大塚徹・あき詩集/梅雨の窓

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梅雨の窓[編集]

杏の実 せつなく 熟れて
六月の空 くらく 噴霧ガスとなる。

いさかいしあとの虚白むなしさ――

   ×     ×

しらじらしきは
ふるさとの伝統
うっとうしきは
にんげんの絆。

恍として熱あり われのみ怒る。

   ×     ×

ひとりの友は彈に斃れ

ひとりの友は獄に死す

梅雨の窓、セキズイの疼きに慟哭する。

   ×     ×

ああ、まぼろしの経はひとすじ――

病み呆け、霧ふりやまず ふりやまず。
生や 死や

あハハ そは 問わまほしく哀れにおかし。

〈昭和十五年、日本詩壇〉