大塚徹・あき詩集/明日の腕

提供:Wikisource


明日の腕[編集]

管制の暗き燈下に
そと起きいでて
妻よ
肌ぬぎて汝は寒げに何せんとするや

くだつ夜の 白き腕に
深沈と膏薬を塗るなり、
いたくもの憂げに動かすなる
汝の腕われを泣かしむ

セキズイ疼く夫に替わりて
防空の
昼夜わかたぬ激しき訓練に――
 砂をあびせ

 水をはこび
 梯子の危きにのぼり
 また担架などもかつぐという
妻の腕
男ならぬ その腕 われを泣かしむ。
 
わが眠りふかく寝返るとみせて
ひそかに拭うこれの涙を
妻よ
 ――しるや しらずや
ひとりしずかに起きいでて
深沈と
汝は明日の腕に膏薬を塗るなり。

〈昭和十八年、日本詩壇〉