大塚徹・あき詩集/夜
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夜
[編集]こんな夜は、白くふくよかなる砂丘をくだり
つめて
オトコは丹念に 眞赤な
こんな夜は、海藻焚く遠い島あかりを瞳に点
して
しんみりと靜かに更けてゆく海浜の恋の
白いシーツの浪にうら若き男女の情死があっ
た。
こんな夜は、オンナは純白の蛇身と化して
瞼や耳や唇や、薄情なオトコの肩に絡みつい
た
昔昔の妖婉な伝説がうまれるのかもしれない
こんな夜は、松も月も
砂丘を歩むオトコの跫音が浪のように高まる
ので
眞赤な海磐車はしっとりと濡れてゆく。
こんな夜は、濡れた海磐車を夢のように廻し
て
オンナはろんろんと
故郷の栗の花の匂いに染むオトコの爪を抱い
て眠る。
〈昭和八年、愛誦〉