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いたつきの秋 →
大塚徹・あき詩集 あまだれ作者:大塚徹昭和4年1929年
たらん! たらん! たらん! 軒下を落ちる 雨滴(あまだれ)を 私は聞いている。 こどもたちは雨が降ると 虚(うつ)ろな悲しい瞳をうるませて 軒下のささやかな雨滴の穴に ぬけた歯を埋める 風は土塊(つちくれ)をはこび 人々は繁くゆききするので 貧しい穴は幾度もこわされ また幾度も 雨滴は穴をうがったが―― まっしろの歯が生え変わる 夢を追いつつ 幼き頃埋めた歯のゆくえ 追いつつ たらん! たらん! たらん! 私はいつまでも 雨滴の音をなつかしく聞いている
〈昭和四年、愛誦〉