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セキズイの雨 →
大塚徹・あき詩集 破産作者:大塚徹昭和5年1930年
いちまい また、いちまい 壁土は剝がされてゆく。 うずたかい 壁土の山。 みつめているものの泪。 みて見ぬ振りするものの焦立ち。 じっと耳をすますと ばらり ばらり 壁土は落ちてゆく。 口笛鳴らすおれは空腹。 むせび泣くおっかあと妹。 あああ、この壁土の堆積。 もがいても あせっても どんなにしても落ちてゆくさだめ。 落ちてゆくべきところに堕ちてゆく。 他人事の悲劇
今はわが身にのしかかる壁土の堆積。
〈昭和五年、梔子〉