ルカ傳聖福音(新契約聖書) 第十八章

提供:Wikisource
  • : この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語ルビ」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

第十八章[編集]

1 また彼は〔人の〕必ず毎に祈らざるべからざることと、失望すまじきことのために、彼等に一つの喩を云ひ給へり、
2 云ひ給ひけるは、或る市に神を畏れず、また人を敬はざる或る裁き人ありき。
3 またその市に嫠ありき。かくて彼は彼の許に來りて云ひけるは、我に我が仇を報いしめよ。
4 然るに彼は久しく欲せざりき。されどその後、彼は己自らのうちにいへり、假令われ神を畏れず、また人を敬はずとも、
5 尚ほ此の嫠、我を煩はしむるが故に、われ彼に仇を報いしめん、然らざれば終まで來りて我をくるしめん。
6 かくて主曰へり、不義なる裁き人の云ふことを聞け。
7 されば神は日また夜彼に對ひて叫び、且つ忍ぶところの、選民の仇を報い給はざらんや。
8 われ汝等に云はん、彼は速に彼等の仇を報い給ふべしと。されど人の子の到れるとき、果してその信仰を地の上に見出だすならんか。

9 また彼は己自らを義しき者なりと頼み、且つ餘の者を輕うしむる或る人々に、此の喩をのたまへり。
10 二人の人祈らんとて神殿に上れり。一はパリサイ人にて、他は關税人なりき。
11 パリサイ人は立ちて、己自らに對し、かく祈れり、神よ、われ汝に感謝す、そは我は餘の人々の如く、貪る者、不義なる者、姦淫する者にあらず、或ひは此の關税人の如くにも〔あらざれ〕ばなり。
12 われ週に二たび斷食し、すべて我が得る物の十分の一を献ぐ。
13 然るに關税人は遙に立ちて、目を天に上ぐることをも欲せず。されど己の胸を朴きて云ひけるは、神よ、罪人なる我に憫をたまへ。
14 われ汝等に云はん、此の者はかの者より義とせられて、その家に下り往けり。そはすべて己自らを高うする者は卑うせられ、また己自らを卑うする者は高うせらるべければなり。

15 また彼のこれに捫り給はんために、人々嬰兒等をも擔ひ來りしが弟子等見て彼等を叱したり。
16 然るにイエス彼等を呼びてのたまへり、幼兒等の我が許に來るを許せ、且つ彼等を禁ずる勿れ。そは神の國は此の如き者等のものなればなり。
17 誠にわれ汝等に云はん、誰にても幼兒の如くに、神の國を受けざる者は、必ずこれに入り來るまじ。

18 また或るをさ、彼に問ふて云ひけるは、善師よ、われ何を爲さば、とこしへいのちを嗣ぐべきや。
19 然るにイエス彼にのたまへり、何ぞ汝は我を善というや、善は一、卽ち神の外にあるなし。
20 汝は誡を知る、姦淫すべからず、殺すべからず、盜むべからず、僞の證を立つべからず。汝の父と母とを敬へ。
21 乃ち彼いへり、我は若年よりすべて此等の事を衞れり。
22 然るに此等の事を聞きて、イエス彼にのたまへり、尚ほ一つ汝に欠くるなり。すべて汝が有つ程の〔もの〕を賣れ、且つ貧しき者に頒け與へよ。されば汝は天に於て寶をもたん。かくて來り我に從へ。
23 然るに彼は此等の事を聞きて、いと哀しくなれり。そは彼は一方ならず富める者なりしが故なり。
24 かくてイエス彼の哀しくなりたるを見てのたまへり、資産を有つ者の、神の國に入り來るは如何に難きぞや。
25 そは富める者の神の國に入り來るより、駱駝の針の穴を通るは尚ほ易ければなり。
26 乃ち彼等聞きていへり、されば誰か救はるることを得ん。
27 然るに彼のたまへり、人に添ふて能はざる事も、神に添はば能ふべきなり。
28 かくてペテロいへり、見よ、我等一切を差しおきて汝に從へり。
29 乃ち彼は彼等にのたまへり、誠にわれ汝等に云はん、神の國のために家、或ひは双親、或ひは兄弟、或ひは妻、或ひは兒を差しおく者は、
30 此の時に於て數倍を受け、また來りつつある世に於てとこしへいのちを受けざる者なし。

31 また彼は十二を近づけて、これに對ひてのたまへり、見よ、我等はエロソルマに上る、かくて人の子に就きて、豫言者等によりて録されたるすべての事は遂げらるべし。
32 そは彼は國人にわたされ、かくてあざけられ、また辱しめられ、また唾せらるべく、
33 また彼等は鞭ちて〔後〕これを殺すべければなり。かくて三日めに彼は起つべし。
34 然るに彼等は此等の事を少しも悟らざりき。また此等の詞は彼等に隱れたれば、彼等は云はれたるところを知らざりき。

35 また彼のエリコに近づき給ひしときかくありき、或る盲者、物乞ひしつつ道の傍に坐せり。
36 かくて彼は群衆の過ぎ往くを聞きて、此は何なるやを尋ねたり。
37 されば人々彼に告げけるは、ナザレ人なるイエスの過ぐるなりと。
38 乃ち彼呼び出でて云ひけるは、イエスよダビデの子よ、我を慰み給へ。
39 されば先立ち往く人々、彼の默するやうこれを叱したり。然るに彼は増々ダビデの子よ、我を愍み給へ、と叫び出でたり。
40 乃ちイエス立ち止まり、命じて彼を連れ來らしめ給へり。かくて彼の近づきしとき、これに問ふて、
41 云ひ給ひけるは、何を汝に我が爲さんことを汝は欲するや。乃ち彼いへり、主よ、我は視力を受けんことを。
42 かくてイエス彼にのたまへり、視力を受けよ。汝の信仰汝を救へり。
43 乃ち彼は忽ち視力を受けたり。かくて神を頌めつつ彼に從へり。さればすべての民これを見て神に讃美を棒げたり。