大塚徹・あき詩集/交替
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交替
[編集]朝まだき茶の花畑を駈けぬけてきたのであろ
う
あのひとは束髪に白い葩を
ほっと上気した頬に霜があやうく
いちはやく夫を御国にささげて
もとからに黒い着物のよく似合う
虔しくさびしさをたたえた未亡人だったが―
紺縞のモンペをはきそめてよりのけなげさは
茶の花畑急ぐ手にふとも触れて
冷たく
一枝折って髪挿すという――
心ゆとりのこうもいみじくあわれに
爽々しい慣しとはなったものか
うすみどり梢々に明るく
紅さす暁の光ながら
むくむくと由々しい山雲のたたずまいよ。
朝まだき 眠りさめやらぬ児を婆さんにあず
けて
あのひとは大空の見張りの交替に
いそいそと茶の花畑を駈けぬけてきたのであ
ろう。
〈昭和十八年、日本詩壇、朝日新聞〉