加拉太書(明治元訳) 第三章

Wikisource:宗教 > 聖書 > 明治元訳新約聖書 (明治37年) > 加拉太書(明治元訳)

第三章

1 愚（おろか）なる哉（かな）すでにイエス・キリストの十字架（じふじか）に釘（つけ）られし事（こと）を明（あきら）かに其（その）目前（めのまへ）に著（あらは）されたるガラテヤ人（びと）よ誰（た）が爾曹（なんぢら）を誑（たぶら）かしし乎（や）
2 我（われ）ただ此（この）事（こと）を爾曹（なんぢら）より聞（きか）んとす爾曹（なんぢら）が靈（みたま）を受（うけ）しは律法（おきて）を行（おこな）ふに由（よる）か將（はた）ききて信（しん）ぜしに由（よる）か
3 爾曹（なんぢら）かく愚（おろか）なる乎（か）なんぢら靈（みたま）に因（より）て始（はじま）り今（いま）肉（にく）に因（より）て全（まつた）うせらるる乎（や）
4 なんぢら如此（かく）おほくの苦（くるしみ）を徒然（いたづら）に受（うけ）しや實（じつ）に徒然（いたづら）には有（ある）まじ
5 それ爾曹（なんぢら）に靈（みたま）を予（あた）へかつ奇跡（ふしぎなるわざ）を行（おこな）はしめ給（たま）ふ者（もの）の如此（かく）なすは爾曹（なんぢら）が律法（おきて）を行（おこな）ふに由（より）てなる乎（か）又（また）(※1)は聞（きき）て信（しん）ぜしに由（より）てなる乎（か）
6 即（すなは）ちアブラハム神（かみ）を信（しん）じ其（その）信仰（しんかう）を義（ぎ）と爲（せら）れたるが如（ごと）し
7 是（この）故（ゆゑ）に信仰（しんかう）による者（もの）は是（これ）アブラハムの子（こ）なりと爾曹（なんぢら）知（しる）べし
8 かつ聖書（せいしよ）すでに信仰（しんかう）に由（より）て神（かみ）の異邦人（いはうじん）を義（ぎ）と爲（し）給（たま）ふことを預（あらか）じめ曉（さとり）まづ福音（ふくいん）をアブラハムに傳（つたへ）て諸國（すべてのくに）の民（たみ）は爾（なんぢ）に由（より）て福（さいはひ）を獲（え）んと云（いへ）り
9 是（この）故（ゆゑ）に信仰（しんかう）に由（よる）ものは信仰（しんかう）ありしアブラハムと偕（とも）に福（さいはひ）を受（うく）
10 凡（おほよ）そ律法（おきて）の行（おこなひ）に由（よる）ものは詛（のろは）るべし蓋（そは）律法（おきて）の書（ふみ）に載（のせ）たる凡（すべて）の事（こと）を恆（つね）に行（おこな）はざる者（もの）は詛（のろは）ると録（しる）されたれば也（なり）
11 かつ義人（ぎじん）は信仰（しんかう）に由（より）て生（いく）べしと有（あれ）ば律法（おきて）に由（より）て神（かみ）の前（まへ）に義（ぎ）とせらるる者（もの）なきことは明（あきら）かなり
12 それ律法（おきて）は信仰（しんかう）に由（よら）ず即（すなは）ち曰（いふ）これを行（おこな）ふ者（もの）は之（これ）に由（より）て生（いく）べしと
13 キリスト既（すで）に我儕（われら）の爲（ため）に詛（のろ）はるる者（もの）となりて我儕（われら）を贖（あがな）ひ律法（おきて）の詛（のろひ）より脱（はなれ）しめ給（たま）へり蓋（そは）すべて木（き）に懸（かか）る者（もの）は詛（のろは）れし者（もの）なりと録（しる）されたれば也（なり）
14 是（これ）アブラハムに約束（やくそく）し給（たま）ひし恩惠（めぐみ）イエス・キリストに由（より）て異邦人（いはうじん）にまで及（およ）び我儕（われら）にも信仰（しんかう）に由（より）て約束（やくそく）の靈（みたま）を受（うけ）しめん爲（ため）なり
15 兄弟（きやうだい）よ我（われ）いま人（ひと）の事（こと）に由（より）て曰（いは）ん人（ひと）の契約（けいやく）だに既（すで）に定（さだむ）れば之（これ）を廢（けし）また加（くは）ふることなし
16 それ約束（やくそく）はアブラハムと其（その）裔（すゑ）とに立（たて）給（たま）ひし者（もの）にして多（おほく）の人（ひと）を指（さし）て裔々（すゑずゑ）(※2)と言（いへ）るに非（あら）ず惟（ただ）一人（ひとり）を指（さし）て爾（なんぢ）の裔（すゑ）と言（いへ）る也（なり）これ即（すなは）ちキリストなり
17 我（われ）これを言（いは）ん神（かみ）の預（あらか）じめ定（さだめ）給（たま）ひし契約（けいやく）は四（し）百（ひやく）三（さん）十（じふ）年（ねん）のちの律法（おきて）これを棄（すて）その約束（やくそく）の言（ことば）を徒然（むなしく）することをせざる也（なり）
18 嗣業（よつぎ）と爲（なる）こと若（も）し律法（おきて）に由（よら）ば約束（やくそく）には由（よら）ざるべし然（され）ど神（かみ）は約束（やくそく）に由（より）て之（これ）をアブラハムに賜（たま）へり

19 然（しか）らば律法（おきて）の用（よう）は何（なに）ぞや此（こ）は約束（やくそく）を受（うく）べき裔（すゑ）の來（きた）るまで罪（つみ）の爲（ため）に加（くは）へし者（もの）にて天使（てんのつかひ）等（たち）により中保（なかだち）の手（て）に備（そな）へ給（たま）ひし也（なり）
20 それ中保（なかだち）は一人（ひとり）に屬（つけ）る者（もの）に非（あら）ず神（かみ）は即（すなは）ち一人（ひとり）なり
21 然（しか）らば律法（おきて）は神（かみ）の約束（やくそく）に反（もと）るや决（きはめ）て非（しから）ず若（も）し人（ひと）を生（いか）しうる律法（おきて）を賜（たまは）りしならば義（ぎ）とせらるるは必（かなら）ず律法（おきて）に由（よる）べし
22 然（しかれ）ども聖書（せいしよ）は反（かへつ）て萬人（すべてのひと）を罪（つみ）の下（した）に拘幽（とぢこめ）たり此（こ）はイエス・キリストを信（しん）ずるに由（よれ）る約束（やくそく）のものを諸（もろもろ）の信者（しんじや）に賜（たまは）らんが爲（ため）なり
23 信仰（しんかう）の來（きた）らざる先（さき）には我儕（われら）律法（おきて）の下（した）に拘幽（とぢこめ）られ且（かつ）守（まもら）れて其（その）顯（あらは）れんとする信仰（しんかう）を俟（まて）り
24 かく律法（おきて）は我儕（われら）をして信仰（しんかう）に由（より）て義（ぎ）とせらるる事（こと）を得（え）しめんが爲（ため）に我儕（われら）をキリストに導（みちび）く師傳（しふ）となれり
25 然（しかれ）ども今（いま）信仰（しんかう）すでに來（きたり）たれば我儕（われら）もはや師傳（しふ）の下（した）にあらず
26 爾曹（なんぢら）は皆（みな）キリスト・イエスを信（しん）ずるに由（より）て神（かみ）の子（こ）となれり
27 そは凡（おほよ）そバプテスマを受（うけ）てキリストに入（いれ）る爾曹（なんぢら）はキリストを衣（き）たる者（もの）なれば也（なり）
28 斯（かか）る者（もの）の中（うち）にはユダヤ人（びと）またギリシヤ人（びと）あるひは奴隸（どれい）あるひは自主（じしゆ）あるひは男（をとこ）あるひは女（をんな）の分（わかち）なし蓋（そは）なんぢら皆（みな）キリスト・イエスに在（あり）て一（ひとつ）なれば也（なり）
29 若（もし）なんぢらキリストに屬（ぞく）するものならば爾曹（なんぢら）はアブラハムの裔（すゑ）すなはち約束（やくそく）に循（したが）ひて嗣子（よつぎ）たる也（なり）

※1 明治14(1881)年版では「又（また）」→「また」。
※2 明治14(1881)年版では「裔々（すゑずゑ）」→「裔（すゑ）」。