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大塚徹・あき詩集/鏡とパン

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鏡とパン

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もう死んでゆく友
鏡がほしいという
僕はコクトオのデッサン集を四十円で売る。
小さい鏡とパン一個とたったそれだけ。
ものを買うということが こんなにもしみじ
 みしたものか。

屋根裏の夕ぐれ
電球が切れている
もう死んでゆく友が絶え絶えに待っている。
僕はパンを半分ちぎって友に食えという。

敗戦で牢屋からだされた重態の友を
担ぐようにして病院をまわったが、
どこでもオコトワリの冷たい宣告――

はにかむように やせた掌を
鏡にひらひらさせながら
友は僕をみてものうく笑う。
僕はあわててパンを噛み やたらに噎せて呑
 みくだす。
もうどうしても駄目か 死なさねばならぬの
 か
友よ
〈見てみろ きれいだろう〉
僕は窓に鏡をかたむけて月をうつして見せて
 やる。

〈昭和二二年、播磨文学〉