大塚徹・あき詩集/寒飢の冬が来るぞ
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寒飢の冬が来るぞ[編集]
秋だよう
争議に敗けた腹立しい秋だよう
今度こそはと
俺達は弾丸のように燃えて
敵にぶっかっていったんだが
口惜しいではないか
あのスパイ
あのダラ幹の裏切者に
みんなやられて みろ!
野良犬のように街頭に飢えているのだ
ながいものには巻かれろてか
ふるさとのおっかァよ
その悲しい瞳で口説かれると
俺はつらい
燃え盡くさねばおさまらぬ
烈火の焔もにぶり勝ちだ
それにしてもいつになったら
太陽は氷の街を
照らすというのだ
踏まれても引き千切られても雑草の
春には芽を噴くものを
痩ても枯れても
息の根のあるかぎり俺達は敗けぬぞ
花見小路のインテリ娘ミブ子よ!
「もう一度考えて見るわ」だって
なんて生ちょろい だ
いまはもう空腹に水道の水つめこんで
これからのたたかいを考えようかい
争議に敗けた秋だよう。
なんと哀しい
なんと口惜しい秋ではないか。
やがて市川堤に風が唸って
中国山脈に雪が降るぞう
ああプロレタリヤには恐ろしい
寒飢の冬が襲ってくるのだ
〈昭和六年、土偶と詩人〉