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九品和歌

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上品上 是は詞たへにして餘りの心さへあるなり。

ほのとあかしの浦の朝霧に島がくれ行く船をしぞ思ふ

春たつといふばかりにやみ吉野の山も霞みて今朝は見ゆらむ

上品中 程うるはしくて餘りの心あるなり。

み山には霰降るらし外山なるまさ木のかづら色づきにけり

逢坂の關の清水に影見えて今や引くらむ望月のこま[1]

上品下 心深からねども面白き所あるなり。

世中に絶えて櫻のなかりせば春の心はのどけからまし

望月の駒引きわたす音すなり瀨田の長道橋もとゞろに

中品上 心詞とゞこほらずして面白きなり。

立ちとまり見てを渡らむもみぢ葉は雨と降るとも水はまさらじ

かの岡に草刈る男なはをなみねるやねりそのくだけてぞ思ふ[2]

中品中 優れたる所もなく惡き所もなくて、あるべき樣を知れるなり。

春きぬと人はいへども鶯の鳴かぬ限りはあらじとぞ思ふ

いにし年根こじて植ゑし我宿の若木の櫻はな咲きにけり[3]

中品下 少し思ひたる所あるなり。

昨日こそ早苗取りしかいつの間に稻葉そよぎて秋風ぞ吹く

我を思ふ人を思はぬ報いにや我が思ふ人の我を思はぬ

下品上 わづかに一節あるなり。

吹くからに野邊の草木の萎るればむべ山風をあらしといふらむ

あら潮のみつの潮あひに燒く鹽のからくも我は老いにけるかな[4]

下品中 ことの心無下に知らぬにもあらず。

今よりは植ゑてだに見じ花すゝき穗にいづる秋はわびしかりけり

我駒は早く行きませまつち山待つらむ妹を行きてはや見む

下品下 詞とゞこほりてをかしき所なきなり[5]

世の中の浮きたび每に身をなげば一日に千度我や死にせむ

梓弓ひきみひかずみ來ずは來ず來ばこそは猶來ずはこはいかに[6]

來ずは來ずこばこそ來ずはそをいかに引きみ引かずみよそにこそ見め[7]

脚注

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  1. 底本、「(コノ歌ナシ)」の傍書
  2. 底本、「かの岡に草刈る」に「(をちかたにはぎかる)」の傍書
  3. 底本、「櫻」に「(うめは)」の傍書
  4. 底本、「みつの潮あひに」に「(いほのやほあひに)」の傍書
  5. 底本、「(あるなり)」の傍書
  6. 底本、「は猶」に「をなぞ」、「こは」に「そを」の傍書
  7. 底本、「(コノ歌ナシ)」の傍書

このファイルについて

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  • 底本は、『日本歌学大系第一巻』第7版、1991年。

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。