使徒行傳(明治元訳) 第二十四章

Wikisource:宗教 > 聖書 > 明治元訳新約聖書 (明治37年) > 使徒行傳(明治元訳)

第二十四章

1 五日（いつか）を經（へ）てのち祭司（さいし）の長（をさ）アナニアは長老（としより）等（たち）および一人（ひとり）の辯士（べんし）テルトルスと共（とも）に下（くだり）てパウロを方伯（つかさ）に訟（うつた）(※1)ふ
2 パウロ召（よび）出（いだ）されし時（とき）テルトルス訟（うつたへ）(※2)の端（はし）を發（ひらき）て曰（いひ）けるは
3 最（もつと）も尊（たふと）きペリクスよ我儕（われら）なんぢに由（より）て太平（たいへい）を得（え）かつ此（この）國（くに）は爾（なんぢ）の先見（せんけん）に籍（より）て良（よき）に改（あらた）まりたれば時（とき）に隨（したが）ひ地（ところ）に隨（したが）ひて感謝（かんしや）せざるなし
4 今（いま）我（われ）(※3)敢（あへ）て爾（なんぢ）を礙（さまた）ぐる事（こと）をせじ請（こふ）しばらく忍（しのび）て我（わ）が片言（すこしのことば）を聽（きき）たまへ
5 蓋（そは）われら此（この）人（ひと）を見（みる）に疫病（えきびやう）の如（ごと）し天下（てんか）のユダヤ人（びと）を擾（みだ）せり且（かつ）かれはナザレ宗（しゆう）の首（かしら）にて
6 また殿（みや）をも犯（けがさ）んとせり我儕（われら）これを執（とらへ）わが律法（おきて）に循（したが）ひて審（さばき）を爲（なさ）んと欲（おも）ひしに
7 千（せん）人（にん）の長（かしら）ルシアス來（きたり）て我儕（われら）の手（て）より強（しひ）て之（これ）を奪（うばひ）とり
8 彼（かれ）を訟（うつたふ）(※4)る者（もの）をして命（めい）じて爾（なんぢ）の所（もと）に來（きたら）しめたり爾（なんぢ）かれを訊（たださ）ば我儕（われら）が訟（うつたふ）(※4)る所（ところ）を悉（ことごと）く知（しる）べし
9 ユダヤ人（びと）も共（とも）に訟（うつた）(※1)へ曰（いひ）けるは此等（これら）のこと誠（まこと）に然（しか）り

10 方伯（つかさ）首（かうべ）をもて示（しめ）しパウロに言（いは）しめければ彼（かれ）こたへけるは爾（なんぢ）が多（おほく）の年（とし）この民（たみ）の審官（さばきびと）たるを我（われ）しるが故（ゆゑ）に自（みづか）らの事情（ことがら）を訟（うつたふ）(※4)ることを喜（よろこ）べり
11 爾（なんぢ）しらん我（わが）崇拜（をがみ）の爲（ため）にエルサレムに上（のぼり）しより僅（わづか）に十（じふ）二（に）日（にち）のみ
12 彼等（かれら）は我（わ）が殿（みや）に於（おい）て人（ひと）と爭論（あらそひ）をなし又（また）會堂（くわいだう）あるひは城下（まち）に於（おい）て人々（ひとびと）を擾（みだ）しし事（こと）を未（いま）だ見（み）ざるべし
13 且（かつ）かれらが今（いま）われを訟（うつたふ）(※4)る所（ところ）の事（こと）は憑據（あかし）を立（たて）て之（これ）を確（かたう）すること能（あた）はじ
14 然（され）ど我（われ）この事（こと）を爾（なんぢ）に認（あらは）さん夫（それ）われは彼等（かれら）が異端（いたん）と稱（となふ）る道（みち）に循（したが）ひ我（わ）が列祖（せんぞたち）の神（かみ）に事（つか）へ悉（ことごと）く律法（おきて）と預言者（よげんしや）の書（ふみ）に録（しる）されし事（こと）を信（しん）じ
15 かつ義（ただしき）も不義（ただしからざる）も死（しに）し者（もの）の甦（よみがへ）らんことを神（かみ）に頼（より）て我（われ）は望（のぞめ）り即（すなは）ち彼等（かれら）が望（のぞ）む所（ところ）と異（こと）なるなし
16 此（これ）に因（より）て我（われ）つねに自（みづか）ら勵（はげ）み神（かみ）に對（むか）ひ人（ひと）に對（むかひ）て良心（りやうしん）の責（せめ）なからんことを務（つとむ）るなり
17 われ數年（すねん）を歴（へ）たりしのち施濟（ほどこし）を我（わが）民（たみ）になし又（また）獻祭（ささげもの）をせんが爲（ため）に歸（かへり）たり
18 我（われ）すでに潔淨（きよまり）て此等（これら）の事（こと）を行（なせ）る時（とき）アジアより來（きたり）しユダヤ人（びと）等（ら）は殿（みや）に於（おい）て我（わ）が人（ひと）を集（あつむ）ることをせず亂（らん）をも爲（なさ）ざるを見（み）たり
19 もし我（われ）を訴（うつたふ）(※4)べき事（こと）あらば彼等（かれら）なんぢの前（まへ）に訟（うつた）(※1)ふべし
20-21 或（あるひ）は又（また）わが議會（ぎくわい）の前（まへ）に立（たて）るとき呼（よばは）りて死（しに）たる者（もの）の復生（よみがへり）の事（こと）に就（つき）われ今日（けふ）爾曹（なんぢら）に審判（さばか）ると曰（いへ）る此（この）一言（ひとこと）の外（ほか）に此（この）人々（ひとびと）もし我（わ）が不義（ふぎ）ありしを見（み）ば言（いふ）べし

22 是（ここ）に於（おい）てペリクス詳細（つまびらか）に其（その）道（みち）を知（しり）ければ彼等（かれら）を遲（また）しめんとして曰（いひ）けるは千（せん）夫（にん）の長（かしら）ルシアスの下（くだ）らん其（その）時（とき）われ悉（くはし）く爾曹（なんぢら）の事（こと）を究（しら）べんと
23 百（ひやく）夫（にん）の長（かしら）に命（めい）じてパウロを守（まもら）しめ且（かつ）これを寛容（ゆるやか）にして其（その）友（とも）の彼（かれ）を供給（たすくる）こと有（ある）を禁（きん）ぜざらしむ

24 數日（すじつ）の後（のち）ペリクス其（その）妻（つま）ユダヤ人（びと）なるデルシラと共（とも）に來（きた）りパウロを召（めし）て其（その）キリストを信（しん）ずる道（みち）を語（かた）るを聽（きく）
25 パウロ公義（ただしき）と撙節（つつしみ）と來（きたら）んとする審判（さばき）とを論（ろん）ぜしかばペリクス懼（おそれ）て答（こたへ）けるは爾（なんぢ）姑（しばら）く退（しりぞ）け我（われ）便時（よきをり）を得（え）ば再（また）なんぢを召（めさ）ん
26 ペリクス、パウロより金（かね）を得（え）んことを望（のぞむ）が故（ゆゑ）に屡次（しばしば）かれを召（めし）て偕（とも）に語（かた）れり
27 斯（かく）て二（に）年（ねん）を經（へ）て後（のち）ポルキス・ペストスと云（いへ）る者（もの）ペリクスの職（つとめ）に代（かはり）たりペリクス悦（よろこび）をユダヤ人（びと）に取（とら）んと欲（おも）ひてパウロを獄（ひとや）に繫（つなぎ）おけり

※1 明治14(1881)年版では「訟」のルビが「うた」。
※2 明治14(1881)年版では「訟」のルビが「うたへ」。
※3 明治14(1881)年版では「我（われ）」→「われ」。
※4 明治14(1881)年版では「訟」のルビが「うたふ」。