大塚徹・あき詩集/月と虫と儂の饗宴
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月と虫と儂の饗宴
[編集]仄青い 紗羅の裳裾を
今宵も そっと
わしの枕べに ひろげておくれ
月光よ!
破畳
いたつきの
その暗きをともに泣こうというのか
蟋蟀よ!
(それゆえに お前たちは訪ねてきたのか)
かくも骨蒼ざめた男の膝に――
去りゆく 青春の後姿を
追ってきたというのか、
消えゆく
泣きあかしたというのか
悶えつつ……
はた歎きつつ……
月光よ!
蟋蟀よ!
(それで、お前たちは夜ごと哀れになってゆ
くのか)
この男 アンニュイの捕虜の身と知るからに
窓に木枯し
庇に時雨
月の小鼓ととんと打ち
虫の横笛びゅうと吹く
暁はまだまだ遠い
せめて
熱い情けの盃に
酔うて舞うよ
お前もわしも
うらぶれの足もとはよろよろとよろよろと…
〈昭和十三年、流域〉