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國譯法句經/下

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佛陀品ぶつだほんだい十四

179 ちたるものはふたたこれつことあたはず、勝利しようりには何人なんびとこれることあたはず、(1)行履ぎやうりかぎりなく、あとなきほとけ如何いかなるみちによりてかみちびかんとする。

180 あみよくあい何處いづこにもこれたづぬべきなし、行履ぎやうりかぎりなく、あとなきほとけを、如何いかなる みちによりてかみちびかんとする。

181 勇者ゆうしや禪思ぜんしもつぱらにして、出離しゆつり寂靜じやくじやうよろこぶ、かくごと正覺しやうがく・〔しやうねんひと諸天しよてんうらやところなり。

182 人身にんしんるはかたく、有情うじやう生存せいぞんかたし、妙法めうほふくはかたく、諸佛しよぶつ出世しゆつせかたし。

183 (2)一切いつさい惡事あくじさず、善事ぜんじちかづき、おのれ淸淨しやうじやうにする、諸佛しよぶつをしへなり。

184 忍辱にんにく堪忍かんにん最上さいじやう修行しゆぎやう涅槃ねはん最勝さいしようなりと、諸佛しよぶつのたまふ、ひとそこなふものは出家しゆつけにあらず、なやますものは沙門しやもんにあらざるがゆゑなり。

185 ののしらず、そこなはず、婆羅提木叉ばらだいもくしやおい防護ばうごし、じきおいりやうり、閑處かんしよ坐臥ざぐわし、增上心ぞうじやうしんぢゆうする、諸佛しよぶつをしへなり。

186 金貨きんくわあめふらすとも、諸欲しよよくくことあたはず、諸欲しよよく少味せうみにしてなりと、これるは賢者けんしやなり。

187 てん諸欲しよよくたいしても、欲念よくねんおこさず、覺王かくわう弟子でし諸愛しよあいつくすをたのしむ。

188 人人ひとびと恐怖きようふねんせまられて、山林さんりん園樹をんじゆ制多せいた歸依きえするものおほし。

189 されどこれ安隱あんのん依所えしよにあらず、無上むじやう依所えしよにあらず、この依所えしよ歸依きえして、一さいよりのがるることなし。

190 ぶつと、ほふと、そうとに歸依きえするもの、かれ勝智しようちもつて、四しゆ聖諦しやうたいる。

191 と、起因きいんと、度脫どだつと、滅盡めつじんたつする賢聖けんしやう種道しゆだうと、

192 安隱あんのん依所えしよ無上むじやう依所えしよなり、依所えしよ歸依きえして、一切苦さいくよりのがるべし。

193 尊貴そんきひと得難えがたし、かれ各處かくしよしやうぜず、勇者ゆうしやしやうずるところ慶福けいふくぞくいたる。

194 諸佛しよぶつ出世しゆつせたのしく、妙法めうほふくはたのし、僧衆そうしゆ和合わがふたのしく、和合わがふするものの修行しゆぎやうたのし。

195 196 あらゆる迷妄めいまうち、とをえて、應供おうぐとくあるほとけまたは〔ぶつ弟子でし供養くやうするもの、かくごと得寂とくじやく離怖りふひと供養くやうするものの功德くどくは、何人なんびとこれかぞふべからず。

(1) 知覺の對境限りなきの意にて無限の境界を知覺し得るの意。 (2) 七佛通誠の偈として知らるる有名なる偈なり。 (3) 比丘比丘尼の大戒を指す。 (4) 苦集滅道の四諦なり。


安樂品あんらくほんだい十五

197 安樂あんらくぢゆうせん、怨念をんねんある人人ひとびとのうちにありて、怨念をんねんなく、怨念をんねんあるともがらうちに、怨念をんねんなくして、安樂あんらくぢゆうせん。

198 安樂あんらくぢゆうせん、煩惱ぼんなうある人人ひとびとうちにありて、煩惱ぼんなうなく、煩惱ぼんなうあるともがらのうちに、煩惱ぼんなうなくして安樂あんらくぢゆうせん。

199 安樂あんらくぢゆうせん、欲念よくねんある人人ひとびとうちにて欲念よくねんなく、欲念よくねんあるともがらうちに、欲念よくねんなくして安樂あんらくぢゆうせん。

200 安樂あんらくぢゆうせん、我等われらには我有がうあることなし、光音くわうおん天人てんにんごとく、喜悅きえつじきとせん。

201 ちてはうらみけては起居ききよなり。こゝろじやくなるものは勝負しようぶともなげうちて、起居ききよ安樂あんらくなり。

202 とんごとあるなく、しんごとつみあるなし、(1)蘊集をんしふごとあるなく、寂滅じやくめつまされるらくあるなし。

203 飢餓きが最大さいだいやまひ諸蘊しよをん最極さいごくなり、これじつごとくにれば、最勝さいしよう安樂あんらく涅槃ねはん〔を〕。

204 無病むびやう最上さいじやう知足ちそく最上さいじやうざいなり、信賴しんらい最上さいじやう親族しんぞくにして、涅槃ねはん最勝さいしよう安樂あんらくなり。

205 獨處どくしよ妙味めうみ寂靜じやくじやう妙味めうみとをあぢはひ、法悅ほふえつ妙味めうみうて怖畏ふゐもなく、またあくもなし。

206 聖者しやうしやるはく、おなじくむはつねらくなり、愚者ぐしやざればつねこころよからん。

207 愚人ぐじんともみちくものにはながうれひあり、愚者ぐしやともぢゆうするのなるは、てきと〔おなじくぢゆうするの〕つねに〔なる〕がごとし、賢者けんしや同住どうぢゆうしてたのしきものにして、親緣しんねん合會がふゑするのたのしきがごとし。

208 されば賢者けんしやと、智者ちしやと、多聞たもんと、重擔ぢゆうたんひ、禁戒きんかいある聖者しやうしやかくごときの善士ぜんし上智じやうちひとに〔よること〕、つき星道せいだうによるがごとくせよ。

(1) 五蘊の合會して成れる此の身體を云ふ。次偈に諸蘊と云へるも同じ。


愛樂品あいげうほんだい十六

209 非處ひしよきて是處ぜしよかず、てて、愛樂あいげうるものは、是處ぜしよきたるひとうらやむにいたる。

210 あいせるものとふことなかれ、にくめるものと〔ふこと〕なかれ、あいせるものをざるはにくめるものをるもまたなり〕。

211 されば何物なにものをも好愛かうあいするなかれ、愛者あいしやわかるるはわざはひなり、ひと愛憎あいぞうなければ纏結てんけつあることなし。

212 愛好あいかうより憂悲うひしやうじ、愛好あいかうより怖畏ふゐしやうず、愛好あいかうよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

213 親愛しんあいより憂悲うひしやうじ、親愛しんあいより怖畏ふゐしやうず、親愛しんあいよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

214 喜樂きらくより憂悲うひしやうじ、喜樂きらくより怖畏ふゐしやうず、喜樂きらくよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

215 貪欲とんよくより憂悲うひしやうじ、貪欲とんよくより怖畏ふゐしやうず、貪欲とんよくよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

216 渴愛かつあいより憂悲うひしやうじ、渴愛かつあいより怖畏ふゐしやうず、渴愛かつあいよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

217 淨戒じやうかい正見しやうけんとをし、ほふ依立えりつし、正理しやうりり、みづかおのれごふすもの、かくごとひとあいす。

218 (1)不言說ふごんぜつほふおいねんおこし、こころ滿足まんぞくし、諸欲しよよくおい著心ぢやくしんなきは上流じやうるひとしようせらる。

219 ひさしく異境ゐきやうにあり、とほくよりすこやかかへれるを、親知しんち朋友ほういう愛人あいじんかれきたるをむかふ。

220 おなじく、善業ぜんごふしてよりおもむけるを、福果ふくくわこれむかふ、あいするもののきたるを親知しんちむかふるがごとくに。

(1) 不言說の法とは言詮不及の法の意にて、涅槃を指す。


忿怒品ふんぬほんだい十七

221 忿ふんて、まんはなれ、もろもろ纏結てんけつえよ、名色みやうしきしふせず、我有がうなきひとにはきたることなし。

222 おこれる忿怒ふんぬせいすること、ころがくるませいするがごとくするもの、ひとをぞわれ調御者でうごしやふ、ただ手網たづなるものなり。

223 いかりあいもつち、不善ふぜんぜんもつつべし、吝嗇りんしよくには仁惠じんけいもつて、虛言きよごんひとには、實語じつごもつつべし。

224 じつを語れ、いかなかれ、すこしにてももとめられなばあたへよ、の三によりて諸天しよてんところいたれ。

225 害意がいいなき牟尼むにつねせつして、(1)不死ふしところいたる。彼處かしこいたりてはうれふることなし。

226 つね覺窹かくごし、晝夜ちうや勤學きんがくし、涅槃ねはんんとつとむるものの煩惱ぼんなうほろびん。

227 (2)阿偷羅アツラふるくして、いま出來いできたれるものにひとしからず、いはく「ひともくしてせるものをそしり、おほかたるものをそしり、すくなふものをもまたそしる、そしりけざるものなし。

228 つねただそしられ、つねただめらるるもの、過去くわこにあらざりき、未來みらいになけん、しかしていまもあらず。

229 230 多智たちひとし、おこなひしつなく、けんにして、智德ちとくそなはり〕、定意ぢやういあるものを、日日にちにちえず稱揚しようやうすることあらば、閻浮提金えんぶだごん貨幣くわへいごとく、たれひとそしんや、諸天しよてんこれめ、梵天ぼんてんこれめん。」

231 しん惡業あくごふ防護ばうごし、せいせよ、しん非業ひごふてて、善業ぜんごふしゆせよ。

232 惡業あくごふ防護ばうごし、くちせいせよ、非業ひごふてて、くち善業ぜんごふしゆせよ。

233 惡業あくごふ防護ばうごし、こころせいせよ、非業ひごふてて、こころ善業ぜんごふしゆせよ。

234 賢者けんしやせつし、さらくちつつしみ、せいせる賢者けんしやは、これ防護ばうごせるひとなり。

(1) 涅槃の意。 (2) 優婆塞の名なり、以下四偈は佛の此の優婆塞を敎へ給ひし時の偈なり。


垢穢品くゑほんだい十八

235 なんぢいまきばめるごとく、閻魔えんま使者ししやまたなんぢそばつ、門出かどでもんち、路資ろしなんぢにあるなし、

236 なんぢおのれとうとなり、はや精勤しやうごんして智者ちしやとなれ、〔さらば〕垢穢くゑはらひ、愛著あいぢやくはなれて、天上てんじやう聖地しやうちいたらん。

237 なんぢいま年老としおい、閻魔えんまそばきたれり、なんぢ途上とじやう休息きうそくところなく、路資ろしまたあるなし。

238 なんぢおのれとうとなり、はや精勤しやうごんして智者ちしやとなれ、〔さらば〕垢穢くゑはらひ、愛著あいぢやくはなれて、ふたた老死らうしることあらじ。

239 智者ちしやは〔ぎんぎんる〕がごとく、つぎひ、刹那せつな刹那せつなに、すこしづつ、おのれ垢穢くゑれ。

240 てつよりしやうじたるあかの、てつよりでててつむがごとく、分外ぶんぐわい受用じゆようのぞむものは、ごふのため惡趣あくしゆみちびかる。

241 咒神じゆしん垢穢くゑ讀誦どくじゆせざるなり、家屋かをく垢穢くゑ修理しゆりおこたるなり、しき垢穢くゑ怠慢たいまんにして、防護ばうご垢穢くゑ放逸はういつなり。

242 婦女ふじよ非行ひぎやうにして、施者せしや慳貪けんどんなり、(1)邪惡じやあくほふなり、にもにも。

243 これよりもさらおほあり、無明むみやう最大さいだいなり、てて、諸比丘しよびく無垢むくひととなれ。

244 慚恥ざんちねんなく、からすごとくにゆうに、傲慢がうまんに、無禮ぶれいに、自負心じふしんつよく、けがれたるものにはしやうやすし。

245 慚恥ざんちねんあり、つね淸白しやうびやくもとめ、ぢやくなく、自負心じふしんなく、淸淨しやうじやうしやういとなむものには〔しやうは〕かたし。

246 247 きたるをそこなひ、妄語まうごかたり、おいひとあたへざるをり、他人たにんまじはり、加之しかのみならず飮酒おんしゆふける人、かれおいおのれ脚下きやくかる。

248 なんぢかくごとくして節制せつせいなきことは、邪法じやほふなることをれ、貪望とんまう非法ひほふと、ながなんぢおちいるなからんことを。

249 ひと信仰しんかうしたがひ、このところほどこしをなす、ひとあたふる飮食おんじきたいして不滿ふまんいだくことあらば、かれ晝夜ちうやじやうることなし。

250 かかおもひち、根絕ねだやし、つくせるもの、かれこそは晝夜ちうやじやうべけれ。

251 とんごときはなく、執著しふぢやくしんごときはなし、あみごときはなく、ながれあいごときはなし。

252 他人たにんくわ見易みやすく、おのれくわ見難みがたし、他人たにんくわは〔これひらくこと〕ぬかひらくが如くし、しかおのれくわを〕おほふことは、いつはりある賭者としや骰子とうしかくすがごとくす。

253 くわもとめ、つね憤恚ふんいこころいだくものは、(3)益益ますますし、漏盡ろじんにはとほくしてとほし。

254 空中くうちうにはみちなく、沙門しやもんは〔佛法ぶつほふの〕ほかにはこれあらず、羣生ぐんしやう虛榮きよえいたのしみ、如來によらいには虛榮きよえいなし。

255 空中くうちうにはみちなく、沙門しやもんは〔佛法ぶつほふの〕ほかにはこれあらず、諸行しよぎやう常住じやうぢゆうなるなく、諸佛しよぶつには動著どうぢやくあるなし。

(1) 或は邪惡の法は垢なり。 (2) 九偈の註を見よ。 (3) 漏盡とは煩惱を盡すことにて、阿羅漢果に達するを云ふ、斯の如き人は煩惱を盡して阿羅漢果を得ること能はず。


法住品ほふぢゆうほんだい十九

256 ひとばうもつことけつする、かれこれによりて法住ほうふぢゆうひとたるにあらず、しやうじやともけつするものは賢者けんしやなり。

257 ばうならず、ほふにより、平等びやうどうみちびき、ほふまもらるる智者ちしや、〔かれぞ〕法住ほふぢゆうひととなへらる。

258ひとの〕おほくをかたる、〔かれこれによりて賢者けんしやたるにあらず、堪忍かんにんあり、いかりなく、おそれなき〔もの、かれぞ〕賢者けんしやとなへらる。

259ひとの〕おほくをかたるもいま持法者じほふしやたるにあらず、ほふくことすこしといへども、にてこれ(1)ほふ等閑とうかんにすることなくば、かれこそほふ護持者ごじしやなれ。

260ひとの〕かうべしろき、〔かれは〕これによりて長老ちやうらうたるにあらず、かくごときは、じゆじゆくして、むなしくいたるひととなへらる。

261 ひとたいと・ほふと・あいと・自約じやくと、自調じてうとあり、垢穢くうぇのぞきたる賢者けんしやこそは長老ちやうらうとなへらるれ。

262 ただ言語げんごありとも、またうつくしき形色ぎやうしきありとも、しつけん誑心わうしんあらば、ひと善貌ぜんばうのものにあらず。

263 あくち、根絕こんぜつつくして、瞋恚しんいのぞきたる智者ちしやこそは善貌ぜんばうひととなへらるれ。

264 自制じせいなくして、妄語まうごかたらば、かみるとも沙門しやもんにあらず。〔ひとし〕欲貪よくとんあらば、奈何いかでか沙門しやもんたりべき。

265 ひとすべ大小だいせうあくせいせば、〔かれは〕諸惡しよあくせいせるによりて、沙門しやもんなづけらる。

266 (2)に〔じきを〕ふがゆゑ比丘びくたるにあらず、一さいほふまなぶもいま比丘びくにあらず。

267 罪業ざいごふ福業ふくごふともてて、淸淨行しやうじやうぎやうひとたり、智慧ちゑもつ世界せかいわたるもの、かれ比丘びくしようせらる。

268 269 寂默じやくもくなりとも、にしてなくば牟尼むににあらず、(3)權衡けんかうるがごとく、(4)勝法しようほふり、邪業じやごふつる牟尼むには、かれこれによりて牟尼むになり、ひと(5)兩事りやうじともらば、かれこれによりて牟尼むにとなへらる。

270 生命せいめいそこなふがゆゑ(6)しやうなるにあらず、一さい生類しやうるゐそこなはざるがゆゑ聖者しやうしやなづけらる。

271 272 (7)戒禁かいきんによりても、また(8)多聞たもんによりても、また得定とくぢやう獨臥とくぐわによりても、聖者しやうしやうくべき出離しゆつりらくるることなし、比丘びく漏盡ろじんたつするなくして自恃じぢすることなかれ。

(1) 僅にても聞きては、法に隨ひ、義に隨ひ、大法小法の依行者となり、身に苦等を知りて、四聖諦を見ると解せり。 (2) 比丘には種々の義あれど、中に乞人、乞士等と譯し、他に食を乞ふものゝ義ありとなす。 (3) 權ははかり、衡はおもりなり、權衡を取りて物を量らんとするものは、多きに過ぐれば取去り、少ければ更に加ふ、惡を棄てて善を取るも亦斯の如し。 (4) 勝法とは戒定慧解脫解脫智見を云ふ、此の蘊等の世界に於て、衡を擧げて度るが如く、此等は內蘊なり、此等は外蘊なり等、斯の如の法により、兩義共に量るを云ふ。 (5) 內外上下等の別を知るの意。 (6) 聖者の原語、Ariyaアリヤ の aria には「敵」の意あり、故に生命を害ふ云云と云ふ。 (7) 四作淨戒又は十三頭陀行を行ふを云ふ。 (8) 三藏學を習するを云ふ。


道品だうほんだい二十

273 (1)だうみち最妙さいめう(2)諦理たいり最上さいじやう離欲りよくほふ最勝さいしようにして、(3)具眼者ぐげんしや兩足中りやうそくちう最尊さいそんなり。

274 知見ちけんきよくするのみち〔のみちに〕ほかならず、汝等なんぢらみちめ、困惑こんわくするものなり。

275 汝等なんぢらいちけば、苦盡くじんたつす、われ(4)除箭ぢよせんの〔ほふ〕をりて、汝等なんぢらのためにみちきたり。

276 汝等なんぢらのなすべきは努力どりよくなり、如來によらい說者せつしやなり、禪思ぜんしひとにして〔みちを〕くものはばくのがる。

277 「一切行さいぎやう無常むじやうなり」と、もつかくごととき苦界くかい嫌厭けんをんじやうおこる、(5)じやうるのみちなり。

278 「一切行さいぎやうなり」と、もつかくごととき苦界くかい嫌厭けんをんじやうおこる、じやうるのみちなり。

279 「一切法さいほふ無我むがなり」と、もつかくごととき苦界くかい嫌厭けんをんじやうおこる、じやうるのみちなり。

280 つべきときたず、わかく、つよくして、怠惰たいだおちいり、意志いし思想しさうよわくしてことものうきもの、かか逸者いつしやみちず。

281 ことばつつしみ、せいし、不善ふぜんさず、此等これらの三を業道ごふだうより淨除じやうぢよせば、諸大仙しよだいせんたまへるみちん。

282 應念おうねんより智慧ちゑしやうじ、不應念ふおうねんなれば智慧ちゑほろぶ、非有ひうと、二しゆみちりて、智慧ちゑすがごとく、しかおのれしよせよ。

283 (6)煩惱ぼんなうの〕はやしれ、ひとじゆを〔る〕なかれ、はやしよりは危難きなんきたる、はやし下生したばえとをらば、比丘等びくら煩惱ぼんなうはやしなきひととならん。

284 男子なんし女子によしたいする煩惱ぼんなうすこしにてもたれざるところあらば、かれこころとらはる、にうむさぼこうし母牛ぼぎうけるがごとくに。

285 自己じこ愛念あいねんつこと、ぎうもつ秋時しうじはすを〔る〕がごとくし、善逝ぜんざいたまひし(7)寂靜じやくじやうみち涅槃ねはん增長ぞうちやうせよ。

286此處ここ雨時うじすごさん、寒暑かんしよあひだ此處ここに〔ぢゆうせん〕」と、愚人ぐじん思惟しゆゐしてちかづくことをさとらず。

287 ちくあいおぼれ、らくふけるものを、死王しわうらつること、ねむれる村里そんり大水だいすゐただよはしるがごとし。

288 も、ちちも、親族しんぞく恃怙じこにあらず、死王しわうとらへられたるものには親族しんぞく恃怙じこたらず。

289 かいによりてみづかせいせる賢者けんしやは、りて、涅槃ねはんおもむみちきよくせよ。

(1) 八正道を云ふ。 (2) 四聖諦の謂なり。 (3) 佛を云ふ。 (4) 欲等の箭を除くの法。 (5) 淨とは涅槃の謂なり。以下三偈皆同一の意に見よ。 (6) 天然の林間に猛獸毒蛇等の危險あるが如く、貪瞋癡煩惱の林にも種種の危難あり、由りて煩惱を林に譬へたるなり、或は Vanaヴナ (林) Vanathaヴナタ (下生)には共に又煩惱、欲等の意あり、三四四偈參照。 (7) 或は、寂靜の道を增長せよ、涅槃は善逝の說き給ひし所なり。


廣衍品くわうえんほんだい二十一

小樂せうらくてて、大樂だいらくるべくば、賢者けんしや大樂だいらく小樂せうらくつべし。

291 あたへて、おのれらくのぞむものは、怨憎をんぞう擊縛けばくほだされて、怨憎をんぞうよりのがるることなし。

292 すべきことをさず、すべからざることをし、虛誇きょこにして〔しかも〕怠惰たいだなるもの、かかひと諸漏しよろ增長ぞうちやうす。

293 ひとつね精進しやうじんして、觀念くわんねんしゆし、非事ひじとほざかりて、つね是事ぜじおこなひ、しかしてねんかくとあり、かかひと諸漏しよろ滅盡めつじんいたる。

294 (1)ははちちとをころし、兩刹利王りやうぜつりわうころし、國土こくども、依屬えぞくあはほろぼして、婆羅門ばらもん苦患くげんなきにいたる。

295 ははちちとをころし、(2)兩婆羅門りやうばらもんころし、だい五に虎類こるゐめつして婆羅門ばらもんなきにいたる。

296 (3)瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、彼等かれら晝夜ちうやつねねんずるところぶつにあり。

297 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、彼等かれら晝夜ちうやつねねんずるところほふにあり。

298 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、彼等かれら晝夜ちうやつねねんずるところそうにあり。

299 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、こころ晝夜ちうやつね身念しんねんぢゆうして。

300 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、こころ晝夜ちうやつね不害ふがいたのしみて。

301 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、こころ晝夜ちうやつね修習しゆじふたのしみて。

302 出家しゆつけかたく、〔を〕たのしむはかたく、庵〔ぢゆう〕はなん在家ざいけぢゆう〕はかたく、同輩どうはいむはかたく、旅人りよじんなんおちいる、されば旅人りよじんたるなく、なんおちいるなかれ。

303 しんありて戒德かいとく具有ぐいうし、とみとをてるものは、えらところしたがひ、隨所ずゐしよ恭敬くぎやうせらる。

304 善人ぜんにんとほあらはるること、雪山せつざんごとく、不善者ふぜんしやあらはるることなき、夜陰やいんとうぜるごとし。

305 獨坐どくざ獨臥どくぐわ獨經どくきやうぎやうしてむことなく、ひとおのれせいして林邊りんぺんたのしむものたれ。

(1) 「愛は人を生む」と云ふ句よりしてを母と云ひ、「我は某なる王の子、某なる大臣の子なり」と云ひ、父によりて我慢の心起る,よりて我慢を父と云ふ、兩刹利王とは斷見常見の二、國土とは十二處、而して依屬とは十二處附隨の諸煩惱を云ふ。 (2) 兩婆羅門王とは斷常の二見、虎類とは此處にては疑藎を指すと註解書に釋せり。 (3) 瞿曇又は喬答摩は釋迦族の姓なるが故に、釋尊を時には瞿曇佛と呼びたり。


泥犂品ないりほんだい二十二

306 (1)非事ひじかたるものは泥犂ないりる、してさずと云ふものもまた此等これら兩者りやうしや死後しごおなじ、劣業れつごふひと來世らいせに〔ありてはおなじ〕。

307 邪業じやごふにして、自制心じせいしんなく、くび黃衣わうえまとへる衆多しゆたひと此等これら邪業じやごふひと邪業じやごふため泥犂ないりつ。

308 かいやぶり、自制心じせいしんなくして(2)信施しんせくるよりは、ねつして火熖くわえんたる鐵丸てつぐわんむぞまされる。

309 ひと怠惰たいだにして、たのしむるものには、四きたる、不善業ふぜんごふて、安臥あんぐわず、だい三に毀訾きしだい四に泥犂ないり

310 不善業ふぜんごふおもむところ惡趣あくしゆおそおそれたるもののらくすくなく、わうこれ重罰じゆうばつくはふ、さればひとたのしまざれ。

311 (3)功祚くそさうは、これつかむことしければ、る、沙門しやもんみちも、これおこなうてよろしからざれば、泥犂ないりみちびく。

312 放逸はういつなる行爲かうゐけがれたる禁戒きんかい猶豫ゆうよして梵行ぼんぎやうおこなふ、これとも大果だいくわもたらすものにあらず。

313 ことすべくばこれをし、斷斷乎だんだんことして奮迅ふんじんせよ、そは放逸はういつなる沙門道しやもんだう塵垢ぢんくさんずることおほければなり。

314 惡業あくごふさざるぞき、惡業あくごふのちいたりて、まねく、してまねくことなき善業ぜんごふは、これをすぞき。

315 邊地へんち都府とふ內外ないげともまもるがごとく、しかおのれまもりて瞬時しゆんじいつすることなかれ、瞬時しゆんじゆるがせにするものは地獄ぢごくちてうれかなしむ。

316 づべからざるにぢ、づべきにぢず、邪見じやけんぢやくせる衆生しゆじやう惡趣あくしゆおもむく。

317 おそれなきところおそれおそるべきところおそれず、邪見じやけんぢやくせる衆生しゆじやう惡趣あくしゆる。

318 くわなきにくわねんし、くわあるにくわず、邪見じやけんぢやくせる衆生しゆじやう惡趣あくしゆいたる。

319 くわくわくわなきをくわなしと正見しやうけんいだける衆生しゆじやう善趣ぜんしゆうまる。

(1) 諸經要集六六三偈。 (2) 國民の信仰によりて施す供養物。 (3) 茅に似たる草の一種。


象品ざうほんだい二十三

320 われは戰場せんぢやうおもむけるざうの、ゆみはなれたるを〔しのぶ〕がごとく、罵詈ばりしのぶ、羣生ぐんじやうは、破戒はかいなればなり。

321ひとは〕調なづけたるを戰場せんぢやうき、わうれたるにる、ひとなかにて、自制心じせいしんあり、罵詈ばりしのぶは最第さいだい一なり。

322 れたるはく、氣高けだか(1)辛頭馬しんづばし、大龍だいりゆう象王ざうわうく、おのれせいせるものはさらし。

323 此等これら乘物のりものに〔り〕ては、〔ひとは〕(2)不至ふしいたることなし、おのれせいせるものは、自制じせいによりて、〔ところに〕たつすること、れたるに〔りてくがごとし〕。

324 護穀ダナパーラガなづくるざうの、はげしくくるひて、禁制きんせいがたきも、ばくせられてはじきくらふことなし、ざうざう〔のむ〕はやし愛慕あいぼす。

325 懶惰らいだにして飽食はうしよく長眠ちやうみん轉輾てんでんしてぐわする愚者ぐしやは、供食くじきもつはるる大豕だいしごとく、數數しばしば胞胎はうたいる。

326 (3)こころかつて、のぞみにより、よくしたがひ、らくまかせて流轉るてんしたり、われ今日こんにちこれせいすること、象師ざうし猛象みやうざうを〔せいする〕がごとくせん。

327 精勤しやうごんらくとせよ、おのれこころ防護ばうごせよ、難處なんしよよりくこと、泥中でいちうおちゐれるざうごとくせよ。

328 思慮しりよある、善行ぜんぎやう賢者けんしやを、同行どうぎやうともば、一さい危難きなんち、歡喜くわんぎ思惟しゆゐして、かれともおこなへ。

329 思慮しりよある、善行ぜんぎやう賢者けんしやを、同行どうぎやうともずば、わうりたるくにつるがごとく、摩登伽マータンガりんちうざうごとく、ただひとおこなへ。

330 ひとむこそけれ、愚者ぐしやともたるはなし、ひとおこなうて惡事あくじなかれ、寡欲くわよくなること摩登伽マータンガりんちうざうごとくなれ。

331 ことおこればともらく滿足まんぞく何處いづこよりきたるもたのし、命終みやうじゆうにも善行ぜんぎやうたのしく、一さいつるはたのし。

332 ははたるはたのしく、ちちたるはたのし、沙門しやもんたるはたのしく、婆羅門ばらもんたるはたのし。

333 老後らうごいたるまで、かいたもつはらく正信しやうしんつるはらく智慧ちゑるはたのしく、あくさざるはたのし。

(1) 辛頭・信度・仙陀婆・印度河の流域地方にして名馬を產す。 (2) 不至の地とは涅槃の境を云ふ。 (3) 長老偈七七、一一三〇


愛欲品あいよくほんだい二十四

334 放逸行はういつぎやうひとには、愛欲あいよく增長ぞうちやうすること、蔓草まんさうごとし、かれ生生しやうしやう轉輾てんでんすること、林中りんちう果實くわじつもとむるさるごとし。

335 いやしくして、(1)どくある愛欲あいよくひとたば、かれ憂苦うく增長ぞうちやうすること、(2)さかふる毘羅那ビーラナさうごとし。

336 ひとし、いやしくして、せいがた愛欲あいよくたば、憂苦うくかれること、蓮葉れんえふよりつる水滴すゐてきごとし。

337 さればわれ汝等なんぢらげん「汝等なんぢらここあつまれるものにさいはひあれ、愛欲あいよくること、優尸羅ウシーラもとむるものの、毘羅那ビーラナを〔る〕がごとくし、汝等なんぢら葦草ゐさう水流すゐりうらるるがごとく、數數しばしばやぶらるるなかれ。」

338 たとへばの、わざはひなくして、つよければ、るともふたたしやうずるがごとく、愛執あいしふこれつことなくば、再再さいさいおこる。

339 三十六りう愛樂あいげうながれだいなるときは、よく沒在ぼつざいせる意志いし水流すゐるは、〔の〕邪見じやけん〔のひと〕をはこる。

340よくは一切處さいしよながれ、葛藤かつとう萌芽ほうがしてそんす、葛藤かつとうしやうずるをば、智慧ちゑもつて。

341 衆生しゆじやうあいせるもの、よろこべるものは、くことはやし、よくおぼれ、らくもとむるもの、彼等かれら老死らうしいたる。

342 よくまとはれたる衆生しゆじやうは、わなとらはれたるうさぎごと奔馳ほんちす、結使けつしめにばくせられ、再再さいさいふことひさし。

343 よくまとはれたる衆生しゆじやうは、わなとらはれたるうさぎごと奔馳ほんちす、されば離塵りぢんのぞめる比丘びくは、おのれ愛欲あいよくつべし。

344 ひと(3)矮林わゐりん〔=よく〕をりて、(4)叢林さうりん〔=よく〕にり、一りん〔=よく〕をのがれて一りん〔=よく〕にるもの、ひとよ、〔ばくを〕だつしてしかばくおもむくなり。

345 てつや、や、またくさにてれるものは、賢者けいしやこれかたばくしようせず、珠環しゆくわんと、妻子さいしとのよく貪著とんぢやくするところつよし。

346 賢者けんしやは、これをぞつよくして〔ひと惡趣あくしゆに〕おとし、かたくしてがたばくふ、ひとこれやぶりて、無欲むよく〔のとなり〕、愛樂あいげうてて出家しゆつけす。

347 よくたのしむものは〔よくの〕ながれしたがつてくだること、蜘蛛くもみづかつくりたるあみを〔くだる〕がごとし、賢者けんしやこれやぶりて、よくなく、所有あらゆる苦惱くなうててる。

348 さきなる〔=過去かこ〕をて、あとなる〔=未來みらい〕をて、なかなる〔=現在げんざい〕をてよ、〔くするものは〕生有しやうう彼岸ひがんいたれるなり、一切處さいしよ著心ぢやくしんなければ、さら生老しやうらうほださるることあらじ。

349 疑念ぎねんのためにこころなやみ、よくさかんにして、不淨ふじやうじやうひとは、愛念あいねん益益ますます增長ぞうちやうす、かかひとは〔の〕ばくかたくするなり。

350 疑念ぎねんめつよろこび、つね念覺ねんかくありて、不淨觀ふじやうくわんしゆす、かれは〔の〕愛念あいねんほろぼさん、かればくたん。

351 (5)圓成ゑんじやうゐきたつし、怖畏ふゐなく、あいはなれ、ぢやくなく、生有しやうういばらてり、最後身さいごしんなり。

352 あいはなれ、ぢやくり、(6)詞句しくたくみに、(7)つづりたる文字もんじと、前後ぜんごとをす。かれ(8)最後身さいごしんにして、大智者だいちしや大丈夫だいぢやうぶしようせらる。

353 (9)われ所有あらゆるものにち、所有あらゆるものをり、所有あらゆるほふおいけがさるるところなし、所有あらゆるものをて、(10)愛盡あいじんうへおい解脫げだつたり。みづかさとりて、まただれをか〔と〕あふがんや。

354 法施ほふせは、所有あらゆるち、法味ほふみは、所有あらゆるち、法樂ほふらくは、所有あらゆるらくち、愛盡あいじんは、所有あらゆるつ。

355 ざい劣智れつちひとそこなへども(11)度脫どだつもとむるひとを〔そこなふこと〕なし、財欲ざいよくのために無智者むちしやそこなふこと、〔ほ〕を〔そこなふ〕がごとし。

356 惡草あくさうのためにそこなはれ、羣生ぐんじやう貪欲とんよくのためにそこなはる、されば離欲りよくひとほどこせる〔もの〕には、大果報だいくわはうあり。

357 惡草あくさうのためにそこなはれ、羣生ぐんじやう瞋恚しんいのためにそこなはる、されば離瞋りしんひとほどこせる〔もの〕には、大果報だいくわはうあり。

358 惡草あくさうのためにそこなはれ、羣生ぐんじやう愚癡ぐちのためにそこなはる、されば離癡りちひとほどこせる〔もの〕には、大果報だいくわはうあり。

359 惡草あくさうのためにそこなはれ、羣生ぐんじやう意欲いよくのためにそこなはる、されば離慾りよくひとほどこせる〔もの〕には、大果報だいくわはうあり。

(1) Visattikāボサッチカー を『長老偈』三九九偈の英譯にてリス・デビヅ夫人は The poisoner of all mankind とす、あらゆる人類を毒するものの意、欲望の意もあり。 (2) 學名を Andropogon murica tum と云ふ、一種の香草なり、其の敎を優尸羅と云ふ、三三七偈を見よ。 (3) Vanathaヴナタ には矮樹林下生園欲等の意あり。 (4) Vanaヴナ にも森林叢林園欲等の意あり。 (5) 阿羅漢果を指すと釋せり。 (6) 言語文句。 (7) 文字を集めたるもの、卽ち文章と、文章中文字の前後。 (8) 阿羅漢や獨覺や佛は一旦無餘涅槃に入れば、再び世に出ることなし、故に此等を指して最後身の人と云ふ。 (9) 諸經要集二一一偈、イチウッタカ一一二偈、マハーヷッガ(大品)一の六參照。 (10) 愛欲、愛會を盡すことにて阿羅漢果を云ふ。 (11) 彼岸に達せんと願へる人。


沙門品しやもんほんだい二十五

360 もつて〔みづから〕せつするはく、みみもつて〔みづから〕せつするはし、はなによりてせつするはく、したうへに〔みづから〕せつするはし。

361 おいせつするはく、ことばおいせつするはし、もつせつするはく、一切處さいしよせつするはし。一切處さいしよせつするところある比丘びくもろもろ苦痛くつうよりのがる。

362 防護ばうごし、あし防護ばうごし、ことば防護ばうごするは防護ばうごするのうへなり、うちらくあり、ぢやうあり、獨居どくごして、ることをるもの、かれを〔ひとは〕比丘びくぶ。

363 比丘びくの、くち防護ばうごし、適度てきどかたりて、(1)調戯でうげならざるれ、〔し〕ほふとをあかさば、ところは、甘味かんみなり。

364 ほふ樂園らくゑんとし、ほふたのしみ、ほふ思惟しゆゐし、ほふ憶念おくねんする比丘びくは、正法しやうぼふより退墮たいだすることなし。

365 おのれところこれかろんぜざれ、の〔ところこれを〕うらやまざれ。の〔ところを〕うらや比丘びく安定あんぢやうることなし。

366 ところすくなしといへども、比丘びくこれかろんぜざれば、諸天しよてんは、(2)淨活命じやうくわつみやう不屈撓ふくつたう〔のひと〕を讃歎さんだんす。

367 名色みやうしきうへおいて、すべ我有がうねんなく、また(3)消滅せうめつをもうれひとせざれば、ひとかれ比丘びくぶ。

368 比丘びく慈悲じひぢゆうし、ほとけをしへよろこべるものは、靜穩じやうをんところ諸行しよぎやう息止そくし安樂あんらくん。

369 比丘びく(4)ふねめ、まばなんぢの〔ふね〕ははやはしらん、貪欲とんよく瞋恚しんいとをてて、それよりなんぢは、涅槃ねはんたつせん。

370 (5)五をち、(6)五をて、更に(7)五をしゆせよ、(8)ぢやくえたる比丘びくは、暴流ばうるわたりたる〔ひと〕としようせらる。

371 比丘びく禪思ぜんしせよ、怠惰たいだなるなかれ、こころ諸欲しよよくまよはしむるなかれ、怠惰たいだにして〔地獄ぢごくねつてつぐわんなかれ、〔獄火ごくくわに〕かれて「くるし」とさけぶことなかれ。

372 なきものにぜんなく、ぜんなきものにはなし、ひとぜんとあらば、かれ涅槃ねはんちかづけるなり。

373 空屋くうをくりて、こころ寂靜じやくじやうにしたる比丘びくまさしくほふくわんさつせば、樂人界らくにんがいうへづ。

374ひとし〕種種しゆじゆはうによりて、諸薀しよをん起滅きめつ思念しねんすれ ば、〔ほふ、〔ほふえつ智者ちしやの、甘露味かんろみとする所なり。

375 376 此處ここをしへおいて、ある比丘びくすべきことなり、諸根しよこん防護ばうごし、ることをり、かいもつて〔みづから〕せつす、善良ぜんりやうなるともの、淸淨しやうじやう生活せいかつし、精勤しやうごんなるものとまじはれ、慈悲じひおこなひ、義務ぎむまつたうせよ。それより歡喜くわんぎおほくして苦惱くなうつくすにいたらん。

377 しぼみたる(9)拔師迦ヷッシカーさうはなつるがごとく、しか貪欲とんよく瞋恚しんいとをてよ、諸比丘しよびく

378 しづかにし、ことばしづかにし、寂靜じやくじやう安定あんぢやうにして世樂せらくてたる比丘びくこれ安息あんそくの〔ひと〕とふ。

379 おのおのれいましめ、おのおのれあらためよ、比丘びくよ、く〔せばなんぢは〕みづか防護ばうごし、正念しやうねんありて、安穩あんのんぢゆうせん。

380 げにおのれおのれしゆ、げにおのれおのれ依所えしよなり、されば、おのれ調御でうごすること、商估しやうこ良馬りやうめを〔調御でうごする〕がごとくせよ。

381 歡喜くわんぎおほく、ほとけをしへよろこべる比丘びくは、靜隱じやうをん諸行しよぎやう息止そくし安樂あんらくん。

382 比丘びく年少ねんせうなりとも、ほとけをしへ精勤しやうごんせば、かれ世閒せけんてらすこと、雲閒くもまでたる月輪ぐわつりんごとくならん。

(1) 調戯又は掉擧とも云ふ、心の浮きて落著かざる狀態を指して云ふ。 (2) 淸淨なる生活を營む人を云ふ。 (3) 名色を指して云ふ。 (4) 此の身より邪思惟の水を除くを云ふ。 (5) 五下分結、欲界に屬する五種の煩惱、欲界貪・瞋・身見・戒禁取見・疑。 (6) 五上分結、色無色の上二界に屬する五種の煩惱、色界貪・無色界貪・慢・掉擧・無明。 (7) 五根、信・進・念・定・慧。 (8) 五種の著、貪・瞋・癡・慢・見。 (9) Vassikāヷッシカー.


婆羅門品ばらもんほんだい二十六

383 努力どりよくしてながれ諸欲しよよくれ、(1)婆羅門ばらもん諸行しよぎやうめつさとれば、婆羅門ばらもんなんぢ(2)無爲むゐ〔のほふ〕をらん。

384 婆羅門ばらもんし〔止觀しくわんの〕二ほふおいて、彼岸ひがんたつするときは、智者ちしや愛結あいけつすべくるにいたる。

385 ひと(3)彼岸ひがんなく此岸しがんなく、彼此兩岸ひしりやうがんともになし、怖畏ふゐはなれ、愛結あいけつのぞきたる、かくごときをわれ婆羅門ばらもんぶ。

386 禪思ぜんしありて、離垢りくもとめ、所作しよさすでべんじて、あるなく、最上利さいじやうりたつせるもの、われはこれを婆羅門ばらもんぶ。

387 ひるり、つきよるかがやく、武服ぶふくせる刹利種せつなしゆひかり、禪思ぜんしある婆羅門ばらもんひかる、されどほとけ威光ゐくわうもつすべ晝夜ちうやひかる。

388 惡業あくごふのぞけるは婆羅門ばらもんぎやうしづかにせるは沙門しやもんしようせらる、おのれ(5)垢穢くゑてたるによりて、かれ出家者しゆつけしやしようせらる。

389 婆羅門ばらもんなかれ、婆羅門ばらもんは〔たるるとも〕いかりはななかれ、わざはひあれ、婆羅門ばらもんつものに。さらわざはひあれ、〔たれて〕いかるものに。

390 婆羅門ばらもんこころ愛好あいかう〔するところ〕よりとほざくれば、これかれせうならざる利益りやくあり、〔を〕がいするこころゆるごと苦惱くなうまたしたがつてめつす。

391 ひとにも、ことばにも、こころにも、惡作あくさなく、三しよせつするところある、われこれ婆羅門ばらもんぶ。

392ひと〕より〔きて〕ほとけたまひしほふさとらば、〔の〕をうやまふこと、婆羅門ばらもん火祠くわしを〔うやまふ〕がごとくせよ。

393 婆羅門ばらもん結鬘けつまんしやうしやうとにるにあらず、ひと諦理たいりほふとあらばかれ淸白しやうびやくなり、又婆羅門ばらもんなり。

394 愚者ぐしやよ、結鬘けつまんは、なんぢなん〔のよう〕かある、皮衣ひえなんぢなん〔のよう〕かある、なんぢうち愛著あいぢやくを〔いだきて〕、ただほかきようす。

395 弊衣へいえたるひとせて、脈管みやうくわんあらはるるにいたり、ひと林閒りんかんに〔りて〕禪思ぜんしせるもの、これわれ婆羅門ばらもんぶ。

396 (6)われ(7)婆羅門女ばらもんによの〕たいよりで、〔婆羅門ばらもんの〕ははよりうまれたるのゆゑもつ婆羅門ばらもんぶことなし、かれ我有がうあらば、かれは〔われを〕(8)ボーぶのなり、我有がうなく取著しゆぢやくなきもの、これわれ婆羅門ばらもんぶ。

397 所有あらゆる愛結あいけつち、おそるるところなく、ぢやくえ、はなれたるもの、ひとわれ婆羅門ばらもんぶ。

398 (9)ひもくだなはとを、これぞくするものとともに、あはち、梁木はりきくだきたる智者ちしや、われはひと婆羅門ばらもんぶ。

399 惡罵あくめも、打擲ちやうちやくも、監禁かんきんいかることなくして默受もくじゆし、堪忍力かんにんりきありて、こころたけひと、われはかくごとひと婆羅門ばらもんぶ。

400 忿怒ふんぬなく、ぎやうあり、かいあり、よくはなれ、自調じてうして、最後身さいごしんたつせるもの、われこれ婆羅門ばらもんぶ。

401 荷葉かえふうへなるみずごとく、きりさきなる罌粟けしごとく、諸欲しよよくぜんせざるもの、われこれ婆羅門ばらもんなづく。

402 おのれ苦惱くなう此處ここほろぶるをり、重擔おもにおろし、繫縛けばくはなれたるもの、われこれ婆羅門ばらもんしようす。

403 深智しんちあり、賢才けんさいありて、道非道だうひだうわきまへ、最上利さいじやうり到達たうたつせるもの、われこれ婆羅門ばらもんぶ。

404 在家人ざいけにんにも、出家人しゅつけにんにも、あひだまじはらず、いへなくして遊行ゆぎやうし、よくすくなきもの、われはひと婆羅門ばらもんふ。

405 よわきもつよきも、有情うじやうたいして刀杖たうじやうくはえず、これそこなふことなく、ころさしむることなき、ひとわれ婆羅門ばらもんぶ。

406 敵意てきいあるひとあひだにありて敵意てきいなく、暴者ばうしやうちにありてこころあたたかに、取著しゆぢやくあるひとうちにありて取著しゆぢやくなき、これわれ婆羅門ばらもんなづく。

407 ひととんと、しんと、まんと、ふくともつること、錐頭きりさき罌粟けしごとくなる、われこれ婆羅門ばらもんなづく。

408 ならず、意義いぎふくみて、まことなることばき、これによりていからしむることなき、われはこれ婆羅門ばらもんしようす。

409 にありて、ながきもみじかきも、せうなるもだいなるも、きもあしきも、あたへられざるをることなき、われこれ婆羅門ばらもんなづく。

410 にもにも、欲望よくもうあるなく、意樂いげうなく、繫縛けばくはなれたる、われこれ婆羅門ばらもんと云ふ。

411 ひと依處えよなく、智慧ちゑありて、疑惑ぎわくなく、不死ふし極處ごくしよいたれる、ひとわれ婆羅門ばらもんぶ。

412 此處ここ福業ふくごふも、罪業ざいごふともに〔のがれて〕、ぢやくぶくし、うれひなく、ぜんなく、淸淨しやうじやうなるもの、ひとわれ婆羅門ばらもんぶ。

413 くもりなきつきごとく〔こころきよく、み、にごりなく、歡樂くわんらくこころきたるひとわれこれ婆羅門ばらもんしようす。

414 泥途でいと難路なんろ輪廻りんね愚癡ぐちえ、わたりて彼岸ひがんいたり、禪思ぜんしありて、よくなく、うたがひなく、しふなくして靜穩じやうをんせる、われ〔のひと〕をんで婆羅門ばらもんふ。

415 此處ここ諸欲しよよくて、いへはなれて遊行ゆぎやうし、欲有よくうめつしたるひとこれわれ婆羅門ばらもんぶ。

416 此處ここ愛著あいぢやくて、いへはなれて遊行ゆぎやうし、愛有あいうめつしたるひとわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

417 人界にんがいばくて、天界てんかいばくえたり、所有あらゆる繫縛けばくはなれたるひとわれこれ婆羅門ばらもんふ。

418 らく非樂ひらくとをて、淸涼しやうりやうして、有質うぜつなく、所有あらゆる世閒せけんちたる勇士ゆうしわれひと婆羅門ばらもんふ。

419 すべ有情うじやうしやうとをり、執着しふぢやくねんなき善趣ぜんしゆ智者ちしやわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

420 諸天しよてんも、乾闥婆けんたつばも、人閒にんげんも、みちうかがるなし、漏盡ろじん阿羅漢あらかんわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

421 過去くわこにも、未來みらいにも、中閒ちうげんにも、おのれとすべきものなし、我有がうなく取著しゆぢやくなき、われこれ婆羅門ばらもんぶ。

422 最雄さいゆう最勝さいしようひと勇士ゆうし大仙だいせん勝者しようしや無欲むよくにしてがくをはりたる智者ちしやわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

423 宿世しゆくせ天界てんかい惡趣あくしゆとをさらしやう滿盡まんじんいたり、きよくたつしたる牟尼むににして、すべはたすべきをはたしたるひとわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

(1) 此の偈以下、偈每に「婆羅門」の語を用ふ、是れ印度四姓中の婆羅門を指すにあらずして、煩惱を滅し惡業を除きたる人の義に用ひたるなり。 (2) 涅槃の謂なり。 (3) 法句經註解書には、彼岸此岸、彼此岸を、內の六入外の六入內外の六入なりと解し、アンデルゼンは、來生此生、及び全一生なりと註し、而も疑を存せり。 (4) 阿羅漢果を云ふ。 (5) 愛欲等の諸煩惱。 (6) 以下四二三偈まで諸經要集六二〇-六四七偈參照。 (7) 生のために、母のために婆羅門と呼ぶことなし。 (8) 所謂四姓中の婆羅門族に生れたるものは世尊を呼ぶに bhoボー (爾又は友)の語を以てせり、故に彼を稱して bhovâdiボーヷーヂ (佛を呼ぶに爾の語を以てするもの)と名けたり。 (9) 紐は忿に譬へ、緖は愛に、索は六十二見に、梁木は之を無明に譬ふ、而して智者とは四諦の理を知りたる人の謂なり。


國譯法句經