千載和歌集/巻第十六

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巻十六:雑上


00959

[詞書]上東門院より六十賀おこなひたまひける時、よみ侍りける

法成寺入道前太政大臣

かそへしる人なかりせはおく山のたにの松とやとしをつままし

かそへしる-ひとなかりせは-おくやまの-たにのまつとや-としをつままし


00960

[詞書]上東門院入内のときの御屏風に、松ある家にふえふきあそひしたる人あるところをよみ侍りける

大納言斉信

ふえ竹のよふかきこゑそきこゆなるきしの松かせふきやそふらん

ふえたけの-よふかきこゑそ-きこゆなる-みねのまつかせ-ふきやそふらむ


00961

[詞書]一条院御時、皇后宮五節たてまつられける時、たつの日かしつき十二人わらはしもつかへまてあをすりをなむきせられたりけるに、兵衛といふかあかひものとけたりけるを、これむすははやといふをききて、中将実方朝臣よりてつくろふとて、あし曳のやま井の水はこほれるをいかなるひものとくるなるらむ、といふをききて、返しによみ侍りける

皇后宮清少納言

うはこほりあはにむすへるひもなれはかさす日かけにゆるふはかりを

うはこほり-あはにむすへる-ひもなれは-かさすひかけに-ゆるむはかりそ


00962

[詞書]十二月はかりに、かとをたたきかねてなんかへりにしとうらみたりけるをとこ、としかへりて、かとはあきぬらんやといひて侍りけれは、つかはしける

上東門院紫式部

たかさとの春のたよりにうくひすの霞にとつるやとをとふらん

たかさとの-はるのたよりに-うくひすの-かすみにとつる-やとをとふらむ


00963

[詞書]藤原実方朝臣のとのゐところにもろともにふして、あかつきかへりてあしたにつかはしける

藤原道信朝臣

いもとねておきゆくあさの道よりも中中もののおもはしきかな

いもとねて-おきゆくあさの-みちよりも-なかなかものの-おもはしきかな


00964

[詞書]二月はかり月あかきよ、二条院にて人人あまたゐあかして物かたりなとし侍りけるに、内侍周防よりふして、まくらをかなと、しのひやかにいふをききて、大納言忠家これをまくらにとてかひなをみすのしたよりさしいれて侍りけれは、よみ侍りける

周防内侍

春のよの夕はかりなるたまくらにかひなくたたん名こそをしけれ

はるのよの-ゆめはかりなる-たまくらに-かひなくたたむ-なこそをしけれ


00965

[詞書]といひいたし侍りけれは、返事によめる

大納言忠家

契ありてはるの夜ふかきたまくらをいかかかひなき夢になすへき

ちきりありて-はるのよふかき-たまくらを-いかかかひなき-ゆめになすへき


00966

[詞書]一条院御時、皇后宮に清少納言はしめて侍りける比、三月はかり、二、三日まかてて侍りけるに、かの宮よりつかはされて侍りける

皇后宮定子

いかにしてすきにしかたをすくしけんくらしわつらふ昨日けふかな

いかにして-すきにしかたを-すくしけむ-くらしわつらふ-きのふけふかな


00967

[詞書]御返事

清少納言

雲のうへもくらしかねける春の日をところからともなかめつるかな

くものうへも-くらしかねける-はるのひを-ところからとも-なかめつるかな


00968

[詞書]いふかしくおほされける人のむすめの、女房のつほねにゆかりありて、しのひてかたたかへにまゐりけるを、あかつきとくいてにけれは、つかはしける

選子内親王

あひみむとおもひしことをたかふれはつらきかたにもさためつるかな

あひみむと-おもひしことを-たかふれは-つらきかたにも-さためつるかな


00969

[詞書]選子内親王に侍りける右近、のちの斎院にまゐりて御禊のいたしくるまにのるとききて、又の日つかはしける

大斎院中将

みそきせしかもの川なみたちかへりはやくみしせに袖はぬれきや

みそきせし-かものかはなみ-たちかへり-はやくみしせに-そてはぬれきや


00970

[詞書]まつりのつかひにて、神たちの宿所より斎院の女房につかはしける

藤原実方朝臣

ちはやふるいつきの宮のたひねにはあふひそ草の枕なりけり

ちはやふる-いつきのみやの-たひねには-あふひそくさの-まくらなりけり


00971

[詞書]弾正尹為尊のみこかくれ侍りてのち、太宰帥敦道のみこはなたちはなをつかはして、いかかみるといひて侍りけれは、つかはしける

和泉式部

かをるかによそふるよりはほとときすきかはやおなしこゑやしたると

かをるかに-よそふるよりは-ほとときす-きかはやおなし-こゑやしたると


00972

[詞書]上西門院賀茂のいつきと申しけるを、かはらせ給うてからさきにはらへしたまひける御ともにて、女房のもとにつかはしける

八条前太政大臣

昨日まてみたらし河にせしみそきしかのうら浪たちそかはれる

きのふまて-みたらしかはに-せしみそき-しかのうらなみ-たちそかはれる


00973

[詞書]賀茂のいつきかはりたまうてのち、からさきのはらへ侍りけるまたの日、さうりんしの御このもとより、きのふなにことかなと侍りける返事につかはされ侍りける

式子内親王

みたらしやかけたえはつる心ちしてしかの浪ちに袖そぬれこし

みたらしや-かけたえはつる-ここちして-しかのなみちに-そてそぬれこし


00974

[詞書]右兵衛督に侍りける時、中院の右のおほいまうちきみ中納言に侍りけるに、ゆみをかりおきて侍りけるを、つかさしし申してこもりゐ侍りける時、かのゆみをかへしおくるとて、そへてつかはしける

大宮前太政大臣

やとせまて手ならしたりしあつさ弓かへるをみるにねそなかれける

やとせまて-てならしたりし-あつさゆみ-かへるをみるに-ねそなかれける


00975

[詞書]返し

中院右大臣

なにかそれおもひすつへきあつさ弓又ひきかへす時もありなん

なにかそれ-おもひすつへき-あつさゆみ-またひきかへす-ときもありなむ


00976

[詞書]右大将兼長、かすかのまつりの上卿にたち侍りけるともに、藤原範綱かこ、清綱か六位に侍りけるに、しのふすりのかりきぬをきせて侍りけるを、をかしくみえけれは、又の日範綱かもとにさしおかせ侍りける

左京大夫顕輔

きのふみししのふもちすりたれならん心のほとそかきりしられぬ

きのふみし-しのふもちすり-たれならむ-こころのほとそ-かきりしられぬ


00977

[詞書]上東門院に侍りけるを、さとにいてたりけるころ、女房のせうそこのついてに筝のことつたへにまうてこんといひて侍りける返事につかはしける

紫式部

露しけきよもきかなかの虫のねをおほろけにてや人のたつねん

つゆしけき-よもきかなかの-むしのねを-おほろけにてや-ひとのたつねむ


00978

[詞書]二条院御時、としころおほうちまもることをうけたまはりて、みかきのうちには侍りなから、昇殿はゆるされさりけれは、行幸ありける夜、月のあかかりけるに女房のもとに申し侍りける

前右京権大夫頼政

人しれぬおほうち山のやまもりはこかくれてのみ月をみるかな

ひとしれぬ-おほうちやまの-やまもりは-こかくれてのみ-つきをみるかな


00979

[詞書]三条女御(☆子)遁世ののち、あふきかみに月いたしてつかはし侍るとてそへて侍りける

権中納言実綱

秋をへて光をませとおもひしにおもはぬ月のかけにもあるかな

あきをへて-ひかりをませと-おもひしに-おもはぬつきの-かけにもあるかな


00980

[詞書]月為友といへる心を

仁和寺後入道法親王(覚性)

とふ人におもひよそへてみる月のくもるはかへる心ちこそすれ

とふひとに-おもひよそへて-みるつきの-くもるはかへる-ここちこそすれ


00981

[詞書]月のうたあまたよませ侍りける時、よみ侍りける

法性寺入道前太政大臣

ささ浪やくにつみかみのうらさひてふるき都に月ひとりすむ

ささなみや-くにつみかみの-うらさひて-ふるきみやこに-つきひとりすむ


00982

[詞書]月のうたあまたよませ侍りける時、よみ侍りける

法性寺入道前太政大臣

あまの川空ゆく月はひとつにてやとらぬ水のいかてなからん

あまのかは-そらゆくつきは-ひとつにて-やとらぬみつの-いかてなからむ


00983

[詞書]題不知

中務卿具平親王

ひとりゐて月をなかむる秋のよはなにことをかはおもひのこさん

ひとりゐて-つきをなかむる-あきのよは-なにことをかは-おもひのこさむ


00984

[詞書]題不知

赤染衛門

物おもはぬ人もやこよひなかむらんねられぬままに月をみるかな

ものおもはぬ-ひともやこよひ-なかむらむ-ねられぬままに-つきをみるかな


00985

[詞書]題不知

相模

なかめつつむかしも月はみしものをかくやは袖のひまなかるへき

なかめつつ-むかしもつきは-みしものを-かくやはそての-ひまなかるへき


00986

[詞書]題不知

和泉式部

ひとりのみあはれなるかと我ならぬ人にこよひの月をみせはや

ひとりのみ-あはれなるかと-われならぬ-ひとにこよひの-つきをみせはや


00987

[詞書]おもふこと侍りけるころ、月のいみしくあかく侍りけるによみ侍りける

久我内大臣

かくはかりうき世の中のおもひ出てにみよともすめる夜はの月かな

かくはかり-うきよのなかの-おもひいてに-みよともすめる-よはのつきかな


00988

[詞書]山家月といへるこころをよみ侍りける

皇太后宮大夫俊成

すみわひて身をかくすへき山さとにあまりくまなき夜はの月かな

すみわひて-みをかくすへき-やまさとに-あまりくまなき-よはのつきかな


00989

[詞書]百首歌たてまつりける時、月の歌とてよめる

前参議親隆

はりまかたすまの月夜めそらさえてゑしまかさきに雪ふりにけり

はりまかた-すまのつきよめ-そらさえて-ゑしまかさきに-ゆきふりにけり


00990

[詞書]月のうた十首よみ侍りける時、よめる

藤原家基

さよちとりふけひのうらにおとつれてゑしまかいそに月かたふきぬ

さよちとり-ふけひのうらに-おとつれて-ゑしまかいそに-つきかたふきぬ


00991

[詞書]月のうた十首よみ侍りける時、よめる

俊恵法師

いかたおろすきよたき川にすむ月はさをにさはらぬ氷なりけり

いかたおろす-きよたきかはに-すむつきは-さをにさはらぬ-こほりなりけり


00992

[詞書]月のうた十首よみ侍りける時、よめる

賀茂成保

あまのはらすめるけしきはのとかにてはやくも月の西へゆくかな

あまのはら-すめるけしきは-のとかにて-はやくもつきの-にしへゆくかな


00993

[詞書]月のうた十首よみ侍りける時、よめる

顕昭法師

さひしさにあはれもいととまさりけりひとりそ月はみるへかりける

さひしさに-あはれもいとと-まさりけり-ひとりそつきは-みるへかりける


00994

[詞書]月のうた十首よみ侍りける時、よめる

藤原清輔朝臣

いまよりはふけ行くまてに月はみしそのこととなく涙おちけり

いまよりは-ふけゆくまてに-つきはみし-そのこととなく-なみたおちけり


00995

[詞書]としころ修行にまかりありきけるか、かへりまうてきて、月前述懐といへるこころをよめる

登蓮法師

もろともにみし人いかになりにけん月はむかしにかはらさりけり

もろともに-みしひといかに-なりにけむ-つきはむかしに-かはらさりけり


00996

[詞書]都をはなれてとほくまかること侍りける時、月をみてよみ侍りける

法印静賢

あかなくに又もこのよにめくりこはおもかはりすな山のはの月

あかなくに-またもこのよに-めくりこは-おもかはりすな-やまのはのつき


00997

[詞書]月のうたあまたよみ侍りける時、いさよひの月の心をよめる

源仲正

はかなくもわかよのふけをしらすしていさよふ月をまちわたるかな

はかなくも-わかよのふけを-しらすして-いさよふつきを-まちわたるかな


00998

[詞書]見月恋故人といへる心をよめる

源仲綱

さきたちし人はやみにやまよふらんいつまて我も月をなかめん

さきたちし-ひとはやみにや-まよふらむ-いつまてわれも-つきをなかめむ


00999

[詞書]百首歌たてまつりける時、月歌とてよめる

待賢門院堀河

のこりなくわかよふけぬとおもふにもかたふく月にすむ心かな

のこりなく-わかよふけぬと-おもふにも-かたふくつきに-すむこころかな


01000

[詞書]従一位藤原宗子、やまひおもくなりてひさしくまゐり侍らて、心ほそきよしなと奏せさせ侍りけるにつかはしける

近衛院御製

うき雲のかかるほとたにあるものをかくれなはてそあり明の月

うきくもの-かかるほとたに-あるものを-かくれなはてそ-ありあけのつき


01001

[詞書]みのおの山寺にひころこもりて、いて侍りけるあかつき、月のおもしろく侍りけれは

仁和寺後入道法親王(覚性)

このまもるあり明の月のおくらすはひとりや山のみねを出てまし

このまもる-ありあけのつきの-おくらすは-ひとりややまの-みねをいてまし


01002

[詞書]月のうたとてよみ侍りける

道性法親王

ことのねを雪にしらふときこゆなり月さゆる夜のみねの松かせ

ことのねを-ゆきにしらふと-きこゆなり-つきさゆるよの-みねのまつかせ


01003

[詞書]月のうたとてよみ侍りける

権中納言長方

あかていらんなこりをいととおもへとやかたふくままにすめる月かな

あかていらむ-なこりをいとと-おもへとや-かたふくままに-すめるつきかな


01004

[詞書]殷富門院にて人人百首歌よみ侍りける時、月のうたとてよめる

藤原定家

いかにせんさらてうきよはなくさますたのみし月も涙おちけり

いかにせむ-さらてうきよは-なくさます-たのみしつきも-なみたおちけり


01005

[詞書]題しらす

藤原家隆

山ふかき松のあらしを身にしめてたれかねさめに月をみるらん

やまふかき-まつのあらしを-みにしめて-たれかねさめに-つきをみるらむ


01006

[詞書]題しらす

八条院六条

まつほとはいとと心そなくさまぬをはすて山のあり明の月

まつほとは-いととこころそ-なくさまぬ-をはすてやまの-ありあけのつき


01007

[詞書]題しらす

法印実修

よをいとふ心は月をしたへはや山のはにのみおもひいるらん

よをいとふ-こころはつきを-したへはや-やまのはにのみ-おもひいるらむ


01008

[詞書]閑居月といへるこころをよめる

藤原隆親

さひしさも月みるほとはなくさみぬいりなんのちをとふ人もかな

さひしさも-つきみるほとは-なくさみぬ-いりなむのちを-とふひともかな


01009

[詞書]寒夜月といへる心をよみ侍りける

円位法師

霜さゆるにはのこのはをふみわけて月はみるやととふ人もかな

しもさゆる-にはのこのはを-ふみわけて-つきはみるやと-とふひともかな


01010

[詞書]よをのかれてのち、西山にまかりこもるとて、人につかはしける

平実重

すみなれしやとをはいてて西へゆく月をしたひて山にこそいれ

すみなれし-やとをはいてて-にしへゆく-つきをしたひて-やまにこそいれ


01011

[詞書]故郷月をよめる

俊恵法師

ふるさとのいたゐのし水みくさゐて月さへすます成りにけるかな

ふるさとの-いたゐのしみつ-みくさゐて-つきさへすます-なりにけるかな


01012

[詞書]水上月といへる心をよめる

藤原家基

さもこそはかけととむへき世ならねとあとなき水にやとる月かな

さもこそは-かけととむへき-よならねと-あとなきみつに-やとるつきかな


01013

[詞書]賀茂社後番歌合に、月歌とてよめる

藤原親盛

なにとなくなかむるそてのかわかぬは月のかつらの露やおくらん

なにとなく-なかむるそての-かわかぬは-つきのかつらの-つゆやおくらむ


01014

[詞書]山家暁霞といへる心をよめる

大江公景

ましはふくやとのあられに夢さめてあり明かたの月をみるかな

ましはふく-やとのあられに-ゆめさめて-ありあけかたの-つきをみるかな


01015

[詞書]山家月をよめる

静蓮法師

あし曳の山のはちかくすむとてもまたてやはみるあり明の月

あしひきの-やまのはちかく-すむとても-またてやはみる-ありあけのつき


01016

[詞書]月照寒草といへるこころをよめる

紀康宗

もろともに秋をやしのふ霜かれのをきのうははをてらす月かけ

もろともに-あきをやしのふ-しもかれの-をきのうははを-てらすつきかけ


01017

[詞書]月照山水といへるこころを

法眼長真

ますけおふる山した水にやとる夜は月さへ草のいほりをそさす

ますけおふる-やましたみつに-やとるよは-つきさへくさの-いほりをそさす


01018

[詞書]やまのはの月といへるこころをよめる

藤原為忠朝臣

ふかきよの露ふきむすふこからしにそらさえのほる山のはの月

ふかきよの-つゆふきむすふ-こからしに-そらさえのほる-やまのはのつき


01019

[詞書]荒屋月といへる心を

覚延法師

山かせにまやのあしふきあれにけり枕にやとる夜はの月影

やまかせに-まやのあしふき-あれにけり-まくらにやとる-よはのつきかけ


01020

[詞書]題しらす

法印慈円

やまふかみたれ又かかるすまひしてま木のはわくる月をみるらん

やまふかみ-たれまたかかる-すまひして-まきのはわくる-つきをみるらむ


01021

[詞書]題しらす

法印慈円

月影のいりぬるあとにおもふかなまよはむやみのゆくすゑの空

つきかけの-いりぬるあとに-おもふかな-まよはむやみの-ゆくすゑのそら


01022

[詞書]摂政前右大臣の家に百首歌よませ侍りける時、月歌の中によめる

俊恵法師

此世にて六そちはなれぬ秋の月しての山ちもおもかはりすな

このよにて-むそちはなれぬ-あきのつき-してのやまちも-おもかはりすな


01023

[詞書]月歌とてよめる

円位法師

こむよには心のうちにあらはさんあかてやみぬる月のひかりを

こむよには-こころのうちに-あらはさむ-あかてやみぬる-つきのひかりを


01024

[詞書]二条院の御とき、四代まて侍臣なることをおもひてよみ侍りける

皇太后宮大夫俊成

いかなれはしつみなからにとしをへてよよの雲ゐの月をみつらん

いかなれは-しつみなからに-としをへて-よよのくもゐの-つきをみつらむ


01025

[詞書]堀河院御時、百首歌たてまつりける時、述懐の心をよめる

藤原基優

からくににしつみし人もわかことくみよまてあはぬなけきをそせし

からくにに-しつみしひとも-わかことく-みよまてあはぬ-なけきをそせし


01026

[詞書]律師光覚、維摩会の講師の請を申しけるを、たひたひもれにけれは、法性寺入道前太政大臣にうらみ申しけるを、しめちのはらと侍りけれとも、又そのとしももれにけれはよみてつかはしける

藤原基優

契りおきしさせもか露をいのちにてあはれことしの秋もいぬめり

ちきりおきし-させもかつゆを-いのちにて-あはれことしの-あきもいぬめり


01027

[詞書]運をはつる百首歌よみ侍りけるなかによめる

源俊頼朝臣

よのなかのありしにもあらすなりゆけは涙さへこそ色かはりけれ

よのなかの-ありしにもあらす-なりゆけは-なみたさへこそ-いろかはりけれ


01028

[詞書]述懐のこころをよめる

覚審法師

すききにし四そちの春のゆめのよはうきよりほかのおもひいてそなき

すききにし-よそちのはるの-ゆめのよは-うきよりほかの-おもひいてそなき


01029

[詞書]述懐のこころをよめる

経因法師

はかなしなうき身なからもすきぬへき此世をさヘもしのひかぬらん

はかなしな-うきみなからも-すきぬへき-このよをさへも-しのひかぬらむ


01030

[詞書]天王寺にまうて侍りけるに、なからにて、ここなんはしのあとと申すをききて、よみ侍りける

源俊頼朝臣

ゆくすゑをおもへはかなしつの国のなからのはしも名はのこりけり

ゆくすゑを-おもへはかなし-つのくにの-なからのはしも-なはのこりけり


01031

[詞書]なからのはしのわたりにてよめる

道命法師

なにこともかはりゆくめる世の中にむかしなからのはしはしらかな

なにことも-かはりゆくめる-よのなかに-むかしなからの-はしはしらかな


01032

[詞書]おなしところにてよめる

道因法師

けふみれはなからのはしはあともなしむかしありきとききわたれとも

けふみれは-なからのはしは-あともなし-むかしありきと-ききわたれとも


01033

[詞書]津守の国基みまかりてのち、すみよしにもすますなりにけるを、有基にくしてあからさまにくたりて侍りけるに、人の心もかはりてのみみえけれは、松のもとをけつりてかきつけ侍りける

津守景基

人こころあらすなれともすみよしの松のけしきはかはらさりけり

ひとこころ-あらすなれとも-すみよしの-まつのけしきは-かはらさりけり


01034

[詞書]よしののたきをよみ侍りける

中納言経忠

しら雲にまかひやせましよしの山おちくるたきのおとせさりせは

しらくもに-まかひやせまし-よしのやま-おちくるたきの-おとせさりせは


01035

[詞書]嵯峨の大学寺にまかりて、これかれ歌よみ侍りけるによみ侍りける

前大納言公任

たきのおとはたえてひさしく成りぬれとなこそなかれて猶きこえけれ

たきのおとは-たえてひさしく-なりぬれと-なこそなかれて-なほきこえけれ


01036

[詞書]屏風に、たきおちたるところをよめる

藤原長能

ぬけはちるぬかねはみたるあし引の山よりおつるたきのしら玉

ぬけはちる-ぬかねはみたる-あしひきの-やまよりおつる-たきのしらたま


01037

[詞書]京極前太政大臣、ぬのひきのたきみ侍りける時、よみ侍りける

六条右大臣

水の色のたたしら雲とみゆるかなたれさらしけんぬのひきのたき

みつのいろの-たたしらくもと-みゆるかな-たれさらしけむ-ぬのひきのたき


01038

[詞書]竜門寺にまうてて、仙室にかきつけ侍りける

能因法師

あしたつにのりてかよへるやとなれはあとたに人はみえぬなりけり

あしたつに-のりてかよへる-やとなれは-あとたにひとは-みえぬなりけり


01039

[詞書]おなし竜門寺のこころをよめる

藤原清輔朝臣

山人のむかしのあとをきてみれはむなしきゆかをはらふ谷かせ

やまひとの-むかしのあとを-きてみれは-むなしきゆかを-はらふたにかせ


01040

[詞書]ぬのひきのたきをよめる

藤原良清

おとにのみききしはことのかすならて名よりもたかきぬのひきの滝

おとにのみ-ききしはことの-かすならて-なよりもたかき-ぬのひきのたき


01041

[詞書]むろのやしまをよめる

藤原顕方

たえすたつむろのやしまの煙かないかにつきせぬおもひなるらん

たえすたつ-むろのやしまの-けふりかな-いかにつきせぬ-おもひなるらむ


01042

[詞書]堀河院御時、百首歌たてまつりける時、橋歌とてよみ侍りける

大納言師頼

かつらきやわたしもはてぬものゆゑにくめのいははしこけおひにけり

かつらきや-わたしもはてぬ-ものゆゑに-くめのいははし-こけおひにけり


01043

[詞書]おなし御時、うへのをのことも題をさくりて歌つかうまつりける時、つり舟をとりてよみ侍りける

権中納言俊忠

いはおろすかたこそなけれいせの海のしほせにかかるあまのつり舟

いはおろす-かたこそなけれ-いせのうみの-しほせにかかる-あまのつりふね


01044

[詞書]百首のうたの中に、松をよめる

修埋大夫顕季

玉もかるいらこかさきのいはねまついく代まてにかとしのへぬらん

たまもかる-いらこかさきの-いはねまつ-いくよまてにか-としのへぬらむ


01045

[詞書]夏草をよめる

源俊頼朝臣

しほみては野しまかさきのさゆりはに浪こすかせのふかぬ日そなき

しほみては-のしまかさきの-さゆりはに-なみこすかせの-ふかぬひそなき


01046

[詞書]広田社の歌合とて、人人よみ侍りける時、海上跳望といへる心をよみ侍りける

権大納言実家

けふこそはみやこのかたの山のはもみえすなるをのおきに出てぬれ

けふこそは-みやこのかたの-やまのはも-みえすなるをの-おきにいてぬれ


01047

[詞書]広田社の歌合とて、人人よみ侍りける時、海上跳望といへる心をよみ侍りける

権中納言実宗

はりまかたすまのはれまにみわたせは浪は雲ゐのものにそありける

はりまかた-すまのはれまに-みわたせは-なみはくもゐの-ものにそありける


01048

[詞書]広田社の歌合とて、人人よみ侍りける時、海上跳望といへる心をよみ侍りける

右衛門督頼実

はるはるとおまへのおきをみわたせはくもゐにまかふあまのつり舟

はるはると-おまへのおきを-みわたせは-くもゐにまかふ-あまのつりふね


01049

[詞書]眺望の心をよめる

円玄法師

なにはかたしほちはるかにみわたせは霞にうかふおきのつり舟

なにはかた-しほちはるかに-みわたせは-かすみにうかふ-おきのつりふね


01050

[詞書]眺望の心をよめる

藤原重綱

春かすみゑしまかさきをこめつれは浪のかくともみえぬけさかな

はるかすみ-ゑしまかさきを-こめつれは-なみのかくとも-みえぬけさかな


01051

[詞書]わかのうらをよみ侍りける

祝部宿禰成仲

ゆくとしは浪とともにやかへるらんおもかはりせぬわかの浦かな

ゆくとしは-なみとともにや-かへるらむ-おもかはりせぬ-わかのうらかな