん ちゃかちゃか……

おしろいの剝げた巫女が四人
魚屑のように生臭くおどっている。

ふっといま リックサックの重さを摺りあげ
 摺りあげる

あのいつもの肩の癖が祭礼の雑踏のなかで虚
 しくけいれんする

ぴいひょろ……ぴいひょろ……ばるんちゃか
 ちゃか……
この田舎のお神楽に とほうもなく熱い塊り
 が脹れだし
いまははやわめきだしたいような荒々しさで
まぼろしの肩の重さを摺りあげ摺りあげ
他郷の見しらぬ人混みをぐんぐん押しわけて
 ゆく。

〈昭和二二年、播磨文学〉