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千載和歌集/巻第十七

提供:Wikisource

巻十七:雑中


01052

[詞書]五十の御賀すきてまたのとしのはる、鳥羽殿のさくらのさかりに、御前の花を御らむして、よませ給うける

鳥羽院御製

心あらはにほひをそへよさくら花のちの春をはいつかみるへき

こころあらは-にほひをそへよ-さくらはな-のちのはるをは-いつかみるへき


01053

[詞書]落花のこころをよみ侍りける

仁和寺後入道法親王(覚性)

はかなさをうらみもはてしさくら花うき世はたれも心ならねは

はかなさを-うらみもはてし-さくらはな-うきよはたれも-こころならねは


01054

[詞書]僧都頼実みまかりてのち、又のとしの春、禅定院のはなさかりなるをみて、よみ侍りける

僧正尋範

やともやとはなもむかしににほへともぬしなき色はさひしかりけり

やともやと-はなもむかしに-にほへとも-ぬしなきいろは-さひしかりけり


01055

[詞書]かしらおろしてのち、東山のはなみ侍りけるに、円城寺のはなおもしろかりけるをみて、よみ侍りける

前中納言基長

いにしへにかはらさりけり山さくら花は我をはいかかみるらん

いにしへに-かはらさりけり-やまさくら-はなはわれをは-いかかみるらむ


01056

[詞書]遁世ののち、花のうたとてよめる

皇太后宮大夫俊成

雲のうへの春こそさらにわすられね花はかすにもおもひ出てしを

くものうへの-はるこそさらに-わすられね-はなはかすにも-おもひいてしを


01057

[詞書]石山にたひたひまうてたまひけるを、はての日、せきのし水のもとに御車をととめて、このたひはかりやと、こころほそく御らむして、よませ給うける

東三条院

あまたたひゆきあふさかのせき水に今はかきりのかけそかなしき

あまたたひ-ゆきあふさかの-せきみつに-いまはかきりの-かけそかなしき


01058

[詞書]山にのほりてしはしおこなひなとし侍りけるとき、よみ侍りける

前大納言公任

いまはとていりなん後そおもほゆる山ちをふかみとふ人もなし

いまはとて-いりなむのちそ-おもほゆる-やまちをふかみ-とふひともなし


01059

[詞書]はるころ、あはたにまかりてよめる

前大納言公任

うき世をはみねのかすみやへたつらんなほ山さとはすみよかりけり

うきよをは-みねのかすみや-へたつらむ-なほやまさとは-すみよかりけり


01060

[詞書]なけくこと侍りけるころ、よめる

和泉式部

花さかぬたにのそこにもすまなくにふかくも物をおもふ春かな

はなさかぬ-たにのそこにも-すまなくに-ふかくもものを-おもふはるかな


01061

[詞書]前大納言公任なかたにといふところにこもりゐける時、つかはしける

法成寺入道前太政大臣

たにのとをとちやはてつる鴬のまつにおとせて春のくれぬる

たにのとを-とちやはてつる-うくひすの-まつにおとせて-はるのくれぬる


01062

[詞書]山寺にこもりゐて侍りけるころ、雨ふりて心ほそかりけるに、人のまうてきて歌なとよみ侍りけるついてによめる

道命法師

かくてたになほあはれなるおく山に君こぬよよをおもひしらなん

かくてたに-なほあはれなる-おくやまに-きみこぬよよを-おもひしらなむ


01063

[詞書]除目のころ、つかさたまはらてなけき侍ける時、範永かもとにつかはしける

大江公資

としことに涙の川にうかへともみはなけられぬ物にそありける

としことに-なみたのかはに-うかへとも-みはなけられぬ-ものにそありける


01064

[詞書]寄霞述懐のこころをよめる

源仲正

おもふことなくてや春をすくさましうき世へたつるかすみなりせは

おもふこと-なくてやはるを-すくさまし-うきよへたつる-かすみなりせは


01065

[詞書]世をのかれてのち、しら川の花をみてよめる

円位法師

ちるをみてかへる心やさくら花むかしにかはるしるしなるらん

ちるをみて-かへるこころや-さくらはな-むかしにかはる-しるしなるらむ


01066

[詞書]花のうたあまたよみ侍りける時

円位法師

はなにそむ心のいかてのこりけんすてはててきとおもふわか身に

はなにそむ-こころのいかて-のこりけむ-すてはててきと-おもふわかみに


01067

[詞書]花のうたあまたよみ侍りける時

円位法師

ほとけにはさくらの花をたてまつれわかのちのよを人とふらはは

ほとけには-さくらのはなを-たてまつれ-わかのちのよを-ひととふらはは


01068

[詞書]よをそむきて、またのとしのはる、花をみてよめる

寂然法師

この春そおもひはかへすさくら花むなしき色にそめしこころを

このはるそ-おもひはかへす-さくらはな-むなしきいろに-そめしこころを


01069

[詞書]題不知

寂然法師

よのなかをつねなき物とおもはすはいかてか花のちるにたへまし

よのなかを-つねなきものと-おもはすは-いかてかはなの-ちるにたへまし


01070

[詞書]みやこうつりなときこえける又のとしのはる、白川の花さかりに、をんなのてにて、はなのしたにおとしおきて侍りける

読人不知

かくはかりうき世のすゑにいかにしてはるはさくらのなほにほふらん

かくはかり-うきよのすゑに-いかにして-はるはさくらの-なほにほふらむ


01071

[詞書]花のさかりに法成寺にまゐりて、金堂のまへの花のちりけるをみてよめる

皇太后宮大夫俊成

ふりにけりむかしをしらはさくら花ちりのすゑをもあはれとはみよ

ふりにけり-むかしをしらは-さくらはな-ちりのすゑをも-あはれとはみよ


01072

[詞書]依花待客といへる心をよめる

源定宗朝臣

山さくら花をあるしとおもはすは人をまつへきしはのいほかは

やまさくら-はなをあるしと-おもはすは-ひとをまつへき-しはのいほかは


01073

[詞書]円位法師かすすめ侍りける百首歌の中に、花のうたとてよめる

藤原定家

いつくにてかせをも世をもうらみましよしののおくも花はちるなり

いつくにて-かせをもよをも-うらみまし-よしののおくも-はなはちるなり


01074

[詞書]花のうたとてよめる

源季広

ふかくおもふことしかなははこむ世にも花みる身とやならんとすらん

ふかくおもふ-ことしかなはは-こむよにも-はなみるみとや-ならむとすらむ


01075

[詞書]家にさくらをうゑてよみ侍りける

源師教朝臣

老かよにやとにさくらをうつしうゑてなほこころみに花をまつかな

おいかよに-やとにさくらを-うつしうゑて-なほこころみに-はなをまつかな


01076

[詞書]高倉院春宮の御時、権亮に侍りけるを参議にてほとへ侍りけるころ、賀茂社歌合とて人人よみ侍りけるに、述懐のうたとてよみ侍りける

権中納言実守

くらゐ山はなをまつこそひさしけれはるの宮こにとしはへしかと

くらゐやま-はなをまつこそ-ひさしけれ-はるのみやこに-としはへしかと


01077

[詞書]崇徳院御時、十五首歌たてまつりける時、述懐の心をよめる

右兵衛督公行

かすか山まつにたのみをかくるかなふちのすゑはのかすならねとも

かすかやま-まつにたのみを-かくるかな-ふちのすゑはの-かすならねとも


01078

[詞書]なけくこと侍りけるころ、よみ侍りける

前左衛門督公光

物おもふ心や身にもさきたちてうき世をいてんしるへなるへき

ものおもふ-こころやみにも-さきたちて-うきよをいてむ-しるへなるへき


01079

[詞書]述懐歌とてよめる

俊恵法師

かすならてとしへぬる身はいまさらに世をうしとたにおもはさりけり

かすならて-としへぬるみは-いまさらに-よをうしとたに-おもはさりけり


01080

[詞書]述懐歌とてよめる

道因法師

いつとても身のうきことはかはらねとむかしはおいをなけきやはせし

いつとても-みのうきことは-かはらねと-むかしはおいを-なけきやはせし


01081

[詞書]述懐のうたよみ侍りける時、むかし白川院にちかくつかうまつりけることをおもひて、よみ侍りける

藤原家基(法名素覚)

いにしへもそこにしつみし身なれともなほ恋しきはしら川のみつ

いにしへも-そこにしつみし-みなれとも-なほこひしきは-しらかはのみつ


01082

[詞書]広田社歌合によめる

藤原盛方朝臣

あはれてふ人もなき身をうしとてもわれさへいかかいとひはつへき

あはれてふ-ひともなきみを-うしとても-われさへいかか-いとひはつへき


01083

[詞書]右大将実房中将に侍りける時、十五首歌よませ侍りけるに述懐のうたとてよめる

中原師尚

かすならぬ身をうき雲のはれぬかなさすかに家のかせはふけとも

かすならぬ-みをうきくもの-はれぬかな-さすかにいへの-かせはふけとも


01084

[詞書]学問料申し侍りけるをたまはらす侍りける時、人のとふらひて侍りける返事に、よみてつかはしける

大江匡範

おもひやれとよにあまれるともし火のかかけかねたる心ほそさを

おもひやれ-とよにあまれる-ともしひの-かかけかねたる-こころほそさを


01085

[詞書]題不知

藤原公重朝臣

よのうさをおもひしのふと人もみよかくてふるやの軒のけしきを

よのうさを-おもひしのふと-ひともみよ-かくてふるやの-のきのけしきを


01086

[詞書]題不知

菅原是忠

ひく人もなくてすてたるあつさ弓心つよきもかひなかりけり

ひくひとも-なくてすてたる-あつさゆみ-こころつよきも-かひなかりけり


01087

[詞書]題不知

二条院参川内侍

いかてわれひまゆくこまを引きとめてむかしにかへる道をたつねん

いかてわれ-ひまゆくこまを-ひきとめて-むかしにかへる-みちをたつねむ


01088

[詞書]摂政右大臣の時の家の歌合に、述懐の歌とてよめる

源師光

今はたたいけらぬ物にみをなしてうまれぬのちの世にもふるかな

いまはたた-いけらぬものに-みをなして-うまれぬのちの-よにもふるかな


01089

[詞書]つかさめしに伊勢になりけるを、辞し申しけるとき、大僧正行尊かもとにつかはしける

源俊重

いかにせむいせのはまをきみかくれておもはぬいその浪にくちなは

いかにせむ-いせのはまをき-みかくれて-おもはぬいその-なみにくちなは


01090

[詞書]たなかみの山さとにすみ侍りけるころ、風はけしかりける夜よめる

源俊頼朝臣

ま木のとをみ山おろしにたたかれてとふにつけてもぬるる袖かな

まきのとを-みやまおろしに-たたかれて-とふにつけても-ぬるるそてかな


01091

[詞書]山田のいほにけふりのたちけるをみてよめる

橘盛長

をやま国のいほにたくひのありなしにたつ煙もや雲となるらん

をやまたの-いほにたくひの-ありなしに-たつけふりもや-くもとなるらむ


01092

[詞書]堀河院御時、百首歌たてまつりけるとき、山家の心をよめる

二条太皇大后宮肥後

山さとのしはをりをりにたつ煙人まれなりとそらにしるかな

やまさとの-しはをりをりに-たつけふり-ひとまれなりと-そらにしるかな


01093

[詞書]なか月のつこもりかた、わつらふことありて、たのもしけなくおほえけれは、ひさしくとはぬ人につかはしける

藤原基俊

秋はつるかれののむしのこゑたえはありやなしやを人のとへかし

あきはつる-かれののむしの-こゑたえは-ありやなしやを-ひとのとへかし


01094

[詞書]女のもとにまかりて月あかく侍りけるに、そらのけしきも物こころほそく侍りけれは、よみ侍りける

藤原道信朝臣

この世にはすむへきほとやつきぬらんよのつねならす物のかなしき

このよには-すむへきほとや-つきぬらむ-よのつねならす-もののかなしき


01095

[詞書]題不知

和泉式部

いのちあらはいかさまにせんよをしらぬむしたに秋はなきにこそなけ

いのちあらは-いかさまにせむ-よをしらぬ-むしたにあきは-なきにこそなけ


01096

[詞書]題不知

紫式部

かすならて心に身をはまかせねと身にしたかふは心なりけり

かすならて-こころにみをは-まかせねと-みにしたかふは-こころなりけり


01097

[詞書]つねよりもよのなかはかなくきこえけるころ、さかみかもとにつかはしける

藤原兼房朝臣

あはれともたれかはわれをおもひいてむある世にたにもとふ人もなし

あはれとも-たれかはわれを-おもひいてむ-あるよにたにも-とふひともなし


01098

[詞書]前大納言公任、なかたににすみ侍りけるころ、風はけしかりける夜のあしたに、つかはしける

中納言定頼

ふるさとのいたまのかせにねさめしてたにのあらしをおもひこそやれ

ふるさとの-いたまのかせに-ねさめして-たにのあらしを-おもひこそやれ


01099

[詞書]返し

前大納言公任

たにかせの身にしむことに古郷のこのもとをこそおもひやりつれ

たにかせの-みにしむことに-ふるさとの-このもとをこそ-おもひやりつれ


01100

[詞書]前大納宮公任、入道し侍りて長谷に侍りける時、僧の装束法服なとおくり侍るとてつかはしける

法成寺入道前太政大臣

いにしへはおもひかけきやとりかはしかくきん物とのりの衣を

いにしへは-おもひかけきや-とりかはし-かくきむものと-のりのころもを


01101

[詞書]返し/おなしとしの人になん侍りける

入道大納言公任

おなしとし契しあれは君かきるのりの衣をたちおくれめや

おなしとし-ちきりしあれは-きみかきる-のりのころもを-たちおくれめや


01102

[詞書]三条院かくれさせ給ひてのち、かの院のまへをすきけるに、松のこすゑはおなしさまにて、ついかきところところくつれたるに、むくらのしけりたるをみて、そのうちに江侍従か侍りけるにつかはしける

弁乳母

むかしみし松のこすゑはそれなからむくらのかとをさしてけるかな

むかしみし-まつのこすゑは-それなから-むくらのかとを-さしてけるかな


01103

[詞書]一品聡子内親王、仁和寺にすみ侍りける冬ころ、かけひのこほりを三のみこのもとにおくられて侍りけれは、つかはしける

輔仁のみこ

山さとのかけひの水のこほれるはおときくよりもさひしかりけり

やまさとの-かけひのみつの-こほれるは-おときくよりも-さひしかりけり


01104

[詞書]返し

聡子内親王

やまさとのさひしきやとのすみかにもかけひの水のとくるをそまつ

やまさとの-さひしきやとの-すみかにも-かけひのみつの-とくるをそまつ


01105

[詞書]大納言実家もとに三十六人集を返しつかはしける中に、故大炊御門右大臣のかきて侍りけるさうしに、かきておしつけられて侍りける

太皇大后宮

このもとにかきあつめたることのはをわかれし秋のかたみとそみる

このもとに-かきあつめたる-ことのはを-わかれしあきの-かたみとそみる


01106

[詞書]返し

大納言実家

このもとはかくことのはをみるたひにたのみしかけのなきそかなしき

このもとは-かくことのはを-みるたひに-たのみしかけの-なきそかなしき


01107

[詞書]高野にまうて侍りける時、山路にてよみ侍りける

仁和寺法親王(守覚)

あとたえてよをのかるへき道なれやいはさへこけの衣きてけり

あとたえて-よをのかるへき-みちなれや-いはさへこけの-ころもきてけり


01108

[詞書]述懐のこころをよみ侍りける

仁和寺法親王(守覚)

思ひいてのあらは心もとまりなんいとひやすきはうき世なりけり

おもひいての-あらはこころも-とまりなむ-いとひやすきは-うきよなりけり


01109

[詞書]おほみねとほり侍りける時、笙のいはやといふ宿にてよみ侍りける

前大僧正覚忠

やとりするいはやのとこのこけむしろいくよになりぬねこそいられね

やとりする-いはやのとこの-こけむしろ-いくよになりぬ-ねこそいられね


01110

[詞書]述懐のうたとてよみ侍りける

大納言宗家

身のほとをしらすと人やおもふらんかくうきなからとしをへぬれは

みのほとを-しらすとひとや-おもふらむ-かくうきなから-としをへぬれは


01111

[詞書]述懐のうたとてよみ侍りける

右近中将忠良

そむかはやまことの道はしらすともうき世をいとふしるしはかりに

そむかはや-まことのみちは-しらすとも-うきよをいとふ-しるしはかりに


01112

[詞書]述懐のうたとてよみ侍りける

二条太皇太后宮別当

そま川におろすいかたのうきなからすきゆく物は我か身なりけり

そまかはに-おろすいかたの-うきなから-すきゆくものは-わかみなりけり


01113

[詞書]百首歌なかに、述懐のうたとてよめる

藤原定家

おのつからあれはあるよになからへてをしむと人にみえぬへきかな

おのつから-あれはあるよに-なからへて-をしむとひとに-みえぬへきかな


01114

[詞書]百首歌なかに、述懐のうたとてよめる

摂政家丹後

うしとてもいとひもはてぬよのなかを中中なににおもひしりけん

うしとても-いとひもはてぬ-よのなかを-なかなかなにに-おもひしりけむ


01115

[詞書]題不知

法印倫円

のほるへき道にそまとふくらゐ山これよりおくのしるへなけれは

のほるへき-みちにそまとふ-くらゐやま-これよりおくの-しるへなけれは


01116

[詞書]十月に重服になりて侍りける又のとしのはる、傍官ともかかいし侍りけるをききてよめる

中納言長方

もろ人の花さくはるをよそにみてなほしくるるはしひしはのそて

もろひとの-はなさくはるを-よそにみて-なほしくるるは-しひしはのそて


01117

[詞書]題しらす

藤原顕方

うきせにもうれしきせにもさきにたつ涙はおなし涙なりけり

うきせにも-うれしきせにも-さきにたつ-なみたはおなし-なみたなりけり


01118

[詞書]とほきくにに侍りける時、おなしさまなるものとも、ことなほりてのほるときこえける時、そのうちにももれにけりとききて、みやこの人のもとにつかはしける

前左兵衛督惟方

このせにもしつむときくは涙川なかれしよりもなほまさりけり

このせにも-しつむときけは-なみたかは-なかれしよりも-なほまさりけり


01119

[詞書]よをそむかんとおもひたちけるころ、よめる

空人法師

かくはかりうき身なれともすてはてむとおもふになれはかなしかりけり

かくはかり-うきみなれとも-すてはてむと-おもふになれは-かなしかりけり


01120

[詞書]心のほかなることにて、しらぬくににまかれりけるを、ことなほりて京にのほりてのち、日吉の社にまゐりてよめる

平康頼

おもひきやしかのうら浪たちかへり又あふ身ともならむものとは

おもひきや-しかのうらなみ-たちかへり-またあふみとも-ならむものとは


01121

[詞書]述懐歌よみ侍りける

登蓮法師

かくはかりうきよのなかをしのひてもまつへきことのすゑにあるかは

かくはかり-うきよのなかを-しのひても-まつへきことの-すゑにあるかは


01122

[詞書]修行にまかりありきける時よめる

覚禅法師

おもひかねあくかれいててゆくみちはあゆく草はに露そこほるる

おもひかね-あくかれいてて-ゆくみちは-あゆくくさはに-つゆそこほるる


01123

[詞書]よのつねなきをおもひてよみ侍りける

権僧正永縁

夢とのみこの世のことのみゆるかなさむへきほとはいつとなけれと

ゆめとのみ-このよのことの-みゆるかな-さむへきほとは-いつとなけれと


01124

[詞書]わつらふことありて雲林院なるところにまかれりけるに、人のとふらへりけれは、つかはしける

良暹法師

この世をは雲のはやしにかとてして煙とならん夕をそまつ

このよをは-くものはやしに-かとてして-けふりとならむ-ゆふへをそまつ


01125

[詞書]題不知

よみ人しらす

うきことのまとろむほとはわすられてさむれは夢の心ちこそすれ

うきことの-まとろむほとは-わすられて-さむれはゆめの-ここちこそすれ


01126

[詞書]題不知

紫式部

いつくとも身をやるかたのしられねはうしとみつつもなからふるかな

いつくとも-みをやるかたの-しられねは-うしとみつつも-なからふるかな


01127

[詞書]述懐百首歌の中に、夢のうたとてよめる

皇太后宮大夫俊成

うき夢はなこりまてこそかなしけれ此世ののちもなほやなけかん

うきゆめは-なこりまてこそ-かなしけれ-このよののちも-なほやなけかむ


01128

[詞書]百首歌たてまつりける時、無常の心をよめる

藤原季通朝臣

うつつをもうつつといかかさたむへき夢にも夢をみすはこそあらめ

うつつをも-うつつといかか-さたむへき-ゆめにもゆめを-みすはこそあらめ


01129

[詞書]百首歌たてまつりける時、無常の心をよめる

藤原季通朝臣

いとひてもなほしのはるるわか身かな二たひくへき此世ならねは

いとひても-なほしのはるる-わかみかな-ふたたひくへき-このよならねは


01130

[詞書]百首歌たてまつりける時、無常の心をよめる

上西門院兵衛

これや夢いつれかうつつはかなさをおもひわかてもすきぬへきかな

これやゆめ-いつれかうつつ-はかなさを-おもひわかても-すきぬへきかな


01131

[詞書]百首歌たてまつりける時、無常の心をよめる

花薗左大臣家小大進

あすしらぬみむろのきしのねなし草なにあたし世におひはしめけん

あすしらぬ-みむろのきしの-ねなしくさ-なにあたしよに-おひはしめけむ


01132

[詞書]前大僧正覚忠、みたけよりおほみねにまかりいりて、神仙といふところにて金泥法花経かきたてまつりてうつみ侍るとて、五十日はかりととまりて侍りけるに、房覚かくまののかたよりまかりいりけるにつけていひおくりて侍りける

前大納言成通

をしからぬ命そさらにをしまるる君かみやこにかへりくるまて

をしからぬ-いのちそさらに-をしまるる-きみかみやこに-かへりくるまて


01133

[詞書]返し

前大僧正覚忠

うき世をはすてて入りにし山なれときみかとふにやいてんとすらん

うきよをは-すてていりにし-やまなれと-きみかとふにや-いてむとすらむ


01134

[詞書]閑居水声といへるこころをよみ侍りける

仁和寺法親王(守覚)

いはそそく水よりほかにおとせねは心ひとつをすましてそきく

いはそそく-みつよりほかに-おとせねは-こころひとつに-すましてそきく


01135

[詞書]高野にまゐりて侍りけるに、おくの院に静蓮法師か庵室にまかりたりけるに、あはれにみえ侍りけれは、かへりてつかはしける

権大納言実国

たれもみな露の身そかしとおもふにも心とまりし草のいほかな

たれもみな-つゆのみそかしと-おもふにも-こころとまりし-くさのいほかな


01136

[詞書]秋のころ山にのほりて、よかはの安楽の五僧のもとにまかれりけるに、正法房の障子にかきつけ侍りける

藤原公衡朝臣

なほさりにかへるたもとはかはらねと心はかりそすみそめのそて

なほさりに-かへるたもとは-かはらねと-こころはかりそ-すみそめのそて


01137

[詞書]題不知

法印慈円

おほけなくうき世のたみにおほふかなわかたつそまにすみそめのそて

おほけなく-うきよのたみに-おほふかな-わかたつそまに-すみそめのそて


01138

[詞書]題不知

寂蓮法師

さひしさをうきよにかへてしのはすはひとりきくへき松のかせかは

さひしさを-うきよにかへて-しのはすは-ひとりきくへき-まつのかせかは


01139

[詞書]題不知

殷富門院大輔

つくつくとおもへはかなしあかつきのねさめも夢をみるにそ有りける

つくつくと-おもへはかなし-あかつきの-ねさめもゆめを-みるにそありける


01140

[詞書]題不知

西住法師

まとろみてさてもやみなはいかかせんねさめそあらぬ命なりける

まとろみて-さてもやみなは-いかかせむ-ねさめそあらぬ-いのちなりける


01141

[詞書]題不知

六条院宣旨

さきたつをみるはなほこそかなしけれおくれはつへきこのよならねと

さきたつを-みるはなほこそ-かなしけれ-おくれはつへき-このよならねと


01142

[詞書]さまかへんとおもひたつ人、ものあはれなるゆふくれに、しやうのことひくをききてよめる

二条太皇大后宮式部

いまはとてかきなすことのはてのをに心ほそくもなりまさるかな

いまはとて-かきなすことの-はてのをの-こころほそくも-なりまさるかな


01143

[詞書]たいしらす

空人法師

おほゐ川となせのたきに身をなけてはやくと人にいはせてしかな

おほゐかは-となせのたきに-みをなけて-はやくとひとに-いはせてしかな


01144

[詞書]やまひありてひんかし山なるところに侍りけるを、よろしくなりてのち、いかかと人のとひて侍りけれは、返ことによめる

大江公景

とりへ山きみたつぬともくちはててこけのしたにはこたへさらまし

とりへやま-きみたつぬとも-くちはてて-こけのしたには-こたへさらまし


01145

[詞書]題しらす

法眼兼覚

わけわひていとひし庭のよもきふもかれぬとおもふはあはれなりけり

わけわひて-いとひしにはの-よもきふも-かれぬとおもふは-あはれなりけり


01146

[詞書]賀茂社歌合に、述懐歌とてよめる

寂蓮法師

世のなかのうきはいまこそうれしけれおもひしらすはいとはましやは

よのなかの-うきはいまこそ-うれしけれ-おもひしらすは-いとはましやは


01147

[詞書]山てらにこもりゐ侍りけるに、坊にととまりたる人の、いつかいてんするととひて侍りけれは、いひつかはしける

覚俊上人

よをそむき草のいほりにすみ染のころもの色はかへるものかは

よをそむき-くさのいほりに-すみそめの-ころものいろは-かへるものかは


01148

[詞書]源清雅、九月はかりにさまかへて山てらに侍りけるを、人のとひて侍りける返ことせよと申し侍りけれは、よみてつかはしける

源通清

おもひやれならはぬ山にすみ染の袖につゆおく秋のけしきを

おもひやれ-ならはぬやまに-すみそめの-そてにつゆおく-あきのけしきを


01149

[詞書]題不知

円位法師

あかつきのあらしにたくふかねのおとを心のそこにこたへてそきく

あかつきの-あらしにたくふ-かねのおとを-こころのそこに-こたへてそきく


01150

[詞書]題不知

円位法師

いつくにか身をかくさましいとひいててうきよにふかき山なかりせは

いつくにか-みをかくさまし-いとひいてて-うきよにふかき-やまなかりせは


01151

[詞書]述懐の百首歌よみ侍りけるとき、鹿のうたとてよめる

皇太后宮大夫俊成

世のなかよみちこそなけれおもひいる山のおくにもしかそなくなる

よのなかよ-みちこそなけれ-おもひいる-やまのおくにも-しかそなくなる


01152

[詞書]秋のころ山寺にてよみ侍りける

藤原良清

おもふことあり明かたのしかのねはなほ山ふかく家ゐせよとや

おもふこと-ありあけかたの-しかのねは-なほやまふかく-いへゐせよとや


01153

[詞書]題しらす

藤原宗隆

みる夢のすきにしかたをさそひきてさむる枕もむかしなりせは

みるゆめの-すきにしかたを-さそひきて-さむるまくらも-むかしなりせは


01154

[詞書]太宰大弐重家入道みまかりてのち、山寺懐旧といへる心をよめる

藤原有家朝臣

はつせ山いりあひのかねをきくたひに昔のとほくなるそかなしき

はつせやま-いりあひのかねを-きくたひに-むかしのとほく-なるそかなしき


01155

[詞書]春ころこかにまかれりけるついてに、ちちのおととの暮所のあたりの花のちりけるをみて、むかし花ををしみ侍りける心さしなとおもひいててよみ侍りける

権中納言通親

ちりつもるこけのしたにもさくら花をしむ心やなほのこるらん

ちりつもる-こけのしたにも-さくらはな-をしむこころや-なほのこるらむ


01156

[詞書]かしらおろし侍りてのち、前中納言雅頼また小男に侍りけるとき、はしめて昇殿申させ侍りけるを、ゆるされて侍りけれは、よみて奏せさせ侍りける

入道前中納言雅兼

うれしさをかへすかへすもつつむへきこけのたもとのせはくも有るかな

うれしさを-かへすかへすも-つつむへき-こけのたもとの-せはくもあるかな


01157

[詞書]還昇して侍りける人のもとにつかはしける

藤原季経朝臣

うれしさをよその袖まてつつむかなたちかへりぬるあまのはころも

うれしさを-よそのそてまて-つつむかな-たちかへりぬる-あまのはころも


01158

[詞書]今上御時五節のほと、侍従定家あやまちあるさまにきこしめすことありて、殿上のそかれて侍りける、そのとしもくれにける又のとし、やよひのついたちころ、院に御けしきたまはるへきよし、左少弁定長かもとに申し侍りけるに、そへて侍りける

皇太后宮大夫俊成

あしたつの雲ちまよひしとしくれて霞をさへやへたてはつへき

あしたつの-くもちまよひし-としくれて-かすみをさへや-へたてはつへき


01159

[詞書]このよしを奏し申し侍りけれは、いとかしこくあはれからせおはしまして、いまははや還昇おほせくたすへきよし御気色ありて、こころはるるよしの返事おほせつかはせとおほせくたされけれは、よみてつかはしける/このみちの御あはれみ、むかしの聖代にもことならすとなん、ときの人申し侍りける

藤原定長朝臣

あしたつはかすみをわけてかへるなりまよひし雲ちけふやはるらん

あしたつは-かすみをわけて-かへるなり-まよひしくもち-けふやはるらむ