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大塚徹・あき詩集 ふるさとの燭作者:大塚徹昭和8年1933年
心のなかにふるさとあり、 雑草(あらくさ)の家は痩せたり。 庇傾きゆけば肋骨の軋り 柱石など歪形(いびつ)するセキズイの疼き。 かさこそとかさこそと壁土はくずれゆく。 破障子影めくは、 濡いろほのかなる燭。 父の燭、母の燭、そをめぐる兄弟(はらから)三人(みたり)の燭。 夜半の嵐遠ざかりゆけば、 すでに二人の姉の燭消えたり。 消えむとするなり。 消えんとするなり。 ああ今宵またしても消えむとす、 老いたる燭。いのちの燭。たつきの燭。 風かよ。泪かよ。 いたつきの窓にしみいるいみじきもの。 心のふるさと秋ふかくるるるると虫啼けり。
〈昭和八年、神戸詩人〉