ルーズベルト大統領の昭和天皇宛親電

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日本国 天皇陛下

約一世紀前米国大統領ハ日本国 天皇ニ対シ書ヲ致シ米国民ノ日本国々民ニ対スル友交ヲ申出タル処右ハ受諾セラレ爾来不断ノ平和ト友好ノ長期間ニ亘リ両国民ハ其ノ徳ト指導者ノ叡智ニヨリテ繁栄シ人類ニ対シ偉大ナル貢献ヲ為セリ

陛下ニ対シ余カ国務ニ関シ親書ヲ呈スルハ両国ニ取リ特ニ重大ナル場合ニ於テノミナルカ現ニ醸成セラレツツアル深刻且広汎ナル非常事態ニ鑑ミ玆ニ一書ヲ呈スヘキモノト感スル次第ナリ

日米両国民及全人類ヲシテ両国間ノ長年ニ亘ル平和ノ福祉ヲ喪失セシメントスルカ如キ事態カ現ニ太平洋地域ニ発生シツツアリ右情勢ハ悲劇ヲ孕ムモノナリ米国民ハ平和ト諸国家ノ共存ノ権利トヲ信シ過去数ヶ月ニ亘ル日米交渉ヲ熱心ニ注視シ来レリ吾人ハ支那事変ノ終息ヲ祈念シ諸国民ニ於テ侵略ノ恐怖ナクシテ共存シ得ルカ如キ太平洋平和カ実現セラレンコトヲ希望シ且堪ヘ難キ軍備ノ負担ヲ除去シ又各国民カ如何ナル国家ヲモ排撃シ若クハ之ニ特恵ヲ与フルカ如キ差別ヲ設ケサル通商ヲ復活センコトヲ念願セリ右大目的ヲ達成セシカ為ニハ 陛下ニ於カレテモ余ト同シク日米両国ハ如何ナル形式ノ軍事的脅威ヲモ除去スルコトニ同意スヘキコト明瞭ナリト信ス

約一年前 陛下ノ政府ハ「ヴイシー」政府ト協定ヲ締結シ之ニ基キ北部仏領印度支那ニ同地北方ニ於テ支那軍ニ対シ行動シ居リタメ日本軍保護ノ為ニ五、六千ノ軍隊ヲ進駐セシメタリ、而シテ本年春及夏「ヴイシー」政府ハ仏領印度支那共同防衛ノ為メ更ニ日本部隊ノ南部仏印進駐ヲ許容セリ

余ハ仏領印度支那ニ対シ何等ノ攻撃行ハレタルコトナク又攻撃ヲ企図セラレタルコトナシト言明シテ差支ナシト思考ス

最近数週間日本陸海空軍部隊ハ夥シク南部仏領印度支那ニ増強セラレタルコト明白トナリタル為メ他国ニ対シ印度支那ニ於ケル集結ノ継続カ其ノ性質上防御的ニ非ストノ尤モナル疑惑ヲ生セシムルニ至レリ

右印度支那ニ於ケル集結ハ極メテ大規模ニ行ハレ又右ハ今ヤ同半島ノ南東及南西端ニ達シタルヲ以テ比島、東印度数百ノ島嶼、馬来及泰国ノ住民ハ日本軍カ之等地方ノ何レカニ対シ攻撃ヲ準備乃至企図シ居ルニ非スヤト猜疑シツツアルハ蓋シ当然ナリ之等住民ノ総テカ抱懐スル恐怖ハ其ノ平和及国民的存立ニ関スルモノナルカ故ニ斯ル恐怖ハ当然ナルコトハ 陛下ニ於カレテモ御諒解アラセラルル所ナリト信ス余ハ攻撃措置ヲ執リ得ル程度ニ人員ト装備トヲ為セル陸、海及空軍基地ニ対シ米国民ノ多クカ何故ニ猜疑ノ眼ヲ向クルカヲ 陛下ニ於カセラレテハ御諒解相成ルヘシト思惟ス

斯ル事態ノ継続ハ到底考ヘ及ハサル所ナルコト明カナリ余カ前述シタル諸国民ハ何レモ無限ニ若クハ恒久ニ「ダイナマイト」樽ノ上ニ座シ得ルモノニ非ス

若シ日本兵カ全面的ニ仏領印度支那ヨリ撤去スルニ於テハ合衆国ハ同地ニ侵入スルノ意図毫モナシ

余ハ東印度政府、馬来諸政府及泰国政府ヨリ同様ノ保障ヲ求メ得ルモノト思考シ且支那政府ニ対シテスラ同様保障ヲ求ムル用意アリ斯クシテ日本軍ノ仏印ヨリノ撤去ハ全南太平洋地域ニ於ケル平和ノ保障ヲ招来スヘシ

余カ 陛下ニ書ヲ致スハ此ノ危局ニ際シ 陛下ニ於カレテモ余ト同様暗雲ヲ一掃スルノ方法ニ関シ考慮セラレンコトヲ希望スルカ為ナリ、余ハ 陛下ト共ニ日米両国民ノミナラス隣接諸国ノ住民ノ為メ両国民間ノ伝統的友誼ヲ恢復シ世界ニ於ケル此ノ上ノ死滅ト破壊トヲ防止スルノ神聖ナル責務ヲ有スルコトヲ確信スルモノナリ

千九百四十一年十二月六日

          「ワシントン」ニ於テ

            「フランクリン・デイ・ルーズヴエルト」


出典:

  • JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B02030739300、日、米外交関係雑纂/太平洋ノ平和並東亜問題ニ関スル日米交渉関係(近衛首相「メッセージ」ヲ含ム) 第十二巻(A-1-3-014)(外務省外交史料館)

参考文献:

この文書は、アメリカ合衆国においては、同国の著作権法に基づき、同国の連邦政府と雇用関係にある公務員がその職務上作成したアメリカ合衆国政府の著作物17 U. S. C. §105参考和訳))に該当するため、パブリックドメインの状態にあります。また、日本国においては、同国の著作権法13条に規定するもの(憲法その他の法令、通達、判決など)に該当するアメリカ合衆国政府の著作物のみに限り、パブリックドメインの状態にあると解されます。それ以外の国では、当該国の著作権法に基づいて、著作権の対象であるか否かが判断されます。


注意: これは、アメリカ合衆国政府の著作物についてのみ効力を有します。アメリカ合衆国の各、その他の地方自治体が作成した著作物に対しては適用できません。また、日本国著作権法13条に規定するものに該当しないアメリカ合衆国政府の著作物の場合、日本国内において著作権が発生しているものとして扱われることになると解されるため、この著作権タグのみでは著作権ポリシーの要件を満たすことができません。その場合は、日本国の著作権上パブリックドメインの状態にある著作物、またはCC BY-SA 3.0及びGDFLに適合しているライセンスのもとに公表している著作物のいずれかであることを提示するテンプレートを追加してください。

この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。

  1. 法律命令及官公文書
  2. 新聞紙又ハ雑誌ニ掲載シタル雑報及時事ヲ報道スル記事
  3. 公開セル裁判所、議会並政談集会ニ於テ為シタル演述

この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。