國譯法句經

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こくやくほふきやう

祥者しやうしや尊貴者そんきしや正遍覺者しやうへんかくしや歸命きみやう


雙雙品さうさうほんだい

1 諸法しよほふこころみちびかれ、こころべられ、こころつくらる、〔ひとけがれたるこころもつて、ものいおこなはば、それよりして、かれしたがふこと、車輪しやりんの、これけるもののあとに〔したがふ〕がごとし。

2 諸法しよほふこころみちびかれ、こころべられ、こころつくらる、〔ひときよこころもつて、ものいおこなはば、それよりして、らくかれしたがふこと、なほかげの〔かたちを〕はなれざるがごとし。

3 「〔かれわれののしれり、てり、やぶれり、わらへり」と、かかおもひいだけるものは、うらみくることなし。

4 「〔かれわれののしれり、てり、やぶれり、わらへり」と、かかおもひいだかざるものはうらみく。

5 おいうらみうらみもつてしてはつひくべからず、あいもつてぞくべき、これ(1)永劫えいごふ不易ふえきほふなり。

6我等われら此處ここ(2)ほろぶるものなり」と、(3)愚者ぐしやこれさとらず、ひとこれさとれば、それよりしてあらそひむ。

7 (4)淸淨觀しやうじやうくわんいだきてぢゆうし、(5)諸根しよこんせつすることなく、飮食おんじきおいりやうべんぜず、怠惰たいだにして、精勤しやうごんらざるもの魔王まわうかかひとうごかすこと、かぜよわを〔うごかす〕がごとし。

8 不淨觀ふじやうくわんいだきてぢゆうし、諸根しよこんせつし、飮食おんじきおいりやうべん   じ、信心しんじんあり、精勤しやうごんなるもの、魔王まわうかかひとうごかすことなき、かぜ石山せきざんけるがごとし。

9 ひとにして煩惱ぼんなうなきものこそ、黃色わうじき衣服えぶくくベけれ、調御でうごなく、實語じつごなきもの、かれ黃衣わうえ相應ふさはしからず。

10 すでもろもろ(6)て、かい安住あんぢゆうし、調御でうごあり實語じつごあるもの、かれにこそ黃衣わうえ相應ふさはしけれ。

11 (7)非精ひせいいて(7)せいおもひをなし、せいうへ非精ひせいを見るもの、此等これら(8)邪思境じやしきやうひとは、〔つゐに〕せいることあらじ。

12 せいせいとしてり、非精ひせい非精ひせいとしてる、此等これら(8)正思境しやうしきやうひとこそ、せいたつするをべきなれ。

13 わるきたる屋舍をくしやは、あめこれをかすが如く、修練しゆれんせざるこころ愛欲あいよくこれをかす。

14 きたる屋舍をくしやは、あめこれをかすことなきがごとく、修練しゆれんしたるこころ愛欲あいよくこれをかすことなし。

15 此處ここうれひ、きたうれひ、あくすものは兩處りやうしようれふ、かれうれかれかなしむ、おのれけがれたるごふて。

16 此處ここよろこび、きたよろこび、ふくせるものは兩處りやうしよよろこぶ、かれよろこかれよろこぶ、おのれきよごふて。

17 此處ここくるしみ、きたくるしみ、あくすものは兩處りやうしよくるしむ、「われ惡業あくごふをかせり」とてくるしみ、惡趣あくしゆおちゐりて益益ますますくるしむ。

18 此處ここよろこび、きたよろこび、ふくせるものは兩處りやうしよよろこぶ、「われ福業ふくごふせり」とてよろこび、善趣ぜんしゆうまれて益益ますますよろこぶ。

19 (9)佛語ぶつご讀誦どくじゆすることおほしといへども、放逸はういつにしてこれおこなふことなくば、牧者ぼくしや他人たにんうしかぞふるがごとく、(10)沙門道しやもんだうおいところなし。

20 佛語ぶつご讀誦どくじゆすることすくなしといへども、正法しやうほふ隨法ずゐほふ行者ぎやうしやたり、 とんしんまたとをて、正智しやうちあり、こころよく解脫げだつせるものは、ぢやくなくして、(11)沙門道しやもんだうたつすべし。

(1) 原語には「古」の意もあり、法句經註解書には「古の法、總ゆる佛、辟支佛、漏盡の聲聞の踏みたる道」と釋せり。 (2) Yamāmase 閻魔王の爲に服せらる、死に近く、死に行く、消え果つ等の意もあり、 (3) 原典にては「他」の字を用ひ、「智者を除きて他のもの」と釋す。 (4) 見聞し知覺する物體に對して莊美なり淸淨なり愛すべきものなり等の觀念を抱くを云ふ。 (5) 眼耳鼻舌身意の六根を制せず、此等諸根の門戶を護らざるを言ふ。 (6) 漏とは煩惱の謂なり。 (7) 「精」とは「精髓、中樞、要部」等の義なり、「非精」とは之に反して、緊要ならざる部分なり。 (8) 「邪思惟」又は「正思惟」を其の分別の「境界」、範圍とするの意なり。 (9) 原語には、有義、有利等の義あり、佛の說かれたる敎を言ふ。 (10) 「沙門道の分得者にあらず、」 (11) 涅槃に達するを言ふ。


精勤品しやうごんほんだい

21 精勤しやうごん不死ふしみちにして、放逸はういつみちなり、精勤しやうごんひとすることなく、放逸はういつひとせるがごとし。

22 賢者けんしや精勤しやうごんおい〔の〕をさとり、聖者しやうしやみちたのし精勤しやうごんよろこぶ。

23 禪思ぜんしあり、忍耐にんたいあり、つね勇健ゆうけんなる賢者けんしや無上むじやう安隱あんのん涅槃ねはん獲取くわくしゆす。

24 向上かうじやうあり、憶念おくねんあり、ごふきよく、〔ことを〕なすにこころもちひ、みづかせいし、みちによりてき、精勤しやうごんするもの、〔かくごとひとの〕ほまれ增長ぞうちやうす。

25 向上かうじやう精勤しやうごん自制じせい調伏てうぶくとをもつて、智者ちしや(1)暴流ばうるをかすことなきしうつくらんことを。

26 にしてなきともがら放逸はういつふけり、あるひと精勤しやうごんまもること、最上さいじやう珍寶ちんぽうごとくす。

27 放逸はういつふけることなかれ、欲樂よくらく愛著あいぢやくに〔ふけること〕なかれ、これ精勤しやうごんにして禪思ぜんしあるものは大安樂だいあんらくべければなり。

28 智者ちしや精勤しやうごんもつ放逸はういつはらときかれこころうれひなく、智慧ちゑ樓閣ろうかくのぼりて、うれひある衆生界しゆじやうかいを〔ること〕、山頂さんちやうてる賢者けんしやの、地上ちじやう愚者ぐしやるがごとし。

29 放逸はういつなかにありて精勤しやうごんし、ねむれるひとなかにありてめたる、かくごと智者ちしや快馬くわいば駑馬どばつるがごとくにしてすすむ。

30 精勤しやうごんによりて帝釋たいしやく諸天しよてんしゆとなれり、精勤しやうごんひとたたへられ、放逸はういつつねいやしめらる。

31 精勤しやうごんたのしみ、放逸はういつおそるべきをさとれる比丘びくは、ゆるごとくに、大小だいせう(2)纏結てんけつを〔つくし〕去る。

32 精勤しやうごんたのしみ、怠惰たいだおそるべきをさとれる比丘びくは、退墮たいだすることあたはずして、涅槃ねはんちかづく。

(1) 涅槃の境をいふ。 (2) 煩惱を云ふ、是れ煩惱は衆生の心を纏ひ結びて生死海に流轉せしむるが故なり。


心品しんほんだい

33 さわぎ、うごき、まもがたく、おさがたこころ智者ちしやこれむること、箭匠せんしやうを〔むるが〕ごとくす。

34 りくてられ、水中すゐちういへはなれたるうをごとく、こころさわぐ、(1)魔王まわう領土くにのがいでんがために。

35 おさふることかたく、輕躁きやうさうにして、隨處ずゐしよよくげんとする〔かくごとき〕こころするはなり、したるこころらくもたらす。

36 ることかたく、微妙みめうにして、隨處ずゐしよよくげんとする智者ちしやよ、〔かくごときの〕こころまもれ、まもりあるこころらくもたらす。

37 とほき、ひとうごき、かたちなくして、むねひそめる、〔かかる〕こころせいするものはばくよりのがれん。

38 こころ堅固けんごならず、妙法めうほふ了解れうげせず、信念しんねんさだまらざるひと智慧ちゑ成滿じやうまんすることなし。

39 こころ貪染とんぜんなく、こころ迷惑めいわくなく、善惡ぜんあく〔のおもひ〕をて、さと   りたるひとには怖畏ふゐあることなし。

40 水甁すゐびやうたりとり、こころ(3)都城とじやうごとくにし、智慧ちゑ武器ぶきもつたたかひ、たるものはこれまもり、住止ぢゆうしすることなかれ。

41 げにひさしからずしてせん、てられ、意識いしきうしなひ、無用むようはしごとくなりて。

42 ぞくぞくたいし、てきてきたいして、これをなし、かれをなす、邪路じやろおちゐれるこころは、さらだいなるあくひとになす。

43 ははちち近親きんしんこれをなさず、正路しやうろてるこころさらおほいなるぜんひとになす。

(1) 生死海を云ふ。 (2) 堅く護るを云ふ。


華品けほんだい

44 大地だいちと、閻魔界えんまかいと、人天界にんでんかいとにつものはぞ、たれかれたる法句ほふくを〔あつむること〕、巧者げうしやはなあつむるかごとくなる。

45 (1)有學うがくひと大地だいちと、閻魔界えんまかいと、この人天界にんでんかいとにつ、有學者うがくしやかれたる法句ほふくを〔あつむること〕、巧者げうしやはなあつむるかごとくす。

46 水泡すゐはうたとふべきをり、陽炎かげろうしつなりとさとりて、天魔てんま華箭けせんやぶり、(2)死王不覩しわうふと〔の〕にかんことを。

47 はなつまみて、心愛著しんあいぢやくせるひとをば、死王しわうとらへてること、ねむれる村里そんりを、暴流ばうるただよはしるがごとし。

48 はなみて、心愛著しんあいぢやくし、諸欲しよよくくなきひとは、死王しわうこれふくす。

49 はちの、はなと、色香いろかとをそこなふことなく、あぢとらへてるが如く、おなじく智者ちしや村里そんり遊行ゆぎやうせよ。

50 他人たにん邪曲じやきよくを〔ず〕、他人たにん作不作さふさを〔おもはず〕、ただおのれ  不作ふさとをよかし。

51 いとしく、いろはなの、にほひなきがごとく、かれたることばも、これおこなはざるものにはかうなし。

52 いとしく、いろはなの、加之しかもにほひあるがごとく、かれたることばは、これおこなふものにはかうあり。

53 華堆はなつみよりして、種種しゆじゆ華鬘けまんつくるがごとく、うまいでたる衆生しゆじやうには、すべき善業ぜんごふおほし。

54 華香けかうかぜさからうてかず、旃檀香せんだんかう多伽羅香たがらかう摩利迦香まつりかかうも〔またしかり〕、善人ぜんにんにほひかぜさからひてき、良士りやうし諸方しよはうかぜおくる。

55 旃檀香せんだんかうと、多伽羅香たがらかうと、鬱波羅香うつぱらかうと、婆師吉香ばしきつかうと、此等これら諸香しよかううちにて、戒香かいかうこそは最上さいじやうなれ。

56 多伽羅香たがらかう旃檀香せんだんかうごときは、かうりやうすくなし、戒德者かいとくしやかう諸天しよてんうちにてにほふことだい一なり。

57 此等これら戒德かいとくあり、精勤しやうごんにしてぢゆうし、さとりて、解脫げだつせるもののだうは、魔王まわうこれうかがらず。

58 59 大道だいだうに棄てられたる塵堆ちりづみうち其處そこ淨香じやうかうある、こころよき白蓮びやくれんしやうぜん、かくごとく、塵埃ぢんあいのうち、盲目まうもくなる凡夫ぼんぷのうちに、正徧覺者しやうへんかくしや弟子でしは、智慧ちゑもつひかまさる。

(1) 四向四果の中、最後の一果阿羅漢果を除き、前の四向三果の人を有學の人と云ふ、やがて阿羅漢となる人なり。 (2) 阿羅漢果を云ふ、是れ阿羅漢果を得れば、死王卽ち魔王を見ることなきが故なり。


闇愚品あんぐほんだい

60 目睲めざめたるものには、よるながく、つかれたるものには(1)由旬ゆじゆんとほく、正法しやうほふらざる、愚者ぐしや輪廻りんねひさしし。

61 旅者りよしやおのれまさり、〔おのれと〕ひとしき〔とも〕を得ずんば、必ず單行たんぎやうせよ、愚者ぐしやともたるものはあらず。

62われあり、われたからあり」とて、愚者ぐしやくるしむ、おのれおのれのものにあらず、いはんをや、いはんざいをや。

63 愚者ぐしやの〔みづから〕なりとおもへる、かれこれによりて賢者けんしやたり、愚者ぐしや賢者けんしやおもひせる、かれこそは愚者ぐしやはるれ。

64 愚者ぐしやしやうふるまで、賢者けんしや奉事ぶじすとも、ほふらざること、食匙しよくし羹味かうみを〔べんぜざる〕がごとし。

65 賢者けんしやは、假令たとへ瞬時じゆんじも、賢者けんしや奉事ぶじせば、はやほふること、した羹味かうみを〔べんずる〕がごとし。

66 無智むちなる愚者ぐしやおのれおのれてきなるがごと振舞ふるまふ、苦果くくわを〔しやうずべき〕罪業ざいごふおこなうて。

67 おこなうてのちひ、淚顏るゐがん啼哭ていこくして、果報くわはうくべきごふは、されたるにあらず。

68 おこなうてのちくいなく、歡喜くわんぎ悅豫えつよして、果報くわはうくべきごふは、されたるなり。

69 罪業ざいごふいまじゆくせざるあひだは、愚者ぐしやこれみつごとしとおもひ、罪業ざいごふじゆくするや、愚者ぐしやとき苦惱くなうく。

70 (2)〔なるぎやうじやは、つきつきに、かやはしにてしよくるとも、かかひと善法ぜんぼふ行者ぎやうじやの十六ぶんの一にもあたひせず。

71 をかしたる罪業ざいごふは、固結こけつせざることあたらしきちちごとく、〔しかも〕はひおほはれたるごとく、いぶりつつ、愚者ぐしや追隨つゐずゐす。

72 愚者ぐしや智慧ちゑおこること、不利ふりためなるうちは、これ愚者ぐしや好運かううんそんし、かうべくだく。

73愚者ぐしや〕はにせ名聞みやうもんねがひ、諸比丘しよびくなかにて上位じやうゐらんと〔のぞみ〕、いへにありてはしゆとなり、他族たぞくあひだには供養くやうを〔んとのぞむ〕。

74在家ざいけ出家しゆつけともに、われこれせりとおもへかし、すべすべきことすべからざることいて、みなめいけよかし」、これ愚者ぐしやこころにしてよくまんとは〔ために〕ぞう   ちやうす。

75 一は利養りやうみちびくものにして、一は涅槃ねはんくものなり、佛弟子ぶつでしたる比丘びくは、さとりて恭敬くぎやうよろこばず、遠離をんりのために修習しゆじふせよ。

(1) 由旬とは里程の名、四哩より十八哩に至り、諸說一定せず。 (2) 一筒月每に、茅草の端にかゝるほど少量の食を取るとも、其の功德は善く法を行ふ人の功德の十六分の一にも當らず。


賢哲品けんてつほんだい

76の〕とがし、しつむる智者ちしやかか賢者けんしやば、〔たからの〕在所ざいしよぐるひとごとくにつかへよ、かかひとつかふるものにはありて、あることなし。

77 いましめよ、をしへよ、不相應ふさうおうことよりとほざからしめよ、かれ善人ぜんにんにはあいせられ、惡人あくにんにはにくまれん。

78 惡友あくいうまじはるなかれ、卑劣ひれつともがらまじはるなかれ、善友ぜんいうまじはり、尊貴そんきまじはれ。

79 ほふよろこぶものはみたるこころもつこころよす、賢者けんしやつね聖者しやうじやけるほふたのしむ。

80 渠工きよこうみづみちびき、箭匠せんしやうむ、木工もくこうざいげ、賢者けんしやおのれ調ととのふ。

81くわい磐石ばんじやくの、かぜうごかされざるがごとく、賢者けんしや毀訾きし稱譽しようよとにうごかさるることなし。

82 そこふか池水ちすゐの、みて、にごりなきがごとく、賢者けんしやほふきてこころましむ。

83 善人ぜんにんは一切處さいしよに〔よくを〕て、良士りやうし(1)よくもとむるがためかたらず、らくれ、將又はたまたに〔れても〕、賢者けんしや(2)かはれるさうあらはすことなし。

84 ためにもためにも〔あくおこなはず〕、をもたからをもくにをも、これもとむることなく、非道ひだうによりて、おのれ利達りたつを求むることなし、これぞ德者とくしや智者ちしや義者ぎしやなる。

85 人閒にんげんなかにて、(3)彼岸ひがんいたるものはすくなく、  ものは岸邊がんぺんにありて奔馳ほんちす。

86 かれたるほふ隨順ずいじゆんするともがらは、がた領土くにを〔えて〕きしいたらん。

87 88 賢者けんしや黑法こくほふてて、びやくほふ〕をしゆすべし、いへより〔はなれて〕、いへなきとなり、らく得難えがた遠離をんりところおいて、此處ここ賢者けんしや諸欲しよよくてて、我有がうなきなり、妙樂めうらくもとめ、もろもろ心穢しんゑより、おのれきよくすべし。

89 (4)正覺分しやうがくぶんおいて、こころ修習しゆじゆし、しふすることなくして、ぢやくすてつるをたのしむ、光輝くわうきある(5)漏盡者ろじんしやは、靜穩じゃうをんたるなり。

(1) 諸欲を求め、諸欲の爲に閑語を交ふることなし。 (2) 浮みたる顏、沈みたる顏をなすことなし。 (3) 彼岸とは涅槃を云ひ、此岸とは生死を云ふ。次偈の彼岸の意も同じ。 (4) 所謂七菩提分法なり。 (5) 漏盡者とは煩惱を盡したる人の意にて阿羅漢を云ふ。


阿羅漢品あらかんぼんだい

90 みちへ、一切處さいしよ離憂りう得脫とくだつせるもの、あらゆる纒結てんけつだんじたるものには執惱しゆなうあることなし。

91しやうねんある人は精勤しやうごんし、彼等かれら王家わうけ貪樂とんらくすることなし、〔鵞王がわう〕の池沼ちせうつるがごとく、彼等かれらまた各各おのおのいへつ。

92財物ざいもつ〕を蓄積ちくしやくすることなく、知覺ちかくしてじきけ、行處ぎやうしよくうにして、さうなく、しかして解脫げだつあり、そらとりの〔みちの〕ごとく、かかひとみちはかることはかたし。

93 煩惱ぼんなうことごとき、じきおいぢやくあることなし、行處ぎやうしよくうにして、さうなく、しかして解脫げだつあり、そらとりの〔あとの〕ごとく、かかひとあとはかることはかたし。

94 諸根しよこん寂靜じやくじやうせること、御士ごしらされたるうまごとく、まんて、煩惱ぼんなうつくしたる、かかひと諸天しよてんうらやところなり。

95 いからざること大地だいぢひとしく、よく禁戒きんかいまもりて門閾もんいき  たとふべく、泥土でいどなきいけみずごとし、かかひとには輪廻りんねあるなし。

96 こころ寂靜じやくじやうなり、ことばごふまた寂靜じやくじやうなり、さとりて解脫げだつ安息あんそくたるひとの。

97 妄信まうしんなく、無爲むゐ〔のほふ〕をさとり、ばくやぶれるひと業緣ごふえんち、よくてたる、これぞまこと上上じやうじやうひとなる。

98 聚落じゆらくにても、森林しんりんにても、うみにても、をかにても、聖者しやうじやどどまるところ其處そこたのしき〔ところなる〕。

99 森居しんごたのしむべし、衆人しゆじんたのしまざるところ離貪りとんひとこれたのしむ、彼等かれら諸欲しよよくもとめざるなり。


千千品せんせんほんだい

100 意義いぎなき文句もんくことばは、〔すう〕一千なりとも、ひといてじやくべき有義うぎの一これよりまさる。

101 意義いぎなき文句もんくは、〔すう〕一千なりとも、ひといてじやくべき一偈句げくこれよりまさる。

102 意義いぎなき文句もんく一百〔しやう〕をじゆせんよりは、ひといてじやくべき一法句ほつく〔をじゆする〕ぞまされる。

103 戰場せんじやうおい千千せんせんてきつものよりは、ひとおのれつもの、かれこそ最上さいじやう戰勝者せんしようしやなれ。

104 105 おのれてるは、すべ人人ひとびとてるにまさる、てん乾闥婆けんだつばも、魔王まわうも、ならび梵天ぼんてんも、つねおのれみづかせいするひと勝利しようりてんじて、敗亡はいまうとなすことあたはず。

106 ひとつきつきに、千金せんきんを〔てて〕、いけにへきようすること百ねんしかしてまたじんおのれおさめたるものを供養くやうすること頃刻しばしならば、供養くやうこそ、の百ねん焚祀ぼんしまさりたれ。

107 ひと林閒りんかんにありて、火神くわじん奉事ぶじすること百ねんしかして   一人いちにんおさめたるものを供養くやうすること頃刻しばしならば、供養くやうこそ、の百ねん焚祀ぼんしまさりたれ。

108 供犧くぎや、焚祀ぼんしや、福報ふくはうのぞめるもの、終歲しゆさいこれおこなふとも、すべの〔功德くどく直行ぢきぎやうひと敬禮きやうらいするの四ぶんの一にだもあたらず。

109 敬禮きやうらいもつならひとなし、つね上位じやうゐ尊重そんぢゆうせるひとには、四しゆほふ增長ぞうちやうじゆしきらくりきと。

110 ひとくること百ねんならんとも、汙戒をかいにしてぢやうなくんば、かいし、禪思ぜんしあるものの、一にちくるにかず。

111 ひとくること百ねんならんとも、劣慧れつゑにしてぢやうなくんば、し、禪思ぜんしあるものの、一にちくるにかず。

112 ひとくること百ねんならんとも、怠惰たいだにして精勤しやうごんらずんば、かた精勤しやうごんあるものの、一にちくるにかず。

113 ひとくること百ねんならんとも、(1)起滅きめつずんば起滅きめつひとの一にちくるにかず。

114 ひとくること百ねんならんとも、不滅ふめつみちずんば、不滅ふめつみちひとの一にちくるにかず。

115 ひとくること百ねんならんとも、無上むじやうほふずんば、無上むじやうほふる人の一にちくるにかず。

(1) 事物の生起滅盡、卽ち生滅を云ふ。


惡業品あくごふほんだい

116 善業ぜんごふにはいそぎておもむき、惡業あくごふよりはこころふせげ、福業ふくごふをなすにものうきものは、こころ惡業あくごふたのしむ。

117 ひと假令たとひ惡業あくごふすとも、再再さいさいこれすなかれ、作惡さあくよくおこさざれ、あくむはなり。

118 ひと善業ぜんごふさば、再再さいさいこれせ、作善さぜんよくおこ   せ、ぜんむはらくなり。

119 惡人あくにんも、あくいまじゆくせざるあひだは、ふくる、あくじゆくするにいたるや、惡人あくにんくわる。

120 善人ぜんにんも、ぜんいまじゆくせざるあひだは、くわる、ぜんじゆくするにいたるや、善人ぜんにんふくる。

121あくわれちかづくことかるべし」とて、これ輕視けいしすることなかれ、滴滴てきてきみづちて、水甁すゐびやう滿つるがごとく、愚者ぐしや少少せうせうづつあくみて、あく滿つるにいたる。

122ぜんわれちかづくことかるべし」とて、これ輕視けいしすることなかれ、滴滴てきてきみづちて、水甁すゐびやう滿つるがごとく、賢者けんしや少少せうせうづつぜんみて、ぜん滿つるにいたる。

123 貨財くわざいおほく、從伴じゆうばんすくな商估しやうこあやふみちを〔け〕、じゆのぞむものの、毒物どくぶつを〔くる〕がごとく、あくけよ。

124 瘡傷さうしやうなくば、もつどくをもることをどく瘡傷さうしやうなきものにはともなはず。さざるものにはあくなし。

125 ひと害心がいしんなきひと淸淨しやうじやうにして執着しふぢやくなきひとさからはば、わざはひ愚者ぐしやかへること、逆風ぎやくふうとうじたる細塵さいぢんごとし。

126 あるひ人胎じんたい宿やどるあり、つみあるものは地獄ぢごくつ、善行ぜんぎやうひとてんうまれ、煩惱ぼんなうなきひと涅槃ねはんいたる。

127 そらにありても、うみなかにありても、山閒さんかんくつりても、罪業ざいごふよりのがるべき、方所はうしよとてはあるなし。

128 そらにありても、うみなかにありても、山閒さんかんくつりても、たざる方所はうしよとてはあるなし。


刀杖品たうぢやうほんだい

129 すべて〔有情うじやう〕は刀杖たうぢやうおそれ、すべおそる、おのれたとへとし   て、〔を〕こぼつことなかれ、そこなふことなかれ。

130 すべて〔有情うじやう〕は刀杖たうぢやうおそれ、しやうすべてのもののあいする所、おのれたとへとして〔を〕こぼつことなかれ、そこなふことなかれ。

131 らくもとむる有情うじやうを、刀杖たうぢやうもつそこなふものは、おのれらくもとめても、後世ごせこれることなけん。

132 らくもとむる有情うじやうを、刀杖たうぢやうもつそこなはざるものは、おのれらくもとめて、後世ごせこれん。

133 何人なんびとにも麤語そごもちふることなかれ、けては〔かれまたなんぢかへさん、憤怒ふんぬことばなり、返杖へんぢやうなんぢ〔の〕にれん。

134 なんぢもくしてかたらざること、やぶれたるかねごとくならば、これ涅槃ねはんたつせるなり、なんぢ憤怒ふんぬあるなし。

135 牧牛士ぼくごしつゑもつて〔せいし〕、うし牧場ぼくぢやうるがごとく、ひとしくらうとは有情うじやう壽命じゆみやうる。

136 愚者ぐしや罪業ざいごふをかしてさとらず、無智むちともがらおのれごふなやまさるること、かるるがごとし。

137 暴意ばういなく害心がいしんなきもののうちにありて、ばうくはふるものは、く十處中しよちうの一におちいる。

138 酷痛こくつう損失そんしつ形體ぎやうたい毀傷きしやう重症ぢゆうしやうひ、心散亂しんさんらんいたる。

139 王禍わうくわひ、きびしき誣吿ふこくかうむり、親族しんぞくほろび、家財かざい喪亡さうまうす。

140 あるひまたいへくことあり、形體ぎやうたいやぶれてのち無智むちなるかれ(1)泥犁ないりおちいる。

141 裸行らぎやうも、結鬘けつまんも、どろも、斷食だんじきも、露地臥ろぢぐわ塵垢ぢんくることも、不動坐ふどうざも、未離惑みりわく有情うじやうきようすることなし。

142 嚴飾ごんじきせりとも、平等びやうどうおこなひ、寂靜じやくじやう調順てうじゆん自制じせいあり、梵行ぼんぎやうおこなひ、一さい生類しやうるゐたいして(2)害意がいいいだかずば、   かれ婆羅門ばらもんかれ沙門しやもんかれ比丘びくなり。

143 慚恥ざんちによりてせいせられて、〔の〕批難ひなんとせざること、良馬りやうばむちを〔とせざる〕がごとくなるもの、〔かくごときもの〕たれにありや。

144 むちにてたれたる良馬りやうばごとく、汝等なんぢらまた專心せんしん銳意えいいなれ、信心しんじん持戒ぢかい精勤しやうごん禪定ぜんぢやう正決斷しやうけつだんによりて、汝等なんぢらみやうぎやうとをし、正念しやうねんいうし、おほいなる苦惱くなうたん。

145 (3)渠工きよこうみづみちびき、箭匠せんしやうむ、木工もくこうざいげ、賢者けんしやおのれ調ととのふ。

(1) 地獄を云ふ。 (2) 原意は刀杖を措く。 (3) 第八〇偈に同じ。


老衰品らうすゐほんだい十一

146は〕つねに〔慾火よくくわに〕かるるに、なんわらひぞ、何の歡喜くわんぎぞ、〔汝等なんぢらは〕黑闇こくあんおほはるるに、何故なにゆゑに〔くわもとめざる。

147 かざれる〔の〕形體ぎやうたいよ、合會がうゑしてれる腐壞物ふゑぶつくわい衆病しゆびやうえうし、種種しゆじゆ測量しきりやうし、堅實けんじつなく、安住あんぢゆうなきなり。

148 形色ぎやうしき老朽らうきうし、衆病しゆびやう樓所せいしよたり、やぶるべきものなり、臭穢しうゑそんすべく、みやうをはる。

149 あきてられたる葫蘆ころごとき、此等これら灰白くわいびやく骨行こつぎやうて、なん喜樂きらくぞ。

150 骨行こつぎやう都市として、にくとにまびれり、此處ここらうと、と、まんと、ふくとをかくす。

151 かざりたる王車わうしやふるび、身體しんたいらういたる、賢人けんじんほふゆることなし、賢人けんじんは、賢人けんじんほふつたふるなり。

152 寡聞くわうもんひと犢牛とくごごとゆ、かれ肉身にくしんせども、かれ智慧ちゑくははるることなし。

153 154 (1)屋舍をくしや工人かうじんもとめて、これいださず、多生輪廻界たしやうりんねかい奔馳ほんちして、うた生死しやうじたり。

屋工をくかうなんぢいま看出まみいださる、ふたたいへを構ふることあらじ、なんぢ桷材かくざいすべやぶられ、棟梁とうりやうこぼたる、めついたれるこころ諸愛しよあい滅盡めつじんたつせり。

155 壯時さうじ梵行ぼんぎやうしゆせず、財寶ざいはうずして、うをまざるいけなかなる老鴻らうこうごとくにほろぶ。

156 壯時さうじ梵行ぼんぎやうしゆせず、財寶ざいはうずして、ちたるゆみごとく、過去かこかこちてせり。

(1) 渴愛を指す、是れ渴愛は生死輪廻の因なるが故なり、此の一五三、一五四の兩偈は佛大覺の後、初めて唱へられしものなりと傅ふ。


自己品じこほんだい十二

157 おのれあいすべしとらば、これ保護ほごせよ、〔人生じんせい〕三の一において、賢者けんしやよろしく醒悟せいごすべきなり。

158 おのれただしきくらゐて、しかしてをしへなば、賢者けんしやらうするところあらじ。

159 おのれしよすること、をしふるがごとくならば、おのれせいして、せいするをん、そはおのれせいがたきがゆゑなり。

160 おのれこそおのれ依所えしよなれ、何物なにもの依所えしよたるあらん、おのれせいするときは、得難えがた依所えしよべし。

161 みつかつくりたる罪業ざいごふは、おのれしやうじ、おのれいでたるもの、愚人ぐじんそこなふこと、金剛石こんがうせき摩尼まにを〔る〕がごとし。

162 汙戒をかいはなはだしきひとしよして、敵者てきしやのぞむがごとくすること、蔓草まんさうおほへるじゆけるがごとし。

163 不善ふぜんにして、おのれ不利ふりなることやすく、ことありてぜんなる、きはめてがたし。

164 應供者おうぐしや聖者しやうじやみちによりてくるひとをしへを、邪惡じやあくけん  りてそしひとは、(1)葦草ゐさうくわの、おのれほろぼすためにみのるがごとし。

165 みづかあくせばみづかけがれ、みづかあくさざればみづかきよし、じやう不淨ふじやうともおのれにあり、みづかきよくすることあたはず。

166 他人たにんつとめだいなりとも、ためおのれつとめわするることなかれ、おのれつとめべんしてのちおのれつとめ專心せんしんなるべし。

(1) 葦は花を著け實を結べば自ら死するなり。


世閒品せけんほんだい十三

167 いやしほふほうぜざれ、放逸はういつともまざれ、邪見じやけんしたがはざれ、世事せじ增長ぞうちやうせしめざれ。

168 て、放逸はういつなるなかれ、善行ぜんぎやうほふしゆせよ、隨法行ずゐほふぎやうひとたのしす、今世こんせにも來世らいせにも。

169 善行ぜんぎやうほふしゆして、惡行あくぎやう〔のほふ〕をしゆせざれ、隨法行ずゐほふぎやうひとたのしす、今世こんせにも來世らいせにも。

170 泡沫はうまつごとくによ、陽炎かげろうごとくによ、かくごと世界せかいるものは、死王しわうこれることあたはず。

171 かざりありて、王車わうしやたる世界せかいきたよ、愚者ぐしやこれまよへども、智者ちしやこれぢやくすることなし。

172 さきおこたりて、のちおこたらざるもの、かれ世界せかいてらすこと、くもはなれたるつきごとし。

173 ひとしたる惡業あくごふのちぜんめにおほはるれば、ひとてらすこと、くもはなれたるつきごとし。

174 世界せかいは、暗黑あんこくにして、觀察くわんさつ〔のりき〕あるものは、すくなし、あみはなれたるとりごとくに、てんのぼるものはすくなし。

175 鴻雁こうがんみちき、神力じんりきあるものはそらく、賢者けんしやは、魔王まわう眷屬けんぞくとをあはやぶりて、離脫りだつするなり。

176 ゆゐ一のほふえ、妄語まうごひと來世らいせ等閑とうかんおもへるものは、つみとしてをかさざるなし。

177 慈念じねんなきともがら天界てんかいらず、愚人ぐにん施與せよ稱揚しようやうすることなし、賢者けんしや施與せよ隨喜ずゐきし、これによりてかれ來世らいせおい安樂あんらくなり。

178 世界せかいを一わう國土こくどとなし、あるひ天界てんかいおもむき、あらゆる世界せかいしゆとなる、預流果よるくわいづれにもまさる。


佛陀品ぶつだほんだい十四

179 ちたるものはふたたこれつことあたはず、勝利しようりには何人なんびとこれることあたはず、(1)行履ぎやうりかぎりなく、あとなきほとけ如何いかなるみちによりてかみちびかんとする。

180 あみよくあい何處いづこにもこれたづぬべきなし、行履ぎやうりかぎりなく、あとなきほとけを、如何いかなるみちによりてかみちびかんとする。

181 勇者ゆうしや禪思ぜんしもつぱらにして、出離しゆつり寂靜じやくじやうよろこぶ、かくごと正覺しやうがく・〔しやうねんひと諸天しよてんうらやところなり。

182 人身にんしんるはかたく、有情うじやう生存せいぞんかたし、妙法めうほふくはかたく、諸佛しよぶつ出世しゆつせかたし。

183 (2)一切いつさい惡事あくじさず、善事ぜんじちかづき、おのれ淸淨しやうじやうにする、諸佛しよぶつをしへなり。

184 忍辱にんにく堪忍かんにん最上さいじやう修行しゆぎやう涅槃ねはん最勝さいしようなりと、諸佛しよぶつのたまふ、ひとそこなふものは出家しゆつけにあらず、なやますものは沙門しやもんにあらざるがゆゑなり。

185 ののしらず、そこなはず、婆羅提木叉ばらだいもくしやおい防護ばうごし、じきおいりやうり、閑處かんしよ坐臥ざぐわし、增上心ぞうじやうしんぢゆうする、諸佛しよぶつをしへなり。

186 金貨きんくわあめふらすとも、諸欲しよよくくことあたはず、諸欲しよよく少味せうみにしてなりと、これるは賢者けんしやなり。

187 てん諸欲しよよくたいしても、欲念よくねんおこさず、覺王かくわう弟子でし諸愛しよあいつくすをたのしむ。

188 人人ひとびと恐怖きようふねんせまられて、山林さんりん園樹をんじゆ制多せいた歸依きえするものおほし。

189 されどこれ安隱あんのん依所えしよにあらず、無上むじやう依所えしよにあらず、この依所えしよ歸依きえして、一さいよりのがるることなし。

190 ぶつと、ほふと、そうとに歸依きえするもの、かれ勝智しようちもつて、四しゆ聖諦しやうたいる。

191 と、起因きいんと、度脫どだつと、滅盡めつじんたつする賢聖けんしやう種道しゆだうと、

192 安隱あんのん依所えしよ無上むじやう依所えしよなり、依所えしよ歸依きえして、一切苦さいくよりのがるべし。

193 尊貴そんきひと得難えがたし、かれ各處かくしよしやうぜず、勇者ゆうしやしやうずるところ慶福けいふくぞくいたる。

194 諸佛しよぶつ出世しゆつせたのしく、妙法めうほふくはたのし、僧衆そうしゆ和合わがふたのしく、和合わがふするものの修行しゆぎやうたのし。

195 196 あらゆる迷妄めいまうち、とをえて、應供おうぐとくあるほとけまたは〔ぶつ弟子でし供養くやうするもの、かくごと得寂とくじやく離怖りふひと供養くやうするものの功德くどくは、何人なんびとこれかぞふべからず。

(1) 知覺の對境限りなきの意にて無限の境界を知覺し得るの意。 (2) 七佛通誠の偈として知らるる有名なる偈なり。 (3) 比丘比丘尼の大戒を指す。 (4) 苦集滅道の四諦なり。


安樂品あんらくほんだい十五

197 安樂あんらくぢゆうせん、怨念をんねんある人人ひとびとのうちにありて、怨念をんねんなく、怨念をんねんあるともがらうちに、怨念をんねんなくして、安樂あんらくぢゆうせん。

198 安樂あんらくぢゆうせん、煩惱ぼんなうある人人ひとびとうちにありて、煩惱ぼんなうなく、煩惱ぼんなうあるともがらのうちに、煩惱ぼんなうなくして安樂あんらくぢゆう  ん。

199 安樂あんらくぢゆうせん、欲念よくねんある人人ひとびとうちにて欲念よくねんなく、欲念よくねんあるともがらうちに、欲念よくねんなくして安樂あんらくぢゆうせん。

200 安樂あんらくぢゆうせん、我等われらには我有がうあることなし、光音くわうおん天人てんにんごとく、喜悅きえつじきとせん。

201 ちてはうらみけては起居ききよなり。こゝろじやくなるものは勝負しようぶともなげうちて、起居ききよ安樂あんらくなり。

202 とんごとあるなく、しんごとつみあるなし、(1)蘊集をんしふごとあるなく、寂滅じやくめつまされるらくあるなし。

203 飢餓きが最大さいだいやまひ諸蘊しよをん最極さいごくなり、これじつごとくにれば、最勝さいしよう安樂あんらく涅槃ねはん〔を〕。

204 無病むびやう最上さいじやう知足ちそく最上さいじやうざいなり、信賴しんらい最上さいじやう親族しんぞくにして、涅槃ねはん最勝さいしよう安樂あんらくなり。

205 獨處どくしよ妙味めうみ寂靜じやくじやう妙味めうみとをあぢはひ、法悅ほふえつ妙味めうみうて怖畏ふゐもなく、またあくもなし。

206 聖者しやうしやるはく、おなじくむはつねらくなり、愚者ぐしやざればつねこころよからん。

207 愚人ぐじんともみちくものにはながうれひあり、愚者ぐしやともぢゆうするのなるは、てきと〔おなじくぢゆうするの〕つねに〔なる〕がごとし、賢者けんしや同住どうぢゆうしてたのしきものにして、親緣しんねん合會がふゑするのたのしきがごとし。

208 されば賢者けんしやと、智者ちしやと、多聞たもんと、重擔ぢゆうたんひ、禁戒きんかいある聖者しやうしやかくごときの善士ぜんし上智じやうちひとに〔よること〕、つき星道せいだうによるがごとくせよ。

(1) 五蘊の合會して成れる此の身體を云ふ。次偈に諸蘊と云へるも同じ。


愛樂品あいげうほんだい十六

209 非處ひしよきて是處ぜしよかず、てて、愛樂あいげうるものは、是處ぜしよきたるひとうらやむにいたる。

210 あいせるものとふことなかれ、にくめるものと〔ふこと〕なかれ、あいせるものをざるはにくめるものをるもまたなり〕。

211 されば何物なにものをも好愛かうあいするなかれ、愛者あいしやわかるるはわざはひなり、ひと愛憎あいぞうなければ纏結てんけつあることなし。

212 愛好あいかうより憂悲うひしやうじ、愛好あいかうより怖畏ふゐしやうず、愛好あいかうよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

213 親愛しんあいより憂悲うひしやうじ、親愛しんあいより怖畏ふゐしやうず、親愛しんあいよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

214 喜樂きらくより憂悲うひしやうじ、喜樂きらくより怖畏ふゐしやうず、喜樂きらくよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

215 貪欲とんよくより憂悲うひしやうじ、貪欲とんよくより怖畏ふゐしやうず、貪欲とんよくよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

216 渴愛かつあいより憂悲うひしやうじ、渴愛かつあいより怖畏ふゐしやうず、渴愛かつあいよりのがれたるものには、憂悲うひなし、いづくんぞ怖畏ふゐあらん。

217 淨戒じやうかい正見しやうけんとをし、ほふ依立えりつし、正理しやうりり、みづかおのれごふすもの、かくごとひとあいす。

218 (1)不言說ふごんぜつほふおいねんおこし、こころ滿足まんぞくし、諸欲しよよくおい著心ぢやくしんなきは上流じやうるひとしようせらる。

219 ひさしく異境ゐきやうにあり、とほくよりすこやかかへれるを、親知しんち朋友ほういう愛人あいじんかれきたるをむかふ。

220 おなじく、善業ぜんごふしてよりおもむけるを、福果ふくくわこれむかふ、あいするもののきたるを親知しんちむかふるがごとくに。

(1) 不言說の法とは言詮不及の法の意にて、涅槃を指す。


忿怒品ふんぬほんだい十七

221 忿ふんて、まんはなれ、もろもろ纏結てんけつえよ、名色みやうしきしふせず、我有がうなきひとにはきたることなし。

222 おこれる忿怒ふんぬせいすること、ころがくるませいするがごとくする   もの、ひとをぞわれ調御者でうごしやふ、ただ手網たづなるものなり。

223 いかりあいもつち、不善ふぜんぜんもつつべし、吝嗇りんしよくには仁惠じんけいもつて、虛言きよごんひとには、實語じつごもつつべし。

224 じつを語れ、いかなかれ、すこしにてももとめられなばあたへよ、の三によりて諸天しよてんところいたれ。

225 害意がいいなき牟尼むにつねせつして、(1)不死ふしところいたる。彼處かしこいたりてはうれふることなし。

226 つね覺窹かくごし、晝夜ちうや勤學きんがくし、涅槃ねはんんとつとむるものの煩惱ぼんなうほろびん。

227 (2)阿偷羅アツラふるくして、いま出來いできたれるものにひとしからず、いはく「ひともくしてせるものをそしり、おほかたるものをそしり、すくなふものをもまたそしる、そしりけざるものなし。

228 つねただそしられ、つねただめらるるもの、過去くわこにあらざりき、未來みらいになけん、しかしていまもあらず。

229 230 多智たちひとし、おこなひしつなく、けんにして、智德ちとくそなはり〕、定意ぢやういあるものを、日日にちにちえず稱揚しようやうすることあらば、閻浮提金えんぶだごん貨幣くわへいごとく、たれひとそしんや、諸天しよてんこれめ、梵天ぼんてんこれめん。」

231 しん惡業あくごふ防護ばうごし、せいせよ、しん非業ひごふてて、善業ぜんごふしゆせよ。

232 惡業あくごふ防護ばうごし、くちせいせよ、非業ひごふてて、くち善業ぜんごふしゆせよ。

233 惡業あくごふ防護ばうごし、こころせいせよ、非業ひごふてて、こころ善業ぜんごふしゆせよ。

234 賢者けんしやせつし、さらくちつつしみ、せいせる賢者けんしやは、これ防護ばうごせるひとなり。

(1) 涅槃の意。 (2) 優婆塞の名なり、以下四偈は佛の此の優婆塞を敎へ給ひし時の偈なり。


垢穢品くゑほんだい十八

235 なんぢいまきばめるごとく、閻魔えんま使者ししやまたなんぢそばつ、門出かどでもんち、路資ろしなんぢにあるなし、

236 なんぢおのれとうとなり、はや精勤しやうごんして智者ちしやとなれ、〔さらば〕垢穢くゑはらひ、愛著あいぢやくはなれて、天上てんじやう聖地しやうちいたらん。

237 なんぢいま年老としおい、閻魔えんまそばきたれり、なんぢ途上とじやう休息きうそくところなく、路資ろしまたあるなし。

238 なんぢおのれとうとなり、はや精勤しやうごんして智者ちしやとなれ、〔さらば〕垢穢くゑはらひ、愛著あいぢやくはなれて、ふたた老死らうしることあらじ。

239 智者ちしやは〔ぎんぎんる〕がごとく、つぎひ、刹那せつな刹那せつなに、すこしづつ、おのれ垢穢くゑれ。

240 てつよりしやうじたるあかの、てつよりでててつむがごとく、分外ぶんぐわい受用じゆようのぞむものは、ごふのために惡趣あくしゆみちびかる。

241 咒神じゆしん垢穢くゑ讀誦どくじゆせざるなり、家屋かをく垢穢くゑ修理しゆりおこたるなり、しき垢穢くゑ怠慢たいまんにして、防護ばうご垢穢くゑ放逸はういつなり。

242 婦女ふじよ非行ひぎやうにして、施者せしや慳貪けんどんなり、(1)邪惡じやあくほふなり、にもにも。

243 これよりもさらおほあり、無明むみやう最大さいだいなり、てて、諸比丘しよびく無垢むくひととなれ。

244 慚恥ざんちねんなく、からすごとくにゆうに、傲慢がうまんに、無禮ぶれいに、自負心じふしんつよく、けがれたるものにはしやうやすし。

245 慚恥ざんちねんあり、つね淸白しやうびやくもとめ、ぢやくなく、自負心じふしんなく、淸淨しやうじやうしやういとなむものには〔しやうは〕かたし。

246 247 きたるをそこなひ、妄語まうごかたり、おいひとあた  ざるをり、他人たにんまじはり、加之しかのみならず飮酒おんしゆふける人、かれおいおのれ脚下きやくかる。

248 なんぢかくごとくして節制せつせいなきことは、邪法じやほふなることをれ、貪望とんまう非法ひほふと、ながなんぢおちいるなからんことを。

249 ひと信仰しんかうしたがひ、このところほどこしをなす、ひとあたふる飮食おんじきたいして不滿ふまんいだくことあらば、かれ晝夜ちうやじやうることなし。

250 かかおもひち、根絕ねだやし、つくせるもの、かれこそは晝夜ちうやじやうべけれ。

251 とんごときはなく、執著しふぢやくしんごときはなし、あみごときはなく、ながれあいごときはなし。

252 他人たにんくわ見易みやすく、おのれくわ見難みがたし、他人たにんくわは〔これひらくこと〕ぬかひらくが如くし、しかおのれの〔くわを〕おほふことは、いつはりある賭者としや骰子とうしかくすがごとくす。

253 くわもとめ、つね憤恚ふんいこころいだくものは、(3)益益ますますし、漏盡ろじんにはとほくしてとほし。

254 空中くうちうにはみちなく、沙門しやもんは〔佛法ぶつほふの〕ほかにはこれあらず、羣生ぐんしやう虛榮きよえいたのしみ、如來によらいには虛榮きよえいなし。

255 空中くうちうにはみちなく、沙門しやもんは〔佛法ぶつほふの〕ほかにはこれあらず、諸行しよぎやう常住じやうぢゆうなるなく、諸佛しよぶつには動著どうぢやくあるなし。

(1) 或は邪惡の法は垢なり。 (2) 九偈の註を見よ。 (3) 漏盡とは煩惱を盡すことにて、阿羅漢果に達するを云ふ、斯の如き人は煩惱を盡して阿羅漢果を得ること能はず。


法住品ほふぢゆうほんだい十九

256 ひとばうもつことけつする、かれこれによりて法住ほうふぢゆうひとたるにあらず、しやうじやともけつするものは賢者けんしやなり。

257 ばうならず、ほふにより、平等びやうどうみちびき、ほふまもらるる智者ちしや、〔かれぞ〕法住ほふぢゆうひととなへらる。

258ひとの〕おほくをかたる、〔かれこれによりて賢者けんしやたるにあらず、堪忍かんにんあり、いかりなく、おそれなき〔もの、かれぞ〕賢者けんしやとなへらる。

259ひとの〕おほくをかたるもいま持法者じほふしやたるにあらず、ほふくことすこしといへども、にてこれ(1)ほふ等閑とうかんにすることなくば、かれこそほふ護持者ごじしやなれ。

260ひとの〕かうべしろき、〔かれは〕これによりて長老ちやうらうたるにあらず、かくごときは、じゆじゆくして、むなしくいたるひととなへらる。

261 ひとたいと・ほふと・あいと・自約じやくと、自調じてうとあり、垢穢くうぇのぞきたる賢者けんしやこそは長老ちやうらうとなへらるれ。

262 ただ言語げんごありとも、またうつくしき形色ぎやうしきありとも、しつけん誑心わうしんあらば、ひと善貌ぜんばうのものにあらず。

263 あくち、根絕こんぜつつくして、瞋恚しんいのぞきたる智者ちしやこそは善貌ぜんばうひととなへらるれ。

264 自制じせいなくして、妄語まうごかたらば、かみるとも沙門しやもんにあらず。〔ひとし〕欲貪よくとんあらば、奈何いかでか沙門しやもんたりべき。

265 ひとすべ大小だいせうあくせいせば、〔かれは〕諸惡しよあくせいせるによりて、沙門しやもんなづけらる。

266 (2)に〔じきを〕ふがゆゑ比丘びくたるにあらず、一さいほふまなぶもいま比丘びくにあらず。

267 罪業ざいごふ福業ふくごふともてて、淸淨行しやうじやうぎやうひとたり、智慧ちゑもつ世界せかいわたるもの、かれ比丘びくしようせらる。

268 269 寂默じやくもくなりとも、にしてなくば牟尼むににあらず、(3)權衡けんかうるがごとく、(4)勝法しようほふり、邪業じやごふつる牟尼むには、かれこれによりて牟尼むになり、ひと(5)兩事りやうじともらば、かれこれによりて牟尼むにとなへらる。

270 生命せいめいそこなふがゆゑ(6)しやうなるにあらず、一さい生類しやうるゐそこなはざるがゆゑ聖者しやうしやなづけらる。

271 272 (7)戒禁かいきんによりても、また(8)多聞たもんによりても、また得定とくぢやう獨臥とくぐわによりても、聖者しやうしやうくべき出離しゆつりらくるることなし、比丘びく漏盡ろじんたつするなくして自恃じぢすることなかれ。

(1) 僅にても聞きては、法に隨ひ、義に隨ひ、大法小法の依行者となり、身に苦等を知りて、四聖諦を見ると解せり。 (2) 比丘には種々の義あれど、中に乞人、乞士等と譯し、他に食を乞ふものゝ義ありとなす。 (3) 權ははかり、衡はおもりなり、權衡を取りて物を量らんとするものは、多きに過ぐれば取去り、少ければ更に加ふ、惡を棄てて善を取るも亦斯の如し。 (4) 勝法とは戒定慧解脫解脫智見を云ふ、此の蘊等の世界に於て、衡を擧げて度るが如く、此等は內蘊なり、此等は外蘊なり等、斯の如の法により、兩義共に量るを云ふ。 (5) 內外上下等の別を知るの意。 (6) 聖者の原語、Ariyaアリヤ の aria には「敵」の意あり、故に生命を害ふ云云と云ふ。 (7) 四作淨戒又は十三頭陀行を行ふを云ふ。 (8) 三藏學を習するを云ふ。


道品だうほんだい二十

273 (1)だうみち最妙さいめう(2)諦理たいり最上さいじやう離欲りよくほふ最勝さいしようにして、(3)具眼者ぐげんしや兩足中りやうそくちう最尊さいそんなり。

274 知見ちけんきよくするのみち〔のみちに〕ほかならず、汝等なんぢらみちめ、困惑こんわくするものなり。

275 汝等なんぢらいちけば、苦盡くじんたつす、われ(4)除箭ぢよせんの〔ほふ〕をりて、汝等なんぢらのためにみちきたり。

276 汝等なんぢらのなすべきは努力どりよくなり、如來によらい說者せつしやなり、禪思ぜんしひとにして〔みちを〕くものはばくのがる。

277 「一切行さいぎやう無常むじやうなり」と、もつかくごととき苦界くかい嫌厭けんをんじやうおこる、(5)じやうるのみちなり。

278 「一切行さいぎやうなり」と、もつかくごととき苦界くかい嫌厭けんをんじやうおこる、じやうるのみちなり。

279 「一切法さいほふ無我むがなり」と、もつかくごととき苦界くかい嫌厭けんをんじやうおこる、じやうるのみちなり。

280 つべきときたず、わかく、つよくして、怠惰たいだおちいり、意志いし思想しさうよわくしてことものうきもの、かか逸者いつしやみち  ず。

281 ことばつつしみ、せいし、不善ふぜんさず、此等これらの三を業道ごふだうより淨除じやうぢよせば、諸大仙しよだいせんたまへるみちん。

282 應念おうねんより智慧ちゑしやうじ、不應念ふおうねんなれば智慧ちゑほろぶ、非有ひうと、二しゆみちりて、智慧ちゑすがごとく、しかおのれしよせよ。

283 (6)煩惱ぼんなうの〕はやしれ、ひとじゆを〔る〕なかれ、はやしよりは危難きなんきたる、はやし下生したばえとをらば、比丘等びくら煩惱ぼんなうはやしなきひととならん。

284 男子なんし女子によしたいする煩惱ぼんなうすこしにてもたれざるところあらば、かれこころとらはる、にうむさぼこうし母牛ぼぎうけるがごとくに。

285 自己じこ愛念あいねんつこと、ぎうもつ秋時しうじはすを〔る〕がごとくし、善逝ぜんざいたまひし(7)寂靜じやくじやうみち涅槃ねはん增長ぞうちやうせよ。

286此處ここ雨時うじすごさん、寒暑かんしよあひだ此處ここに〔ぢゆうせん〕」と、愚人ぐじん思惟しゆゐしてちかづくことをさとらず。

287 ちくあいおぼれ、らくふけるものを、死王しわうらつること、ねむれる村里そんり大水だいすゐただよはしるがごとし。

288 も、ちちも、親族しんぞく恃怙じこにあらず、死王しわうとらへられたるものには親族しんぞく恃怙じこたらず。

289 かいによりてみづかせいせる賢者けんしやは、りて、涅槃ねはんおもむみちきよくせよ。

(1) 八正道を云ふ。 (2) 四聖諦の謂なり。 (3) 佛を云ふ。 (4) 欲等の箭を除くの法。 (5) 淨とは涅槃の謂なり。以下三偈皆同一の意に見よ。 (6) 天然の林間に猛獸毒蛇等の危險あるが如く、貪瞋癡煩惱の林にも種種の危難あり、由りて煩惱を林に譬へたるなり、或は Vanaヴナ (林) Vanathaヴナタ (下生)には共に又煩惱、欲等の意あり、三四四偈參照。 (7) 或は、寂靜の道を增長せよ、涅槃は善逝の說き給ひし所なり。


廣衍品くわうえんほんだい二十一

小樂せうらくてて、大樂だいらくるべくば、賢者けんしや大樂だいらく小樂せうらくつべし。

291 あたへて、おのれらくのぞむものは、怨憎をんぞう擊縛けばくほだされて、怨憎をんぞうよりのがるることなし。

292 すべきことをさず、すべからざることをし、虛誇きょこにして〔しかも〕怠惰たいだなるもの、かかひと諸漏しよろ增長ぞうちやうす。

293 ひとつね精進しやうじんして、觀念くわんねんしゆし、非事ひじとほざかりて、つね是事ぜじおこなひ、しかしてねんかくとあり、かかひと諸漏しよろ滅盡めつじんいたる。

294 (1)ははちちとをころし、兩刹利王りやうぜつりわうころし、國土こくども、依屬えぞくあはほろぼして、婆羅門ばらもん苦患くげんなきにいたる。

295 ははちちとをころし、(2)兩婆羅門りやうばらもんころし、だい五に虎類こるゐめつして婆羅門ばらもんなきにいたる。

296 (3)瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、彼等かれら晝夜ちうやつねねんずるところぶつにあり。

297 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、彼等かれら晝夜ちうやつねねんずるところほふにあり。

298 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、彼等かれら晝夜ちうやつねねんずるところそうにあり。

299 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、こころ晝夜ちうやつね身念しんねんぢゆうして。

300 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、こころ晝夜ちうやつね不害ふがいたのしみて。

301 瞿曇くどん弟子でしつね覺醒かくせいせり、こころ晝夜ちうやつね修習しゆじふたのしみて。

302 出家しゆつけかたく、〔を〕たのしむはかたく、庵〔ぢゆう〕はなん在家ざいけぢゆう〕はかたく、同輩どうはいむはかたく、旅人りよじんなんおちいる、されば旅人りよじんたるなく、なんおちいるなかれ。

303 しんありて戒德かいとく具有ぐいうし、とみとをてるものは、  えらところしたがひ、隨所ずゐしよ恭敬くぎやうせらる。

304 善人ぜんにんとほあらはるること、雪山せつざんごとく、不善者ふぜんしやあらはるることなき、夜陰やいんとうぜるごとし。

305 獨坐どくざ獨臥どくぐわ獨經どくきやうぎやうしてむことなく、ひとおのれせいして林邊りんぺんたのしむものたれ。

(1) 「愛は人を生む」と云ふ句よりしてを母と云ひ、「我は某なる王の子、某なる大臣の子なり」と云ひ、父によりて我慢の心起る,よりて我慢を父と云ふ、兩刹利王とは斷見常見の二、國土とは十二處、而して依屬とは十二處附隨の諸煩惱を云ふ。 (2) 兩婆羅門王とは斷常の二見、虎類とは此處にては疑藎を指すと註解書に釋せり。 (3) 瞿曇又は喬答摩は釋迦族の姓なるが故に、釋尊を時には瞿曇佛と呼びたり。


泥犂品ないりほんだい二十二

306 (1)非事ひじかたるものは泥犂ないりる、してさずと云ふものもまた此等これら兩者りやうしや死後しごおなじ、劣業れつごふひと來世らいせに〔ありてはおなじ〕。

307 邪業じやごふにして、自制心じせいしんなく、くび黃衣わうえまとへる衆多しゆたひと此等これら邪業じやごふひと邪業じやごふため泥犂ないりつ。

308 かいやぶり、自制心じせいしんなくして(2)信施しんせくるよりは、ねつして火熖くわえんたる鐵丸てつぐわんむぞまされる。

309 ひと怠惰たいだにして、たのしむるものには、四きたる、不善業ふぜんごふて、安臥あんぐわず、だい三に毀訾きしだい四に泥犂ないり

310 不善業ふぜんごふおもむところ惡趣あくしゆおそおそれたるもののらくすくなく、わうこれ重罰じゆうばつくはふ、さればひとたのしまざれ。

311 (3)功祚くそさうは、これつかむことしければ、る、沙門しやもんみちも、これおこなうてよろしからざれば、泥犂ないりみちびく。

312 放逸はういつなる行爲かうゐけがれたる禁戒きんかい猶豫ゆうよして梵行ぼんぎやうおこなふ、これとも大果だいくわもたらすものにあらず。

313 ことすべくばこれをし、斷斷乎だんだんことして奮迅ふんじんせよ、そは放逸はういつなる沙門道しやもんだう塵垢ぢんくさんずることおほければなり。

314 惡業あくごふさざるぞき、惡業あくごふのちいたりて、まねく、してまねくことなき善業ぜんごふは、これをすぞき。

315 邊地へんち都府とふ內外ないげともまもるがごとく、しかおのれまもりて瞬時しゆんじいつすることなかれ、瞬時しゆんじゆるがせにするものは地獄ぢごくちてうれかなしむ。

316 づべからざるにぢ、づべきにぢず、邪見じやけんぢやくせる衆生しゆじやう惡趣あくしゆおもむく。

317 おそれなきところおそれおそるべきところおそれず、邪見じやけんぢやくせる衆生しゆじやう惡趣あくしゆる。

318 くわなきにくわねんし、くわあるにくわず、邪見じやけんぢやくせる衆生しゆじやう惡趣あくしゆいたる。

319 くわくわくわなきをくわなしと正見しやうけんいだける衆生しゆじやう善趣ぜんしゆうまる。

(1) 諸經要集六六三偈。 (2) 國民の信仰によりて施す供養物。 (3) 茅に似たる草の一種。


象品ざうほんだい二十三

320 われは戰場せんぢやうおもむけるざうの、ゆみはなれたるを〔しのぶ〕がごとく、罵詈ばりしのぶ、羣生ぐんじやうは、破戒はかいなればなり。

321ひとは〕調なづけたるを戰場せんぢやうき、わうれたるにる、ひとなかにて、自制心じせいしんあり、罵詈ばりしのぶは最第さいだい一なり。

322 れたるはく、氣高けだか(1)辛頭馬しんづばし、大龍だいりゆう象王ざうわうく、おのれせいせるものはさらし。

323 此等これら乘物のりものに〔り〕ては、〔ひとは〕(2)不至ふしいた  ことなし、おのれせいせるものは、自制じせいによりて、〔ところに〕たつすること、れたるに〔りてくがごとし〕。

324 護穀ダナパーラガなづくるざうの、はげしくくるひて、禁制きんせいがたきも、ばくせられてはじきくらふことなし、ざうざう〔のむ〕はやし愛慕あいぼす。

325 懶惰らいだにして飽食はうしよく長眠ちやうみん轉輾てんでんしてぐわする愚者ぐしやは、供食くじきもつはるる大豕だいしごとく、數數しばしば胞胎はうたいる。

326 (3)こころかつて、のぞみにより、よくしたがひ、らくまかせて流轉るてんしたり、われ今日こんにちこれせいすること、象師ざうし猛象みやうざうを〔せいする〕がごとくせん。

327 精勤しやうごんらくとせよ、おのれこころ防護ばうごせよ、難處なんしよよりくこと、泥中でいちうおちゐれるざうごとくせよ。

328 思慮しりよある、善行ぜんぎやう賢者けんしやを、同行どうぎやうともば、一さい危難きなんち、歡喜くわんぎ思惟しゆゐして、かれともおこなへ。

329 思慮しりよある、善行ぜんぎやう賢者けんしやを、同行どうぎやうともずば、わうりたるくにつるがごとく、摩登伽マータンガりんちうざうごとく、ただひとおこなへ。

330 ひとむこそけれ、愚者ぐしやともたるはなし、ひとおこなうて惡事あくじなかれ、寡欲くわよくなること摩登伽マータンガりんちうざうごとくなれ。

331 ことおこればともらく滿足まんぞく何處いづこよりきたるもたのし、命終みやうじゆうにも善行ぜんぎやうたのしく、一さいつるはたのし。

332 ははたるはたのしく、ちちたるはたのし、沙門しやもんたるはたのしく、婆羅門ばらもんたるはたのし。

333 老後らうごいたるまで、かいたもつはらく正信しやうしんつるはらく智慧ちゑるはたのしく、あくさざるはたのし。

(1) 辛頭・信度・仙陀婆・印度河の流域地方にして名馬を產す。 (2) 不至の地とは涅槃の境を云ふ。 (3) 長老偈七七、一一三〇


愛欲品あいよくほんだい二十四

334 放逸行はういつぎやうひとには、愛欲あいよく增長ぞうちやうすること、蔓草まんさうごとし、かれ生生しやうしやう轉輾てんでんすること、林中りんちう果實くわじつもとむるさるごとし。

335 いやしくして、(1)どくある愛欲あいよくひとたば、かれ憂苦うく增長ぞうちやうすること、(2)さかふる毘羅那ビーラナさうごとし。

336 ひとし、いやしくして、せいがた愛欲あいよくたば、憂苦うくかれること、蓮葉れんえふよりつる水滴すゐてきごとし。

337 さればわれ汝等なんぢらげん「汝等なんぢらここあつまれるものにさいはひあれ、愛欲あいよくること、優尸羅ウシーラもとむるものの、毘羅那ビーラナを〔る〕がごとくし、汝等なんぢら葦草ゐさう水流すゐりうらるるがごとく、數數しばしばやぶらるるなかれ。」

338 たとへばの、わざはひなくして、つよければ、るともふたたしやうずるがごとく、愛執あいしふこれつことなくば、再再さいさいおこる。

339 三十六りう愛樂あいげうながれだいなるときは、よく沒在ぼつざいせる意志いし水流すゐるは、〔の〕邪見じやけん〔のひと〕をはこる。

340よくは一切處さいしよながれ、葛藤かつとう萌芽ほうがしてそんす、葛藤かつとうしやうずるをば、智慧ちゑもつて。

341 衆生しゆじやうあいせるもの、よろこべるものは、くことはやし、よくおぼれ、らくもとむるもの、彼等かれら老死らうしいたる。

342 よくまとはれたる衆生しゆじやうは、わなとらはれたるうさぎごと奔馳ほんちす、結使けつしめにばくせられ、再再さいさいふことひさし。

343 よくまとはれたる衆生しゆじやうは、わなとらはれたるうさぎごと奔馳ほんちす、されば離塵りぢんのぞめる比丘びくは、おのれ愛欲あいよくつべし。

344 ひと(3)矮林わゐりん〔=よく〕をりて、(4)叢林さうりん〔=よく〕にり、一りん〔=よく〕をのがれて一りん〔=よく〕にるもの、ひとよ、〔ばくを〕だつしてしかばくおもむくなり。

345 てつや、や、またくさにてれるものは、賢者けいしやこれかたばくしようせず、珠環しゆくわんと、妻子さいしとのよく貪著とんぢやくするところつよし。

346 賢者けんしやは、これをぞつよくして〔ひと惡趣あくしゆに〕おとし、かたくしてがたばくふ、ひとこれやぶりて、無欲むよく〔のとなり〕、愛樂あいげうてて出家しゆつけす。

347 よくたのしむものは〔よくの〕ながれしたがつてくだること、蜘蛛くもみづかつくりたるあみを〔くだる〕がごとし、賢者けんしやこれやぶりて、よくなく、所有あらゆる苦惱くなうててる。

348 さきなる〔=過去かこ〕をて、あとなる〔=未來みらい〕をて、なかなる〔=現在げんざい〕をてよ、〔くするものは〕生有しやうう彼岸ひがんいたれるなり、一切處さいしよ著心ぢやくしんなければ、さら生老しやうらうほださるることあらじ。

349 疑念ぎねんのためにこころなやみ、よくさかんにして、不淨ふじやうじやうひとは、愛念あいねん益益ますます增長ぞうちやうす、かかひとは〔の〕ばくかたくするなり。

350 疑念ぎねんめつよろこび、つね念覺ねんかくありて、不淨觀ふじやうくわんしゆす、かれは〔の〕愛念あいねんほろぼさん、かればくたん。

351 (5)圓成ゑんじやうゐきたつし、怖畏ふゐなく、あいはなれ、ぢやくなく、生有しやうういばらてり、最後身さいごしんなり。

352 あいはなれ、ぢやくり、(6)詞句しくたくみに、(7)つづりたる文字もんじと、前後ぜんごとをす。かれ(8)最後身さいごしんにして、大智者だいちしや大丈夫だいぢやうぶしようせらる。

353 (9)われ所有あらゆるものにち、所有あらゆるものをり、所有あらゆるほふおいけがさるるところなし、所有あらゆるものをて、(10)愛盡あいじんうへおい解脫げだつたり。みづかさとりて、まただれをか〔と〕あふがんや。

354 法施ほふせは、所有あらゆるち、法味ほふみは、所有あらゆるち、法樂ほふらくは、所有あらゆるらくち、愛盡あいじんは、所有あらゆるつ。

355 ざい劣智れつちひとそこなへども(11)度脫どだつもとむるひとを〔そこなふこと〕なし、財欲ざいよくのために無智者むちしやそこなふこと、〔ほ〕を〔そこなふ〕がごとし。

356 惡草あくさうのためにそこなはれ、羣生ぐんじやう貪欲とんよくのためにそこなはる、されば離欲りよくひとほどこせる〔もの〕には、大果報だいくわはうあり。

357 惡草あくさうのためにそこなはれ、羣生ぐんじやう瞋恚しんいのためにそこなはる、されば離瞋りしんひとほどこせる〔もの〕には、大果報だいくわはうあり。

358 惡草あくさうのためにそこなはれ、羣生ぐんじやう愚癡ぐちのためにそこなはる、されば離癡りちひとほどこせる〔もの〕には、大果報だいくわはうあり。

359 惡草あくさうのためにそこなはれ、羣生ぐんじやう意欲いよくのためにそこなはる、されば離慾りよくひとほどこせる〔もの〕には、大果報だいくわはうあり。

(1) Visattikāボサッチカー を『長老偈』三九九偈の英譯にてリス・デビヅ夫人は The poisoner of all mankind とす、あらゆる人類を毒するものの意、欲望の意もあり。 (2) 學名を Andropogon murica tum と云ふ、一種の香草なり、其の敎を優尸羅と云ふ、三三七偈を見よ。 (3) Vanathaヴナタ には矮樹林下生園欲等の意あり。 (4) Vanaヴナ にも森林叢林園欲等の意あり。 (5) 阿羅漢果を指すと釋せり。 (6) 言語文句。 (7) 文字を集めたるもの、卽ち文章と、文章中文字の前後。 (8) 阿羅漢や獨覺や佛は一旦無餘涅槃に入れば、再び世に出ることなし、故に此等を指して最後身の人と云ふ。 (9) 諸經要集二一一偈、イチウッタカ一一二偈、マハーヷッガ(大品)一の六參照。 (10) 愛欲、愛會を盡すことにて阿羅漢果を云ふ。 (11) 彼岸に達せんと願へる人。


沙門品しやもんほんだい二十五

360 もつて〔みづから〕せつするはく、みみもつて〔みづから〕せつするはし、はなによりてせつするはく、したうへに〔みづから〕せつするはし。

361 おいせつするはく、ことばおいせつするはし、もつせつするはく、一切處さいしよせつするはし。一切處さいしよ  せつするところある比丘びくもろもろ苦痛くつうよりのがる。

362 防護ばうごし、あし防護ばうごし、ことば防護ばうごするは防護ばうごするのうへなり、うちらくあり、ぢやうあり、獨居どくごして、ることをるもの、かれを〔ひとは〕比丘びくぶ。

363 比丘びくの、くち防護ばうごし、適度てきどかたりて、(1)調戯でうげならざるれ、〔し〕ほふとをあかさば、ところは、甘味かんみなり。

364 ほふ樂園らくゑんとし、ほふたのしみ、ほふ思惟しゆゐし、ほふ憶念おくねんする比丘びくは、正法しやうぼふより退墮たいだすることなし。

365 おのれところこれかろんぜざれ、の〔ところこれを〕うらやまざれ。の〔ところを〕うらや比丘びく安定あんぢやうることなし。

366 ところすくなしといへども、比丘びくこれかろんぜざれば、諸天しよてんは、(2)淨活命じやうくわつみやう不屈撓ふくつたう〔のひと〕を讃歎さんだんす。

367 名色みやうしきうへおいて、すべ我有がうねんなく、また(3)消滅せうめつをもうれひとせざれば、ひとかれ比丘びくぶ。

368 比丘びく慈悲じひぢゆうし、ほとけをしへよろこべるものは、靜穩じやうをんところ諸行しよぎやう息止そくし安樂あんらくん。

369 比丘びく(4)ふねめ、まばなんぢの〔ふね〕ははやはしらん、貪欲とんよく瞋恚しんいとをてて、それよりなんぢは、涅槃ねはんたつせん。

370 (5)五をち、(6)五をて、更に(7)五をしゆせよ、(8)ぢやくえたる比丘びくは、暴流ばうるわたりたる〔ひと〕としようせらる。

371 比丘びく禪思ぜんしせよ、怠惰たいだなるなかれ、こころ諸欲しよよくまよはしむるなかれ、怠惰たいだにして〔地獄ぢごくねつ鐵丸てつぐわんなかれ、〔獄火ごくくわに〕かれて「くるし」とさけぶことなかれ。

372 なきものにぜんなく、ぜんなきものにはなし、ひとぜんとあらば、かれ涅槃ねはんちかづけるなり。

373 空屋くうをくりて、こころ寂靜じやくじやうにしたる比丘びくまさしくほふくわん   さつせば、樂人界らくにんがいうへづ。

374ひとし〕種種しゆじゆはうによりて、諸薀しよをん起滅きめつ思念しねんすれ ば、〔ほふ、〔ほふえつ智者ちしやの、甘露味かんろみとする所なり。

375 376 此處ここをしへおいて、ある比丘びくすべきことなり、諸根しよこん防護ばうごし、ることをり、かいもつて〔みづから〕せつす、善良ぜんりやうなるともの、淸淨しやうじやう生活せいかつし、精勤しやうごんなるものとまじはれ、慈悲じひおこなひ、義務ぎむまつたうせよ。それより歡喜くわんぎおほくして苦惱くなうつくすにいたらん。

377 しぼみたる(9)拔師迦ヷッシカーさうはなつるがごとく、しか貪欲とんよく瞋恚しんいとをてよ、諸比丘しよびく

378 しづかにし、ことばしづかにし、寂靜じやくじやう安定あんぢやうにして世樂せらくてたる比丘びくこれ安息あんそくの〔ひと〕とふ。

379 おのおのれいましめ、おのおのれあらためよ、比丘びくよ、く〔せばなんぢは〕みづか防護ばうごし、正念しやうねんありて、安穩あんのんぢゆうせん。

380 げにおのれおのれしゆ、げにおのれおのれ依所えしよなり、されば、おのれ調御でうごすること、商估しやうこ良馬りやうめを〔調御でうごする〕がごとくせよ。

381 歡喜くわんぎおほく、ほとけをしへよろこべる比丘びくは、靜隱じやうをん諸行しよぎやう息止そくし安樂あんらくん。

382 比丘びく年少ねんせうなりとも、ほとけをしへ精勤しやうごんせば、かれ世閒せけんてらすこと、雲閒くもまでたる月輪ぐわつりんごとくならん。

(1) 調戯又は掉擧とも云ふ、心の浮きて落著かざる狀態を指して云ふ。 (2) 淸淨なる生活を營む人を云ふ。 (3) 名色を指して云ふ。 (4) 此の身より邪思惟の水を除くを云ふ。 (5) 五下分結、欲界に屬する五種の煩惱、欲界貪・瞋・身見・戒禁取見・疑。 (6) 五上分結、色無色の上二界に屬する五種の煩惱、色界貪・無色界貪・慢・掉擧・無明。 (7) 五根、信・進・念・定・慧。 (8) 五種の著、貪・瞋・癡・慢・見。 (9) Vassikāヷッシカー.


婆羅門品ばらもんほんだい二十六

383 努力どりよくしてながれ諸欲しよよくれ、(1)婆羅門ばらもん諸行しよぎやうめつ  さとれば、婆羅門ばらもんなんぢ(2)無爲むゐ〔のほふ〕をらん。

384 婆羅門ばらもんし〔止觀しくわんの〕二ほふおいて、彼岸ひがんたつするときは、智者ちしや愛結あいけつすべくるにいたる。

385 ひと(3)彼岸ひがんなく此岸しがんなく、彼此兩岸ひしりやうがんともになし、怖畏ふゐはなれ、愛結あいけつのぞきたる、かくごときをわれ婆羅門ばらもんぶ。

386 禪思ぜんしありて、離垢りくもとめ、所作しよさすでべんじて、あるなく、最上利さいじやうりたつせるもの、われはこれを婆羅門ばらもんぶ。

387 ひるり、つきよるかがやく、武服ぶふくせる刹利種せつなしゆひかり、禪思ぜんしある婆羅門ばらもんひかる、されどほとけ威光ゐくわうもつすべ晝夜ちうやひかる。

388 惡業あくごふのぞけるは婆羅門ばらもんぎやうしづかにせるは沙門しやもんしようせらる、おのれ(5)垢穢くゑてたるによりて、かれ出家者しゆつけしやしようせらる。

389 婆羅門ばらもんなかれ、婆羅門ばらもんは〔たるるとも〕いかりはななかれ、わざはひあれ、婆羅門ばらもんつものに。さらわざはひあれ、〔たれて〕いかるものに。

390 婆羅門ばらもんこころ愛好あいかう〔するところ〕よりとほざくれば、これかれせうならざる利益りやくあり、〔を〕がいするこころゆるごと苦惱くなうまたしたがつてめつす。

391 ひとにも、ことばにも、こころにも、惡作あくさなく、三しよせつするところある、われこれ婆羅門ばらもんぶ。

392ひと〕より〔きて〕ほとけたまひしほふさとらば、〔の〕をうやまふこと、婆羅門ばらもん火祠くわしを〔うやまふ〕がごとくせよ。

393 婆羅門ばらもん結鬘けつまんしやうしやうとにるにあらず、ひと諦理たいりほふとあらばかれ淸白しやうびやくなり、又婆羅門ばらもんなり。

394 愚者ぐしやよ、結鬘けつまんは、なんぢなん〔のよう〕かある、皮衣ひえなんぢなん〔のよう〕かある、なんぢうち愛著あいぢやくを〔いだきて〕、ただほかきよ   うす。

395 弊衣へいえたるひとせて、脈管みやうくわんあらはるるにいたり、ひと林閒りんかんに〔りて〕禪思ぜんしせるもの、これわれ婆羅門ばらもんぶ。

396 (6)われ(7)婆羅門女ばらもんによの〕たいよりで、〔婆羅門ばらもんの〕ははよりうまれたるのゆゑもつ婆羅門ばらもんぶことなし、かれ我有がうあらば、かれは〔われを〕(8)ボーぶのなり、我有がうなく取著しゆぢやくなきもの、これわれ婆羅門ばらもんぶ。

397 所有あらゆる愛結あいけつち、おそるるところなく、ぢやくえ、はなれたるもの、ひとわれ婆羅門ばらもんぶ。

398 (9)ひもくだなはとを、これぞくするものとともに、あはち、梁木はりきくだきたる智者ちしや、われはひと婆羅門ばらもんぶ。

399 惡罵あくめも、打擲ちやうちやくも、監禁かんきんいかることなくして默受もくじゆし、堪忍力かんにんりきありて、こころたけひと、われはかくごとひと婆羅門ばらもんぶ。

400 忿怒ふんぬなく、ぎやうあり、かいあり、よくはなれ、自調じてうして、最後身さいごしんたつせるもの、われこれ婆羅門ばらもんぶ。

401 荷葉かえふうへなるみずごとく、きりさきなる罌粟けしごとく、諸欲しよよくぜんせざるもの、われこれ婆羅門ばらもんなづく。

402 おのれ苦惱くなう此處ここほろぶるをり、重擔おもにおろし、繫縛けばくはなれたるもの、われこれ婆羅門ばらもんしようす。

403 深智しんちあり、賢才けんさいありて、道非道だうひだうわきまへ、最上利さいじやうり到達たうたつせるもの、われこれ婆羅門ばらもんぶ。

404 在家人ざいけにんにも、出家人しゅつけにんにも、あひだまじはらず、いへなくして遊行ゆぎやうし、よくすくなきもの、われはひと婆羅門ばらもんふ。

405 よわきもつよきも、有情うじやうたいして刀杖たうじやうくはえず、これそこなふことなく、ころさしむることなき、ひとわれ婆羅門ばらもんぶ。

406 敵意てきいあるひとあひだにありて敵意てきいなく、暴者ばうしやうちにありてこころあたたかに、取著しゆぢやくあるひとうちにありて取著しゆぢやくなき、これわれ婆羅門ばらもんなづく。

407 ひととんと、しんと、まんと、ふくともつること、錐頭きりさき罌粟けしごとくなる、われこれ婆羅門ばらもんなづく。

408 ならず、意義いぎふくみて、まことなることばき、これによりていからしむることなき、われはこれ婆羅門ばらもんしようす。

409 にありて、ながきもみじかきも、せうなるもだいなるも、きもあしきも、あたへられざるをることなき、われこれ婆羅門ばらもんなづく。

410 にもにも、欲望よくもうあるなく、意樂いげうなく、繫縛けばくはなれたる、われこれ婆羅門ばらもんと云ふ。

411 ひと依處えよなく、智慧ちゑありて、疑惑ぎわくなく、不死ふし極處ごくしよいたれる、ひとわれ婆羅門ばらもんぶ。

412 此處ここ福業ふくごふも、罪業ざいごふともに〔のがれて〕、ぢやくぶくし、うれひなく、ぜんなく、淸淨しやうじやうなるもの、ひとわれ婆羅門ばらもんぶ。

413 くもりなきつきごとく〔こころきよく、み、にごりなく、歡樂くわんらくこころきたるひとわれこれ婆羅門ばらもんしようす。

414 泥途でいと難路なんろ輪廻りんね愚癡ぐちえ、わたりて彼岸ひがんいたり、禪思ぜんしありて、よくなく、うたがひなく、しふなくして靜穩じやうをんせる、われ〔のひと〕をんで婆羅門ばらもんふ。

415 此處ここ諸欲しよよくて、いへはなれて遊行ゆぎやうし、欲有よくうめつしたるひとこれわれ婆羅門ばらもんぶ。

416 此處ここ愛著あいぢやくて、いへはなれて遊行ゆぎやうし、愛有あいうめつしたるひとわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

417 人界にんがいばくて、天界てんかいばくえたり、所有あらゆる繫縛けばくはなれたるひとわれこれ婆羅門ばらもんふ。

418 らく非樂ひらくとをて、淸涼しやうりやうして、有質うぜつなく、所有あら 世閒せけんちたる勇士ゆうしわれひと婆羅門ばらもんふ。

419 すべ有情うじやうしやうとをり、執着しふぢやくねんなき善趣ぜんしゆ智者ちしやわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

420 諸天しよてんも、乾闥婆けんたつばも、人閒にんげんも、みちうかがるなし、漏盡ろじん阿羅漢あらかんわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

421 過去くわこにも、未來みらいにも、中閒ちうげんにも、おのれとすべきものなし、我有がうなく取著しゆぢやくなき、われこれ婆羅門ばらもんぶ。

422 最雄さいゆう最勝さいしようひと勇士ゆうし大仙だいせん勝者しようしや無欲むよくにしてがくをはりたる智者ちしやわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

423 宿世しゆくせ天界てんかい惡趣あくしゆとをさらしやう滿盡まんじんいたり、きよくたつしたる牟尼むににして、すべはたすべきをはたしたるひとわれこれ婆羅門ばらもんぶ。

(1) 此の偈以下、偈每に「婆羅門」の語を用ふ、是れ印度四姓中の婆羅門を指すにあらずして、煩惱を滅し惡業を除きたる人の義に用ひたるなり。 (2) 涅槃の謂なり。 (3) 法句經註解書には、彼岸此岸、彼此岸を、內の六入外の六入內外の六入なりと解し、アンデルゼンは、來生此生、及び全一生なりと註し、而も疑を存せり。 (4) 阿羅漢果を云ふ。 (5) 愛欲等の諸煩惱。 (6) 以下四二三偈まで諸經要集六二〇-六四七偈參照。 (7) 生のために、母のために婆羅門と呼ぶことなし。 (8) 所謂四姓中の婆羅門族に生れたるものは世尊を呼ぶに bhoボー (爾又は友)の語を以てせり、故に彼を稱して bhovâdiボーヷーヂ (佛を呼ぶに爾の語を以てするもの)と名けたり。 (9) 紐は忿に譬へ、緖は愛に、索は六十二見に、梁木は之を無明に譬ふ、而して智者とは四諦の理を知りたる人の謂なり。


國譯法句經

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